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第14回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビュー Vol.7<ポスター発表の部 優秀発表賞 > 愛知医科大学医学部

2023年5月13日(土)〜14日(日)ポートメッセなごやで開催された第14回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション。口演発表(研究)19エントリー、ポスター発表(活動紹介)37エントリーの中から、各部門で受賞された発表内容をご紹介します。今回は「ポスター発表の部」で優秀発表賞を獲得した愛知医科大学医学部の本美朋華さん、高橋里空さん、平嶋大暉さんと、指導にあたった宮田靖志先生からお話をうかがいました。

ポスター発表の部 優秀発表賞  

望まない妊娠をした女性・歌舞伎町で性産業に従事する女性に対する支援活動から医学生が学ぶこと

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##受賞内容
ポスター発表の部 優秀発表賞  

##演題名
望まない妊娠をした女性・歌舞伎町で性産業に従事する女性に対する支援活動から医学生が学ぶこと

##大学
愛知医科大学

##発表者名
本美朋華さん 高橋里空さん 平嶋大暉さん(愛知医科大学医学科6年)

##指導者名
宮田靖志先生(愛知医科大学地域総合診療医学寄附講座)
新宿歌舞伎町には貧困・厳しい家庭環境・精神疾患などの問題を抱えながらも相談や支援の窓口にアクセスできていない女性が集まってきており、中には性的行為により生計を立てていたり、望まない妊娠に至ってしまったりするケースもある。コロナ禍での経済的困窮によりそういった女性が増加している今、社会の支援体制がより求められている。今回、NPO法人妊娠SOS新宿およびNPO法人レスキュー・ハブによる相談所の活動や同NPOによる歌舞伎町の夜回り活動に同行し、新宿歌舞伎町に集まる女性の現状と生活、それに対してなされている支援・コミュニケーションのあり方を見学・体験した。それら活動を通じて参加学生は医療者として何を学ぶことができたかその要素を探索した。

歌舞伎町裏路地に立つ女性とその背景を理解する

ー今回の研究テーマはどのような経緯で決められたのですか?

高橋:宮田先生からNPO法人が行う新宿歌舞伎町でのアウトリーチ活動に参加してみませんか、というお声がけをいただいたことがきっかけになります。新宿歌舞伎町には性的行為により生計を立てようとする女性も多く、その中には望まない妊娠に至る女性のケースもあります。そんな女性たちを支援する相談所での活動や、歌舞伎町の夜回りに同行させていただくという滅多にない貴重な学びの機会が得られるとあって、3人揃って参加することにしました。

ー最終的には計27名の医学生が参加されたそうですね

本美:はい、宮田先生が学生向けに参加希望を募ってくださって、何回かの活動同行で、愛知医科大学から私たちを含む計23名と、藤田医科大学から4名が参加しました。活動内容としては、新宿にある相談所で実際に活動されているNPO法人の方からどういった活動をされているのか説明を受けたり、相談に来られた方とのやり取りを見学させて頂いたりしました。また、歌舞伎町での夜回りでは、街中に立つ女性たちにカイロやハンドクリームやリップクリームなどを配りながら問題を抱えている人たちが自ら相談所へ来ることができるよう活動を行いました。
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    NPO法人 10代・20代の妊娠SOS新宿 -キッズ&ファミリーにて、活動内容についてレクチャーを受ける参加学生
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    NPO法人レスキュー・ハブの夜回りに参加。相談所の連絡先が書かれた汗拭きシートやカイロなど季節に応じた日用品を配布。

ー実際に参加されてた感想は?

高橋:夜回りで印象的だったのが、いきなり「何か困ってませんか?」「相談したいことありませんか?」と聞くのではなく、「リップクリームいりませんか?」「寒いのでよかったらカイロどうぞ」といった感じで、声をかけていくことに終始することでした。歌舞伎町に集まる女性の多くは、貧困や家庭環境の問題、精神疾患や頼れる人がそもそもいないといった様ざまな理由がありますが、自分も周りもそれが当たり前と思っている人が多いので、いきなり「困ってませんか?」ではなく、まずは声をかけること、女性たちと繋がることが大切だということを学びました。

平嶋:以前、宮田先生に「患者さんと初めて会ったときには、最初の3分くらいは相手の話にじっくり耳を傾けることが大切」と教えていただいたことがありましたが、まさにそれを実体験することができました。例えば、これまで持っていた自分の価値観だと、中学生の女の子で歌舞伎町に立っている光景は驚きでしかないのですが、本人はそれが危険なことだと気付いていなかったりします。そんな状態で勝手に自分の考えだけで相手を判断したり意見したりするのではなく、まずは聞くこと、そして本当の悩みを話してくれるまで待つことの大切さを学ぶことができたと思います。
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    日用品の配布を通じて、繋がること、気軽に話をしてくれるようにや顔見知りになることが何より大切という。

参加した学生の気づきを6つのテーマに分類し考察

ーみなさんの活動はどのような形でまとめましたか?

