ホームニュース大学ネットワーク第14回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビュー Vol.1 <ポスター発表の部 最優秀賞 > 愛知医科大学医学部

ニュース

大学ネットワーク

第14回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビュー Vol.1 <ポスター発表の部 最優秀賞 > 愛知医科大学医学部

2023年5月13日(土)〜14日(日)ポートメッセなごやで開催された第14回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション。口演発表(研究)19エントリー、ポスター発表(活動紹介)37エントリーの中から、各部門で受賞された発表内容をご紹介します。今回は「ポスター発表の部」で最優秀賞を獲得した愛知医科大学医学部の肥後さんと指導にあたった宮田先生からお話をうかがいました。

ポスター発表の部 最優秀賞  

地域医療実習で学んだ「かかりつけ医」の役割〜今後の実習で何を学ぶ必要があるのか〜

##受賞内容
ポスター発表の部 最優秀賞  

##演題名
地域医療実習で学んだ「かかりつけ医」の役割〜今後の実習で何を学ぶ必要があるのか〜

##大学
愛知医科大学医学部 

##発表者名
肥後夏月さん(愛知医科大学医学部6年)

##指導者名
宮田靖志先生(愛知医科大学地域総合診療医学寄附講座)
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-511-1.jpg
コロナ禍によって患者さんが「かかりつけ医」として通っていた医療機関で受診できないケースが増え、日本の医療体制の脆弱性が明らかとなった。改めて「かかりつけ医機能」の重要性が指摘されることになった。医学生に対する地域医療教育の重要性が強調されるようになってきているが、一方で医学生が「かかりつけ医」の機能や役割について理解する機会が充分ではない状況も否定できない。今回の研究では、医学生が地域医療実習で学んだ「かかりつけ医」の役割について分析し、患者さんのニーズとの比較を通して今後の学びを深める方策について考察した。

重要キーワードとしての「かかりつけ医」に着目し研究テーマを模索

今回の取り組みのきっかけとなったのは、昨年の「第13回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会」でした。その学生セッションを見たのですが、とても感銘を受けたこともあって来年は自分も発表しようと思いました。発表にあたっては何らかの研究成果を示したかったので、そのテーマを探していたところに目に留まったのが「かかりつけ医」というキーワードです。

かかりつけ医は患者さんにとって身近に頼れる存在という認識がありますが、コロナ禍においてはその前提が崩れてしまうケースが多々見られたと聞きました。「かかりつけ医なのに診てくれない」という批判も上がり、それを引き金にかかりつけ医の機能の重要性が改めて考えられるようになっていきました。厚労省を中心に議論が進み、医療の世界では大きな話題になったと言えます。そういうこともあって、重要キーワードとして私の目に留まったわけです。

―「かかりつけ医」の役割を学ぶにあたっての医学生の課題とは?

かかりつけ医に関する議論が本格化しているなかで、では私たち医学生はかかりつけ医の機能や役割についてどこまで理解しているのだろう…との疑問が生じました。座学の授業や実習を通して地域医療や総合診療を学ぶ機会はありますが、それだけではかかりつけ医の全体像をつかむのは難しいのではないかと思ったわけです。

実習にしても、かかりつけ医のもとで学ぶ期間はわずか5日間しかないという現実もあります。また、実習先に関しても個人のクリニックから市中の病院まで幅広く、学生ごとに実習内容が異なるといった問題もありました。こうした背景のもと、医学生が学んだかかりつけ医の役割と、実際に患者さんがかかりつけ医に求める役割を比較すれば、今後の学びのヒントが浮き彫りにされると考えました。それが今回の研究の目的です。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-511-2.jpg
    春休みの課外実習中の肥後さん。ソーシャルワーカーさんに同行し、 患者さんの退院調整(施設移動)の情報収集を行っているワンシーン。

学生の実習レポートと国民の意識調査を比較分析

―具体的にはどのように研究を進めていったのですか?

医学生が学んだかかりつけ医の役割と、患者さんがかかりつけ医に求めることの差異を浮き彫りにするために、2つの資料を用いました。1つは、本学に在籍する学生がまとめたレポートです。このレポートは4年生の後期から5年生の前期にかけて臨床実習を実施した学生が提出するものです。指定された地域医療実習施設のもとで5日間の臨床実習を行うのですが、その中でかかりつけ医の役割について考えたことをまとめています。そこから「かかりつけ医の役割に関する学び」を抽出していき、その内容をカテゴライズしていきました。

もう1つは、日本医師会総合政策研究機構が発表した「日本の医療に関する意識調査2022年臨時中間調査」という資料です。日本医師会では、約3年ごとに国民の医療に関する意識調査を行っているのですが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2022年3月に臨時中間報告を実施しました。新型コロナウイルスによる感染症の蔓延が国民にどのような意識の変化を与えているのか、また、かかりつけ医に関してはどうなのかといったことが調査されています。

―2つの資料を比較、分析してみてどうでしたか。

学生のレポートですが、かかりつけ医の役割に関する学びとしてもっとも多かったのが「(患者さんと)信頼関係を築き、些細なことでも気軽に相談できる存在」というものでした。次に「地域住民のニーズに合わせた医療の提供を行う」「患者さんを継続的に診る」「患者さんの背景を理解して患者さん本人を診る」といったキーワードが続きました。

