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健康と社会を考える/児童思春期における神経性やせ症の概要

はじめに

精神科のトレーニングをまだ受けていない内科医のころ、ある少女と出会った。
その少女はたまたまはじめたダイエットをきっかけにやせることに喜びを見出し、やせ願望へと発展した。受診時には著明な体重減少のほか、自己誘発性嘔吐症があった。血液検査や心電図検査、頭部MRI検査、上部消化管内視鏡検査を行い、器質的疾患を否定したうえで神経性やせ症と診断した。その後体重がさらに減少したため、精神科専門医へと紹介した。しかし、紹介先の精神科医とうまく治療関係を構築できず、少女はそこに通うことを拒否した。幸いにも治療意欲はみられ、母子とともに内科医であった筆者の外来を希望し、その後、長年通い続けた。このように、神経性やせ症の患者さんを抱え込んでいる、抱え込まざるをえないプライマリ・ケア医は案外多いのではないかと推測する。筆者の経験を続けると、のちにその少女はある出来事をきっかけに劇的に回復した。その経験は決して忘れえない精神科診療の原体験であり、神経性やせ症治療のむずかしさ、そして奥深さを知るきっかけとなった。筆者の経験が同じような患者を受け入れている医師へのヒントになれば幸いである。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-564-1.jpg

改めて神経性やせ症の病因は

神経性やせ症の病因はいまだ不明な点が多く、いくつもの要因が重なって発症するといわれている。自治医科大学とちぎ子ども医療センター子どもの心の診療科での発症契機を調査したところ、体型や体重についての指摘、いじめ、部活や勉強による多忙、ダイエットへの興味、芸能人へのあこがれなど、多岐にわたった。きっかけはさまざまであるが、やせることに意義や自身の価値を見出し、自らをその行為に埋没させるかのようにのめり込み、家族が気づいたときにはすでに低体重に陥り抜け出すことができなくなっている、という同じような経過をたどっていた。なぜやせることに歯止めが効かなくなるのか。行為とは裏腹の自信のなさや不全感などを抱えていることもあるが、全般的に真面目で、何事にも一生懸命に取り組み、周囲からの期待に応えようという気概をもつ児童や学生がほとんどであった。見落としてはならないことは、発症の背景には、個人的要因だけではなく、外見で人を判断しやせを礼賛する社会や文化的要因が関係しているということである。ところが、病因が非常に複雑であるにもかかわらず、病気になったのは本人のせい、と単純化されてしまい、スティグマにつながっている現状がある。また、家族の問題、たとえば親子関係に原因を求めるという誤った理論が流布していたこともある。しかし、親子関係に原因を求めたり、誤って親を責めたところで、この病気は治らない。むしろ現在では、家族の協力が治療において非常に重要な役割を果たすということを強調したい。

まずは低体重、低栄養という身体的危機への対応

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最終更新:2023年11月15日 15時20分

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