本美:参加した学生は記述式のフォーマットレポートを提出し、そこで共通するキーワードを抽出して、私たち3人で話し合いながらまとめていきました。ここが一番苦労したところではありますが、私たちが伝えたい言葉で表現できているのかなど、宮田先生にもアドバイスを頂きながら参加した学生の気づきとして6つの概念にまとめていきました。

<参加した学生の学び>

①    性産業に従事する女性の背景

②    当事者意識 

③    支援体制の不十分さ

④    支援対象者とのつながり構築の困難さ

⑤    支援者の圧倒的努力

⑥    生々しい出来事が実際に起きていることの衝撃(印象に残ったエピソード)
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ー今回の活動を通じてどのような学びがありましたか?

高橋:売春が平然と行われている事実に衝撃を受けました。中には小学生から歌舞伎町デビューしたという女性がいて、想像を超えた深刻な問題があることを知りました。自分が持っている価値観や考え方が必ずしも正しいわけではないこと、今後医師として患者さんに接するときにも、目の前の患者さんの話をよく聞いて、自分の目で見て判断することが大事だと感じました。

平嶋:今回の活動を通じて、NPO法人など支援者の圧倒的努力によって成り立っている事実がある一方、行政支援や相談先である警察や病院などでは、歌舞伎町内に隠れる多様な問題へのケアが十分には行き届いていない側面もあると感じました。浮き彫りにならない問題が多く、相談を受ける側の理解不足や初期対応の誤りによって、支援をより困難にしてしまう場合があることを知りました。

本美:大変な環境にありながらも、気軽に相談できる場所がない、心の寄りどころがない若い女性たちを目の当たりにして、これから医師になる医学生として自分に何ができるだろうと考えるきっかけになりました。また、相談に来られた方に返す自分の言葉の重みや影響力の大きさも実感しました。

宮田先生のアドバイス

ー今回の活動や発表にあたって、宮田先生はどのようなご指導をされたのでしょうか?

本美さんの話にもありましたが、活動内容をまとめていく中でキーワードの抽出に重なりや矛盾がないかなどアドバイスはしましたが、3人が力をあわせてわかりやすくまとめてくれたと思います。ポスター発表は分かりやすく自分たちの伝えたいことがしっかり話せていて、結果として受賞できたことは3人の自信にもつながったのではないかと思い、本当によかったと思います。今回の活動は、学生たちが夜回りなどに参加することで、これまで知らなかった貧困、虐待、精神疾患などの問題を持つ方たちがいわゆる普通の社会生活とは異なるところで困難を抱えながら生活されていることを知りました。特にそのことで性産業に追い込まれ、妊娠までしてしまうことがあるという、社会の暗部のようなものを初めて実体験として理解しました。このことは学生たちが健康と社会との関係についての新たな視点を得ることのきっかけになったのではないかと思います。いわゆる、健康の社会的決定要因について考えることにつながったのではないかと思います。
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    夜回り活動に同行する宮田先生(左)と高橋さん(左から2番目)、本美さん(右から2番目)、平嶋さん(右)。

みなさんが目指す将来について

―将来みなさんはどんな医師になりたいですか?

本美:現段階ではまだはっきりと何科の医師になりたいと決めているわけではないですが、今回の経験を活かして、患者さんの悩みにしっかりと耳を傾け、本質的な問題に対応できる医師になりたいと思っています。

高橋:私たち3人は愛知の医学部地域枠ということもあり、地元で地域に根付いた医療に携われたらと考えています。将来このメンバーで一緒に何かしらの取り組みができたら面白いだろうなと考えています。

平嶋:高橋君同様、まだぼんやりとしたイメージしかないですが、医療を通じて地元に貢献できる医師になりたいです。そのためにも、患者さんとしっかり向き合い本質的な課題や悩みを拾い上げられるスキルを磨きたいと思います。

最終更新:2024年04月02日 12時08分

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