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Vol.03/「鳥取県の総合診療専門医を育てるプログラムをゼロから開拓、地域医療のプライマリ・ケア教育モデルを確立」【医師】谷口晋一先生

2010年10月、鳥取大学医学部に誕生した「地域医療学講座」。
谷口晋一先生は初代教授として、少子高齢化と過疎化が進む鳥取県の地域医療を担う次世代の総合診療医・家庭医の育成に力を注いでこられました。大学病院を飛び出し、地域病院で行政と連携した実践的な臨床実習を行うなど、先進的な教育プログラムが注目を集めています。谷口先生に、地域医療を担う医師に必要な視点、総合診療分野の課題、今後の人材育成についてお話しを伺いました。

糖尿病の専門医から総合診療の専門医として人材育成へ

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- 谷口先生が総合診療医になられたきっかけは?

はじめから総合診療医を目指していたわけではなく、もともとは、鳥取大学医学部の第一内科(現在の病態情報内科学)で内分泌学の診療研究に取り組んでいました。その後、糖尿病分野をカバーすることになり、鳥取県の中でも高齢化が進む中山間地域である江府町の生活習慣病調査や大学病院の糖尿病チーム作りに携わるなかで、プライマリ・ケアの必要性を強く感じ、総合診療の分野に移りました。そして、平成22年(2010年)に鳥取大学に家庭医や総合診療医の人材を育成する地域医療学講座が新設されることになり、初代教授として就任しました。
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    地域医療学講座がある鳥取大学医学部

- 糖尿病の専門医から総合診療の専門医になられて、感じたことは?

総合診療医には、内科を中心とした幅広い臨床能力と地域全体を見守る包括(ほうかつ)的な視点が求められます。私自身、総合診療分野へ移ってみて、糖尿病の専門医として診療しながら感じていた「医師は治療だけすればOKなのだろうか?」「患者さんが治療に前向きになれないのはなぜ?」といった疑問に、より深く向き合えるようになりました。総合診療の視点を得られたことで、より高い視点から、自分の診療を俯瞰できるようになったと感じています。

- 地域医療学講座では、どのようなプログラムを実践してきたのでしょう?

2010年の開設当初は、「地域医療ってなにをするの?」というゼロからのスタート。まず、受講生である医学部の学生たちに地域医療の現場を知ってもらうことが大切だと考え、大学病院を飛び出して地域の病院や診療所に連れて行き、そこで患者さんと接している医師や看護師を見て、会話して、現場を知ってもらうことから始めました。医学生を受け入れてもらう実習先は、私も含めた地域医療学講座の教官が足を運び、地域に根ざす若いドクターを育成する重要性を説いて賛同していただき、協力してくださる病院や診療所が少しずつ増えていった感じです。

プログラムが大きく進展したのは、開設から数年後。2014年に中山間地の医療拠点である日野病院(鳥取県日野郡)に、教育サテライトセンター(地域医療総合教育研修センター)が誕生。私をはじめ、講座を担当する医師が現地で外来診療・入院診療を行い、学生たちに実践的な臨床実習を学んでもらえる環境が整いました。地域医療の現場に学生を巻き込み、学生自身が住民の患者さんたちと接して生活状況やご家族など、あらゆる背景を知ったうえで病気を診ることができるのが大きな強みです。そのことが大きな一歩となり、大山の麓にある大山診療所にも「家庭医療教育ステーション」を開設。継続的な教育プログラムを実施しています。

住民の人生と暮らしを支える地域医療の視点で「地域づくり」を考える

- 大学病院での学びと地域医療現場での学び、一番の違いは何でしょう?

大学病院は基本的に専門科や臓器別の医療を学ぶ場なので、プライマリ・ケアの概念、家庭医や総合診療医としてのノウハウを学ぶ機会がほとんどありません。また、大学病院は紹介状を持って来られた患者さんを診るケースが多いけれど、日野病院のような地域の病院には頭痛、疲労感、食欲不振といった根本原因が分からない患者さんが来られることも多くあります。そういった診療を間近で体験できることが、大学病院との一番の違いではないでしょうか。

- 地域や行政と連携する地域医療のメリットとは?

