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Connect 総合診療 ×Special Interest 【総合診療医の新たなキャリア】

総合診療x海外のキャリア 臨床編 vol.2

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みなさん、こんにちは!
先日公開した「総合診療x海外のキャリア 大学院編」はいかがでしたか?
今回は「臨床編」第二弾です!まだまだ少ない海外の家庭医キャリア、海外に行きたい皆様にワクワクをお届けできれば幸いです。
インタビュー動画はこちら!
https://youtu.be/CQzp7RvMe30?feature=shared

今回インタビューを受けてくださったのは、
オーストラリアでRural Generalistとしてトレーニング中の石川大平先生です!それではどうぞ!

Q. 海外でのキャリアを考えている専攻医にTake Home Message

海外で臨床するということは、考えている人はそれなりにいると思うが、キャリアが進むにしたがって、当初抱いていた目標と、少し変更したり、その必要が誰しも出てくると思う。海外で臨床するということは雇用されるということ。雇用されるには試験に受かるだけでなくて、ご縁が必要。日本での仕事の状況や、家族のそのときのライフステージと、試験に通ったりの時間を作るのも大事だが、ご縁と運が上手くかみ合ったタイミングで初めて成り立つものなんだと自分の経験を通じて思った。

時間の余裕もある程度必要。この時に行きたいと決めて必要な準備を揃えても、最後に必要な「雇用」がその時にすぐ起こるわけではない。雇用者側の都合によるものなので。自分でコントロールできることは限られている。どうしても行きたい、という意思がある人はある程度長い時間軸をもって焦らずにゆっくりゆっくり長期的に取り組むことが必要だと思う。絶対にこの時に行くんだ、というよりも、扉が開くまで待っておく、リラックスした焦らないアプローチや柔軟な考え方も必要。開かない扉の前でうろうろと待っておくには余裕が必要。

時間の余裕を作るには、取捨選択も必要。日本でのキャリアもあり、本当は日本でこれやって、海外でこれやって、というやりたいことがあっても、諦めなければならないことはある。

例えば自分は日本ではJPCAの家庭医のプログラムにのっていたが、今はオーストラリアでのキャリアを優先するために一時中断している。日本での専門医はない。本当は日本での家庭医療専門医も取得したいが、やりたいこと全てを詰め込むのは自分の能力では難しかった。自分の人生の目標から考えて、取捨選択をして、自分が可能な範囲で、自分のペースで目指そうと思っている。

Q. 先生のご略歴、海外でのキャリアに興味を持ったきっかけと時期について教えてください

卒後11年目。初期研修を福岡の麻生飯塚病院で2年間、その後総合内科の研修を1年行い、ゲネプロ(Rural Generalist Program Japan  https://genepro.org/)という僻地で診療できる医師を育てようというプログラムが立ち上がった時期ということもあって、その1期生、2期生として長崎県の上五島病院で4、5年目をすごした。その一環として、オーストラリアの僻地医療がすごく成功していて、それをモデルにしたプログラムというコンセプトだった。プログラムの一環として、2年間の研修を終えた後に3ヶ月間、オーストラリアのへき地の医療が実際にどのように回っているのかというのを見学させていただく機会があった。その経験が自分にとってとても刺激的で感銘を受けた。元々人生のどこかで海外にいきたいという気持ちはあった。その見学機会後に休職をし、AMCというオーストラリアで医師登録するための試験を受けたりするような準備を医師6〜7年目の間にした。仕事に応募をして、幸いポジションをもらえたので8年目で渡豪して、向こうで研修医としてイチからキャリアをスタートした。今は研修医は終わって、その後は専門医プログラム。オーストラリアでは、へき地総合診療(Rural General Medicine)が一つの専門として認知されている。そのプログラムに乗ったのが1年半前。最短4年なので、約3分の1が終わったところ。オーストラリアではGP (General Practitioner)のトレーニングがまず3年と定められているが、RGはGPのサブスペシャリティと位置付けられているため、それに加えて更に1-2年のトレーニング、計4-5年がRG専門医取得のために必要となる。GPの中でもRGを特殊な存在にする要素の一つに、Advance skillsというコンセプトがある。包括的なプライマリケアを提供することの重要性は都市部の医療と全く変わりないが、へき地においてはそれに加え「集約化できない、へき地にも残さないといけない専門医療」も提供されなければならない。産科・外科といったサービスがその筆頭。その中の一つを選んで1-2年間の短期トレーニングでGeneralistに上乗せして身につけさせようというのがAdvanced skillsという概念。プライマリケア・僻地病院における救急・病棟診療という幅広いGeneralist skillsに加えて、このAdvanced skillsを備えている専門をRural Generalistと定義している。

