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【学術大会 学生セッション受賞大学インタビュー】 / 三重大学 総合診療部 山本憲彦先生

大学ネットワーク委員会では、日本プライマリ・ケア連合学会学術大会で学生セッションを企画していて、毎年数多くの大学からエントリーをして頂いています。そこで、多くの優秀演題を発表されている大学の指導者に、発案から発表に至るまでどのような指導をされているか、また優秀演題へと発展させる秘訣についてお話しを伺いました。

「研究への取り組みを通して成長する学生の姿こそが指導担当者の喜び」

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研究のアウトプットの場が学術大会

― 先生のもとでは、どのような学生さんが学術大会で発表をするのでしょうか?

私は三重大学附属病院で医師臨床研修に関する初期研修センターのセンター長を務めていますが、一方で総合診療部の教授も兼任しています。学術大会での発表に関しては、教授としての立場から学生たちを指導することになっています。
三重大学の場合は「研究室研修」というものが3年生から始まります。これはすべての学生が必ずどこかの研究室に所属するというものです。学生が所属研究室先を決めていく際、我々には学生に対するプレゼンテーションの機会が与えられます。各教室が「うちはこんな研究に取り組んでいます」とアピールするわけですね。それで学生たちは興味を持った研究室に入っていきます。その流れで、総合診療に関心のある学生は私たちのところに来てくれるわけです。

― 3年生になってからのタイミングというわけですね?

基本的にはそうですが、いまの話とは別枠で国の事業として「総合診療医養成事業」というものがあります。総合診療医を1人でも多く育てていこうという主旨で、興味のある学生たちにはサークルのようなかたちで1年生の入学時から登録してもらうんですね。
いまは40人近くが登録してくれていて、彼らが3年生になったらそのまま総合診療関連の研究室に来てくれるというパターンもあります。この場合、1年生の時から顔なじみになっていることもあって、学生たちもすんなりと(研究室に)入りやすいとも言えますね。繰り返しになりますが、研究室での取り組みは「学術大会で発表する」「論文化する」という姿勢で臨んでもらっています。

― 発表に重きを置く理由は何でしょうか?

私は『科学的な視点から物事を見て、研究計画を立て、そのテーマに取り組む』という一連の経験はとても大切なものだと思っています。その経験から得た物の見方や考え方は将来医師になった時にも必ず役に立つと信じています。また、扱うテーマによってはより深くそのテーマに関連したものを知る必要があったりもするため、本人の成長にもつながります。
とは言え、そうしたインプットだけだとモチベーション的に持続が難しいとも考えられます。だからアウトプットの機会を提供するようにしているわけです。アウトプットをすることで自分の取り組みがかたちとしても残りますよね。そういう思いもあって、日本プライマリ・ケア連合学会の学術大会を「活用」させていただいている感じですね。学会での発表以外でも、論文を書くといったことも学生には奨励しています。つい最近もうちの学生が書いた英語の論文が雑誌に掲載されたんですよ。
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クリニカルクエスチョンをリサーチクエスチョンに

― 学生さんたちは研究をするにあたってどのようなことを相談してくるのでしょうか?

パターンとして多いのは「何から手をつけていいのかがわからないのですが……」という相談ですね。研究に慣れていないので仕方のないことだとは思いますが、こうした場合はまず「研究計画を立てることからスタートしよう」とアドバイスします。計画が立てられれば、後はそれにのっとって進めるだけなので、まずはここを固めることが大切だと伝えますね。
研究計画を立てるときのコツとしては「クリニカルクエスチョンをリサーチクエスチョンにどう持っていくか」を意識するようにと言っています。日常の中で漠然と抱いた疑問(クリニカルクエスチョン)をどのように研究課題(リサーチクエスチョン)へと昇華させていくかですね。ひとつには私たち指導教員と議論を重ねながら明確にしていく方法があります。ブレインストーミング的な感じです。

それに加えて「仮説」を立てることも重要になってきます。「なぜ、こうなんだろう?」から始まって、それを深掘りしていくプロセスで「それは、こうだからではないか?」と仮説が生まれてきます。そこまで行けばどのような文献を調べればいいのかといったことも見えてくるので、研究計画は立てやすくなりますよね。
また、ノウン(すでにわかっていること)とアンノウン(まだわかっていないこと)が何かをちゃんと調べることも必要です。ノウンを研究テーマに掲げるよりもアンノウンを追求する方が研究としては意義がありますから。もちろん例外はあるとは言え、基本的に研究とはそういうものだと私は思っています。

― 学生さんたちを指導するにあたって、彼らへの接し方で気をつけていることはありますか?

