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vol.30 / 「JPCAの学会員として、またNPO法人のメンバーとして多様な取り組みに参加」【薬剤師】山口章江先生

北海道帯広市で病院薬剤師として日々の業務に取り組んでいる山口さん。一方で、日本プライマリ・ケア連合学会の学会員として医療安全の分野の委員会に加わり、また地域のNPO法人の活動を通して社会的処方の充実も進めています。多忙な毎日を過ごす山口さんに薬剤師になった経緯から取り組みの具体的な内容までさまざまにお話をうかがいました。
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たくさんの人と交流したいから薬剤師に

— 山口さんが薬剤師になろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか?

実は私は薬剤師志望ではなかったんです。大学は薬学部に進学したんですが、もともとは研究職を目指していました。だから理学部や農学部も進学先として考えていたんですが、父から「薬学部出身でも研究職になれるし、万一それが叶わなかったとしても薬剤師の資格は取れる」とアドバイスされたんですね。それで「なるほど、それもそうだ」と思って薬学部に進みました。私の出た当時の薬学部(北海道大学)は、薬学部から大学院に進学して研究職に就く卒業生が多かったんです。でも、いま思うと父のアドバイスは的確だったと思いますね。私は研究職にはつかず、薬剤師になったわけですから。

— どういった経緯があったのでしょう?

入学してみて「自分には研究職が向いていない」ということがわかったんです(笑)。基礎研究を進めるにあたってはコツコツと地道に取り組んだり、細かい部分まで目配りしなければならないのですが、私はそういうことが苦手だと気づきました。その一方でわかったのは、自分はたくさんの人たちと交流をすることに楽しさを見いだす性格だということです。
そのきっかけとなったのが、毎年札幌で行われる踊りの祭り「YOSAKOIソーラン祭り」。私は学生チームのサークルメンバーとして参加したのですが、その活動を通していろんな人に出会えました。100人単位のメンバーを率いて全国各地をまわったりもしたんですよ。人と会うことに楽しさを感じるなら、研究職よりも臨床の方がいいと思って、とりあえず薬剤師の道に進んだわけです。
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    YOSAKOIソーランにはまっていた大学生時代
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    大勢のメンバーを率いて全国へも!

— 卒業後は保険薬局に就職されました。

そうですね。就職先としては保険薬局の薬剤師か病院薬剤師かというふたつの選択肢がありましたが、私は保険薬局を選びました。というのも当時の病院薬剤師は(もちろん私の知る限りではということになりますが)、まだまだ作業がアナログで、機械化が進んでなかったんです。薬袋も全部手書きをしているような状況でした。一方、保険薬局なら小売りもありますし、その点でも面白そうな予感があって就職しました。
その保険薬局で札幌と室蘭の店舗を経験し、7年後に夫の仕事の都合で十勝エリアの帯広市に移ってきました。1年ほど別の保険薬局に勤めた後、現在の十勝勤医協帯広病院に入りました。病院薬剤師未経験でいきなり主任を任せられたのには驚きましたが(笑)。
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    室蘭市で勤務した保険薬局
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    保険薬局の勤務は札幌市でも

全国の医療関係者と知り合えるのが学会の魅力

— 日本プライマリ・ケア連合学会との出会いは?

私の場合、どなたかに紹介していただいたわけではなく、自分で飛び込んで行きました。理由のひとつに、「自分の将来的なキャリア形成を考えたから」ということがあげられます。この先も薬剤師として仕事を続けていくのならスキルアップを考える必要があると思ったんですね。
それでいろいろと調べてみたところ、目に止まったのが日本プライマリ・ケア連合学会です。認定薬剤師制度があることにまず興味を惹かれました。また、病院に勤めるようになって医師の知り合いが増えたのですが、その中には学会に入ってらっしゃる方も何人かいました。
それで、まずはどんな雰囲気のところなのかを知るために、ちょうど岡山で開かれていた学術大会に単身で参加してみることにしました。学会には薬剤師のグループもあるので、懇親会にもお邪魔していろいろと話をしたりしましたね。