Q. 現在の働き方について(セッティング、地域、研修のシステム)

RGはトレーニングに入って最初の2-3年をは大きめの病院でトレーニングをして(救急・小児・麻酔・産科のローテーションを含む)、その後僻地のクリニック・病院で残りのトレーニングを終えることが多い。自分はその一環として、今は地方都市の500床規模の2.5次病院でシフト勤務で救急で働いている。トレーニングに入る前段階として、仮免許を本免許(General registration)に切り替えるプロセスがまず必要になる(内科・外科・救急10週ずつを含む一年間のローテーションが要件)本免許を取得して専門医トレーニングに入ってから、小児科や産科、麻酔科の研修10週間ずつに加えて救急半年のローテーションというのがRG専門医の最低要件。今はその救急のトレーニング中なので、2.5次病院救急部専属の後期研修医の扱いで仕事をしている。

Q. 仕事と私生活のバランスは?

すごくワークライフバランス(WLB)のライフを重視する文化。かなり仕事のスケジュールは調整しやすい。オーストラリアだけなのか、他の西欧圏の国もそうなのかわからないが、基本的に2週間で勤務時間の上限が76時間と決まっている。1日8時間働くとすると×週5回×2週間という時間になる。救急の場合は10時間シフトの週4回勤務、とかいうことも可能。実質働くのが4日、休みが3日。その休みの時間に試験の準備とかその他の臨床業務以外の仕事をしている感じ。

Q. 海外での医療で日本と違うと感じる瞬間は?(スペシャリストとの違いは?)

全てが違う。制度から何もかもが違う。競技が違うっていうくらい違っている。自分が思う最大の違いは、オーストラリアでは標準化というのをとにかくすすめている。ガイドラインやプロトコールに即した診療をする傾向にある。どのような診療をするにしても。オーストラリア中のどの医師も、GPもスペシャリストも同じガイドラインにそっているため、診療のブレが少ない。経験としての治療が頭の中に入れておかなくてもコンセプトを理解していればアクセスできるので、ジェネラリストの広い診療範囲をサポートしてくれるし、カバーするのに役立つ。この人はこのガイドライン、ということをしなくて良いし、海外のガイドラインを漁ったりしなくて良い。それが一番の違い。自国のガイドラインが世界基準でみた時にどういう位置付けになるのか知るために他国と比較することはいち臨床医としては大切だと思うが、目の前の診療の患者さんのアウトカム・診療の質の安全性を担保するには、信頼できる統一されたガイドラインがあることは強い効果を発揮するし、とても重要だと思う。

Q.ゲネプロで3ヶ月行く前から興味はあった?

