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vol.20/「きっかけはイギリス留学。静岡の先進的家庭医養成プログラムで実践を積む気鋭の専攻医」【医師】小串真澄先生

静岡にSFM(Shizuoka Family Medicine Program)という家庭医を育成するためのプログラムがあります。今回登場していただくのは、そのプログラムの専攻医として現場に立つ小串真澄先生。イギリスの留学経験を通じて家庭医の存在を知った経緯やSFMの特徴について、また日々の患者さんとのやりとりのなかで感じていることなどをさまざまに語っていただきました。
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病気そのものよりも患者さんに対する関心が高かった

― 先生が医師を目指し始めたのはいつ頃だったのですか?

幼稚園の卒園アルバムに「医師になる」と書いていました。その理由ですが、私が3歳くらいのときに祖父が癌で亡くなり、祖母が独りで暮らすようになったんです。子ども心に 「おばあちゃん、寂しいだろうな。おじいちゃんが生きていたらそんな思いしなくていいのにな」と思いました。
だから病気を治すお医者さんになれば、祖母のように寂しい思いをする人もなくなると考えたんでしょうね。
また、実家がクリニックだったことも影響していると言えます。そういう環境も大きかったでしょうね。
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    大好きなおじいちゃん、おばあちゃん
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    小さいながらも医師への芽生えが

― 当時の思い出として何かエピソードはありますか?

実家の1階が診療スペースだったので患者さんに会うことも少なくなかったですね。エピソードとしては農家の患者さんがいて、その方の家によく遊びに行っていたことを覚えています。スイカをまるごともらったりして(笑)。
いま思えば地域に溶け込んだクリニックで、家庭医に近かったんだろうなという印象です。その経験が総合診療への関心につながったのかも知れません。正直なことを言えば、医大に入るときも入ってからも特に「この科に行きたい」という気持ちはなかったんです。興味を持った臓器もありませんでした。そんな状態で大学生活を送っていたんですが、実習が始まってからは『問診』が楽しいことを知りました。また退院していく患者さんに対して「この先どうやって過ごしていくんだろう」と思うことも多かったですね。たぶん私にとっては病気を診るよりも、患者さんに対する関心のほうが大きかったのだと思います。

― 家庭医に向いていると言えますね

ただ当時は家庭医のことは知らなかったんです。その後、イギリスで臨床実習をする機会があったのですが、そのときに家庭医の存在を知りました。この経験が私にとってのターニングポイントになったと言えます。

「私がしたかったのは、これだ!」とすごくしっくりきました。

それまで漠然と思い描いていた概念にピッタリの名前がつけられたといった感じでしたね。
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    イギリスでの臨床実習
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実習では訪問診療もしましたが、当時のエピソードで印象に残っているのは、足が悪いのに家のなかでは絶対に歩行器を使わないおばあさんですね。その人は何度も転倒しているのですが、それでも歩行器に頼ろうとしないんです。理由を聞いたら「亡くなった主人との思い出がいっぱいの家で歩行器なんて使いたくない」とのことでした。そこはまさにイングリッシュガーデンそのものの美しいお庭がある家でした。
そのおばあさんに対して担当医も「ふむふむ、そうですか」と真摯に耳を傾け、決して歩行器を強要しようとしないんです。そういう向き合い方も面白いなと思いました。

家庭医のための充実したプログラムがあると聞いて静岡へ

― 卒業後の初期研修は浜松でも受けられていますが?

初期研修は長崎大学病院と浜松医療センターで受けました。長崎大学病院は、将来的に実家のある長崎に戻りたいという気持ちがあったためです。浜松医療センターは静岡で実施されているSFM(静岡家庭医養成プログラム)を受けるためでした。

実は、イギリスでの経験をきっかに家庭医になりたいと思ったものの、私のまわりでは「家庭医って何? それで食べていけるの?」という空気感が強く、帰国してから少し途方に暮れていたんです。「日本では家庭医としてやっていくのは難しいのかな……」と先行きに対する不安を感じていたと言えます。

そんな折り、同じある先生から「静岡に家庭医のプログラムがあるよ」と教えていただき、調べてみたらとても良さそうだったのでお世話になることにしたんです。

― SFMの特徴としてはどんな点があげられるのでしょうか?

