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vol.21/「多職種連携のなかでプライマリ・ケアのメソッドを活かしながら地域のことを考え続ける」【看護師】濱野リカさん

退院支援看護師として多職種連携を図りながら地域の患者さんを支えている濱野リカさん。その仕事を始めた当初は不安や迷いでいっぱいだったと言います。そんな濱野さんが大きく成長するきっかけとなったのが「プライマリ・ケアとの出会い」。これまでの濱野さんの歩みを振り返っていただきました。
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人は言葉や態度でケアをすることができる

―濱野さんが看護師になろうと思ったのはいつ頃からですか?

保育園児のときからですね。「そんなに早くから⁉」と思われるでしょうが、これは私の実体験からできているものなんです(笑)。というのも私はとてもお転婆で、母親から「やってはいけません」と言われることを片っ端からしてしまうような女の子だったんです。当然、生傷も絶えず、しょっちゅうお医者さんに連れて行かれていたんですね。そこで看護師さんに優しく接してもらったことが原体験としてあって、あこがれを持つようになりました。
決定的な出来事は、救急室に運び込まれて局所麻酔をしなければいけないような傷を負ったとき。私は母を心配させたくなかったので、泣くのをずっと我慢していたのですが、そんな私に一人の看護師さんが「あなたは強い子だね。偉いんだね」って言ってくれたんです。その看護師さんの言葉がとてもうれしかったことを覚えています。そのとき思ったのが「人って言葉や態度で誰かをケアすることができるんだ」ということ。お医者さんの治療も大事ですが、そういうケアも同じように大切だと思って、それから看護師を目指すようになったんです。
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    お転婆さんだった幼少期

― その夢が叶って、1998年から看護師としてスタートされたんですね?

はい。岡山済生会総合病院に勤務して、最初は手術室の担当となりました。手術室は自分で希望したもので、その理由は患者さんに安心感を与えたいという思いがあったからです。手術を受ける患者さんは、やはり不安を感じて緊張していますから、そういう時に手を握って「(麻酔が効いてきて)眠るまで、こうしていますよ」とうなずきかけると、ホッとした顔をするんです。先ほど話した言葉や態度のケアに通じますが、そういう看護をしたいと思っていました。手術室の担当を約8年間務めたあと、外科病棟と内視鏡センターを経験して、岡山市市民病院に転職しました。ここでは脳神経外科に配属されました。
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    現在も勤務されている岡山市市民病院

― そのあとロンドンのクリニックに勤務していますね・・・?

主人がイギリスに留学をするというので、一緒に行くことにしたんです。その間、何もしないでいるのも……と思って、ロンドンのクリニックで働きました。現地に駐在している日本人が診察を受けに来るクリニックだったので言葉で困ることはありませんでしたね。
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    ロンドン時代、クリニック勤務と友人と
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留学期間は1年で終わり、帰国してから再び岡山市市民病院に戻りました。
そのあといろんな科を経験して5年ほど経った時に、上司から

「濱野さん。あなた、退院支援看護師にならない?」と。

理由を聞いたら「あなたは患者さんに寄り添うことが得意だから、きっと向いているわよ」ということで、それなら頑張ってみようという気になりました。

「プライマリ・ケア」との出会いで仲間ができた

― 退院支援看護師としてのお仕事はどうでしたか?

大げさな言い方をすると、それまでの看護師としてのキャリアが白紙に戻ったと思えるほど大変でした(笑)。
退院支援看護師は退院を控えた患者さんが感じる不安を軽減したり、退院後の生活に必要な介護サービスなどの手続きサポートなどを行うわけですが、そのためには医師や病棟看護師、訪問看護師、ケアマネージャーといった人たちと連携を図っていかなければなりません。
そのなかで自分がどういう動きをしていいのかが最初は分からなくて、手探り状態というか無我夢中で仕事に取り組んでいきました。一方でいろんな講座や研修も受けていきました。そのうちの1つ、日本在宅医療連合学会学術大会で日本プライマリ・ケア連合学会とのジョイント企画があり、そこで『プライマリ・ケア看護師と家族志向のケアについて』森山美知子先生のお話を聞いてとても勇気づけられたんです。それまで自分が不安や迷いを感じながらも懸命に取り組んできたことが間違ってなかったということを理論だてて説明してくれて、とても安心した記憶があります。

― 濱野さんは「学会認定プライマリ・ケア看護師」でもありますね。

森山美知子先生の講座のときに日本プライマリ・ケア連合学会のことや学会認定のプライマリ・ケア看護師資格があることを知り、プライマリ・ケアに関連したワークショップに参加するようになりました。私にとって大きな学びとなったのは「家族志向のケア」です。患者さんにとって家族は大きな存在ですから、健康への影響も小さくありません。患者さんだけを見るのではなく、家族も含めて見つめていく視点が大切になってきます。そうした家族の方々とのコミュニケーションスキルやアプローチ方法なども深く学ぶことができました。
認定看護師に関して最初は「レベルが高そう……」と思って取得するつもりはなかったんですが、あるときプライマリ・ケアが専門の研修医の先生から「あなたのしていることはプライマリ・ケアだよね」と言われて、頑張ってみる気になりまして(笑)。それで取得できたんです。

― プライマリ・ケアは退院支援にどう役立っていますか?