病院は診療・治療という「医療を行う場」ですが、患者さんにとって病院は通過点でしかありません。病院の外来・入院を経て、退院後に家へ帰ってから、また福祉施設などへ移り、そこで「生活をする場」が続くわけです。そういう意味で、ケアマネージャーをはじめとする福祉分野との連携が不可欠です。また、リハビリは病院側の役目になりますけれど、生活を支えるっていう根源の部分と連結していく必要があり、そのためには行政とのコンタクトが大切になります。

分断されない持続的な医療と福祉の支援の実現のために「医師としてできることは何なのか」を、地域の自治体病院だから俯瞰的に学べるのが、大きなメリットといえるでしょうね。特に、東京や大阪といった都市部や、鳥取県の中でも人口が多い鳥取市内では、医療と福祉、医療と行政がどうしても分断されやすい。行政と医療の連結が、とても分かりづらく、見えにくくなってしまう。中山間地の小さな地域だからこそ、全体を見渡しやすい気がしますね。

- 地域の方にも役立つキャリア教育を実施されているのですね。

学生を教育するので地域の皆さんに集まってくださいと声をかけるのではありません。もともと地域に根ざす医療現場や地域活動があり、長年携わってこられた医療スタッフ、行政、地域樹民の方がおられる中へ地域医療学講座の学生が飛び込んでいく。それが生きた教育につながるのだと思います。

正規のカリキュラムとは別に、地域のさまざまな行事や集まりに参加し、体験できるオプショナル企画みたいな場も用意しています。例えば、家庭医や総合診療医へ進んだOB卒業生との勉強会をしたり、住民の防災訓練に参加したり、地域の小・中・高校生向けに「命の授業」を実施したり、春夏秋冬ごとに川下り、お正月の“とんど祭"といった行事を一緒に楽しんだり。学生の中には毎年リピート参加する人もいて、良い意味で顔つきがどんどん変わっていくんですよ。将来、総合診療を担う人材は、そういう地域医療への志向性を持った学生の中から育っていくのかも知れないと期待しています。

- 地域医療学講座の学生以外も参加できるのでしょうか?

一部の地域プログラムはオープン(誰でも参加自由)にしているので、医学生だけでなく、看護学生やリハビリの専門学校で学ぶ理学療法士の学生が一緒に参加しています。そこが、とても面白い点でもあります。

例えば、サテライト診療所に「最近少し血圧が高め」という患者さんがいらしたときに、医学生は「高血圧だったらカルシウム拮抗薬を」という診断をしがちだけれど、看護学生や理学療法士は「どうして冬だけ血圧が上がるのかな」という視点で患者さんと接したりする。異分野の学生が、それぞれ違う着眼点から患者さんを診ることで、お互いの視野を広げるきっかけが生まれます。
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    学生と一緒に地域住民の稲刈りを手伝い、交流を深める谷口先生
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    地域の小学校で実施した「命の授業」

これからの時代を担う医師にこそ総合診療の考え方・捉え方が必要

- 地域医療や総合診療の人材育成について、課題に感じていることは?

「地域医療って僻地に行くんでしょ、嫌だな」みたいなイメージしかなかったのが、地域医療学講座の体験プログラムがきっかけで、家庭医や総合診療医の分野に興味を持つようになった。そういう学生は着実に増えていると思います。ですが、開設から10年以上が経った現在も、まだまだ十分とはいえません。総合診療医を目指す人材を増やすことが課題ですね。

もともと内科の専門領域にいた医師だから分かるのですが、専門領域の分野ではプライマリ・ケアや総合診療が正しく認知されていないと残念に感じることがあります。だからこそ、総合診療へ進んだ医師が、生き生きと働いている姿を知ってもらうことが、一番の近道だと感じています。総合診療を選んでくれた次世代の医師が、誇りとやりがいを持って働ける場を創造し、持続的なサポートをしていけたらと思います。

- 谷口先生からみて「総合診療医」とは?

