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【学術大会 学生セッション受賞大学インタビュー】/大分大学 総合診療・総合内科学講座 塩田星児 先生

大学ネットワーク委員会では日本プライマリ・ケア連合学会学術大会で学生セッションを企画しており、毎年数多くの大学からエントリーを頂いています。そこで、多くの優秀演題を発表されている大学の指導者に、発案から発表に至るまでどのような指導をされているのか、また優秀演題へと発展させる秘訣はどのようなものかについてお話を伺いました。今回は大分大学の塩田星児先生のご登場です。

「プライマリ・ケアにより深く興味を持つきっかけを提供」

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スムーズな発表ができるようにしっかりとサポート

― 大分大学医学部では4年生になると各講座に配属になるとのことですが?

「研究室配属」と言いますが、それぞれの研究室が「うちに来ればこういうテーマで研究ができますよ」と学生に向けて提示をするんです。それを見て興味を持った学生がそれぞれの研究室に応募して配属になるという形ですね。私の総合診療・総合内科講座には、毎年4〜5名の学生が来てくれています。うちの研究室のテーマとしては、データを解析することを主眼にしたものと総合診療医のキャリアについて考えるものがメインになります。あとは在宅医療ですね。そのなかから学生たちは指導教官と一緒に自分の取り組むテーマを詰めていき、具体的な内容を決めていくスタイルをとっています。指導側でリードしていくこともありますが、もちろん学生の意向は最大限に活かすようにしています。学生らしいユニークな発想もけっこう出てきますので、研究テーマがバラエティ豊かになるといった面はありますね。

― 指導にあたって意識されていることはなんでしょう?

進捗管理はきちんと行うようにしていますね。もともと研究室配属の発表日は7月に行うと決まっていて、そこから逆算をして「こういうペースで進めていけば発表に間に合う」ということを明確にしておきます。指導教官と学生は基本的に毎日顔を合わせますし、最低でも週に1回は会うことにしています。また、全体的な発表会(予演)も行いますし、そもそも研究をスタートさせる段階でみんなが集まるキックオフミーティングも開催しています。このように全員が集まる機会は定期的に設けるようにしているつもりです。そのタイミングで進捗状況のチェックもできるということですね。

― 発表をスムーズに行うための指導もされるんですか?

そうですね、行います。発表に関しては学年の全体発表があり、その前に医局での予演発表会があります。それに加えて、日本プライマリ・ケア連合学会をはじめとする外部の学会での発表もあるわけですね。いずれに関してもそうですが(発表に用いる)スライドの見やすさやスライドを送るタイミング、話すときのスピード(早口にならないように、聞き取りやすいようになど)、間の取り方といったことはチェックして改善につなげるよう指導しています。細かいところになりますが、こういう部分は意外と重要になってくるんですね。
また、学会での発表では学生から抄録を作ってもらって、その添削も行います。私は発表の機会はたくさん持っていたほうがいいと考えていて、うちの研究室の学生には必ず学外での発表をするようにと言っています。全国レベルの学会であったり地方の研究会であったりとパターンはさまざまですが、何らかの形で外に向けて発表しなさい、と。優れたものに関しては論文にまとめるように勧めるようにしています。日本語の論文もあれば英語の論文もありますね。
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総合診療の面白さをもっと知ってもらいたい

― 必ず発表するようにと勧める理由はどこにあるのでしょうか?

やはりアウトプットの機会があると研究に対する学生のモチベーションは上がると考えているためですね。学内だけの発表でもいいのですが、この場合、中途半端に終わっても発表は成立します。でも、学会で発表を行うとなるとそうもいきません。それなりの完成度がないといけないので、学生はより真剣に取り組むわけですね。その経験は彼らにとって大きなプラスになると思います。
また、発表の際にはその会場にも行くわけですが、その場に身を置いて雰囲気を味わうことも意義のある経験だといえます。日本プライマリ・ケア連合学会の学術大会の場合はプライマリ・ケアにより深く興味を持つきっかけになってくれたらうれしいと個人的には思っています。

― 発表を経験することで学生さんには何か変化がありますか?

ひとつには「やり遂げた!」という達成感を味わってくれていると思います。発表するには相応の準備も必要ですし、本番では質疑応答もあったりして(口演の場合)、緊張するわけですから終わった時はほっとしているようです。その達成感は、繰り返しになりますが、彼らのなかでは貴重な体験に昇華されていくと思っています。賞をいただいた学生は特に喜びは大きいとは思いますが、受賞の有無にかかわらず、学会発表ができたことで自信が芽生えるといったことはあるでしょうね。
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― 学生さんたちのプライマリ・ケアへの関心を高めてもらうために普段から行なっていることはありますか?