彼らとの関係性を築く上で大切なのは、こちらの考えを押し付けないことです。あくまでも彼らが求めるもの、関心を寄せているものを尊重する。それがぼんやりとしたものである場合は、話し合っていくなかでハッキリと輪郭が見えてくるように持って行く。そうした働きかけは必要だと思っています。
彼らはとてもポテンシャルが高いので、その潜在的な力を引き出す義務が私たち教員にはあると考えています。自分の興味のあるテーマにハマると、学生たちはこちらが驚くほどの成果を見せてくれます。期待以上の意欲を出して研究に取り組んでくれるんです。そんな時は本当にうれしいですね。彼らの素晴らしさに感動します。
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準備を進めていくなかで、学生たちは目に見えて変化する

― 先生が今後取り組んでいきたいことは何でしょうか?

地域へまなざしを向ける医師、そうした視点の必要性を認識している医師はこれからますます重要になってくると私は考えています。病院に訪れる患者さんだけに対応するのではなく、地域全体を良くしていくために、どんなアクションが必要なのかを考える視点を持つ。それはやはり大切な姿勢です。私はそうした医師が増えてほしいと思っていますし、その育成に力を注ぎたいとも思っています。学術大会での発表に限ることではありませんが、自ら取り組む研究をきっかけに地域の人々との交流が深まるようになれば、それも素晴らしいことですね。さらに言えば、地域のリーダーになっていく人を育てていきたいという気持ちもあります。

また、研究に取り組むことの楽しさは、やはり今後も学生たちには伝えていきたいと思っています。先ほどのポテンシャルの話とも関連してきますが、研究発表の準備を進めていくなかで、学生たちは目に見えて変化していくんです。表情に自信がにじみ出るといいますか、自分が取り組んでいることに手応えを感じていることが伝わってきます。だから、発表の機会はこれからも提供し続けていきたいですね。

― 先生は毎年発表を見に行かれているのですか?

もちろん行きます。私にとってはそれが一番の楽しみです(笑)。受賞うんぬんはともかく、彼らの発表する姿を見ることは、指導する者としての喜びでもありますからね。
本番にあたって学生たちは私たち教員の前で何度も練習をするんですよ。それで「ここはもう少しこうしたほうがいい」といったアドバイスを受けながら徐々に上手になっていく。そういう過程を見ていますから、なおさら本番で彼らが堂々と発表している姿を目にすると、感慨深いものがあるんですね。次回の学術大会も今から楽しみにしています。
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プロフィール

三重大学医学部附属病院 総合診療部 教授
山本 憲彦(やまもと のりひこ)   先生

1994年 自治医科大学卒業
2008年 三重大学大学院医学系研究科 博士課程修了

<ご経歴>
1994年5月1日 県立総合塩浜病院
1996年4月1日 宮川村国民保健報徳病院
1998年4月1日 自治医科大学大宮医療センター
1999年4月1日 紀南病院組合 へき地医療センター 
2000年4月1日 鳥羽市立長岡診療所
2002年4月1日 三重大学医学部附属病院 医員
2019年10月1日 同 臨床研修・キャリア支援部 准教授
2020年4月1日   同 総合内科 科長 、感染症内科 科長
2021年4月1日 同 総合診療部教授

<資格>
総合診療専門医 総合内科専門医 消化器病学会専門医 肝臓病学会専門医 内視鏡学会専門医

取材後記

インタビューの終わりに三重大学総合診療専門研修プログラムについて問うと、「少なくとも3年間我々のプログラムで学んでくれたら、どこに出しても恥ずかしくない総合診療医に育てます」ときっぱりと答えてくれた。医学生のみなさんを対象とした研究室もそうだが、総合診療医を育てようとする山本先生の熱意が伝わってくるコメントと言えるだろう。「研究発表の準備を通して学生たちの成長する姿を見るのが楽しい」と語ったときの山本先生の目は穏やかで、心からの言葉であることが実感できた。今後も若い人材たちのために、ぜひその指導力を発揮し続けて行っていただきたいと願う。

最終更新:2024年03月21日 12時20分

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