海外、というところには学生の頃から漠然とした憧れがあった。特に明確な理由はなく英語圏で働くということに漠然とした憧れがあって、人生のどこかで海外に行くということは達成したかった。アメリカの家庭医療にも興味があって見学にもいったが、完全にこれだ、と思うものではなかった。長崎大学で臨床実習が始まって、5年次から僻地で実習する時間があり、その中でも特に長崎県上五島病院の先生たちの診療に感銘をうけて、医療というところではプライマリケアのみに限定しない「へき地医療」という領域が自分の臨床上の強い興味であることに気付いた。日本のへき地医療の特徴は、ジェネラリストとスペシャリストで共に支える構造であるということ。自分はジェネラリスト側からアプローチしてみたいと思った。ゲネプロを立ち上げた斎藤学先生とのご縁があって、「オーストラリアはへき地総合医が一つの専門として認められている」と聞いた。そこで海外に行きたい夢と、僻地医療を学びたいという夢が初めて重なった。

初期研修医の頃は忙しく、先のキャリアの事は一旦忘れて目の前のことに集中していた。斉藤先生とは、ゲネプロの立ち上げに伴い福岡でオーストラリアのRGを招いて開催されたワークショップに参加した時に知り合った(初期研修の2年目の時)。

Q.3ヶ月の研修後にオーストラリアに残りたいと思ったきっかけ

ゲネプロ研修の一環としてオーストラリアで過ごした3ヶ月の間に、やっぱり人生、一期間を海外で働いてみたいという夢が諦められないということに気付いた。この3か月はあくまで見学だったため、働くとなるとこれとは全く別に正規のプロセスを経なければならず、試験や雇用などいろいろな準備が必要だった。準備のために一年間ほど、日本の臨床業務をスポットの仕事にして、準備にフォーカスした時期もあった。でもその期間はあまり長いとは感じなかった。自分の母語でない言葉で試験や面接をうけるというのはチャレンジングなことだが、結果がどっちに転んでも、人生経験としてそのプロセス自体を楽しむことができたと思う。過程を一歩一歩楽しむ中で、幸運にも結果がついてきた感じ。

Q.どうやってオーストラリアの初期研修終了後に雇用されるのか?

勤務先の病院を変える場合にはインタビューは必要だが、基本的には同じ病院で働き続ける場合だったら、そのまま継続雇用になる。専門医トレーニングの形態は日本と異なっており、病院がプログラムを保有・運営しているわけではなく、学会がプログラムを運営している。トレーニングプログラムに入るためには、個人として学会にアプライし、面接を受け、アクセプトされればトレーニングを開始出来る。雇用は個人と病院の間のやり取りであり、雇用とトレーニングは別のものとして考える必要がある。(雇用先での勤務期間が各学会の専門医プログラムの一部としてカウントされるか確認するのは、トレーニー個人の責任となる。)

Q. Rural Generalistとは?

詳しい診療範囲の話をすると、RGはそもそも皆GP。RGはGPのサブスペシャリティであるという位置づけ。オーストラリアの都市部も含めたGPは、プライマリケアの全科・全領域を担当する専門性。(ここでいうプライマリケアとは、病院での救急・病棟診療を含まない、「狭い意味」でのプライマリケア。)外来、訪問診療など、病院外 つまり「コミュニティ」の診療をある種独占業務的に全範囲担当するのが彼らの仕事。GPは基本的にクリニックで働いていて、病院で診療することは基本的にない。アメリカの家庭医のようにinpatient teamがあって入院診療を行う、ということはなく、入院病棟は持たず、一次診療専属で、その代わりにその範囲を独占業務的に任されている。

これはどういうことかというと、オーストラリアでは、専門医が一次医療を担当することはない、ということ。いわゆる産科や整形外科といった専門医の開業クリニックという概念がそもそも存在しない。割と横幅が広い専門である内科医や小児科医であってもプライマリケア(一次医療)レベルを担当することことはない。内科医というのは病院で二次医療以上を担う人たちであって、小児科も同様。専門医が外来業務を担当しないというわけではなく、専門医外来というものはあり、多くは病院の中に存在する。しかし専門医外来とはあくまでGPから紹介された患者の、GPだけでは解決できないその科の問題に限定して診療する場所(つまり二次・三次医療という扱い)。患者が初診で小児科や整形、内科の外来に突然受診したり、ということはない。

