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第14回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション 受賞者インタビュー Vol.3 <ポスター発表の部 優秀発表賞 > 愛知医科大学医学部

2023年5月13日(土)〜14日(日)ポートメッセなごやで開催された第14回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 学生セッション。口演発表(研究)19エントリー、ポスター発表(活動紹介)37エントリーの中から、各部門で受賞された発表内容をご紹介します。今回は「ポスター発表の部」で優秀発表賞を獲得した愛知医科大学医学部の冨田さんと、指導にあたった宮田先生からお話をうかがいました。

ポスター発表の部 優秀発表賞  

地域医療実習に関する学生の学びと今後の実習の在り方に関する考察

##受賞内容
ポスター発表の部 優秀発表賞

##演題名
地域医療実習に関する学生の学びと今後の実習の在り方に関する考察

##大学
愛知医科大学医学部 

##発表者名
冨田明日香さん(愛知医科大学医学部5年)

##指導者名
宮田靖志先生(愛知医科大学地域総合診療医学寄附講座)
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愛知医科大学では2017年より、第4学年次から始まる臨床実習において5日間の地域医療実習を開始した。この実習では、プライマリ・ケアを提供している大学近隣のクリニックや中小病院で、かかりつけ医・地域医療について学ぶことを目的としている。今回の研究では、医学生が実習を通じて何にインパクトを受けたのかを調査・分析し、大学病院とは異なる学びについて考察。今後の地域医療実習の在り方について検討し、より充実させることを目指した。

実習に参加した医学生150名のSEAから学びを抽出して分類

私は以前から宮田先生の紹介や自発的に伝手を辿って様々な医療機関での在宅医療実習に参加してきました。前年度のプライマリ・ケア連合学会では、その活動報告のポスター発表を行いました。その後、活動報告だけでなく、データの分析や研究に携わってみたいと思っていたところ、宮田先生に声をかけていただき、今回の研究テーマに取り組むことになったのです。

愛知医科大学では、6年前から地域医療を学ぶことを目的にプライマリ・ケアを提供する近隣のクリニックや中小病院で5日間の臨床実習を始めています。すでに「地域医療実習に関する学生の学び」の研究は、ずいぶん前に宮田先生が取り組まれて論文にまとめられていますが、時代の変化に伴い、医学生の学びや医師に求められることは変わっている可能性があり、その現状を調査・分析することになりました。
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    新城市民病院での、在宅医療に同行し患者さんを診察する冨田さん

―具体的には、どのように研究を進めたのですか?

2020年から2022年にかけて地域医療実習に参加した150名の医学生は、実習中に最も印象に残った出来事(Significant Event)を振り返り、Significant Event Analysis(SEA)を記述する課題が与えられていました。SEAの対象となる出来事は診断、治療という一般的な医学的問題のことではなく、医療実践において感じたジレンマ、苦労、医師としてのやりがい、患者さんの人生の理解など、自分自身の感情が揺れ動いたものです。このSEAから「実習中に得た学び」のキーワードを抽出し、そのすべてをカテゴリー別に分類しました。
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―研究では、どのような点にこだわりましたか?

全ての学生のSEA、レポートなどが収められている地域医療実習報告書を使い、研究の進め方、特に学びのキーワードの抽出法について宮田先生からアドバイスをいただきました。SEAから抽出した学びをカテゴリー分類することに関しては、医学生である自分なりの視点を大切にしながら進めました。

―特に苦労したのは、どんな点ですか?

SEAのデータから抽出した学びのキーワードは、1000以上にものぼりました。それらをカテゴライズするために、最初から最後までブレることなく、同じ基準を持ち続けることが特に難しかったですね。正直、自分一人で決めていいのかと不安に思ったこともありました。また、Excelでの集計や整理もすべて自分で手がけましたが、膨大なデータを分析する研究の苦労を実感しました。一方、一つひとつ手作業で、どんな学びがあるのかを考えてまとめたので、内容をしっかりと把握できたと思います。

地域医療ならではの7つのカテゴリーが浮き彫りに

―研究の結果、どのようなカテゴリーが上位を占めましたか?

学生が得た学びを分類したところ、円グラフにあるように7つのカテゴリーが上位を占めました。私自身、まだ地域医療実習を経験していませんが、大学病院とは異なる学びを得ていることをSEAから感じ取ることができました。

最も多かった「医師のプロフェッショナルリズム」では、常に患者さんとそのご家族の力になれるのかを模索するといった「患者に寄り添う姿」、さらに新しい治療法はもちろんのこと、医学だけではなく社会の状況なども理解する「日々の努力の姿」を学んだという声がありました。次の「コミュニケーションの重要性」においては、患者さんとの信頼関係を築く能力が必要であり、話やすい雰囲気づくりといった寄り添う診療の重要性を理解できたという意見などがありました。そして「医療提供に必要な知識」では、高齢者・慢性期・終末期医療、看取り時に必要な知識を学び、自分の中の選択肢を広げることができたという意見、「寄り添う診療における必要性」といった学びを得られたという意見がありました。
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―「医学生のプロフェッショナリズム」とは?

