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vol.28/「病棟看護師と訪問看護師の橋渡し役となるべく大学院で研究に取り組んだベテラン看護師」【看護師】宮本由香里さん

今回ご登場いただく看護師の宮本由香里さんは常に学びを取り入れ込みながら成長し続けてきた方。看護師としてのキャリア30年を目前にして大学院で新たな学びをスタートさせたほか、日本プライマリ・ケア連合学会の学会認定プライマリ・ケア看護師の資格も取得しました。そんな向上心いっぱいの宮本さんにこれまでの歩みを語っていただきました。
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時代に先駆けた訪問看護ステーションの提案

— 宮本さんが看護師を目指したきっかけから教えていただけますか?

私はもともとは看護師ではなく、数学教師になりたかったのです。でも、親や高校の先生からは「手に職を持っておいた方がいい」と言われて、看護学校の受験を勧められたんですね。それで仲の良かった同級生たちと旅行がてら京都に行って受験をすることにしました。なぜ京都なのかと言うと、学校の先輩がたまたま京都の学校に進学していたからです。私は石川県小松市出身ですが、最初の受験で京都府立医科大学附属看護専門学校(現在は京都府立医科大学医学部看護科)に合格したこともあって、そのまま入学することにしました。

— 卒業後は地元に戻られたのですか?

卒業後4年間は京都府立医科大学の附属病院で働いていました。鴨川沿いの内科・外科・婦人科・耳鼻咽喉科・脳神経外科・泌尿器科の混合病棟でしたね。京都での暮らしは楽しく、先輩たちにも可愛がられてやりがいも感じていたのですが、親から「そろそろ帰ってきなさい」と言われ、それで地元の石川県に戻りました。1988年のことですね。
Uターン後に勤めたのが医療法人社団勝木会リハビリテーション加賀八幡温泉病院(現在はやわたメディカルセンター)です。ちなみにこの勝木会には定年を迎えた今も勤めています(笑)。 地元に戻って1年ほどして結婚し、子供も生まれました。働きながら子育てをしていた時期ですね。その後、芦城病院(現在は芦城クリニック)の整形外科に異動となって課長(師長)に昇進しました。それが1995年のことです。
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    病棟勤務の時も笑顔を絶やさなかった宮本さん

— 1999年には「訪問看護ステーションほのぼの」の管理者になってらっしゃいます。

それは私が訪問看護ステーションの立ち上げを提案したからです。もともと病院でも訪問看護は行っていたのですが、その場合、通院している患者さんのみが対象となってしまいます。訪問看護ステーションなら他の医療機関の患者さんにも利用していただけるので、より地域に密着した看護サービスが提供できると考えたわけです。
当時はまだ「訪問看護」と言っても、ピンとこない人がほとんどでしたね。1999年の立ち上げの翌年2000年が介護保険による訪問看護のスタート年ということからも分かるように、その意味では先駆け的な試みだったと言えます。そのように訪問看護ステーションの立ち上げがスムーズだったのは、勝木会が「予防から治療、ケアまで」という川上から川下までカバーしていこうという理念があったからだと言えます。予防医療にも力を入れていて「スポーツコミュニティ ダイナミック」という健康増進施設を持っているほどですから。
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    訪問看護を立ち上げたころの宮本さん

金沢大学の大学院で研究に取り組む

— その後、金沢大学の大学院で学ばれています。きっかけは何だったのですか?

それは、短時間の訪問看護だけでは利用者の生活を支えることは難しいと感じて、モデル事業としての療養通所介護の全国的な立ち上げプロジェクトのメンバーに参加したの がきっかけです。他のメンバーと療養通所介護の効果検証のための研究の話をするにしても、その前提となる知識がないからついていけないことがありました。それなら勉強するしかないと思って大学院で学ぶことにしました。ちょうど子供も大学受験の時期を迎えていたので「だったら一緒に受験勉強をしようか」と(笑)。それで金沢大学大学院医学系研究科保健学専攻で学び、保健学の修士号を取得しました。その後、同大学院の保健学総合研究科で博士号もとっています。
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    ゼミ仲間のみなさんと
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    在宅看護フォーラムの座長

— 大学院ではどのような研究をされたのでしょう?

病棟看護師に在宅療養生活の実態を伝えることで、より現実に即した退院支援ができるようになることを目的に、デジタルストーリーテリング(以下 DSTという )の技法を使って介入研究を行いました。これは、退院後の在宅療養生活の具体的なイメージを病棟看護師に持ってもらうという試みです。

DSTというのはコンピューターを使用し、写真や絵 などの静止画と、自分自身の語りやBGMを合わせてストーリーに編集した、いわゆる「電子紙芝居」のようなものです。このDSTを使って退院した患者さんがどのように日常を過ごしているかを伝え、イメージ化してもらう。そのことで退院支援がどう変わったかを研究しました。DSTを見ないグループと実際に目にしたグループを比較した結果、後者の方がより具体的な退院支援方法を理解するということがわかりました。 この研究は「デジタルストーリーテリングを活用した在宅療養生活に関する映像の作成と病棟看護師への介入効果」という論文にまとめました。 

私としては病棟看護師も訪問看護師もどちらも経験しているので、その両者の橋渡しをしたいとの思いを強く持っていたのです。それがこの研究のそもそもの動機になっていると言えますね。また、博士課程では「Factors influencing practices among ward nurses that support ongoing independent community living after discharge: a cross-sectional study」、その後「 病棟看護師と訪問看護師による退院患者の事例検討会が退院支援能力に及ぼす影響」という研究論文を書き、後者は日本プライマリ・ケア学会連合学会の優秀論文賞を受賞しました。

日本プライマリ・ケア連合学会との出会いでさらに成長

— 日本プライマリ・ケア連合学会のことはどこでお知りになったのですか?