専門医が一次医療にタッチしないという反面、GPは二次診療以上には踏み込んでいかない。その代わり、一次診療内において専門外はない。次数で言うと、高さは一次までだが、横は妥協なく全範囲見るというのが特徴。

もう一つの日本との重要な違いとして、オーストラリアでは病院にプライマリケア(一次診療)の機能が入っていない。日本の地方に行くと、プライマリケア機能を担う病院外来というものが存在する。いわゆる専門の問題を扱うだけではなくて、ある程度幅広く健康問題を診るような外来。地方では、そのような場はクリニックだけでなく、地域病院の中にも存在する。対してオーストラリアはプライマリケアの提供場所はクリニック・訪問診療・高齢者施設といったコミュニティであり、病院の中にプライマリケアの機能はインストールされていない。(ちなみにオーストラリアの総合内科医は内科の範囲内で入院の二次+一部の三次診療を横幅広く見る専門で、総合診療医(General Practitioner)とは全く異なる専門として認識されている。)

病院は、入院診療や手術など専門医の手技・加えて救急というような二次・三次医療を提供するという場であり、プライマリケアとは完全に機能が切り離されている。そうしたくてそのようにデザインしたというよりは、国政府と州政府の歴史上の役割分担によってそうなっているのだと思う。 

僻地においても、場所として、プライマリケアと二次三次診療の提供場所が分かれている。それぞれの田舎町にクリニックと、20〜50床の僻地公立病院がある。そういったところでの医療を仮に都市部と同じモデルで成り立たせようとすれば、クリニックにはGPを雇って、病院には総合内科医・救急医・小児科・麻酔・産科医といった専門医を雇って、ということになるが、それは医療資源配分の観点から現実的でない。それを解決するために、というよりも歴史的に、オーストラリアの僻地のGPは、週の半分をクリニックで働きプライマリケアを提供し、残りの半分は病院において、プライマリケア以外の地域から集約できない医療:つまり①全科救急 ②全科病棟管理に加えて③麻酔・産科などの僻地にも必要な専門医療を僻地で提供してきたという経緯がある。彼らはRGという専門・言葉がなかった30年前までは、彼らはあくまで「僻地にいる、GP」としてしか認識されていなかった。しかしそのGPというタイトルは、彼らがやっていることの中の半分しか表せていないことになる。前述のように、病院で行われる医療は本来のGPの専門範囲ではないので。これだと何がまずいかと言うと、一番はトレーニング。Ruralで働くGPは、実地で必要とされる知識・技術のうちプライマリケア以外の部分を、自己努力による研鑽で、自らトレーニングを組んで身につけなければいけなかった。加えて、Ruralに行った後、プライマリケア以外のスキル維持や更新のために必要なアップスキリングを誰も、どの学会もサポートしてくれないことになる。(補足:オーストラリアでは、RGのための専門学会やトレーニングがなかった30年前まで、PGY2や3の医師を奨学金に伴う義務年限としてただ僻地に送る というのがへき地医療を支える主なアプローチでした。)これだと、ごく一部の人しかへき地に入ってこないし、入ってきてもへき地医療を支えるための質を担保することができない。オーストラリアの僻地医療の危機というのが20〜30年前に叫ばれて、どうするんだとなった時に、①プライマリケアだけではなく、②救急 ③病棟管理 ④麻酔や産科など僻地にも必要な専門医療の提供(Advanced Skillsと呼ぶ)に必要な知識・スキルを全て備えた医師をRural Generalistという一つの専門として定義して、training pathwayを提供し、それが終わってRGの専門医を取得した後も彼らをサポートする体制を作りましょうという議論と合意があった。なので、Rural Generalistというのはここ20〜30年で発展した新しい概念で、改善を続けながら、今では皆が知る一つのメジャーな専門になっている。GPの中のサブスペシャリティーとして、RGという称号がついたということ。なので、「Rural GP」ではなく、「Rural Generalist」という呼称になっている。黎明期の資料等には「Rural GP」と書いてあるものもあるが、本来のGPの診療範囲であるプライマリケアだけでなく、僻地医療に必要なその他の領域も含めたその診療範囲を表すときに、Rural General PractitionerでなくRural Generalistというワードの方が適切だったということなのだと思う。
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Q. オーストラリアの僻地での実際の医療とは?

