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vol.60/「女性のためのプライマリ・ケアを実践したい!」 【専攻医】宮澤千裕先生

今回お話をうかがったのは、母の背中を追い、医師を志したという宮澤先生。初期研修で出会った「生活を診る」視点を武器に、現在は青森で数少ない家庭医専攻医として多科にわたる外来を担う異例の研修に挑んでいます。総合診療と女性医療を掛け合わせ、地域の「最初の窓口」を目指す若き医師の情熱と歩みをお届けします。
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母の背中を追って地域に根差す「総合診療」の道へ

― 先生が医師を目指したきっかけを教えてください。

私の母が医師だったことが最も大きな影響を与えています。母の経歴は少し特殊です。大学を卒業し会社員となったものの、女性差別の壁に直面しました。30歳を過ぎて一念発起し、医学部受験を目指しました。在学中に私を出産し、その後も医師として働き続ける母の姿を、私は幼い頃から間近で見て育ちました。
母は日頃から「お医者さんになって本当によかった」と楽しそうに語り、診療現場で出会う患者さんの話をイキイキと聞かせてくれました。そんな母にとって、医師という仕事は単なる職業ではなく、まさに「生きがい」そのものだったんだと思います。やりがいを持って働くその姿に、いつしか強い憧れを抱くようになりました。
母は後に埼玉県で開業しましたが、内科や精神科を幅広く診るだけでなく、訪問診療にも精力的に取り組んでいました。今思えば、それはまさに「地域の総合診療」そのものでした。そんな母の背中を見ていた私にとって医師という道を選ぶのは自然な流れで、高校2年生の頃には迷いなく医学部受験を志していました。

― 将来的に「こんな医師になりたい」というビジョンはお持ちでしたか?

具体的に「何科」という明確な区分けはまだ持っていませんでしたが、母が実践していた医療のスタンスが理想のロールモデルとなっていました。一つの臓器や疾患だけを診るのではなく、内科的な不調からメンタルヘルスの問題まで患者さんを丸ごと診られるようになりたいという思いが漠然とあったんです。
母からは「跡を継いでほしい」と言われたことは一度もなく、むしろ「自分の好きなようにやりなさい」と背中を押されていました。それでも私の中には、地域に密着し、患者さんの生活に寄り添いながら幅広い相談に乗れる医師になりたいという軸が入学当初から形成されていたように思います。
「総合診療」という言葉自体は入学前から耳にしたことはありましたが、当時はまだその実態を詳しく理解していたわけではありません。しかし患者さんと密に関わり、精神科的な視点も持ち合わせながら身体を診るというスタイルを志向していた時点で、私の目指す方向性はすでに現在の専門性につながっていたのだと感じます。

― 実際に「総合診療」を自身の専門として意識し始めたのはいつ頃でしたか?

自分の目指す医療のスタイルが「総合診療」という枠組みに合致すると確信したのは、初期研修医の1〜2年目の頃です。学生時代から興味はありましたが、実際の臨床現場に出ることで、よりその思いが強くなりました。
決定的な転機となったのは、研修医2年目の時に参加した日本プライマリ・ケア連合学会の学術大会(浜松大会)です。私の勤務していた病院には若手を積極的に学会へ連れていく文化があり、ちょうど自身の進路を真剣に検討していたタイミングで参加する機会を得ました。
それまでは各診療科が細分化された医療の世界に触れる機会も多かったのですが、学会で総合診療のリアルな熱量に触れたことで「やはり自分の進むべき道はここだ」と再確認できました。母がかつて地域で見せてくれた、科目の垣根を越えて人を診る姿勢。それを現代の医療システムの中で体現している「総合診療」という分野に、大きな可能性と魅力を感じました。
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    初期研修 多職種研修
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    初期研修 病棟のお茶会では抹茶を点てました

在宅医療に関心を持った 「原体験」

― 大学時代に在宅医療に興味を持たれたそうですが、きっかけは何だったのでしょう?