プログラムのキャッチフレーズが「子宮の中から天国まで」というのですが、その実践に必要な全科診療(産婦人科・整形外科・精神科・泌尿器科・皮膚科・緩和ケア研修)が必修になっている点が大きくはあげられます。
特にウィメンズヘルスケア(女性医療)がしっかりと学べる点が私からすればありがたいと思っています。女性の場合、生理や更年期障害などどこからが病気で、どこまでは正常なのかわからないような、そしてどこの科にに受診をしたらいいのかわからないものも多くあります。困って診察を受けに行ったら「それはうちの科じゃない」と言われてしまうことも珍しくありません。女性医療や、認知症、不登校のような、診療科の狭間に埋もれてしまう人の助けになれたらと思うんです。そもそも診療科っていう区分は医療者側の都合ですから、私はそういう人たちに対して「とにかくこの先生に相談したら、なんとかしてくれる」と思ってもらえるような家庭医になりたいと思っています。
その意味でもSFMは私にとって有意義なプログラムなんです。

― 実際にいまはクリニックで診察も行っていますね

森町家庭医療クリニックでお世話になっています。ここでは外来や訪問診療を経験させていただいていますし、また近隣のクリニックにも研修で行かせてもらっています。
これまで婦人科や精神科、泌尿器科に行きましたし、いまは歯科で学ばせてもらっています。なぜ歯科なのかというと、介護のことも含めて高齢者の患者さんを診る場合、口腔ケアがとても大切になってくるんです。一例をあげると「誤飲性肺炎」。これは口腔内の食べカスや細菌などが気管に入ることで発症することの多い病気ですが、その予防法としては口のなかを清潔に保つことが効果的なんです。でも歯科医をのぞいて医師の多くは歯のことや口のなかのことをほとんど知らないんです。だからそういったことも自分から学んでいこうと思いました。
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    小串先生が勤務する、森町家庭医療クリニック
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家庭医としての経験を積んで、いずれは育成する立場にも

― 家庭医として患者さんに接することで得られるやりがいは?

患者さんへの理解が深まること、さらに言えばその背景まで深く関わることが許される点でしょうか。例えば糖尿病で悩んでいる患者さんがいたのですが、診察でいろいろと聞いていくと、お子さんが発達障がいで毎朝起こすのが大変、でもご主人はぜんぜん協力してくれなくて食事の……と、そういう話が出てくるんです。病気の向こうにある事情が見えてくるわけですね。そうなると患者さんに対する理解も深まるので、対応も違ってきます。そこに家庭医としてのやりがいがあると思いますね。また、たくさんの患者さんから「診察でこんなにじっくりと話を聞いてもらったことはなかった」とよく言われます。その言葉もまたうれしいですね。
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    プライマリ・ケア連合学会 学術大会の会場にて
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― SFMでミシガン大学との交流も盛んに行っています

先日、SFMが提携しているミシガン大学の家庭医療科で短期研修をしてきました。
英語でHistory takingをしたり、日英米の医療システムや健康問題の比較ができたりしてとても勉強になりました。
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― 小串先生の今後の目標を教えて下さい

一つには家庭医として一人前になることです。しっかりと経験を積んで患者さんから頼られる家庭医になっていきたいと思っています。また、家庭医を育てる環境づくりに関わっていけたらな、とも考えています。これは私自身が痛感したことでもあるのですが、日本では家庭医が育つ環境が充分に整っていない状況です。そもそも家庭医に対する認知度が高くないので、そこのところから考えていかなければならないのが現実ですね。すでにワークショップの開催等を通して、そういったことに取り組んでいるところです。家庭医に対して興味を持つ人は増えている実感はありますが、指導医が少なくて、ニーズに追いついていないという面もあります。私自身も将来的には指導する立場となって家庭医を育て、家庭医を目指す学生や研修医にとっての道標となっていければと考えています。

プロフィール

森町家庭医療クリニック
専攻医 小串真澄 先生

2017年度 JMEF 英国臨床実習派遣
2018年 佐賀大学医学部卒業
2018-2020年 長崎大学病院/浜松医療センター 初期研修修了
2020- 静岡家庭医養成プログラム/浜松医科大学医学部附属病院総合診療専門研修プログラム 研修中

SFM(静岡家庭医養成プログラム)
https://www.shizuoka-fm.org

取材後記

本文ではふれなかったが、小串先生は英語に関しても本格的な勉強をしていて、医師の道に進まなければそのスキルを活かした仕事に就くつもりだったとのこと。先生がイギリスに留学しようと考えたのも、自身の語学力を活かすチャンスととらえたからだ。留学が認められるのはかなりの狭き門だったようだが、結果的にそれが家庭医という目標の発見に結びついたのだから運命的なものを感じる。「家庭医の育成にも取り組みたい」という将来に向けた意欲に好感を持った人も多いだろう。若き医師の今後に大いに期待したいところだ。

最終更新:2023年06月28日 13時36分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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