— 大変な行動力ですね。

そうやって実際に関わってみたら会員の方はユニークな人たちが多く、薬剤師だけではなく医師や看護師など他の医療関係者のみなさんとも仲良くなれました。また、自分の興味を満たす要素がたくさんありましたし、働き方にもマッチしていると思って入会することにしたわけです。早いものでもう10年以上になりますね。学会の認定薬剤師にも取得し、今年三度目の更新を迎えます。
学会のいいところは多職種を尊重してくれる点ですね。例えば、ワークショップにしても医師や看護師のみなさんをはじめとする多職種で学ぶ前提で動いているものが少なくありません。みんなで一緒に手を動かしたり、頭を使ったりする機会が多いんです。それも気にいっている点です。
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    JPCA2023キャリアcaféビブリオバトル バトラーのみなさんと
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    JPCA2023ポスター発表
私は病院薬剤師ですから医師や看護師と日常的に接していますが、ワークショップとなるとまた別物ですね。薬局の薬剤師さんは他の医療関係者と一緒に学ぶ機会はなかなかないでしょうから、学会に入ると得るものがたくさんあると思います。学会員のなかには地域にしっかり密着して様々な活動をしている薬剤師さんもたくさんいますしね。こういう人たちと知り合えるだけでもいろんな学びにつながると思っています。
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    認定薬剤師の皆さんと学会懇親会
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    今や恒例?学会には家族で参加

— 山口さんご自身はJPCAでどのような活動をされているのですか?

私は「医療の質・患者安全委員会」のメンバーになっています。これは医療安全の分野に関する取り組みを行う委員会で、私が担当している「患者協働チーム」には、医療職以外にも患者さんの立場だったり研究職といった人たちも委員として参加しています。医療安全を考えるにあたって患者さんのの協力・参画は欠かせませんが、日本はどうしてもお医者さんに丸投げの「お任せ医療」になってしまいがちです。その状況を変えるために患者さんからも声をあげてもらう流れを作りたいと思っています。プライマリ・ケアはその性質上、患者さんの声を拾いやすいので、患者協働の取り組みとしてはぴったりだと言えますね。
また、最近の医療業界では医薬品の開発段階から患者さんに関わってもらう動きも出ています。「ペイシェント・ アンド ・パブリック・インボルブメント(患者・市民参画、PPI)」と言うのですが、こうしたことにも取り組んでいきたいですね。
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    JPCA2023インタラクティブセッション
また、北海道ブロック支部の幹事や薬剤師部会の部会長も担当しています。薬剤師部会ではオンラインの定例会を開催していて、北海道各地の薬剤師会員同士で共に学んだり、情報交換する場になっています。
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    北海道ブロック支部薬剤師部会のみなさんと
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    第10回北海道ブロック支部地方会カフェ企画のみなさん

薬学生たちにプライマリ・ケアの魅力を伝えていきたい

— 長期的な目標としてはどのようなものがありますか?

プライマリ・ケア志向を持つ学生を増やしていきたいと思っているんです。そのことでプライマリ・ケアの領域に理解のある薬剤師が増えていくはずですから。本来、保険薬局の薬剤師はそもそもの業務自体がプライマリ・ケア的だと言えます。セルフケアやセルフメディケーションといった観点からもそう言えますし、処方箋がなくても患者さんに関わっていくことができる立ち位置です。だから「町の薬剤師さん」がプライマリ・ケアの知識や理論を知っていると、行動にさらに深みが出ると思っています。
そういうこともあって、薬学生に出会う機会があるたびにプライマリ・ケアのことを伝えています。彼らの反応はとても良くて、なかには目を輝かせる学生さんもいるほど。やはり、単に薬を調剤するのではなく、患者さん自身を見ることが大切だと言われると興味を持つんでしょうね。「人」との関わりの部分に惹かれるようです。
同じ高血圧の薬を出すにしても、それぞれの患者さんの事情を知っていると仕事の進め方も違ってきます。その患者さんがどんな生活をしていて、どんな健康観を持っているかを知ることで、最適な薬剤や用法を処方提案したり、その人に合わせた服薬指導することができるようになります。ただ、薬学教育のカリキュラムにはプライマリ・ケアに関する授業がまだまだ少ない状況なので、その部分も変えていければと思っています。
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プライマリ・ケア認定薬剤師のポートフォリオ発表会では「優秀ポートフォリオ賞」を受賞