僻地で診れるものはしっかり診て、重症や専門性の高い症例は初期対応を行った上で高次病院に紹介するというシンプルなもの。私が勤務するクィーンズランド州では、へき地の病院は基本的に全て公的病院。都市部には私立病院もあるが、へき地に私立病院はない。その紹介先の公立病院であるReferral Center(地域中核病院)は医療圏ごとに基本一つと決まっており、そこに紹介・搬送を行う。高次病院で働く専門医にとって、僻地病院や周辺のGPから電話を受けて、電話でのアドバイスをしたり、搬送として受けるべき症例を受けるという業務は、そもそもの仕事内容(job description)の一部として認識されている。なので、送る側がどうにか紹介を受けてもらえるように交渉をする、断られたら次の搬送先を探す、などという苦労はしなくて良い。こちらが搬送適応だと思っても、搬送不要と判断されるケースもあるにはあるが、その場合は僻地病院でどのような治療を行えばよいか、明確なアドバイスをする義務が専門医側には生じる。かつその専門医には、対面で診察していなかったとしても、そのケアのアウトカムに対しての責任が発生するため、彼らは責任を持ってアドバイスする必要が生じる。責任の所在が明確な、非常にシンプルな紹介のプロセス。搬送については、州政府によって直轄・統一された搬送システムを使うので、そこに電話を掛ければ適切に搬送してくれる。ヘリコプター・固定翼いずれの場合も専門のフライトドクター・フライトナースを含む搬送チームが必ず付いてくるので、搬送を送る側も受ける側も同乗する必要はない。搬送は危険を伴う。起こりうる急変に対してヘリコプター・飛行機の特殊環境下で対応するということは、非常に専門性が高い業務とみなされる。救急医や麻酔科医、集中治療医の中でも更に要件を満たした人しかフライトドクターにはなれない。 

搬送の方法について、場所にもよるが、基本的には救急車はかなり近い施設間の搬送でないと使われない。ヘリコプターも範囲が限られる:凡そ200〜300kmくらいまで。今自分がトレーニングを行っている2.5次の地域中核病院には脳外科・心臓胸部外科がなく、該当する疾患はブリスベンの3次病院への搬送が必要になる。距離にして120kmくらいになるので、主にはヘリ搬送となる。更に内陸に入ると距離が延びて、飛行距離が300kmくらいを超えると固定翼(飛行機)での搬送が必要になる。
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Q. オーストラリアではGPの割合、IMGの割合が多い?

※IMG=International Medical Graduates (その国以外の海外の医学部卒業生)

GPや内科、精神科に行くIMGが多い。システムに入ってくるpathwayによるが。主に二つ入り方があって、まずはStandard pathwayという、筆記試験とOSCE試験を受けて一から研修をするpathway。もう一つはSpecialist pathwayという海外でとった専門医を書き換えるという道:その専門医資格・トレーニングが、オーストラリアの同領域の専門医資格とどれくらい互換性があるかを学会が評価して、ある程度互換性があると判断されれば 足りない部分の研修をオーストラリアで行って、専門医試験を受けて、専門医の書き換えが完了する。日本からのIMGが入ってくる場合はSpecialist pathwayが多かったが、最近私のようにStandard pathwayで入ってくる人が増えていると聞いている。Standard pathwayの場合、1年目は12ヶ月のトレーニングをして、まずはGeneral Registrationを取得する。(General Registrationは日本でいう保険医に当たり、この一年は初期研修のようなもの。)General Registrationを取得して、初めて専門医のトレーニングに入る資格が得られる。GP、内科、その他臓器別専門医など多様な道はあるが、傾向としてオーストラリアは専門性の高い専門ほど専門医の数がものすごく厳しく、少なく規制されている(外科・整形外科・放射線科など)。その専門をしたいと思っても、すぐにプログラムに入ってトレーニングできるというものではない。Local graduates(現地の医学部を出た人)にとっても非常に競争率が高い。IMGがより競争率の低いGPや内科に入っていく傾向が高いのにはそういった背景がある。ただ、ことRGに関しては、IMGよりもLocal graduatesに人気で、IMGよりも彼らの割合がより多いという印象を持つ。IMGは都市部に住みたがる傾向が強いということも影響しているのかもしれない。

