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Vol.63/ 「日本一の超高齢地域 秋田 を、多職種の方たちと支えていきたい」【医師】髙橋琴乃先生

今回ご登場いただくのは、秋田で生まれ育ち、地元の医療を支える道を選んだ髙橋琴乃先生。中学生の頃にニュースで見た「秋田の医師不足」という現実に衝撃を受けて「自分にできることはないか」という純粋な思いを原点に総合診療医としての道を歩んでこられました。そんな髙橋先生の、これまでの歩みと未来へのビジョンをひもときます。
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医師不足の原風景と「総合診療」への覚悟

― 髙橋先生が医師を志されたきっかけをお聞かせください。

実は家族に医師がいるわけではないんです。兄が放射線技師をしていますが、その影響というよりは、中学3年生の受験期にたまたまテレビのニュースを目にしたことが決定的なきっかけでした。そのニュースでは、日本の課題としてではなく、まさに私が住んでいる「秋田県」の医師不足が深刻な社会問題としてクローズアップされていました。当時の私は中学生なりに「地元のために何か自分にできることはないか」とずっと自問自答していたんですが、その番組を見て、漠然とではありますが「総合的にいろいろな疾患を診られる医師になれば、秋田の医師不足の解消に少しでも貢献できるのではないか」という直感を得ました。
その時はまだ「総合診療」という言葉自体は知りませんでしたし、医学部に入る前ですから「何科」という区分けも正直よくわかっていませんでした。ただ、特定の専門に特化して断るのではなく、困っている人を誰でも受け入れられる「何でも診られるお医者さん」への強い憧れが芽生えたんです。それがその後の私の進路を決める軸となりました。

― 「何でも診られる医師」というイメージが「総合診療」に結びついたのはいつ頃でしたか。

高校時代に拝聴したある講演が大きな転機でした。現在も秋田大学で医学教育に携わっていらっしゃる長谷川仁志先生が、当時から「総合的な診療能力のある医師」というスタンスを提唱されていて、それを聞いた瞬間に「私が進むべき道はこれだ!」という感覚がありました。それまで自分の中で抽象的だったイメージが、専門的な学問としての「総合診療」と鮮明に結びついた瞬間でした。
当時はまだ新専門医制度が始まる前で、総合診療医を目指すことは非常にマイナーな選択でしたが、私はその道を一筋に志すようになりました。医師としての診療スタイルが固まる前に、若いうちから「疾患ベースではなく人間ベース」の視点を身につけたいという思いがあったんです。その目標が明確だったからこそ、地元である秋田大学医学部への進学も、私にとってはごく自然な選択でした。

― 他の診療科に惹かれるなどの迷いはありませんでしたか。

正直に言うと、初期研修中は揺れ動いた時期もありました。秋田赤十字病院での研修中、皮膚科あるいは内科の中でも糖尿病内分泌内科など、それぞれの専門科の奥深さに触れるうちに「この道もいいかもしれない」と悩むことがあったんです。
でも、自分の心と向き合ってみると、その根底にあったのは「その人自身を丸ごと支えたい」という気持ちだったことに気づきました。今で言う「ウェルビーイング」に寄与したいという思いです。それに気づいた時、やっぱり自分は特定の症状だけを診るのではなく、その人の人生や生活を支える「人間ベース」の診療スタイルを追求したいんだと確信しました。ちょうど新専門医制度が始まるタイミングとも重なって「総合診療専門医育成プログラム」への参加を決意しました。

地域研修で学んだ「生活ありきの医療」と多職種の絆

― 専門研修で秋田県内の各地を回られて、どのような現実に直面されましたか。

秋田県の「日本一の高齢化」という厳しい現実を、研修先の男鹿みなと市民病院や市立大森病院で文字通り肌身に感じました。多くの高齢患者さんは、高血圧、糖尿病、心不全など複数の疾患を抱える「多疾患併存」の状態にあります。一つの病気だけを完璧に管理しようとしても、その人の生活背景が整っていなければ、健康を維持することは不可能です。
例えば、独居で認知機能が低下している方や、老老介護で遠方にお子さんがいらっしゃるご家庭など、診療室での会話だけでは見えない課題が山積していました。医療者が薬を出すだけでなく、どのように介入し、生活環境をどう整えるべきか。病気の管理を超えて「いかにその人らしく、心地よく生きてもらうか」という視点でのアプローチこそが、今の秋田の医療には不可欠なのだと、現場の患者さんたちから教わりました。
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    診察風景の様子

― 「地域ごとの違い」についても、興味深い発見があったとお聞きしています。

そうですね。男鹿みなと市民病院は港町にあり、漁業関係者の患者さんが多くいらっしゃいました。一方で、その後に行った市立大森病院は純然たる農村地帯で、農業従事者が大半を占めていました。面白いことに、職業や生活習慣によって、かかりやすい疾患の傾向はもちろん、通院のスタイルやコミュニケーションのあり方、さらには「気質」までもが微妙に異なるんです。こうした「地域差」に気づき、患者さんのバックグラウンドを深く理解しようとする姿勢は、特定の臓器に留まらない総合診療医ならではの視点だと思います。その地域に住む人々が何を大切にして生きているのか。それを知ることが、適切な医療を提供するための第一歩になるのだと確信しました。
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    地域の患者さんに寄り添う髙橋先生。

