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vol.32 /「小児在宅医療をはじめとして地域に役立つコミュニティナースに」【看護師】蔵重真里さん

今回、取材に協力していただいた蔵重真里さんは広島生まれの広島育ち。看護師になってからもずっとこの地で働いてきました。そんな蔵重さんはいま「地域のために役立つ看護師になりたい」との思いを強く持っているとのこと。そうした思いを持つまでにいたった経緯を、これまでの歩みをひもときながらうかがってみることにしました。
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「あなたはいい看護師さんになれるね」の一言に励まされた

― 蔵重さんはなぜ看護師になろうと思ったのですか?

私が看護師になろうと決めたのは、中学2年生の時です。テレビや小説の影響もあったと思うのですが、看護師かそうでなければ子供が好きだったので保育士になりたいと考えていました。ちょうど高校進学を意識し始めるタイミングですね。「どっちがいいかな」と迷っていた時に、ふと思いついたのが「小児科の看護師になればいいんだ!」ということ。これなら一石二鳥だということで、看護師を目指すことにしました。小児科の看護師になりたいと思う一方で、救急センターの看護師としてバリバリ働くのもいいなとも思っていました。これは看護師に密着取材する報道番組を見た影響です(笑)。
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    看護師となる決意をした中学の卒業式

― そして高校の衛生看護科に進学、その後は専門学校で学ばれました

実は私、一度看護師になる夢をあきらめかけたことがあるんです。専門学校在学中のことでした。自信を失いかけていたとも言えますが、そんな私を励ましてくれたのが実習先の整形外科で出会ったひとりの患者さんです。その方はヘルニアを患っていて、私が足を洗うことになったんです。もちろん看護師の夢をあきらめようとしていたと言っても、実習で手を抜くことはありませんでした。そんな私にその患者さんは「あなたはいい看護師さんになれるね。笑顔がとても素晴らしいよ。だからがんばってね」と言って下さったんです。私が実習生だということはご存知のはずだったので、もしかすると私の迷いを察して励まそうとしてくれたのかもしれません。ともあれ、その方の言葉がきっかけで迷いが吹っ切れて看護師への道を進むことにしたと言えます。

― 2001年には「たかの橋中央病院」に入職されました

最初の勤務先ですね。配属されたのは外科系混合病棟です。ここではいろんな病気の手術を経験しました。泌尿器科や整形外科、さらに末期がんの患者さんまでさまざまでしたね。ここで7年間ほど働いたのですが、結婚と出産を機に他の病院に移ることにしました。それが「荒木脳神経外科病院」で、ここは家から近かったんです。子供を保育園に預けてから行けるということで転職をしました。希望の部門にあたっては「忙しいところがいいです」と言ったら、入院病棟に配属となりました(笑)。脳外科は画像と病変部位と症状とが一致するので、とても勉強になりましたね。
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また、この病院では急性期を脱した患者さんの退院前カンファレンスにも携わっていたのですが、参加した際に在宅のケアマネジャーさんから「蔵重さんは在宅のことを全然知らないんですね」と言われたことがあります。確かにその通りだったので、一念発起して退院支援の勉強を始めました。それがきっかけで在宅の面白さに目覚めたんです。看護学校にいる時から在宅医療には興味があったのですが、日々の仕事の忙しさに追われ、本気で取り組むことはありませんでした。その意味ではいいきっかけを与えられたと思いますね。

在宅医療に関わってみて、いろんなことが見えてきた

― そして「コールメディカルクリニック」に。ここは在宅専門クリニックですね

そうですね。本格的に在宅医療に関わりたかったので専門のクリニックに移りました。ここでは診療同行看護師として働いていました。訪問看護師と診療同行看護師の違いですが、まず訪問看護師は医師の指示に基づいて看護を行います。バイタルサインの測定から入浴介助や清拭などの清潔援助、排泄援助、薬の管理、褥瘡処置、点滴管理などその役割ですね。
一方、診療同行看護師は医師の診察に同行して、診察の補助や処置の介助を行うのが役割です。持参物品の準備からバイタルサインの測定、処置や検査の介助、処方箋の確認、検査検体の提出、地域の多職種の方々との連携などがあげられます。

― 在宅医療に携わってみての感想はいかがでしたか?

それまではずっと病棟で働いていたわけですから、結構ギャップは感じましたね。まず患者さんのご自宅に入っていくことに最初は戸惑いました。また患者さんやご家族とのコミュニケーションもぎこちなかったと思います。というのも、以前は脳外科の患者さんを相手にしていたので深いコミュニケーションを取る機会が多くなかったからです。
でももっとも大きかったのは「家で亡くなることが一番の幸せとは限らない」と気づいたことですね。病棟で働いていた時はそうは思っていなかったんです。体中に何本ものチューブを通されて、そのまま亡くなっていく姿を何度も見てきましたから。でも、退院して家で過ごすことによって、ご家族に負担がかかるケースもあります。それが家族の関係性に影響を与える場面も目にしてきました。もちろん、家族に見守られながらご自宅で安らかになくなる方もいるのでケースバイケースではあるのでしょうが「答えはひとつではない」ことは強く感じました。