先ほどの論文の提出先として先輩から紹介されたのが日本プライマリ・ケア連合学会だったんです。それまではプライマリ・ケアのことは知らなかったのですが、出会えて良かったと思いました。すぐに学会に入ったのはもちろんですが、学会認定の看護師の資格も取ることにしました。これがとても自分にとってはプラスになりましたね。
学会認定プライマリ・ケア看護師になるためには、プライマリ・ケア看護師実践セミナー を受けなければなりません(E-learningで27時間受講)。その後はプライマリ・ケア看護学ワークショップを受けます(オンラインで9時間受講)。それからトリアージ・慢性疾患管理・家族志向のケアなど事例報告書を5つ作成します。そういうこともあって、とても細かいところまで知識が習得できますし、現場に即した新しい知見もたくさん得ることができました。それに加えて、全国の同じ志を持つ看護師のみなさんとも知り合うことができて、それも自分にとっては大きなことだったと思っています。
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    2023PC学会セッションメンバー
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    PC学会にて

— 宮本さんのお仕事の中でプライマリ・ケアはどのように役立っていますか?

新型コロナ感染拡大を受けて在宅医療がこれまで以上に注目されるようになりました。それにともない、ACP (アドバンス・ケア・プランニング ※)の必要性も認識されつつあります。以前は「最期は病院で」という考えの方が多かったのですが、新型コロナウィルスが猛威をふるっていた時期は面会もできず、家族の看取りもままならない状況で患者さんが亡くなるケースが続出しました。そういったことから自宅で最期を迎えさせてあげたいという考えが広がっていったんですね。病棟看護師の場合、患者さんのご家族と関わる機会は多くありませんが、訪問看護師はご家族の方々とも関わっていきます。そうした現場でプライマリ・ケアの考えは役に立つと実感しています。要は親和性が高いということですね。ただ、私自身もそうでしたが、プライマリ・ケア自体を知らない訪問看護師はまだまだたくさんいます。
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私自身の目標としては、訪問看護に携わる人たちへプライマリ・ケアの重要性を伝えていくことを掲げています。そのことによって在宅医療の現場でおいて、さらに質の高い医療・ケアが提供できるようになると信じています。
※ACP (アドバンス・ケア・プランニング)/将来の医療及びケアについて、本人とその家族、親しい人、医療・ケアスタッフが話し合いを繰り返しながら、本人による意思決定を支援する取り組み
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    訪問看護ステーションの皆さんとこれからも地域を支えていきたい

プロフィール

宮本 由香里
 特定医療法人社団勝木会  訪問看護ステーションリハケア芦城
 看護師

【資格】
看護師
日本プライマリ・ケア連合学会 学会認定プライマリ・ケア看護師

【学歴】  
1984年 京都府立医科大学附属看護専門学校卒業
2013年 金沢大学大学院医学系研究科 保健学専攻 博士前期課程修了 保健学修士
2019年 金沢大学大学院医薬保健学総合研究科 保健学専攻 博士後期課程修了 保健学博士

【職歴】
1984年 京都府立医科大学附属病院
(内科、外科、婦人科、耳鼻咽喉科、脳神経外科、泌尿器科混合病棟)
1988年 医療法人社団勝木会 リハビリテーション加賀八幡温泉病院
(現特定医療法人社団勝木会 やわたメディカルセンター)内科、リハビリテーション科
1995年 芦城病院(整形外科)看護課長
1999年 訪問看護ステーションほのぼの 管理者
2006年 療養通所介護ほのぼのROOM 管理者 兼務
2009年 やわたメディカルセンター 回復期リハビリテーション病棟課長 
2013年 訪問看護ステーションリハケア芦城 管理者
2023年 訪問看護ステーションリハケア芦城 芦城サテライト 参事

取材後記

「私は忙しくしていないと元気が出ないみたいですね」。インタビュー中、宮本さんは肩をすくめるようにしてそう笑った。進学先の京都から故郷に戻ってすぐに結婚をし、子育てをしながら看護師として激務をこなしてきた宮本さん。その一方で、訪問看護ステーションや療養通所介護施設の立ち上げにも関わってきた。さらに金沢大学大学院での研究や、日本プライマリ・ケア連合学会認定プライマリ・ケア看護師の資格取得など、まさに「忙しい」日々を送ってきた。そんな宮本さんだけにお話は興味深く、看護師はもちろん、それ以外の医療関係者もたくさんのヒントを受け取ったのではないだろうか。今後は訪問看護師のみなさんにプライマリ・ケアのことを伝えていきたいと意気込みを語ってくれた宮本さん。ぜひ、そのバイタリティでプライマリ・ケアの認知度向上に貢献していっていただきたい。

最終更新:2024年10月30日 15時52分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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