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特別編 学会委員会に聞いてみました! vol.03/『高齢者医療委員会』

「高齢者医療に求められる重要テーマへの幅広い取り組み」【高齢者医療委員会】

日本プライマリ・ケア連合学会にある委員会の活動を広くお伝えする特別企画「学会委員会に聞いてみました!」。今回ご登場いただくのは「高齢者医療委員会」の先生方です。委員長を務める長哲太郎先生をはじめとする4名のメンバーの方々から委員会の具体的な取り組みや今後の展望についてお話をうかがいました。
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チームを組んで、それぞれのテーマに取り組む

― まずは、高齢者医療委員会ができた経緯から教えていただけますか?

木村:いまから数年前のことですが、日本専門医療機構で総合診療専門医制度を新たに開始することになりました。そうした動きを受けて日本プライマリ・ケア連合学会でも高齢者医療などをテーマとした取り組みが必要だろうという声があがり、総合診療に近い領域の先生方にいろいろと教えてもらおうということになったんです。そして、「日本老年医学会」「日本緩和医療学会」「日本在宅医療連合学会」、の皆さんにご協力をいただくことから当委員会は始まりました。

― 具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか?

長:高齢者医療委員会の現在のメンバーは18名で、それぞれにチームを作って3つのテーマに取り組んでいます。
ひとつ目は「高齢者医療の現状調査」。移行ケアにともなう診療所と病院間の連携の部分における課題としてどのようなものがあるのかを調査し、抽出を行うチームがあります。
ふたつ目は「マルチモビディティ」に関するもので、複数の疾患を持っている高齢者の方々に対して日本プライマリ・ケア連合学会がどのように対応していけばいいのかを考えるチームです。
そしてみっつ目が「緩和ケア」に関する取り組みで、家庭医療専門医にとって緩和領域に必要なコンピテンシー(核となる能力)は何なのかを検討し、専攻医の教育に取り入れていくというものです。この取り組みでは「日本緩和医療学会」のみなさんと共同で取り組んでいます。また、以上の3つに加えて、国が進めている「ACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生の最終段階における医療)」に関するワーキンググループも作っています。

― 「高齢者医療の現状調査」を進めていく上で難しいことはありましたか?

長:今、まさにその部分に取り組んでいるところです。と言うのも、調査を進めていく過程において、それぞれの開業医の先生のマネジメントのあり方を比較する状況を招いてしまう可能性があるからです。その意味では割とデリケートな要素も出てきてしまうんですね。そういう事情もあり、いまはそこの部分をいかにクリアにして多くの先生方から快く協力していただけるか、といった体制作りを検討しているところですね。できるだけたくさんの先生方から協力をいただくことで地域医療の質は上がると考えているので、この取り組みは着実に進めていきたいと思っています。

テーマを追求していくなかで見えてくる課題

― 「マルチモビディティ」に関してはいかがでしょうか?

長:マルチモビディティの問題点としては診察が細切れになってしまうということがあげられます。例えば整形外科の疾患なら整形外科医が診て、循環器の疾患は内科医が診る、さらに夜間の尿のトラブルの場合は泌尿器科医が診るといった具合です。また、それぞれ診察をした上で薬も処方しますから、それぞれの薬が相互作用を起こして結果的に患者さんによくない影響を与えることもあるわけです。そこで、そういう事態を防ぐための手引き書を作成してはどうかという話が出ています。
木村:また、昨年の春季・秋季生涯教育セミナーでは私とメンバーの一人である新村健先生がマルチモビディティ高齢者の診療に関して行ったアンケートの調査結果を発表しました。これは日本プライマリ・ケア連合学会と日本老年医学会の協力を得たもので、老年科専門医と総合診療医にはマルチモビディティ診療において多くの共通点はあるものの、相違点もいくつかあることが明らかになりました。その結果を踏まえて、マルチモビディティ診療の体制作りのロードマップも考えていきたいと思っています。
石丸:マルチモビディティに関しては、長先生がおっしゃった診察の細切れ・分断が「ポリドクター」や「ポリファーマシー」の問題につながっているので、そういうことを丸ごと主治医としてコーディネートできる医師を育てていくというのが当委員会における大枠の認識かなと思いますね。

― 「緩和ケア」についてはいかがですか?

石丸:こちらは大きくは専攻医向けのものとなりますね。日本プライマリ・ケア連合学会の「新・家庭医療専門研修プログラム」で専門医を取った人たちのなかでも、こうした緩和ケアに興味がある人を主な対象としています。緩和医療の専門医を取るほどではないという人であっても、緩和ケアの知識は多かれ少なかれ必要になってくるという認識はあると思いますので、そうしたニーズに応えるためにいまはプロジェクトを立ち上げて内容を練り上げているところです。在宅と病棟と外来では求められてくるものも違ってくるため、実際にどのような研修をしていけばいいかというディスカッションを重ねています。

― 「ACP」に関してはいかがでしょうか?

