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第14回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビュー Vol.6<口演発表の部 優秀発表賞 > 大分大学医学部

2023年5月13日(土)〜14日(日)ポートメッセなごやで開催された第14回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション。口演発表(研究)19エントリー、ポスター発表(活動紹介)37エントリーの中から、各部門で受賞された発表内容をご紹介します。今回は「口演発表の部」で優秀発表賞を獲得した大分大学医学部の松本有紀さんと指導にあたった宮﨑英士先生からお話をうかがいました。

口頭発表の部 優秀発表賞

総合診療専攻を決定する因子についての研究

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##受賞内容
口演発表の部 優秀発表賞  

##演題名
総合診療専攻を決定する因子についての研究

##大学
大分大学医学部 

##発表者名
松本有紀さん(大分大学医学部医学科)

##指導者名
宮﨑英士先生(大分大学医学部 総合診療・総合内科学講座 教授/ 大分大学医学部 副学部長)
「なぜ総合診療医を選ばなかったのか?~総合診療に興味を持ちつつ、臓器別専門医を選んだ研修医の進路決定要因に関する質的研究~」(土田 知也、家 研也、西迫 尚、松田 隆秀 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2019;42,134)では、特定の臓器に偏らず幅広い視野で患者を診ることのできる総合診療医の必要性が認識されているものの、総合診療に興味を持ちつつも臓器別専門医を選択した医師へのインタビューを通して「進路決定に関する要因」を抽出し、より理想的な総合診療研修の方法を検討している。同研究の考察を踏まえて、本研究では医学生の総合診療に関する意識を探るとともに、総合診療を選択した医師のキャリア決定因子を明らかにすることを試みた。

医学部生と総合診療専攻医を対象にアンケート調査

―松本さんはどのような思いから総合診療の研究室に入ったのでしょうか?

もともと私は総合診療に興味がありました。それに加えて、大学に入学する前の年だったかと思いますが、新専門医制度の基本領域に総合診療医が加わったことで(2018年4月) どのようにキャリアを積んでいくのかなと思っていたりもしました。その後、3年生の時に総合診療の講義を受けたのですが、実際に現場で働いている総合診療医の先生方のお話を聞くなかでますます興味がつのって「総合診療の研究室に行きたい」と思ったのがきっかけです。

―今回の研究テーマを決めたのは松本さんご自身ですか?

研究室配属の時に面談があったのですが、その時に宮﨑先生に「総合診療医のキャリアについて関心を持っています」という話はしました。それが今回の研究テーマに反映されていると言えます。研究の目的としては「医学生の総合診療に関する意識を知る」ことと「総合診療を選択した医師のキャリア決定因子を明らかにする」ことの2点を掲げました。

そのなかでまず医学部の1年生から5年生までの学生を対象にアンケートを通して総合診療の意識調査を行うことにしました。現状を把握する意味で、いまの医学生がどれくらい総合診療に興味を持っているかを知っておこうと考えたためです。また、総合診療専攻医33名の方にも協力していただきました。

―どのようなアンケートをとったのでしょうか?

アンケートの内容ですが、5つの設問を設定して答えてもらうことにしました。その5つとは「興味(「総合的に診る医師」と「専門を極める医師」のどちらに興味がありますか?)」「知識( “総合診療医"についてどの程度知っていますか?)」「 必要性の認識(今後の日本に総合診療医は必要だと思いますか?)」「将来の進路(将来の進路として"総合診療医"を選択肢として考えますか?)」「 知識欲(セミナー等を通して"総合診療医"についてもっと知りたいと思いますか?)」という内容になります。アンケートは半年ごとに3回に分けて実施し、それぞれ40%以上の回答率となりました。3回とも回答してくれた人もいました。
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総合診療医へのインタビューも実施

―調査結果を見てどのように思いましたか?