Q. オーストラリアではIMGであることで不利になることがあるか

どこの医学部を出たとか、オーストラリアで生まれ育ったのかとか、言葉のアクセントとか喋る英語とかで、この人は外国から来た人なのかなというのは患者さんにはすぐ分かると思うが、どこの医学部を出たのかはこちらから言わないかぎり判断することは難しいと思う。だからと言って不当な扱いを受けたり、といったことは少なくとも自分は今までの2年間で経験はない。治療方針決定については「個人」という概念がすごく強い部分があって、自己決定権というものがとても重視される。そのためにはやはり自分の体に何が起こっているか、どういう治療がオプションとして存在するのか、ということを患者がしっかりと理解しておく必要があるという意思を、患者側からも強く感じる。世代での感覚の違いはあるが若い世代ほどそう。すごく質問もされるし、説明を求められる。最初は、そういう質問が来ることに対して、自分に不信感があるから質問をされているのかなと思う時期があった。日本だと多くの患者が医療者にお任せというスタンスなので、質問があまりに飛んでくると疑念を持たれているのかも、と身構えてしまうことがある。対して今いるオーストラリアでは、患者は純粋に知りたいから多くの質問をし、詳細な説明を求められるように感じる。「今あなたの体にこういうことが起こっていて、こういう治療オプションがあり、私たちとしてはこれを推奨します」という話をすると、IMGであるかどうかに関わらず評価をしてもらえることがほとんど。オーストラリアで働きだしてからの二年間、少なくとも仕事の文脈において、同僚・患者から出自で差別をされたり、嫌がらせを受けたという経験は一度もなかった。

オーストラリアは移民を受け入れることで成り立っている国。医療だけでなく、他の産業も移民なしでは社会が機能しない。もしかすると患者さんによっては、バックグラウンドが異なる医者に診られることに対する潜在的な不安感というものもあるのかもしれないが、少なくとも対話をするときにはお互いにリスペクトを示して、出自やバックグラウンドが違うからという理由でジャッジをしないよう心掛けるというのは、大袈裟かもしれないが医療だけではなく社会全体のカルチャーとして根付いているように感じる。

Q. オーストラリアの医療、保健のシステムについて

診療時間の長さで点数・料金が変わるというのは大事なポイントの一つ。GPが患者さんに使っている時間というのは、問題が複雑になればなるほど、時間は必要。それに対して診療費としてフェアに評価をするというのは大事なポイント。GPが包括的なプライマリケアを提供する上でなくてはならないところだと思う。ケアを包括的にすればするほどクリニックの収益が落ちてしまうという矛盾が、出来るだけ起こらないシステムでなければならない。

僻地の文脈から少し離れてGP全般の話をすると、GPが一次診療を独占的・包括的に担当するという話を日本の先生にすると、例えば眼科の専門機器を用いたアセスメントってどうするの?聴力の詳細なアセスメントってどうするの?産婦人科のエコーは?整形の理学療法は?精神科の認知行動療法は?どうやって全てを一人で網羅するの?という質問を受ける。