— 他にも何か地域に密着した活動をされていますか?

はい。私は「CANnet(キャンネット)」というNPO法人の活動にも参加しています。この団体は「病気があっても、なくても自分らしく生きられる社会をつくる」を理念としているのですが、私はここで「社会的処方マップ」の作成に取り組んでいます。
社会的処方とは人と人とのつながりによって孤独や孤立といった問題を解決していこうという考え。要は「居場所」をつくるといことですね。ただ、つながりといっても具体的にどういうつながり先があるのかがわからない人も多いんです。市民活動の団体もつながり先となるんですが、どこにどんな活動団体があるのかといった情報は意外に知られていません。ですから、そうした情報を発信するようにしています。つなげる役割の人をリンクワーカーと呼んでいますが、そうした人たちが地域に増えればいいなと思いながら活動を続けています。
いろいろとお話をしましたが、地方に暮らしている私のような人間にとって、プライマリ・ケアは「地方こそがお宝だ」という思いが強いんですね。さまざまな人たちとの交流・ふれあいのなかでいろんな経験や実践ができますし、そうした経験をもとに成長させてもらっているとも感謝しています。

CANnet(キャンネット)
https://can-net.jp/
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    勤務されている十勝勤医協 帯広病院
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    2023年8月祖父の白寿祝い

プロフィール

十勝勤医協 帯広病院  薬剤科長 
プライマリ・ケア認定薬剤師
老年薬学認定薬剤師
山口 章江

(経歴)
青森県弘前市出身 / 北海道大学薬学部卒
2005年 (株)北海道保健企画 札幌、室蘭の保険薬局3店舗で勤務
2012年(株)ファーマケア十勝
2013年 十勝勤医協帯広病院 薬剤主任
2023年 同薬剤科長

【JPCAでの活動】
医療の質・患者安全委員会
北海道ブロック支部幹事
北海道ブロック支部薬剤師部会部会長

【資格】
プライマリ・ケア認定薬剤師
病院薬学認定薬剤師
老年薬学認定薬剤師
公認スポーツファーマシスト
PXE

【所属学会】
日本プライマリ・ケア連合学会
日本薬剤師会
日本病院薬剤師会
日本医療薬学会
日本老年薬学会
日本循環器学会
日本PX研究会

【その他】
十勝病院薬剤師会副会長
北海道薬剤師会十勝支部理事
一般社団法人CAN net( https://can-net.jp/ )

取材後記

「プライマリ・ケアの領域に理解のある薬剤師が本当に増えていってほしいと思っているんです」。インタビュー中、山口さんが特に強調していたのがそのことだった。ご自身もプライマリ・ケア認定薬剤師の資格を取り、地域を見つめながら日々の業務や当たっているからこそ、その思いが強いのだろう。
山口さんは日本プライマリ・ケア連合学会に入ることで、全国の薬剤師のみなさんと「つながり」ができた喜びも語ってくれた。「本当に面白い人たちが多いんですよね」と笑顔で話してくれたのが印象的だった。そうしたつながりから得られる知見は仕事に反映されているだけではなく、地域のための活動にも活かされているに違いない。それを考えると、本当に山口さんのような思いを持つ薬剤師が全国の地域に増えることを願わずにはいられない。

最終更新:2024年02月06日 17時20分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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