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他科多職種インタビュー企画

他科/多職種インタビュー企画 福井大学医学部附属病院 救急科・総合診療部 林 寛之先生 インタビュー 第6回

他専門科や多職種のバックグラウンドを知ることで、コミュニケーションが取りやすくなったり、どのようなプライマリ・ケア医が求められているのか、研修中どのように学んでいったらよいかをイメージできるようになるため、インタビューを企画しました。

今回は、福井大学医学部附属病院 救急科・総合診療部 林寛之先生にインタビューを行いました。(全体で8回)

第6回は、林先生の考える「総合診療」についてお話しいただきました。(聞き手:鈴木,石田,島田)

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⑥林先生の考える「総合診療」

石田)
次の質問に行きます。
先生は救急医というよりは救急・総合診療という立場ですけれど。「総合診療とは」のイメージをざっくりお聞かせいただければと思います。

林先生)
 これ、こだわりある人多いよね。総合診療医、家庭医、かかりつけ医、病院総合診療医。僕にそんなポリシーがあると思いますか?僕は言葉の定義なんかくっだらねぇ~って思ってます。その場所で必要な医療はその場所にしかない。地域のニーズに応える守備範囲が広いことが大事であり、呼び方なんてどうでもいいと思ってます。

 例えば、妊婦さんが絶対来ないところで妊婦健診できないと家庭医としてはダメだって、これ全く意味がないと思っているし。その場で必要なことがちゃんとできることが大事でしょう。総合って呼ぶのであれば老若男女、急性期から慢性期まで、内科も整形外科も、皮膚も含めて精神科も含めて全て診るのが総合医だと思っています。整形外科がないんだったら内科医としてやるでももちろんいいし。家庭医療だったら怪我もくるし、子供もくるし、学校健診もしないといけないし。それが総合医であると思う。だから定義付けみたいな、自分のアイデンティティのために主張することはいい加減やめたら?って思うわけです。

 その場で全ての患者さんを受け入れて、2割の人を然るべき臓器専門科ところにお願いする。他の8割は自分で対応する。それを毎年アップデートする。それが総合医・総合診療医だと思っています。

石田)
 僕はもともと急性期から慢性期まで、なおかつ幅広く診たいと思っていました。内科だから内科しか診ないのではなく、骨折も見逃したらダメだし、皮膚も診れたら良いし、そういった想いがあってこの道を選んだわけですけど。先生のおっしゃる通り、言葉の定義ってその人が言いたいようにすれば良くて、自分の信じる道を進めば良いのかなって思いました。

林先生)
 一番大事なのは患者さん目線だと思います。患者さんが病院または診療所にかかった時に、ハッピーになるためにどこまで自分ができるのか。自分の立ち位置を考えることが一番大事。働く場によって内容が変わるっていうのは総合診療の一番大事なところだと思う。だから名前にこだわって言葉の定義をしてしまうのって、患者目線じゃないよなって。家庭医療と老年医学って違うのかって。高齢者しか住んでないところだったら一緒じゃねえかって。子供がいる地域だったら子供も見るべきだし。だから患者さん目線でちゃんと答えるかどうか、だと思っています。

石田)
 ありがとうございます。

鈴木)
 ちょっと質問なんですけど。実は今、リハビリ科で一年研修をさせてもらっています。科の名前について思っていることが、障害をベースにプロブレムを挙げて患者さんを診ていくっていう違いはありますが、診療科が違ってもやっていることは同じだなぁと感じます。
 リハビリの先生に聞いてても、総合診療の先生に聞いてても、向いている方向が一緒やなって感じることがあって。総合診療科と言っても病院によってやることが違う、地方病院と機関病院で違うって思っています。結局、特定の診療科を目指すのではなく、自分が何をしたいのかっていうところをベースに自分のキャリアってできてくるのかなって感じます。

 林先生が今のキャリアに至った上で、こんな人になりたい、こんな風に患者さんと関わりたいみたいな、大きな方向性を形作る経験であったり想いみたいなものってあったんでしょうか?

林先生)
 僕はですね、壮大な夢と希望と野望を持たない人間なんですよ。川の流れるように流されている人間なんですね。だって自分の思い通りに人生行ったことないですし。うまくいかない、自分の思い通りにいかないのが人生だろって思うと気が楽ですよ。
 で、僕が留学したのも志高いわけじゃなくて妻が留学したいって言って、行けるもんなら行ってみなって言ったら彼女が通っちゃって。置いてかないでって始まったわけです。それで慌てて勉強したんですよ。外傷外科医になりたかったけど外傷って数がどんどん減っていって、外傷外科医じゃ食っていけない時代になってます。ドイツでは7年間で全ての手術ができるようになる外傷外科医の研修プログラムが最近なくなってしまったんです。ニーズが減ったのに修業が長いのでは、そこまでできないって。こんな感じで思った通りにいかないと思うこともあるけど、その場で本当に一生懸命になることの方が大切です。

 例えば人間ドックに行ったときに救急の知識っていらないんですよ。やっぱり栄養学だし、リハビリだし、整形も必要だし。そういうことをきちんと学んで患者教育をすること。診療所は診療所で必要なものはあって、血液ガス分析なんていらないんですよ。除細動は知っていた方がいいけど、頻繁に使うわけではないから。釣り針をちゃんと取れたりとか、何を食べたらいいとか、そんな話ができたらいいので。