総合診療医は患者さんが最初に出会う「ゲートキーパー」、つまり「命の門番」です。総合医療医が全ての病気を診るわけではなくて、心臓に不安要素があれば循環器科の専門医へ繋ぎ、認知症の兆候が出始めていれば専門病院へ繋ぐ。そして、地域へ帰ってきたら再び病気の管理・予防を総合診療医が行うといった、地域と命を繋ぐリレーの交通整理を担う役目もあります。主治医であり、かかりつけ医であり、家庭医。患者さんご本人のこと、ご家族のこと、お仕事のこと、地域のこと、すべてを俯瞰して診られる総合診療医は、これからの日本にますます必要になる人材だと思います。

- 今後、総合診療の専門医として取り組みたいことや目標は?

まだまだ、あいまいで誤解も多い「総合診療学」「地域医療学」の分野を、学問として掘り下げ、分かりやすい共通言語で表現できたらと考えています。総合診療のコアにあるのは、患者さんの病気や臓器ではなく、一個人の人間として捉え、生活背景や地域全体を見守る包括的な考え方・捉え方です。ある意味、従来の「医学」の外部にアプローチしている側面があり、哲学や文化人類学の視点も含まれる。まだまだマイノリティで、従来の医学からみれば異端といえる分野なのかもしれませんが、マイノリティだから革新できると私は信じています。

- 地域医療に興味を抱いた学生や若い医師にメッセージをお願いします。

地域医療に興味を持ち、学ぶ全員が総合診療医になってくれたらとまでは考えていません。ですが、内科、外科、精神科、眼科など…どの専門領域に進むにしろ、総合診療の考え方や捉え方を取り入れることはとても大切です。「この人は私の専門外なので診られません」ではなく、まず患者さんの話しを聞き、不安を取り除いてあげられる医師になってください。人としての感性やコミュニケーション力、豊かさみたいなところがとても重要で、その先にあるのが専門医療であり、地域医療であり、実は大きな違いはないのだと私は思います。

「地域医療って面白い!」

海も空も山も美しい自然豊かな場所で、地域の人々との距離が近い環境で「地域医療を学びたい」「総合診療医になりたい」という方は、地域医療学講座にぜひ参加してください。見学、研修の受け入れは随時行なっています。地域の中に飛び込み、学び、育ててもらうことで、人間として成長し、「地域医療って面白い!」と感じられると思います。

プロフィール

鳥取大学医学部 地域医療学講座 
教授 谷口晋一(たにぐち・しんいち)

ホームページ
https://cbfm.tottori.jp

~プロフィール~
1985年 鳥取大学医学部 第一内科(現、病態情報内科学)に入局 
1991年 熊本大学医学部細胞遺伝部門 助手
1994年 N I H(米国国立衛生研究所)留学
1998年 鳥取大学医学部 病態情報内科学 助手
2003年 鳥取大学医学部 同講師
2010年 鳥取大学医学部 同准教授
同年10月 鳥取大学医学部 地域医療学講座 教授

日本プライマリ・ケア連合学会専門医、特任指導医
日本内科学会認定医・認定専門医
日本糖尿病学会認定専門医・指導医
日本内分泌学会認定内分泌代謝専門医・指導医
日本甲状腺学会認定専門医
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取材後記 ~地域医療を担う総合診療医を~

医師として何よりも大切なのは、「聞く力」。目の前にいる患者がどんな人なのか、何に困っているのか、ありのままを受け止め、医師として力と知恵を注ぎこむ。その延長線上に、地域医療と専門医療が互いに連携しながら存在するのが、医療の真の理想なのだと谷口先生のお話しから気付かされた。少子高齢化と過疎化が進む、地方の小さな集落は日本社会の縮図ともいえる。そこで先進的な教育プログラムを提供し続ける谷口先生の活動に今後も目が離せない。

最終更新:2022年12月15日 10時44分

「もっとプライマリ・ケア」 編集担当

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「もっとプライマリ・ケア」 編集担当

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