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vol.46/ 「メンタルヘルスの領域から積極的に地域に関わる」【心理士・師】坂元美和さん
今回ご登場いただくのは、臨床心理士・公認心理師の2つの資格を持つ坂元美和さん。もともと「心」の問題に関心を持っていたという坂元さんは現在「社会医療法人 清風會 日本原病院」の心理士・師として業務を行う一方で地域のメンタルヘルス向上にも取り組んでいます。「心理士・師」の活躍の場はもっともっと広がるはず」との思いを持つ坂元さんのお話に耳を傾けてみましょう。
心も含めて全人的に関わる医療との出会い
— 坂元さんが心理士・師を志した理由をお聞かせください。
もともと私自身が人間関係に悩みやすいタイプということもあって「心」の問題には関心を持っていました。心理士・師という仕事があることを知っていましたが、本格的に検討し始めたのは大学生の時。就活の時期を迎えたころですね。心理士・師になるには大学院に進学する必要がありますし、そうでなければ就職活動を始めなければなりません。そのタイミングで教育実習があったのですが、生徒たちと関わる中で「この子たちの役に立てるようになりたい」と思うようになりました。それで心理士・師になると決めたのですが、そういう経緯もあって最初はスクールカウンセラーを視野に入れていました。大学院に進学した後は院生として勉強する一方、精神科の看護助手という形でアルバイトをしながら臨床経験を積んでいきました。
— その後、現在も勤めている「日本原病院」に入職されました。
配属されたのは「身心医療課」です。この課の名称ですが、一般的な表記の「心身」ではなく「身心」としているのは「身体の問題で困っている患者さんに、心も含めて全人的に関わる医療を行う」という意味を込めているためです。私が入職したあとすぐにこの身心医療課が立ち上がったので、スターティングメンバーの一人だったといえますね。当時は入院患者さんの心のケアが中心でした。脳疾患の患者さんや骨折の患者さん、ターミナルケアの患者さんまでいろいろな方に対応していました。
— 具体的にはどのような心のケアをされるのでしょう。
カウンセリングが中心になってくるわけですが、基本的には患者さんが自ら治ろうとする力をサポート、後押ししていくというスタンスです。カウンセリングといっても様々な種類があって、それぞれの患者さんに応じて使い分けをすることにしています。例えば話をすることが苦手な患者さんの場合、絵を描くなどの手段を通して身心の緊張をほぐすといったことですね。とあるがん患者さんのケースですが、治療に消極的な方のカウンセリングをしたことがあります。その時は治療のことは抜きにして「何がしたいのか」を聞き出してみたところ「もう家に帰りたい」とのことでした。その患者さんの気持ちを担当の医師に伝えたことで、「では、この患者さんに関してはどういう対応をすればいいのか」という展開になりました。最終的には患者さんが決めることなのですが、心理士・師が関わることで患者さんの思いを聞き出せる面もあると感じています。
地域のメンタルヘルスの向上に心理士・師として貢献
— 心理士・師として地域とどのように関わっているのかを教えていただけますか?