― その後は現在の「ひのでクリニック」に移られます

移った理由は院長の橋本和憲先生の熱意にうたれたからです。橋本先生は「小児在宅医療に取り組みたい」という強い思いを持っていて、私も何か力になれればということで移ることにしました。
私が日本プライマリ・ケア連合学会に入るきっかけを作ってくれたのも橋本先生です。先生自身も日本プライマリ・ケア連合学会に入っていて「今度広島で学術大会がありますよ」と教えてくれたことがありました(第11回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会/2020年8月開催)。ちょうど新型コロナウィルスの感染拡大時期と重なったのでオンライン開催になったのですが「どんな感じなんだろう?」と参加してみることにしたんです。
プライマリ・ケアそのものについては名前だけは知っていましたが、詳しいところまではわかりませんでした。それで大会に参加してみると、プライマリ・ケアの認定看護師があることを知って取得したいと思ったんですね。それが動機でワークショップなどに参加するようになり、どんどんプライマリ・ケアにのめり込んでいったという感じです(笑)。
私はそれまで急性期や超急性期に関わることが多かったので、内科系疾患や慢性期をメインに学べるプライマリ・ケアはとても面白かったですし、勉強にもなりました。おかげさまで認定看護師の資格も取得できましたしね。
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地域に貢献できる「コミュニティナース」になりたい

― 今後取り組んでいきたいことはありますか?

大きなところでは「コミュニティナース(地域住民との関わりのなかで人が集まる場や機会を作り、健康意識を高める活動、病気の早期発見、医療・福祉機関との連携を図っていくといった役割を担う看護師)」になりたいとの思いがあります。
その活動の第一歩として、地域の訪問看護師さんやケアマネージャーの方々と定期的にオンライン会議を開くようになりました。日常業務で困ったことがあった場合、どこに相談していいのかわからないという悩みはそれぞれに持っていて、そういうものを持ち寄りながら連携を深めていこうという試みです。例えば、自分の担当してる患者さんの認知症が進行してしまったケアマネさんの場合「もっと早く在宅医療のことを知っていたら」ということもありました。こうした連携を通して社会的処方にも関わってきたいと思っています。
また、先日は地域のお祭りにも参加して暮らしの保健室(診察を受けるほどではないが健康面で気になることについて看護師などに気軽に相談できる場)のようなこともしたんですよ。この活動にはひのでクリニックの先生も参加しています。
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― ひのでクリニックも地域への関わりに積極的なんですね

そうですね、熱心に取り組んでいます。一例をあげると「食支援」があります。これは管理栄養士とともに患者さんの食生活を支えていこうという試みです。食事は生きていく基本ですから、ここをおろそかにすると身体にも影響が出てきます。例えば高齢者の場合、フレイルやサルコペニアにもつながっていきますし、子供にしても成長に応じて摂取する栄養素の量を変えていかなければなりません。そうした患者さんたちを食の面でもサポートするための取り組みですね。自宅で食事を作るのが難しいのなら配食サービスを利用する、その利用にあたってはどのような内容が良いかを検討するといったところまでフォローしています。

また、看護大学の学生さんの実習受け入れも行っていて、診療同行看護師の仕事を紹介しています。看護師としていろんな働き方があることを知っておくことは将来キャリアを積んでいくにおいても大切なことだと思います。私たちの時代にはそういう実習はありませんでしたから。いろいろとお話してきましたが、そんな風にいろんな取り組みの中で地域のために役立っていきたいというのが私の思いです。
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    現在勤務されている ひのでクリニック
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プロフィール

ひのでクリニック  
看護師 蔵重真里

広島生まれ広島育ち。高校の衛生看護科を卒業後、看護専門学校へ。
看護学校を卒業後、外科、泌尿器科、耳鼻科、整形外科混合病棟で勤務。
主に急性期、術前術後管理。その後、脳神経外科病棟で勤務。超急性期病棟、一般病棟で勤務。
子どもの成長のタイミングで以前から興味のあった在宅分野へ。

2001年 広島県立三次看護専門学校第二看護学科卒業
2001年 たかの橋中央病院 
2008年 荒木脳神経外科病院 
2017年 コールメディカルクリニック
2019年 ひのでクリニック

<資格>
日本プライマリ・ケア連合認定プライマリ・ケア看護師
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取材後記

学生時代は「看護師になるか保育士になるか」で悩んだ結果、「小児科の看護師になろう!」と思いたったという蔵重さん。看護学校卒業後は長年病棟勤務を続けながら看護師としての経験を積み、今では年齢に関わらない在宅医療の診療同行看護師というかたちで、かつての夢をかなえている。これまでたくわえてきたさまざまな経験・知見は在宅の現場で大いに活用されているようだ。
蔵重さんの話しぶりはとてもおっとりとしていて、患者さんに安心感を抱かせる穏やかさがにじんでいる。それでいてうちに秘める思いは強く、地域のために力を尽くしていきたいとの熱意も伝わってきた。地域を見つめたさまざまな取り組みを進めているという蔵重さん。今後のその活動にはおおいに期待したいところだ。

最終更新:2024年03月07日 13時12分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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