SEAでは学んだことだけでなく、今後自分が学ぶべきことなどを記述する「次への行動指針」という項目を最後に設けています。この内容を分析したところ、大学病院とは異なる施設等に足を運び、無知であることに気づくことも学びのひとつであり、地域医療実習で感じたことを将来に役立てる、これからにつなげていくことが「医学生のプロフェッショナルリズム」であると感じました。

―そのほか、結果からはどのようなことを感じましたか?

「医師が持つスキル」「患者の生活に寄り添う医療」についても、患者さんの疾患だけでなく、生活背景やご家族、周辺環境も実際に知り、患者さんに合わせたアプローチをはじめ、治療やアドバイスの重要性を学んだという意見がありました。

また、「その他(664)」に関しては、患者さんのご家族に関する意見が多く、実際に大学病院外に出て患者さんとその家族の生活の現実を知った、全人的な医療や医師と患者さんとの関係を学んだという意見も見受けられました。

地域医療実習では「患者に寄り添う」場面から様々な学びを得ていた

―この結果から、冨田さんはどう考察をされましたか?

慢性期・緩和ケアや看取りといった終末期医療、ALSをはじめとする構音障害、精神障害等の会話の難しい患者さんなど、大学病院ではあまり遭遇しない患者さんとのエピソードは、医学生にとって特に印象深いものだと感じました。地域医療ならではの経験から「患者に寄り添うことの重要性=医師のプロフェッショナルリズム」を感じ、医師としてのスキルや特徴的なコミュニケーション能力を学ぶと同時に、地域には様々な生活状況の患者さんが存在していることに気づき、患者に寄り添う重要性を学ぶことを学生はできていたと思います。また、医師と患者の関係性を間近で見るという経験からの学びは、自己研鑽のきっかけとなり、将来の地域医療を担う人材育成に寄与していると感じました。これらのことから地域医療実習において医学生は、「患者に寄り添う」ということについて、様々な角度から多様な学びを得ているという考察をまとめました。
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宮田先生のアドバイス

—なぜ、この研究を進められたのですか?

地域医療実習を6年間実施し、すべてのレポートをみて学生の学びの全体像を大まかには把握していましたが、学生の学びの現状を詳細に分析することで、本大学が実施している地域医療教育について学生の学びを評価したいと思いました。地域医療実習は、その視点により学びが大きく変わります。採血やCTの実務は大学病院でもできることです。地域医療ならではの「患者に寄り添う」といった視点を事前に伝えておき、そのうえで実際の現場でそのことを学んでいかなければいけません。このことが達成されているのかを評価したいと思いました。結語にも触れられていますが、充分な事前学習や実習後の振り返りの充実が大切ということが改めて明らかになりました。

―冨田さんに声をかけた理由は?

冨田さんは、もともと在宅医療に興味を持ち、これまでにいろんな病院実習を経験して地域医療への関心を強く持っていたからです。研究には地道な努力が必要で、冨田さんのような背景やモチベーションがないと、膨大な資料を分析してまとめ上げることはできないと思い、この研究実施の適任者だと思いましたね。実際、私から具体的なアドバイスをすることはなく、自発的に研究を進めてくれました。

―今回の研究発表の点数をつけるとしたら何点でしょうか。

100点満点です。2年分の約150人ものSEAをすべて一人で読み込み、学びのキーワードを抽出してもらいましたが、その数は1000以上にものぼります。それらをカテゴライズしてまとめるのは本当に大変なことです。最後まで粘り強く頑張ってくれたと思います。

冨田さんが目指す将来について

—地域医療実習を目前にし、冨田さんが将来目指したいことは?

親族が自宅での看取りで最期を迎えた経験から、私は在宅医療に興味を持ちました。今年の夏から地域医療実習に参加するので、とても楽しみにしています。一方、すでに4年生の後期から院内実習がはじまり、急性期の患者さんをみていくなかで、急性期から在宅医療への架け橋になることも一つの道だと思いはじめています。地域に出たい気持ちはありますが、どう関わっていくのかを見い出すことが、今後の課題です。実習中に先生方の仕事を見学し、話をうかがいなからこれからのキャリアを考えていきたいと思います。
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    豊田地域医療センターでの、在宅医療同行した際の冨田さん

―今後のキャリアについて、宮田先生からアドバイスはあるでしょうか。

冨田さんが言うように学びや経験を通じてその方向性は変わり、これからも広がっていくと思います。例えば、神経内科医になり、難病の子供たちを診るなど、専門医として地域と関わっていく道もあります。ただ、キャリアは異なっても、大学病院の中だけにとどまるのではなく、地域にはいろんな患者さんがいることを理解し、広い視野を持った医師になってほしいですね。そのためには学生時代に地域を知ることは、とても大切なんです。プライマリ・ケアを目指す医師を育てていますが、プライマリ・ケア医だけで適切な医療が提供できるわけではなく、専門医も必要です。どのような道を選んだとしても病気しか診ることのできない医師ではなく、地域全体を診るという視点を大切にしてほしいと思います。

最終更新:2024年02月21日 11時47分

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