弘前大学の4年生の頃に参加した病院見学実習が強烈な原体験となりました。そこで同行させていただいた在宅医療専門の先生が提唱されていた「玄関診断学」というアプローチに深い感銘を受けたんです。先生は「玄関を一歩またげば、その家の背景が見えてくる」とおっしゃっていました。飾られた絵画や掛け軸から経済状況や趣味が分かりますし、逆に玄関の荒れ具合から生活の困難さが伝わってくることもあります。几帳面な性格なのか、それとも大雑把なのか。玄関から得られる膨大な情報は単なる憶測ではなく、その後のコミュニケーションを広げ、患者さんの社会的・経済的背景を深く知るための大切な鍵になります。
診察室で待っているだけでは決して見えない「生活のリアル」に触れ、そこから診断や治療のアプローチを組み立てていく。この「玄関診断学」との出会いを通じて、病気だけを診るのではない在宅医療の奥深さに魅了され、自分もこうした医療を大切にしていきたいと強く思うようになったんです。

― 外来診療と在宅医療では向き合い方にどのような違いを感じますか?

一番大きな違いは、医療者が「相手のフィールドにお邪魔する」という感覚です。病院の外来はあくまで医療側のフィールドであり、限られた予約時間の中で基本的には患者さん本人の情報しか得られません。また、患者さんも無意識に「よそ行き」の顔になり、少しかしこまってしまうものです。
対してご自宅では、患者さんは非常にリラックスされています。部屋の中に刻まれた人生の軌跡や同席するご家族との関係性、日々の暮らしぶり……。玄関から一歩中へ入ることで、その人の「人生の地続きにある姿」が自然と浮かび上がってきます。外来では見せない表情や本音に触れられる距離の近さは在宅医療ならではの醍醐味だと言えますね。
疾患だけを診て治療しても、患者さんの生活環境が変わらなければ、結局は同じ状況で再入院を繰り返してしまいます。「SDH(健康の社会的決定要因)」という視点を持ち、暮らしの背景まで含めてアプローチできる在宅医療は私が理想とする「その人らしさを支える医療」に直結していると感じています。
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    在宅の患者さんと一緒にお花見

― 初期研修先として健生病院を選ばれた経緯と、そこでの学びについて教えてください。

大学4年生の時に健生病院を見学し、その理念に強く共感したのが始まりです。この病院は経済的に困難な状況にある方々の「最後の砦」としての役割を担っており、社会問題を学ぶ機会も豊富でした。実習ではソーシャルワーカーさんに同行し、医療費の支払いが難しい方や生活保護が必要な方など、社会的・経済的に困難を抱える患者さんへの手厚いサポートを目の当たりにしました。単に病気を治すだけでなく、その人の暮らし全体を支えるという姿勢が、病院全体に根づいていたのです。その現場に触れ「ここで働きたい」と迷わず決意しました。健生病院がやっている奨学金制度もその時から利用することにしたんです。
研修を通じて学んだのは、疾患の背後にある生活課題を解決するために多職種で連携する重要性です。医師が医学的アプローチを全うする一方で、生活面の支援についてはソーシャルワーカーや看護師とシームレスに連携する。この「切れ目ない横のつながり」こそが、患者さんの生活を守る強みになるのだと実感しました。
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    初期研修医時代
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    緩和ケア病棟のハロウィンイベント
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    CVC研修

「総合診療×女性医療」を青森で

― 現在は総合診療の専門研修中ですが、具体的にどのような学びを深めていますか?

現在は健生病院で専門研修プログラムの専攻医1年目にいます。病棟業務や外来、訪問診療を並行して行うほか、指導医のもとで「家庭医療」のエッセンスを詰め込んだ症例検討(CBD)を重ね、ポートフォリオの作成にも取り組んでいます。実は青森県内では新しい家庭医の専攻医が非常に少なく、責任と孤独感の両方を感じながらも質の高い指導に支えられ充実した日々を送っています。
また、自ら希望して「ハイブリッド外来」という特殊な研修も組んでもらいました。月曜から金曜まで、整形外科・内科・泌尿器科・産婦人科・救急と日替わりで異なる科の外来を担当する、まさにマルチタスクな研修です。
診療所などの現場では患者さんは必ずしも適切な科を選んで来られるわけではありません。「肩が痛い」という主訴に対し、内科の知識だけで「専門外だから整形外科へ」と即座に断るのではなく、まずは自分で診察して適切に専門医へつなぐ判断力を養いたい。その一心で何でも診るための土台作りを徹底して行っています。
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    JPCA2024へ参加
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    JPCA2025へ参加
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― 3〜5年後の近い将来の目標について教えてください。