 その場で一生懸命やるってことがむしろ大事だと思っています。たとえば有名な大学病院とか有名な留学先とか有名病院だけで働いて、キャリアが自分の思った通りになったやつって嫌味なやつしかいないじゃないっすか・・・知らんけど、わからんけど。プライドだけ高い天狗になって、外来が混んでいても初期研修医が最初に診ないと俺らは診ないとかさ。一生懸命若いやつがまとめてきたやつをワシントンマニュアルみたいなまとめを作ってどうするんだってぐりぐりいじめて。できるやつとは仲良くする。
 能力に応じて仲良くするなんて差別つけるのはダメです。その場でみんなと仲良くする、その場で全力でやることが一番大事。漠然とどうしたいかっていう目標があるのはいいんだけど、それが叶わなかったからといって別に人生が終わるわけでもないし、目の前の課題を一生懸命やって頑張ってその場で咲くってのはめちゃくちゃ大事だと思ってます。
 それこそ「地上の星」ですよね。

 僕の自治医大の先輩(八戸市民病院今明秀院長)の話なんですが。ウチの病院に透析ないからやろうって、透析を習い出して結局透析始めちゃったしね。なんだそれ!?って。ファンタジスタって大事なんです。そこにないから頑張ってあれもこれもできるようにしようって。なんなら膵頭十二指腸のオペまで田舎でやっちゃって。普通ではありえんなって思うけどそれで病院伸びてくるわけですよ。診療所でめちゃくちゃ楽しそうに働いているやつが心臓血管外科医になったらやっぱりめちゃくちゃ優秀な医者になったりね。

 どこであってもそこで必要なことを一生懸命やる人ってのは、絶対どこへ行ってもうまくいきますよ。別に救急とか総合診療で偉くなろうなんて思ってるやつは学会の偉い人にしかならないので。僕は絶対ああいうところに立候補しないって決めてるんで。僕は世の中よくするなんて壮大な気持ちなんて一つもないです。うちの家庭の方が大事。これ以上出張が増えたら妻に殺されますから。コロナ禍になってうちにいることが増えたって喜ばれていますよ。僕自身は大きな野望はないです。その場で頑張ってその場所でいいやって、その場所が伸びてくれることが一番の幸せ。家庭医だったら大学病院での働き場ってなかなかないので、中核病院や診療所でその場で役に立って、職場がいつも笑いに絶えなかったらその人は大成功かなって思います。大学病院で他の科にいじめられながらもM体質で頑張れるなら大学病院でも頑張れる。千葉大の生坂先生が退官されるのであれば、迷走するかもしれませんが、志高く後を継ぐ人は現れるものですよ。

島田)
 もうみんなで、生坂先生の後はどうなるのかなって言ってます。

林先生)
 本当はね、大事なのは強力なリーダーがいなくなってもちゃんと続くってのが大事。本当にいなくても世の中なんとかなりますよ。なんとかなる。なんとかなるので、そのつもりでやってりゃいいですよ。うるさいのがいなくなったら楽だよ。カンファレンスとか楽だよ。
・・・いや別に生坂先生がうるさいとか言ってないけど(笑)。彼は紳士ですから。

 エビデンス?何それ?って人がいてもいいわけですし。チームが10人いたら、臨床好きな人が6割、教育好きな人が2割、研究が好きな人が2割くらいだと思ってます。僕は全部(臨床、研究、教育)やった上で好きなことやっていいよって言ってます。論文を書きたい人はどんどん書いて教授になってくれたらいいし、教育が好きな人はいっぱい若者をいい意味で洗脳して自分がジジイになった時に心置きなく体を預ける若い人を増やせばいいし。うじゃうじゃ言うよりも臨床だけやりたい人はそれだけやればいいし。
 全部やらないからダメだ、論文書かないとダメだっていじめる社会は健全ではないと思う。できる奴もできない奴もいるし、できない奴は20年かかって一人前になればいいんですよ。みんなが自由に息ができる社会が健全で、みんなが働きやすい組織になると思います。
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 正義の味方のチームを作ってはいけない。悪の軍団を作らないといけない。正義の味方って5人しかいないから友達が少なくて、24時間365日縛られて、だんだん性格悪くなっていつも怒っているんですよ。デコボコでなーんにもできない奴でも、ショッカーの一軍に入ればいいじゃないっすか。幹部じゃなくてもいいんですよ。夏休みをとりたいって言っても、他の奴がいっぱいいるから夏休み取れるんですよ。で、いつも笑ってられるし飲み会してるし。毎週毎週新しい怪人作って、正義の味方に殺されてもアッハッハって笑って登場してるじゃん。明るくていいよ。

 だから他の科にディスられないよう頑張ろうって気持ちも大事だけど、いちばん大事なのは足元だと思ってるよ。論文書きたいやつはどんどん書いていって足場作るのに年数かかるよ。それよりも患者さん達や一緒に働く人たちに、「一緒に働けて楽になった!」「得した!」って、お得感を与えられる方が一番大事な使命だと思います。

島田)
 先生の他の記事やインタビューでも「悪の軍団を作ろう」って言っているの最高です!好きです!

第6回はここまで!「林先生の考える「総合診療」のかたち」でした。その場で一生懸命に、悪の軍団を作り、笑顔を絶やさないことが大切と学びました。 第7回は、「救急と総合診療の連携」です。次回もお楽しみに。

最終更新:2022年09月22日 17時46分

専攻医部会

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