3年ほど前から日本原病院では地域のメンタルヘルスをしっかり支えていくために、心療内科の枠を広げました。具体的にはプライマリ・ケア医の松下明先生と田中道徳先生に加わっていただいて診療にあたるというものになります。そういう部分での関わりが一つにはありますね。もともと心療内科では私たち心理士・師が初診の患者さんに対して予診を行うことにしています。およそ50分かけて患者さんに寄り添いながら、現在の状況を確認することにしているんです。そうした業務の領域が広がったということになります。
身心医療課は心療内科医1名と心理士・師3名、保健師1名のチームで取り組んでいますが、地域活動も行っていて、奈義町(岡山県勝田郡)からの委託事業では身心医療課のチームに家庭医2名も加わっていただいて、いじめや不登校に悩んでいるお子さんや家族の方への相談窓口となる「奈義町学校あんしんダイヤル」というものを開設しています。また、教育現場の職員の皆さんを対象とした研修も行っています。内容は、現場で役に立つメンタルケアの方法や知能検査の結果への関わり方といったものです。他にも子供たちへの教育支援や働く人たちを支えるメンタルヘルス研修なども実施しました。
身心医療課は心療内科医1名と心理士・師3名、保健師1名のチームで取り組んでいますが、地域活動も行っていて、奈義町(岡山県勝田郡)からの委託事業では身心医療課のチームに家庭医2名も加わっていただいて、いじめや不登校に悩んでいるお子さんや家族の方への相談窓口となる「奈義町学校あんしんダイヤル」というものを開設しています。また、教育現場の職員の皆さんを対象とした研修も行っています。内容は、現場で役に立つメンタルケアの方法や知能検査の結果への関わり方といったものです。他にも子供たちへの教育支援や働く人たちを支えるメンタルヘルス研修なども実施しました。
— まさに地域のためのメンタルヘルス活動ですね。
奈義町からは「地域自殺対策強化委託事業」を請けています。自殺予防の取り組みとしての事業ですが、言ってみれば地域のメンタルヘルスの向上に他なりません。自殺に限定することなく、メンタルの土台のところをしっかりと強化していって、地域に住む方々が自殺にまで追い込まれないような風土づくりをしていくことが目的です。先ほどお伝えした各種研修もそうした目的に関わりがあります。地域に住む方々の数と私たち受け皿の数を考えたらまだまだバランスが取れていないので、一人ひとりがセルフケアのできる形をとっていくことも大切だと考えています。
— メンタルヘルスへの関心が高まることが期待できますね。
そうであってほしいと思います。日本に限ることではないとは思いますが、メンタルヘルスに関しては専門家に助けを求める人、治療を受ける人、カウンセリングを受ける人などは少ないという研究データもあります。一方で国自体が「メンタルヘルスに気をつけましょう」ということは大々的に言っているので、私たちとしても研修をはじめとする啓蒙活動は展開しやすい状況にあると言えますね。
ただ、そうは言うものの、実感としてはまだまだ一般の方々におけるメンタルヘルスへの関心はそれほど高くはないという印象です。関心を持つ以前に、生活に追われていて、そこまで気が回らない方が多いと言えるでしょうね。でも何もしないわけにはいかないので、私たちとしては一つひとつ粛々と活動を続けていくしかないと考えています。
ただ、そうは言うものの、実感としてはまだまだ一般の方々におけるメンタルヘルスへの関心はそれほど高くはないという印象です。関心を持つ以前に、生活に追われていて、そこまで気が回らない方が多いと言えるでしょうね。でも何もしないわけにはいかないので、私たちとしては一つひとつ粛々と活動を続けていくしかないと考えています。
心理士・師 の活躍フィールドを広げたい
— 日本プライマリ・ケア連合学会との関わりはいつからでしょう?