私の活動の大きなキーワードは「女性医療・ウィメンズヘルス」です。将来的には地域に根差した「診療所」というフィールドで家庭医として歩んでいきたいという思いがあります。
具体的には日常の総合診療の中にウィメンズヘルスの知識を溶け込ませた、女性のためのプライマリ・ケアを実践したいと考えています。内科の外来を訪れる女性患者さんの背景には月経の悩みや更年期障害といった特有の不調が隠れていることが少なくありません。
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    産科婦人科学会2025 SRHR企画での発表
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    JPCA2025で 産婦人科医 伊藤雄二先生と
今、週に一度は産婦人科外来も担当していますが、これは2年間継続する予定です。まずは自分自身が「何でも相談できる入り口」となり、専門医と連携しながら女性の健康をトータルで支えられる存在になりたい。母がかつて地域で見せてくれた背中を追いながら、青森あるいは縁のある場所で、一人ひとりの人生に寄り添う診療所の医師として活動していきたいですね。
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    専攻医として産婦人科研修もしています

― 「ウィメンズヘルス」という領域に惹かれるようになった理由はなんですか?

原点は大学時代のサークル活動にあります。性教育について学ぶ中で、日本の性教育の遅れや女性の人権、そして自分自身の体さえ十分に守られていない現実に衝撃を受けたんです。そこから「この現状を変えなければ」という思いが芽生えました。
大学5・6年生の時には、医学生と文系学部の学生で協力し産婦人科医の監修の元で、産婦人科受診のハードルを下げるための冊子『産婦人科への一歩』を作成しました。市内の医療機関を紹介することで「困った時に頼っていい、相談していい場所なんだよ」と全学生に伝えた経験は、私の中で今も大きな財産となっています。
かつて学会で、総合診療医が女性医療をテーマに登壇している姿を見て「これだ!」と確信しました。産婦人科へ行くには少し勇気がいるけれど、誰かに相談したい……。そんな不調を抱える方々が、最初の一歩として訪ねてくれる場所を作りたい。総合診療という広いフィールドだからこそできるウィメンズヘルスの形をこれからも追求し続けていきたいと思っています。
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    産婦人科受診のハードルを下げるための冊子 『産婦人科への一歩』
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    大学5・6年生の時に、医学生と文系学部の学生で協力して作成・市内に配布

プロフィール

津軽保健生活協同組合 健生病院 総合診療科 宮澤 千裕先生

<経歴>
2023年   弘前大学医学部卒業
2025年~ 津軽保健生活協同組合 健生病院  初期研修修了
津軽保健生活協同組合 健生病院 CFMD総合診療専門研修プログラム・東北
CFMD家庭医療レジデンシー・東北 後期研修開始

<所属学会>
・日本プライマリ・ケア連合学会
・日本産科婦人科学会
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    青森の夏 ねぶた祭
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    青森の春 弘前公園の桜

取材後記

取材を通して印象的だったのは、宮澤先生の言葉のはしばしに宿る「しなやかな強さ」です。医師を目指した原点にお母様の背中があり、大学時代に「玄関診断学」という言葉に出会い、現在は多忙を極める「ハイブリッド外来」に自ら志願して飛び込む。その一貫した行動力の源泉には、常に「目の前の人を、その生活背景ごと丸ごと支えたい」という純粋な願いがあるのだと感じました。
特に、総合診療とウィメンズヘルスを掛け合わせる視点は多くの女性にとって救いになるはずです。「誰かに相談したいけれど、産婦人科へ行くには勇気がいる」という声に耳を傾け、地域の入り口として存在しようとする姿勢に次世代の家庭医としての理想像を見ました。そうした宮澤先生の挑戦を、これからも応援せずにはいられません。

最終更新:2026年03月11日 15時29分

「プライマリ・ケア公式WEB」 

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