ホームニュース大学ネットワーク第14回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビューVol.2 <口頭発表の部 最優秀発表賞> 北海道大学医学部

ニュース

大学ネットワーク

第14回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビューVol.2 <口頭発表の部 最優秀発表賞> 北海道大学医学部

2023年5月13日(土)〜14日(日)ポートメッセなごやで開催された第14回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会学生セッション。口頭発表19エントリー、ポスター発表37エントリーの中から、各部門で受賞された発表内容をご紹介します。今回は「口頭発表の部」で最優秀発表賞を獲得した北海道大学医学部の金子さんと、指導にあたった玉腰先生からお話をうかがいました。

口頭発表の部 最優秀発表賞 

北海道におけるCOVID-19の被害状況に関する記述疫学〜保健所設置区分に準じて分類した地域間の比較〜

##受賞内容
口頭発表の部 最優秀発表賞  

##演題名
北海道におけるCOVID-19の被害状況に関する記述疫学〜保健所設置区分に準じて分類した地域間の比較〜

##大学
北海道大学医学部

##発表者名
金子雄司さん(北海道大学医学部5年)

##指導者名
玉腰暁子先生(北海道大学大学院医学研究院・医学院公衆衛生学教室)
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-678-1.jpg
COVID-19の感染拡大によって得た教訓は、次に起きうるパンデミックへ活かすことの重要性が叫ばれている。そのためには今回のパンデミックを多角的に分析し、被害状況を評価することが感染症への最適な介入戦略の提案に通じる知見となり得る。本研究ではその一環として北海道内各市町村を保健所設置区分に準じてカテゴリー分けし、COVID-19の被害状況と公共交通機関との関連性を分析してみることにした。

COVID-19の感染拡大と公共交通機関の関係

医大に入学する前、私は鉄道会社に勤務していました。そのことから、COVID-19の感染拡大が公共交通機関にどのような影響を与えるのかに関心を持っていたんです。鉄道会社が公表する業績の推移をチェックしたりもしていました。やはり外出の自粛要請やリモートワークの普及にともなって、さまざまな影響が出てきていることを感じていました。その一方で、交通公共交通機関がCOVID-19の感染拡大に影響を与えている可能性もあるのではないかと考え、それを探ってみることにしました。それが今回の研究のテーマとなります。

進め方としては、まず北海道内を保健所設置区分に応じて5つの地域に分類しました。具体的には「札幌市」「小樽市」「旭川市」「函館市」「その他市町村」となります。そして各保健所の報道発表資料から新規陽性者数を抽出していきました。対象としたのは2020年11月から翌年2月までの第3波、2021年3月から6月までの第4波、同年7月から12月までの第5波、2022年1月から6月までの第6波です。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-678-2.png
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-678-3.png

罹患リスクは鉄道の輸送密度比に関連していた

抽出したデータの罹患率は、そのまま単純に比較できません。地域によって年齢構成にばらつきがあるため、これを調整する必要があるわけです。その調整のための手法として、標準化罹患比(SIR=standard incidence ratio)というものがあります。1つの集団・地域の罹患率が、基準となる集団と比較してどのくらい高いのか、あるいは低いのかを示すものです。これを先の5つの地域ごとに算出した結果、第3波と第5波に関しては札幌・小樽・旭川の各市が、第4波では札幌市が、さらに第6波では札幌市と小樽市が、北海道全体の罹患リスクより高いことが高かったことが分かりました。

政令指定都市である札幌市および小樽市と旭川市の罹患リスクが高いのは人口流動に関係があると考え、高速道路と鉄道の利用状況を比較したところ、鉄道のほうに有意な結果が見られました。SIRは鉄道の輸送密度比に深く関係していることが分かったのです。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-678-5.png
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-678-7.png

「研究」としての意義を出すために工夫したこと

—調査結果から考えられるのはどういったことでしょうか?