大塚:ACPの普及ということに関して、ワーキンググループ的な形で活動をしています。ACPとはご存知のように「もしもの時」に備えた医療やケアに対する希望を、本人があらかじめ決めておくというものです。その際にはご家族の方や親しい人、医療関係者がその意思決定をサポートします。現在のワーキンググループの取り組みとしては、まずは「ACPとは何か?」を広く知ってもらうために何をするべきかということ、さらに本人の意思決定を文書として残して医療従事者と共有するにはどういう方法が適しているかなどを調査している状況です。その際には各地域の事情を踏まえた取り組みが必要だと考えています。各地域によって取り組みに温度差があるのは事実ですし、そうした事情を考えると一般の方々だけではなく、医療や介護の関係者に対してもACPの啓蒙活動をしていくことは大切だと思っています。

「高齢者」をしっかり見据えながらの活動を

― 今お話をうかがった一連の取り組みを進めていく上で課題はありますか?

長:現在、それぞれのチームには各自で動いてもらっていて、3ヶ月に1度のミーティングで進捗状況を報告し合うスタイルをとっています。メンバーのみなさんは日ごろの多忙にも関わらず懸命に取り組んで下さって、委員長としては頭の下がる思いです。最初にも申し上げたように現在当委員会は18名のメンバーで運営していますが、マンパワー不足の面はやはり否めません。我々のこうした活動に関心を持ち「手伝ってみようかな」という会員の方がいてくれたらうれしいですね(笑)
石丸:私は日本プライマリ・ケア連合学会の強みは現場とのつながりが深いことだと思っています。最近では岐阜県高山市に長先生が視察に行かれましたが、そういう部分も広く伝えていけばいいのではないでしょうか。

― 高山市への視察とはどのようなものだったのでしょう?

長:当委員会のメンバーのひとりに川尻宏昭先生という方がいらっしゃって、高山市国保高根診療所で地域医療に取り組んでおられます。その地域は高齢化率が50%を超えていて、先生は行政と連携を図りながら診療に向き合っています。そうした現場を勉強させてもらうつもりで、視察に行ったというわけです。
それに関連して6月の浜松の学術大会(第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会/アクトシティ浜松/2024年6月7日〜9日)では、高山市の行政の方をお招きしてお話をうかがおうという企画が持ち上がっています。
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― 最後に何かメッセージがありましたらお願いします

長:私たちは高齢者医療委員会として活動しているわけですが「高齢者」とは65歳以上の方たちを指します。その高齢者のなかには100歳を超える方もいらっしゃいます。そうすると同じ高齢者でも40歳くらいの幅があることになりますね。これは0歳から40歳までの患者さんを一緒くたに扱うようなものです。高齢者という枠組みのなかでも世代間のギャップはあると思うので、そうしたところもしっかり見据えながらさまざまな取り組みを進めていくことも大切だと考えています。

取材後記

少子高齢化が進む現代の日本において、高齢者医療のあり方を模索することは重要な課題と言っていいだろう。高齢者医療委員会が取り組んでいる「高齢者医療の現状調査」「マルチモビディティ」「緩和ケア」「ACP」は、その意味では時代の関心を反映したテーマ以外の何物でもない。それだけに同委員会の活動の成果にも期待が寄せられるというものだ。
インタビューでも少し触れられていたが、同委員会では新たなメンバーの参加を歓迎するとのこと。さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集まれば、それだけ取り組みにも独自性が生まれそうだ。そうしたことも含めて高齢者医療委員会にぜひ着目していただきたいと願う。

取材協力

日本プライマリ・ケア連合学会
高齢者医療委員会

長哲太郎先生 委員長
木村琢磨先生
石丸直人先生
大塚貴博先生
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長 哲太郎(ちょう てつたろう)先生
コープおおさか病院 副院長

大阪府出身。長崎大学医学部卒。
大阪民医連で、初期後期研修後、北海道家庭医療学センターで家庭医療のフェローを専攻。その後古巣に戻り、ファミリークリニックなごみの院長として勤務後、2023年4月から現職。

<資格>
日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医・指導医・理事
日本専門医機構 総合診療専門医・特任指導医
日本病院総合診療医学会 特任指導医
日本在宅医療連合学会 認定専門医
日本内科学会 総合内科専門医

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木村 琢磨(きむら たくま) 先生
東京医科歯科大学 
介護・在宅医療連携システム開発学講座 / 総合診療科

長野県生まれ。東邦大学医学部卒業。
国立東京第二病院(国立病院東京医療センター)、国立病院機構東埼玉病院、三重県立一志病院、北里大学、埼玉医科大学などを経て、東京医科歯科大学 介護・在宅医療連携システム開発学講座 / 総合診療科。

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石丸 直人(いしまる なおと) 先生
兵庫県明石医療センター
総合内科所属 総合診療医

1995年学生時代(筑波大学)に前野・木澤両先生から総合診療を学ぶ
2001年東京大田区の下町のコミュニティホスピタルで研修勤務
2006年茨城県つくば市で総合診療医としてトレーニング
2009年茨城の田舎の開業医・国保診療所・病院でTeaching staff
   筑波大学で医学教育・臨床研究を学ぶ
2012年明石医療センター内科・呼吸器科を経て現職

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大塚 貴博(おおつか たかひろ) 先生
大塚医院ファミリークリニック 院長

2008年3月  東邦大学医学部卒業 
2014年3月  筑波大学附属病院総合診療グループ 後期専門研修修了
2021年10月  大塚医院ファミリークリニック院長  現職

<資格>
日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医
日本内科学会総合内科専門医
<公職>
熊谷市医師会理事(在宅医療・認知症担当)
埼玉プライマリ・ケア連合研究会 世話人

最終更新:2024年03月07日 17時12分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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