学外実習の機会を多く取り入れていることですね。大学だけではなく、外の総合診療を見てもらうようにしています。実習の提携先は大分県内が中心です。また、これは学生たちの自主的な取り組みですが、大分大学でも総合診療のサークルが立ち上がり勉強会を開催したりしています。
宮崎大学の総合診療のサークルと学生同士で勉強会も開催しています。私もサポートをしていますが、昨年は宮崎のほうでセミナーを開き、今年は大分で行います。こうした活動を通して総合診療の面白さをもっと知ってもらえればとも思いますね。

総合診療の視点・マインドを持った医師がいることの意味

― これまで先生は多くの受賞者を輩出してきましたが、その方たちは大分で活躍されているのでしょうか?

細かいところまでは把握していませんが、割合的には多いという認識です。ただ、総合診療の道に進む人はまだまだ少数派というのが実際のところです。それでも総合診療のことをまったく知らないわけではないので、そうしたマインドを持った医師がいることの意味は大きいと思っています。
大分は県の中央部に県庁所在地の大分市があるんですね。そのため、僻地と呼ばれる地域に対しても割とアクセスがいいんです。高速で1時間ほど走れば、ある程度のところまではだいたい行くことができます。だから、大分市に住んで僻地の医療機関に通っている医師は少なくありません。そういう地理的な特性もあって、他県に比べると「地域」で働くことに抵抗がないということは言えると思います。地域が身近にあるからこそ、総合診療のことを知っていると、いろいろメリットも大きいというわけですね。

― 最後に何かメッセージがあればお願いします。

私としては大分に総合診療医が増えてくれることはもちろんですが、そうでなくても、総合診療の視点・マインド思った医師が多くなってくれればそれでいいと考えています。大分で働く医師が増えればそれだけ総合診療に興味を持つ人たちの割合も多くなっていくでしょうから、そのための人材育成には力を尽くしていきたいと思っています。また、大分に限らず九州全域での連携を充実させていく必要もあるでしょうね。現在は「KOPe」という九州沖縄の専攻医たちによるオンラインポートフォリオ勉強会がありますが、そういった動きもさらに増えていってほしいですね。

プロフィール

大分大学医学部 総合診療・総合内科学講座 准教授
(大分大学医学部附属 地域医療学センター)
塩田 星児(しおた せいじ)
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【職歴】
  2002年 5月 大分医科大学医学部附属病院 総合診療部 医員(研修医) 
  2004年 6月 大分大学医学部附属病院 総合診療部 医員 
  2009年 8月 大分大学医学部 環境・予防医学講座 助教(兼任) 
  2014年 4月 ベイラー医科大学消化器内科 
  2015年 4月 大分大学医学部 医学教育センター 助教 (兼任) 
  2016年 4月 大分市医師会立アルメイダ病院 総合診療科 部長
  2019年10月  大分大学医学部附属 地域医療学センター 助教
  2020年 2月   大分大学医学部附属 地域医療学センター 講師
                      (総合内科・総合診療科兼務)
  2021年4月    大分大学医学部総合診療・総合内科学講座 准教授

【認定資格】
 博士(医学)
 日本内科学会 総合内科専門医
 日本プライマリ・ケア連合学会 プライマリ・ケア認定医・指導医
 日本病院総合診療医学会 認定病院総合診療医・指導医
 日本消化器病学会 消化器病専門医
 インフェクションコントロールドクター(ICD)
 日本ヘリコバクター学会 H. pylori(ピロリ菌)感染症認定医
 JMECCディレクター

取材後記

日本プライマリ・ケア連合学会の学術大会において大分大学は島根大学と並んで受賞者数が多い「入賞常連校」。その指導に当たっているのが今回ご登場いただいた塩田先生だ。お話のなかにもあったように、取り組む研究テーマは学生さんたちの意向を尊重、先生をはじめとする指導教官側はその取り組みに伴走するのはもちろん、いかにその内容をスムーズに伝えていくかのサポートにも力を入れているようだ。確かにいかに優れた研究内容であっても適切に伝えなければ、せっかくの成果に対する評価にも影響が及んでしまう。またそれは発表を終えたときの達成感にも関わってくるだろう。塩田先生は「学生たちが少しでもプライマリ・ケアに関心を持ってくれるきっかけとなれば」との思いを持ちながら指導に当たっているとのこと。その思いが伝わっているからこその入賞常連校とも言えるのかも知れない。

最終更新:2024年03月25日 15時41分

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