札幌市に次いで罹患リスクの高い小樽市と旭川市は共通の地域特性があります。それは札幌市との交通の利便性が高いということです。つまり、通勤・通学で鉄道を利用している若年層や中年層にかけての人たちが罹患リスクにさらされていたと考えられます。人の流れが感染拡大につながっているということがデータから推測できました。

それを踏まえて、今後のパンデミックで人流抑制政策を行うにあたっては、より細かなエリアへの対応が必要かと思いました。新型コロナウイルスが流行し始めた時、国は都道府県をまたぐ移動の自粛要請を出していました。しかし都道府県単位ではエリアとして大きすぎるというのが私の考えです。今回の北海道エリアに限ってみても、市町村単位で地域差が出ているため、より細かなエリアにフォーカスした移動の自粛要請がポイントになると思います。

—今回の研究で苦労したことは何ですか?

データの収集にもっとも苦労しました。今回、道内の各保健所がオープンデータとして公表しているものを使用したのですが、最初はそれらをひたすら集めていきました。対象とした時期は第3波から第6波で、期間としては約2年間あります。その期間のデータは1日ごとにPDF化されています。それを1つひとつ開いて必要な情報を抽出するわけですから大変に手間がかかったわけです。手作業ではとても追いつかないため、自動でデータ抽出ができるプログラミングを組みました。しかし、保健所によってフォーマットがまちまち。さらに時期によってそのフォーマットが変更されてしまうので、そのたびにプログラムを組み直さなければならず、とても時間がかかりました。ただ、そのおかげでかなりプログラミングのノウハウはついたとも言えますが(笑)。また、玉腰先生の教室にはプログラミングに強い先輩がいらっしゃって、ずいぶん助けていただきました。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-678-8.png
    学会で発表するスライドを作成中の金子さん
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-678-9.png
    試行錯誤したプログラミングが旨く可動したことに喜ぶ金子さん

—玉腰先生に指導をお願いした理由はなんだったのでしょう?

玉腰先生の公衆衛生学教室は、札幌市や北海道から依頼を受けて、COVID-19の感染者に関するデータの構築・分析を行っていました。COVID-19に関わっている方が多くいらっしゃるので、アドバイスをいただけたり、相談に乗っていただきやすいと考えました。また、玉腰先生にも貴重なアドバイスをいただいて、研究に1本「芯」が入ったと思っています。というのも、初期のうちは地域ごとのデータを比較することのみを考えていたんです。それに対して先生からは「もう一歩踏み込んで考えたほうが研究として意義が出てくる」というアドバイスをいただき、それで閃いたのが「人口流動」だったわけです。先生のアドバイスのおかげだと思っています。

玉腰先生のアドバイス

—玉腰先生におうかがいします。金子さんから研究内容を相談されたときはどう思いましたか?

金子さんの話にもあったように、最初は各地域のデータの比較だけを考えていたようです。そこで研究として意義が感じられるものをというアドバイスをしたわけですが、結果として人口流動という切り口が出てきたのは、金子さんが鉄道会社に勤務していたことと関わりがあると思います。その意味では、金子さんの独自性がいい具合に出た研究になったと言えますね。

—今後の活動に関して、金子さんに何かアドバイスはありますか?

今回のことでデータの抽出や分析手法、プログラミングの技術など多くのことを学んでくれたと思います。今後はそれを強みとして伸ばしていってほしいですね。また、金子さんは総合診療医を目指しているとのことですから、今回獲得した「研究者としての視点」を総合診療の分野にも活かしてほしいとも思います。総合診療の分野でもデータを駆使した分析や考察が必要とされるシーンがたくさんあるはずですから。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-678-11.png
    玉腰先生と受賞の記念撮影

—金子さんが将来目指したいことは何ですか?

玉腰先生にもお伝えしているのですが、私は総合診療の分野を目指しています。総合診療の魅力としては、やはり守備範囲が広いので、社会問題に対して多角的にアプローチしていけるという点があげられます。今回のようにCOVID-19にも関わることができますし、家庭医として訪問診療も目指せます。また、私は災害医療にも興味があるので、そちらもカバーできると考えています。どういう医療に携わるにしても、総合診療医として頑張っていきたいという思いは変わりません。

最終更新:2024年01月29日 11時30分

大学ネットワーク委員会

記事の投稿者

大学ネットワーク委員会

タイトルとURLをコピーする