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プライマリ・ケア現場でのうつ病診療/15分の認知行動療法① -基本の構え-

認知行動療法を、プライマリ・ケア領域の診療の場面で活用可能か、今まで、筆者に何度か寄せられた問いかけである。この面接技法は、もともとアメリカで「低予算でかつ効果がある治療法」をめざして開発された経緯がある。特別な訓練を長時間受けた精神科医のみが施行できて、限られた患者さんにのみ提供される面接ではなく、効果のある治療が多くの人に享受されることをめざして、広く普及が可能な技法としてスタートしているため、この治療法の世界観は非常にシンプルである(図1)。
我々の「気分と不安」という症状は、「出来事」に反応して生まれる考え=「認知」によってつくりだされる。よって症状としての気分と不安は、認知を変化させることによって改善を試みるという技法である。
したがって、先の問いへの答えとして、全体的にはまだ議論の余地がありつつも、筆者は可能であるといいたい。ベテランのプライマリ・ケア医の診療をよくよく見ると、意識的・無意識的に認知行動療法を行っている現象も観察されている。
とはいいつつも、診療の場面で30分以上面接のみのために時間をとるのは、至難の技という意見も聞かれ、これももっともな話である。プライマリ・ケア医が無理せずできて、かつ効果的なうつ病診療をめざす本シリーズでは、完璧な認知行動療法ではなく、うつや不安をもつ患者さんの診療をこじれさせず、すこしでも質を上げたいというプライマリ・ケア医のために、15分間の短くも凝縮されたセッションを提案したい。いうならば、認知行動療法を部分的に活用する「切り売り」の技法である。
本稿ではまず、部分的に使用するにしても必要な基本の構え(使用上の注意といってもいい)について述べる。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-797-1.jpg

よくある勘違い① 認知行動療法とは、歪んだ認知を修正するものである

患者さんサイドのよくある勘違いとしては「ポジティブ思考にすること」、「前向きに考え行動すること」というのがある。認知(=物事の捉え方)をどうするか、の以前に、今の現実がどのような状況か、考えが極端に傾いて、現実を見ることができていないのではないか、と再評価することに、認知行動療法においては重きをおく。ポジティブ・ネガティブの、どちらに傾いていたとしても、極端な考え方が、問題の改善から遠ざけていると考えるのである。たしかに、うつ状態のとき、人の考えは何事もネガティブに傾いてしまうので、思考のバランスをとるための治療の方向性が、ポジティブなほうへ舵が切られることは多いのだが、むやみやたらとポジティブにするのではない。物事を一方からではなく、さまざまな角度からバランスよく見ることを、治療上の目標とする。筆者の上司の言葉を借りるなら、「認知を修正する」というのは、治療者がなんとかしてあげようとする上から目線が感じられるため、「(患者さんが)認知を変化させる(のを助ける)」というのが正しい表現である。
ちなみに筆者はこの「ポジティブ思考にすればいいのである」という勘違いを、わかっているようでいて、内心抱いていた時期があり、一見認知行動療法らしいことはできていても、治療が長続きしない原因となっていたこともあった。

よくある勘違い② 患者さんに役立つレクチャーをするものである

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最終更新:2024年04月25日 19時34分

実践誌編集委員会

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