一方、日本医師会の意識調査のほうでは「どんな病気でもまずは診察できる」「専門医・専門医療機関への紹介」「健康管理のための助言や継続的な指導」が上位を占めました。

両者を比較すると、共通点が見られる一方で、相違点があることも明確になりました。共通点としては「総合的な医学知識を持ち、どんな病気も診療できる」「健康相談窓口」「継続性 」「往診、訪問診療、ワクチン接種など住民のニーズにあった医療提供」「気軽に相談ができ、患者に寄り添う安心感 」「患者背景の理解」があげられ、相違点としては「夜間、休日の対応」「感染症発生時の対応」「複数医師による連携体制」が明らかになりました。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-511-5.jpg
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-511-6.jpg

共通点と相違点を明確にすることで学びの打開策が見えてきた

―そこから、肥後さんは何を考察していったのですか?

まず、学生はかかりつけ医の役割に対する大まかなニーズを把握していることがわかりました。これは、かねてよりかかりつけ医に抱いていたイメージが、実習への参加や実習レポートでの言語化を通して明確になったからではないかと考えています。また、本学の実習先も毎年新たな医療機関に協力をお願いし、レベルの高いかかりつけ医のもとで学べることも影響があるかと思います。

一方で、相違点については先ほどあげた項目となりますが、これらは患者さんの3割から4割が求めていることでした。ニーズとしては大きい項目ですが、それを学生が学べていない事実が明らかになったと言えます。

その理由としては「夜間、休日の対応」に関しては実習期間が平日の日中のみだったため、夜間や休日の対応を学ぶ機会がなかったことが考えられます。また「感染症発生時の対応」については、新型コロナウイルスの感染拡大時は実習そのものが実施されなくなり、感染発症時の対応を学べなかったことが指摘できると思います。

「複数医師による連携体制」は診診連携・病診連携を実施している医療機関での実際を目にする機会がほとんどなかったことがあげられます。このように分析を通してさまざまな課題が浮かび上がったと言えます。

—そうした課題に対して、肥後さんはどのような解決策を考えていますか?

1つには、学生が休日や夜間の対応を学べるフレキシブルな実習体制を整える必要があると思います。また、実習課題に患者さんのアンケートを追加したり、患者さんにかかりつけ医に期待すること、どうして実習先の先生をかかりつけ医にしているのかといった話を聞く機会を設けるなど患者さんのかかりつけ医に対する意識を肌で実感できるようにすればいいかと思います。

もう1つ付け加えると、学生同士の振り返りも効果的だと思いました。学生それぞれがお互いの実習内容を共有する時間を設け、自身で体験したこと気づいたことを話し合うことで、かかりつけ医とは何なのかについて学びを深めていくことも効果的だと考えています。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-511-8.jpg
    学会当日、発表中の肥後さん。限られた時間の中で分かりやすい説明に、多くの人が興味深くうなずく様子も。

宮田先生におうかがいします。肥後さんから相談を受けた時の感想はいかがでしたか?

テーマとして面白いと思いました。肥後さんの話にもあったように、ちょうどコロナ禍において、かかりつけ医の役割が改めて考えられるようになっていたので切り口としてはタイムリーだったと言えます。一方で、学生たちは実習先で学んだことをレポートにまとめることになっていますから、何を学んだかについての情報は豊富にあります。その情報を俯瞰的に見ていきながら、一般の人たちの考えと照合していく。そのことで面白い結果が出るのではないか、という期待はありましたね。

—研究の進め方でどのようなアドバイスをされましたか?

正直なところを言うと、まったくと言っていいほどアドバイスは必要なかったですね。肥後さんはとても優秀で、ほとんど独力で進めてくれました。私がコメントしたのは、レポートから抽出した学生の学びについてコンパクトな表現でまとめたほうがいいということ、日本医師会の調査結果との相違点を明確にすること、それくらいだったと思います。本当に手がかかりませんでした(笑)。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-511-11.jpg
    春休みに自主的に訪れたあま市民病院で指導医の先生(右)と、宮田先生(左)との記念撮影。

患者さんにしっかり寄り添える医師を目指して

—肥後さんが将来目指したいことは?

私の場合、実習先の先生が家庭医だったので、とても勉強になりました。外来や訪問診療を通して患者さんに寄り添う医療の大切さを学んだと思っています。

例えば、1人の患者さんに30分くらいかけて診察をするといった姿勢はすごいなと思いました。患者さんもそれで安心していましたし、治すことに加えて「寄り添う」ことの重要性を強く感じたと言えます。今回のように日本プライマリ・ケア連合学会の学術大会に参加させていただいて、いっそうそのことを実感できました。これからどの診療科に進むとしても、患者さんにしっかり寄り添える医師になりたいと考えています。

最終更新:2023年09月01日 11時36分

大学ネットワーク委員会

記事の投稿者

大学ネットワーク委員会

タイトルとURLをコピーする