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【学術大会 学生セッション受賞大学インタビュー】/愛知医科大学 地域総合診療医学 宮田靖志先生

大学ネットワーク委員会では、日本プライマリ・ケア連合学会学術大会で学生セッションを企画していて、毎年数多くの大学からエントリーをして頂いています。そこで、多くの優秀演題を発表されている大学の指導者に、発案から発表に至るまでどのような指導をされているか、また優秀演題へと発展させる秘訣についてお話しを伺いました。

「2023年学術大会の研究発表では、指導した学生3組が受賞!その指導力の秘密を探る」

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実習から受けた刺激を原動力とした学会発表への意欲が大切です

― 先生が学生さんを指導するにあたってポイントとしていることは何でしょうか?

まず前提として、学生たちは学術大会で発表するしないにかかわらず、これまでにいろいろな地域医療課外実習に積極的に参加し、それらの実習を通して多くの経験を積んでいるということを御理解いただく必要があると思います。実際の経験からさまざまな刺激を受けているという、学会で発表するための「土壌」のようなものがつくられているわけです。課外実習に参加しているということは、地域医療や総合診療に関心を持っているということですから、学術大会で発表してみないかと話すと「チャレンジしてみたいです」と意気込みを見せてくれる学生が多いんですね。実習から受けた刺激を原動力として学会発表してみようと思うその意欲は貴重だと思います。
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    地域枠勉強会
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    地域医療課外実習報告会

― 実習が大きなポイントになっているということですね

そうですね。正規カリキュラムにおける実習先に関しても、また課外実習における実習先についても信頼できるところにお願いしています。例えば、私の出身大学(自治医科大学)の卒業生には地域医療に取り組んでいる先生がたが多く、個人的に親交のある人もたくさんいます。その人たちがどのような地域医療を行っているのかは知っているのは当然ですが、どのような人柄か、後進の育成に熱心かどうかといったこともある程度把握できているわけです。だから、安心できる実習先として学生を送り込めます。また、日本プライマリ・ケア連合学会を通じて親交を深めた先生がたにお願いをすることも多いです。学会の先生方がたは熱心に教育に取り組まれている方が多いですからね。
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    (実習)訪問診療で残薬のチェック
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    (実習)訪問診療での看取り

― やはり実習先によって大きく違ってくるわけですか?

それはまったくその通りだと思っています。「適当に」という言い方は語弊があるかも知れませんが、あまり深く考えずに実習先を選んだ場合、こちらが望んでいるような視点で教育してもらえないことがあります。そのことで、時には地域医療や総合診療に対してネガティブな印象が学生にもたらされることもあります。それは学生にとってマイナスなことでしかありません。どの施設、どの指導者に実習をお願いするかは、しっかりと考えるようにしています。

私は実習先に学生を依頼したあとも、なるべく現場に顔を出すようにしています。実際に学生たちがどのような体験をしているのかを自分の目で確かめたいからです。その際には先方の先生に迷惑にならない程度に、学生たちには声をかけて指導することにしています。私の目から見て「こういうところも学んでおいたほうがいいのではないか」といったことは伝えるようにしています。
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    (実習)患者さん・家族からこれまでの人生について聞く
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    (実習)山奥のお宅へ訪問診療
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    訪問診療先で畑で取れた野菜をいただく
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    学生と一緒に生活の様子を聞く

実習先に顔を出すことで交流が深まっていきます

― しっかりとフォローをされているんですね

現地に足を運ぶ理由は、学生を指導して下さる先生方への礼儀という面もひとつにはあります。学生だけをポンと送り出して「あとはよろしく」で済ますのではなく、実習先の先生方とちゃんと顔を合わせて指導の依頼をすると先方の印象がまったく違うと思います。随分前に私自身が学生を受け入れることがあった時には、私はそう感じました。指導教員同士の交流といった面でも、お互いに顔を合わせるということは重要ですね。交流と関連するかもしれませんが、私が学生を受け入れる側にいたときに、学生の学びについて大学側からのフィードバックがないときは拍子抜けした記憶があります。

― 確かにフィードバックがあると受け入れ側も、次の実習に活かせますね

まさにそうなんです。だから私は学生たちに実習を終えたあとはすぐに実習先に対してレポート書いてもらい、それを実習先に私が送るようにしています。特に印象に残ったことや自分にとって重要と思った学びについを書いてください、と。そのようなレポートは実習先の方々にとって大きな刺激になるのではないかと思っています。
また、学生には実習でお世話になる前に、自身のプロフィールをまとめて先方に出しておくようにとも言っています。これは正規カリキュラムでも課外実習でも同じですね。なぜあらかじめプロフィールを送らせるのかと言うと、受け入れ先の人たちの不安や戸惑いを少しでも軽減し、安心して学生たちを迎え入れてほしいからです。

実習初日、受け入れ先の人たちにとっては全然知らない人間がやってくるわけですよね。どう接していいのか、少なからず戸惑いもあると思います。だったら前もって「私はこういう人間です」という情報を知っておいてもらったほうがいい。だからプロフィールを書いて事前に送るように指示しているわけです。
そこには例えば「自分はこういう理由で医師を目指すようになりました」とか「今回の実習ではこんなことを学びたいと思っています」といったことを書くように伝えています。あとは趣味ですね。例えば「スイーツ巡りが好きです」とか「サッカーをしています」といったことです。
提出したプロフィールは自由に使って下さいということにしています。院内に貼り出してもらってもいいですし、コピーをして職員のみなさんに配ってもらっても構いません。それがあると受け入れ側のみなさんも「ああ、君がスイーツ巡りが好きな〇〇さんだね」と声がけもスムーズになると思っています。
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    実習先でご指導いただく先生と
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    (実習)路上生活者の見回り健康相談