まず質問1の「興味」のところですが「総合的に診る医師」に興味のある人が26%と意外に高かった印象があります。これは学年があがるにつれて、そういう回答が多くなっていました。背景には総合診療のレクチャーや地域医療実習を受ける機会が増えたことの影響があると考えられます。また、質問2の「知識」に関して言えば55%の人が総合診療医について知っていることがわかりました。質問3の「必要性」に関しては、学年に関係なくほとんどの人(97%)が「今後の日本に総合診療医は必要だ」と思っていることがわかりました。将来の進路として総合診療医を考える人は52%、総合診療医についてもっと知りたいと思っている人は68%で、全体として総合診療医に対して関心が高いという結果が出てきたと思います。

また、この調査結果で特に印象に残っているのは「学生時代に総合診療を将来の進路として考えている割合」が、現在の医学生と総合診療専攻医の方たちとでほとんど差がなかったことです。総合診療専攻を決定する要因としては学生から研修医の過程でのさまざまな因子が関係していると考察しました。
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―アンケート調査に加えてインタビューも行っていますね。

はい。総合診療医として大分で働いていらっしゃる14名の先生方からご協力をいただきました。インタビュー内容としては「総合診療医になろうと思った時期」「総合診療医になろうと決めた契機となる出来事」「総合診療を行うには“こういう能力が必要だ"と思うこと」「総合診療の実践のために、大学の医学教育で学びたかったこと」「総合診療の実践のために医学生に学ばせて欲しいこと」「総合診療医になる場合に大事なもの」という設問を用意して、それぞれ答えていただきました。

その結果として見えてきたのが「セミナーやサークル活動を通しての興味の向上」です。インタビューに協力して下さった先生のコメントですが「2年生の時に医療のワークショップ(勉強会)があって、それに参加した時“自分のやりたい事はこういう医療かもしれない"と思った」というものがありましたが、こうしたことがきっかけとなるケースが多い傾向が見られました。解析にあたっては「SCAT(スキャット)法(質的データの分析手法のひとつで、インタビュー内の重要語句を概念化していく)」という手法を用いています。
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―今回、学会発表という経験をしてみて、どのような感想を持ちましたか?

非常に貴重な体験をさせていただいたと思います。また、そのような機会を与えて下さった先生方に深く感謝しています。当日はとても緊張しましたし、他の大学の学生の方の発表を聞くなかで「自分はあんな風にちゃんとできるだろうか……」といった不安も抱きました。でも、いざ本番になってみるとさほど緊張することもなく発表ができたと思います。総じて楽しむことができたかな、という感じでした。この経験を活かして今後も頑張っていきたいと思っています。
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    受賞後の松本さん(写真前列中央)。発表の応援に駆けつけてくれた学生や、同じく学術大会で発表をした大分大学の学生のほか、宮﨑先生(写真後列右)をはじめ大学総合診療の医局の先生方と一緒に記念撮影。

宮﨑先生のアドバイス

―今回の発表にあたって、宮﨑先生はどのようなご指導をされたのでしょうか?

松本さんの話にもありましたが、総合診療医のキャリアについて興味を持っているとのことでしたので、それを踏まえてひとつの論文を提示しました。「なぜ総合診療医を選ばなかったのか?~総合診療に興味を持ちつつ、臓器別専門医を選んだ研修医の進路決定要因に関する質的研究~」(土田 知也、家 研也、西迫 尚、松田 隆秀 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2019;42,134)という論文で、これを参考に逆の方面からアプローチしてみてはどうかというアドバイスをしました。研究の立案と方法、データ収集と解析、考察からスライド作成まで、私はほんの少しのサポートはしましたが、ほぼ松本さん自身が創り上げた研究です。頭脳明晰、仕事が早く的確で、将来一緒に仕事がしたいと思う学生さんでした。

―松本さんの集めたデータを見てどう思われましたか?

私が必要だと思っていたデータを集めてくれて喜んでいます。やはり、まだまだ総合診療医を目指す学生は少数派で、その現状に対して私たちも「どうすれば興味を持ってもらえるか」と試行錯誤をしているわけですが、そこに学生が何を考えているのかを示すデータが集まったわけですから、とても参考になるというのが正直なところです。いろいろなヒントが詰まっていると言えますね。素晴らしい研究をしてくれたと思っています。
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    宮﨑先生と松本さんの受賞後ツーショット。松本さんのリラックスした笑顔が印象的。

松本さんが目指す将来について

―松本さんは将来どのような医師になりたいのでしょうか?

正直なことを言えば、総合診療医になるかどうかはまだはっきりと決めているわけではありません。ただ「患者さんに寄り添うことができる医師」になりたいとは思っています。「寄り添う」という言葉はよく使われますが、私自身は短期的であれ長期的であれ、患者さんとの信頼関係を作ることだと考えています。患者さんから「この先生なら安心。信頼できる」と思っていただける医師になりたいというのが私の思いです。

最終更新:2024年03月28日 18時11分

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