日本の場合だと、それぞれの診療科の開業医で専門医に診てもらうプロセスを通じて、そのクリニックにいる理学療法士にリハビリをしてもらったり、産婦人科なら産婦人科のドクターが自分でエコーをしたり。(つまり、総合診療医だけでプライマリケアを包括的に完結する、ということが難しい構造になっている。)オーストラリアではAllied health(日本でいうコメディカル)が開業の権限を持っている。理学療法士・臨床心理士・検眼師・検聴師も国家資格であり、個人やグループとして、医師に雇われることなく開業ができる。かつ日本のコメディカルと比較して、かなり広く・強い裁量権を持っている。なので、GPがリハビリや認知療法、聴力や視力の詳細なアセスメントまで全てを診察室で完結しているわけではなく、必要に応じて紹介できるコメディカルが市中にいて、そこに謂わば外注をすることができる。だから専門医を通さずにプライマリケア全範囲の診療を網羅できるという背景がある。例えば産科については20週まではGP、以降は産科専門医が見るというのがオーストラリアの棲み分け。(20週までは、GPと助産師とShared careといって一緒に診ることが多い。)それがどうして可能かというと、他の婦人科の問題に関してもそうだが、基本的にはエコー技師が全部のエコーをやる。イメージングセンターというのが街中にあって、医師はいないが、レントゲン、CT、MRI、エコーなどがあって、検査技師、エコー技師がいる。エコー技師は筋骨格系、経膣を含めた全ての超音波検査を行う技能を持っている。結果の報告については、彼ら自身がレポートを書くか、もしくはその上についている遠隔の放射線科医がレポートを書く。GP・産科専門医のどちらがその検査をオーダーしたとしても、結果レポートという紙の情報を読んで解釈することになるので、結果得られる情報量と質は同じ。日本だと産婦人科関連のエコーは産婦人科の医師が施行するものであるため必然的にその産婦人科への紹介が必要になるが、オーストラリアでは前述のようにエコーを検査技師に外注できるので、GPが20週までの産科やウィメンズヘルスの診療を完結することが出来る。(実はオーストラリアでは、ほとんどの産婦人科医師は自身でエコー検査を行わない。産科救急などのセッティングでPOCUSとして経腹エコーを部分的に行う人はいるが、経腟エコー・また経腹であっても包括的なエコーの評価というのは基本的に超音波技師が行う。)豪州においてGPがプライマリケアの全範囲を担う というのは、日本の構造を前提に考えてしまうと想像・理解が難しい。協働でき、かつ裁量権の強いAllied healthが市中にいるからこそ可能になること。(実は僻地においてはAllied healthの確保に苦労しているところが多い。僻地での不足は大きな問題だと思う。)

こういったあまり注目されていないが重要である部分というのもオーストラリアのプライマリケア・General Practiceに興味を持ってくださっている方には正確に伝えていきたいと思っている。

Q. 今後のキャリアの展望は?

オーストラリアでRural Generalistの専門医をとって、数年は残って診療をしたいと思っている。その後の生活の場所と仕事の場所としては、日本に戻りたいと思っている。やはり日本が住みやすいし、家族もいるので。おそらくこの先6-7年はオーストラリアにいることになると思う。日々の臨床だけではなく、せっかく日本・オーストラリア双方の僻地で臨床をする機会を得たので、この経験を活かした貢献が出来ればと考えている。今は、私も数年前に参加したRural Generalist Program Japan(ゲネプロという団体が運営)の一部である、オーストラリアへき地医療短期見学のサポートを行っている。来られる先生方に日豪の違いを中心とした解説を、ツアーガイドのような役割で担っている。オーストラリアの僻地医療を実際に現場で見てもらって、どうしてそういう医療をしているのか という解説をして、理解を深めてもらうというような役割を担っている。そのプログラム以外においても、オーストラリアの僻地医療に興味を持ってくれる学生・医師の方のサポートは今後是非していきたいと思っている。

終わりに

いかがでしたでしょうか?今回はJPCA浜松で直接インタビューさせていただき、田中も小串もワクワクしながらお話を聞かせていただきました。
インタビュー動画もぜひご覧ください。

最終更新:2025年01月06日 00時00分

専攻医部会

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