プライマリ・ケアの視点は患者さんだけではなく、家族や地域にも注がれるものです。これはいろんな職種の人たちとの連携が前提の退院支援看護師にとって、とても重要な視点だと思います。だから多職種連携に関わっている看護師のみなさんにはぜひ取得してほしいという気持ちですね。ワークショップ等を通して仲間もできますし、仲間がいるということはとても心強いことですから。おそらくどの病院でもそうでしょうが、退院支援看護師は院内では少数派。ときに孤独を感じることもあります。そんなときに仲間がいると、励まし合ったりできるといった面もあるんです。
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    診療科カンファレンスに退院支援看護師としてチーム医療に参加
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「まちづくり」の発想が医療関係者にも必要

― いまは「療養支援看護師」としても活躍してらっしゃるのですね。

対象は外来の患者さんで、糖尿病内科からの依頼が多いですね。療養支援看護師の役割は暮らしを見据えた療養指導と地域連携。病気を抱えながら生活を送っている患者さんに寄り添って本人が持っているセルフケア能力を高めていくサポートを心がけています。相談にのり、話に耳を傾けて、療養行動を労いながら最適なアドバイスをする。そういった仕事です。そこではプライマリ・ケアで学んだ「行動変容ステージモデル」の理論を用いステージに合わせた働きかけを行い、コミニケーションを図り、健康信念モデルを意識しながら介入するアプローチ方法がとても役に立っています。
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    患者さんの療養支援について主治医に相談
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    訪問看護師さんへ新しい機器の説明

具体例を出しますと、ある糖尿病の患者さんの血糖値がなかなか下がらなくて戸惑ったことがありました。その人は運動もしていますし、食生活にも気をつけています。それなのに血糖値は高止まりしたまま。正直、療養支援看護師としての自信を失いかけたほどでした。そうしたら、ある日その人が「すみません、濱野さん。私、ウソついていました」と言い出したんです。話を聞いてみると、その人は毎週のようにホールケーキを食べていたそうなんです。なぜそのことを言ってくれたのかというと「濱野さんなら怒らないと思ったから」だそうです(笑)。
おそらくそれは私とその患者さんの関係性に理由があると思います。私は指導するポジションですが、患者さんに対して「どうして結果が出ない(血糖値が下がらない)んですか? ちゃんとしてるんですか?」と責めるような言葉は一切口にしません。そういう姿勢が「この人なら大丈夫」ということにつながったのでしょう。結局、その患者さんは自ら行動を変えてケーキを口にすることはなくなりました。
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    糖尿病ウェビナーを地域の医療機関と開催

― 院内のスタッフの方たちを集めて勉強会もしているそうですね。

やはり私の仕事は看護師として特殊なほうですし、普通なら知らないこともワークショップ等で学んでいることは私自身、自分の強みに感じています。ある看護師さんが「困ったときに役立ちそうなことを濱野さんなら知ってるかもしれない」と言ってもらえた時はうれしかったです(笑)。私としても自身が学んだ知識をぜひみんなにも学んでほしいと思っていますから、勉強会の企画開催などニーズがあれば協力は惜しみません。患者さんだけではなく、患者さんを含む地域にまで視野を広げられる看護師が増えれば、とても素晴らしいことだと思います。
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    院内研修で退院支援の大切さを伝えている
おこがましい言い方になりますが、地域全体を考える「まちづくり的」な志がないと、これからの医療は患者さんをきちんと支えていけないとも考えています。その観点から言えば、私にはまだまだやることがいっぱいあって、自身でも成長しながらいろんなことに取り組んでいきたいと思っています。

プロフィール

岡山市市民病院
退院支援看護師  療養支援看護師
濱野リカ
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1998年 岡山済生会総合病院(手術室、外科病棟、内視鏡センター)
2008年 岡山市市民病院(脳神経外科)
2010年 Japan Green Medical Centre(ロンドンにあるプラーベートGPで内科外来・婦人科外来・検診業務)
2011年 岡山市立市民病院(ER、糖尿病内科・神経内科・膠原病内科の混合病棟)
2016年 退院支援看護師(糖尿内科・脳神経内科、膠原病内科、脳神経外科、呼吸器、循環器、産婦人科、整形外科など担当)
2023年 療養支援看護師兼務(外来での療養支援・在宅移行支援、糖尿病内科の退院支援・調整、退院支援看護師の育成など)

【取得免許】
2000年 看護師
2021年 日本プライマリ・ケア連合学会 学会認定プライマリ・ケア看護師
2023年 社会福祉士

【所属学会】
日本プライマリ・ケア連合学会
日本在宅医療連合学会
日本家族療法学会
エンドオブライフ・ケア協会

取材後記

濱野さんはインタビュー中、終始ハキハキと明るい声で話をしてくれた。話題には、人間関係の難しさに苦しんだことや孤独と不安に包まれたことにものぼったが「今ではいい思い出」と言わんばかりにカラリとした口調で語ってくれたのが印象的だった。それはおそらく、努力を怠らずに前に進み続けてきた人だからこそ持てる明るさや強さなのかも知れない。退院支援看護師・療養支援看護師という独自のスタンスから患者・家族・地域を見つめている濱野さん。自らの仕事に取り組む一方で、後進の育成にも力を尽くすその姿勢に惜しみない拍手をおくりたい。

最終更新:2023年07月19日 21時05分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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