― 学生さんにとっても安心ですよね

交流というのはやはり大切です。自身のプロフィール1枚で、実習への参加がスムーズになるわけですから、プロフィールはなるべく詳しく、またある程度フランクに書くのが大事です。プロフィール記載のフォーマットは自分の写真を貼付けるようになっていますが、その写真も適度にフランクものにするよう指示しています。また、私自身が実習先に顔を出すのも、先方の先生との交流を重視しているからです。時間があれば食事をご一緒することもあります。そこで情報交換もできる。学生たちと食事をすることもあります。リラックスして食事をとることで学生との距離が縮まって良好なコミュニケーションにつながっていきます。
でも、私が実習先に行くもっとも大きな理由は、私自身の勉強になるからです。「なるほど、こんなふうに教えてもらっているのか」といったことがわかると、私自身の指導に活かすこともできます。「現場」の実際の指導の様子や、また指導と同じくらい大事な場の雰囲気は学生のレポートだけではわからないですからね。

もっとも大切にしているのは「学生の自主性」です

― 学術大会での発表に関してですが、声をかける対象となるのはどういう学生さんですか?

基本的には課外実習に積極的に参加している学生ですね。正規カリキュラムではないわけですから、地域医療や総合診療にそれなりに関心があることになります。今回受賞をした学生たちは2〜3回は課外授業に参加しています。そういう学生たちにはモチベーションが高く優秀な人が多く、レポートを読んでもこちらが期待していることを深く学んできてくれています。だから私としても安心して「発表してみない?」と声をかけることができるわけです。
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― そういう学生さんには問題意識を持っている方が多いんですか?

そういう人もいるかも知れませんが、多くは「なんか面白そうだから課外実習に参加してみよう」という気持ちではないでしょうか。むしろそれくらいの方がいいと私は思っています。あまり大きなことを考えていると、途中で息切れがしますからね。「面白そう」からスタートして「こういうことってやっぱり大事だよね」という気づきに至ってくれれば、もうそれで充分だと思います。まだ学生なわけですから、大きな課題に対して難しい方法論を勉強して研究発表しようとはしない方がいい。自分で興味を持った身近なテーマに気軽に取り組むほうがよほど良い学びにつながります。そうしたことの積み重ねで地域医療や総合診療への関心を更に深めていってくれれば嬉しいですね。

― 研究をまとめるにあたっては、どのような指導をするのでしょうか?

まず私が伝えるのは「枠組み」です。ほとんどの学生は研究をまとめた経験がないので、そのまとめ方ですね。研究にあたっては背景があり、目的があり、方法があり、結果そして考察が求められてきます。それを第三者にきちんと伝わるようにするにはどのような形式、流れにすればいいかを学生たちとのやりとりのなかでアドバイスするようにしています。
内容については基本的に口を挟むことはしません。それをすると私の研究になってしまうからです。その意味でも最初に申し上げたように、私は学生たちが刺激を受けるための実習先を案内することが大切だと考えています。実習の現場と学修環境は用意しますが、実際にそこから何に関心を持ち、どう考えるのかは学生の自主性によるもの。そこを私はもっとも大切にしていますね。
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    JPCA2023にて。これからもたくさんの学生さんが発表を目指しているようです

プロフィール

愛知医科大学 医学部 地域総合診療医学寄附講座
宮田 靖志 先生
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<ご経歴>
1988年  自治医科大学医学部医学科卒業
       愛媛県立中央病院研修医
1990年~ 明浜町国保狩江診療所所長
1993年~ 町立宇和病院内科医員
1996年~ 広見町国保三島診療所所長
2000年~ 札幌医科大学医学部助手(地域医療総合医学講座)
2002年~ 札幌医科大学医学部講師(地域医療総合医学講座)
JA北海道厚生連地域医療研修センター札幌厚生北野病院 主任医長
2004年~ ハーバード大学留学(Beth Israel Deaconess Medical Center, Department of Primary Care and General Medicine.  Research Fellow)
2006年~ 札幌医科大学医学部 地域医療総合医学講座 准教授
2010年~ 北海道大学病院地域医療指導医支援センター・卒後臨床研修センター 准教授
2014年~ 留萌市立病院総合内科部長・総合診療医養成研修センター長
2014年~ 国立病院機構名古屋医療センター卒後教育研修センター副センター長・総合内科部長
      東海北陸厚生局保健福祉部医事課臨床研修審査専門員 兼務
2016年~ 愛知医科大学医学部附属医学教育センター 副センター長 教授
       愛知医科大学医学部附属病院プライマリ・ケアセンター(兼務)
       地域総合診療医学寄附講座 教授
<学会・資格>
・日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医
・日本医学教育学会認定医学教育専門家
・日本内科学会総合内科専門医
・日本老年医学会専門医

取材後記

「第14回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会2023」において、宮田先生が指導した発表者3組が、それぞれ最優秀賞と優秀賞に輝いている(いずれもポスター発表において)。まさに快挙ともいえる結果だが、その根底には学生のみなさんの意欲を引き出し、自主的に研究に取り組んでもらおうとする「環境づくり」があることがわかった。宮田先生が特に力を入れているのは、その部分だ。インタビューのなかで先生は「受賞が目的で研究発表をしているわけではないのですが、研究をして発表をするプロセスにおいて学生たちは大きな達成感を得ます。その経験もまた大切だと思っています」とも語っていた。どうやら宮田先生の指導力を探る上では「経験」というキーワードは重要になってくるようだ。これは学生たちの指導に当たっている他の先生方にとってもきっと大きなヒントになるに違いない。

最終更新:2024年03月21日 01時06分

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