2014年に岡山で第5回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会」が開催されました。その時に大会長を務めたのが松下明先生だったのですが、私もポスター発表をする機会を与えていただきました(「維持期脳卒中リハビリのチーム医療における臨床心理士の役割」というテーマで発表)。当時はまだ学会には入っていなかったのですが、それでも発表することができました。
学会員になったのは昨年(2023年)のことで「第14回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会」でも発表をさせていただきました。学術大会に参加してみての感想なんですが、プライマリ・ケアの分野で心理士・師はもっと活躍できるとの印象を得ました。と言うのも、一般的に心理士・師が活躍するフィールドは精神科など専門領域に関わる分野なんですね。でも日本原病院では心理士・師の活躍フィールドのベースが内科で、プライマリ・ケアとも近いと言えます。そういうところから心理士・師が役に立てるシーンはたくさん生み出せると思います。私たちの活動が学会を通して伝えていくことで拡がっていけば嬉しいですね。
学会員になったのは昨年(2023年)のことで「第14回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会」でも発表をさせていただきました。学術大会に参加してみての感想なんですが、プライマリ・ケアの分野で心理士・師はもっと活躍できるとの印象を得ました。と言うのも、一般的に心理士・師が活躍するフィールドは精神科など専門領域に関わる分野なんですね。でも日本原病院では心理士・師の活躍フィールドのベースが内科で、プライマリ・ケアとも近いと言えます。そういうところから心理士・師が役に立てるシーンはたくさん生み出せると思います。私たちの活動が学会を通して伝えていくことで拡がっていけば嬉しいですね。
— 心理士・師 の方々の活躍の場が広がっていきますね。
そうなんです。大学や大学院で習うことは本当に専門的な部分になり、例えばカウンセリングや心理検査等が心理士・師としての仕事のメインになってきますが、私は心理士・師ができることってもっともっとたくさんあると思っています。そのことを一番に伝えたいのは心理士・師を目指す学生さんたちです。彼らに「そうか、心理士・師にはこういう働き方もあるんだ!」という部分を知って欲しいんですね。そうなると仕事への希望もふくらんでいく気がします。例えば地域づくりに関わっていけるとか、いろんな診療科目の患者さんの対応も手がけられるといったことですね。そうした可能性をこれから広げていくことにも意義があるということも知ってほしいと思っています。
興味があれば日本原病院に見学に来てもらってもいいくらいですね(笑)。
興味があれば日本原病院に見学に来てもらってもいいくらいですね(笑)。
— 今後の目標をお聞かせください。
現在取り組んでいる活動を地道に続けていくことで、今も言ったような心理士・師の活躍フィールドを広げていくこと、そしてそれを若い人たちにも知ってもらうことですね。また、日本プライマリ・ケア連合学会の学会員にも心理士・師の方々がいらっしゃると思うので、そうした方々とも交流ができたらなと思っています。メンタルヘルスへの人々の関心は今後さらに高まっていくことでしょうし、そうなると地域における心理士・師の役割もまた大きくなっていくと考えられます。そういった面でも私なりにできることを精一杯やっていきたいというのが今の目標ですね。
プロフィール
【資格】
臨床心理士 公認心理師
TFTアルゴリズム HRV呼吸法コーチ・レベル1
中学校・高校国語科教員免許
【経歴】
2002年 東亜大学総合人間・文化学部 総合人間・文化学科 入学
2006年 同大学卒業
2006年 東亜大学大学院 総合学術研究科 臨床心理学専攻
2008年 修士課程修了
2012年 社会医療法人 清風會 日本原病院 入職
【所属団体】
一般社団法人 岡山県公認心理師・臨床心理士協会
一般社団法人 日本心理臨床学会
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
臨床心理士 公認心理師
TFTアルゴリズム HRV呼吸法コーチ・レベル1
中学校・高校国語科教員免許
【経歴】
2002年 東亜大学総合人間・文化学部 総合人間・文化学科 入学
2006年 同大学卒業
2006年 東亜大学大学院 総合学術研究科 臨床心理学専攻
2008年 修士課程修了
2012年 社会医療法人 清風會 日本原病院 入職
【所属団体】
一般社団法人 岡山県公認心理師・臨床心理士協会
一般社団法人 日本心理臨床学会
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
取材後記
臨床心理士は民間資格で、公認心理師は国家資格という違いこそあるものの、一般的な業務において両者にさほど大きな違いはありません。どちらの資格も持つ坂元さんによれば「地域活動をしていきましょうというスタンスがより明確に出ているのが公認心理師という印象です」とのこと。その言葉通り、坂元さんが地域のメンタルヘルスの向上に意欲的に関わっているのは本文で触れた通りです。坂元さんの活動にプライマリ・ケアとの親和性を感じた方も多いのではないでしょうか。心理士・師の活躍フィールドが広がれば、その親和性はますます高いものになっていくと思われます。坂元さんの今後の活躍に期待したいものです。
最終更新:2025年01月14日 18時41分