― 研修を通じて得た学びや価値観の変化は何でしたか。

いい意味で「医師一人では何もできない」ということを悟ったことです。中学生の頃に夢見た「何でも診られる万能な医師」は、現実には存在しませんでした。特に眼科や耳鼻科の専門的な診察、あるいは高度な手術手技が必要な場面では、医師一人の技術や知識には限界があります。専門医の先生方に適切に相談しつつ、自分たちが責任を持って診るべき範囲を明確にする。「専門家に頼りすぎないスタンスを持ちつつも、謙虚に他者の力を借りる」ことが大切だと感じました。
また、患者さんの生活を支えるためには、医師が指示を出すだけでは不十分です。看護師、ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、薬剤師など多職種のプロフェッショナルが対等に連携し、一人の患者さんを地域全体で支える体制を築く。医療は患者さんの人生を豊かにするための資源の1つです。患者さんに必要十分な医療を提供し、その人生に伴走するために多職種連携は必要不可欠だと感じています。

大学病院での現在と次世代へつなぐ未来のビジョン

― 秋田大学の総合診療部で、どのような役割を担っていらっしゃるのでしょうか。

主に、地域のクリニックや他の専門科から紹介される「診断困難事例」や「症状改善困難事例」の外来診療を担当しています。患者さんの訴えをどれほど丁寧に聞き、検査を尽くしても、一筋縄では確定診断に至らないケースが非常に多いです。
しかし、診断名がつかないからといって、患者さんの苦しみがなくなるわけではありません。「常にできることを全てやる」という信念のもと、診断に至らないプロセスも含めて患者さんの不安に寄り添い、最善の選択肢を一緒に探り続けています。大学という高度医療機関における総合診療の役割は、単なる「診断の窓口」だけではありません。患者さんが安心して次の一歩を踏み出せるよう、心理的な支えも含めた包括的なケアを提供することに、強い責任感とやりがいを感じています。
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    頼りになる先生たちと。

― 指導医として、学生や若い研修医たちに伝えたいメッセージはありますか。

総合診療に対して「結論が出なくてスッキリしない」「高齢者医療ばかりで地味で暗いイメージがある」といったネガティブな印象を抱く学生さんは少なくありません。でも、実際の現場は全く違います。診断名がつかないからこその深い人間関係の構築があり、一人ひとりの人生に深く介入し、その人の生き方そのものを応援できる醍醐味があります。
私はその面白さを、彼らにしっかりと伝えていきたいと思っています。最近では、低学年のうちから総合診療に興味を持つ学生が増えてきていることに、大きな手応えを感じています。彼らがせっかく抱いた関心を絶やすことなく、迷わずこの道を選び、誇りを持って歩み続けられるような環境を整えていくことが私の使命だと考えています。
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    髙橋琴乃先生が現在勤務する秋田大学医学部附属病院
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    医局スタッフのみなさんと

― 最後に、髙橋先生が描く将来の夢やビジョンについて教えてください。

いずれはクリニックというフィールドで、外来診療と訪問診療の両方を手がけたいという夢があります。以前、初めて在宅看取りを担当した際、医療処置が非常に多い患者さんでしたが、ご家族の献身的な支えのもと、最期をご自宅で迎えられた姿に深く感動した経験があります。患者さんが最もリラックスし、自分らしくいられる「ご自宅」というフィールドで、生活に溶け込んだ医療を提供すること。それこそが、私が理想とする医療の形です。
秋田にはまだ訪問診療をメインに学べる施設が少ないため、将来的には自らそうした場を創出し、後進を育てる環境を作りたいと考えています。中学生の時に思った「秋田への貢献」を、今度は私を追いかけてくれる後輩たちと一緒に実現していく。この秋田の地で、誰もが最期まで安心して自分らしく暮らせる未来を作るために、一歩ずつ着実に歩みを進めていきたいと思います。
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    JPCA2024 東北支部学術集会にて。

プロフィール

秋田大学 総合診療・検査診断学講座 
医員 髙橋 琴乃


<経歴>
2017年  秋田大学医学部医学科 卒業
     秋田赤十字病院 初期研修医
2019年 秋田大学アカデミック総合診療専門医育成プログラム
    (現 あきたGP NET専門研修プログラム)、
                秋田大学家庭医療専門医育成プログラム
    (現 あきたGP NET家庭医療専門研修プログラム)にて専門研修開始
     秋田大学 総合診療・検査診断学講座 医員(救急科・内科ローテート)

2020年 秋田赤十字病院 医員(内科・小児科ローテート)
2021年 男鹿みなと市民病院 内科 医員
2022年 市立大森病院 内科 医員
2024年 秋田大学 男鹿なまはげ地域医療・総合診療連携講座 寄附講座研究員
2026年 秋田大学 総合診療・検査診断学講座 医員

<資格・認定>
・日本専門医機構認定総合診療専門医(2023年度認定)
・日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医(2024年度認定)
・日本専門医機構総合診療専門研修特任指導医(2025年度認定)

<所属>
・日本プライマリ・ケア連合学会
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取材後記

インタビュー中に「自分は輝かしいビジョンを持っているわけではない」と謙虚に語った髙橋先生。しかし、その言葉のはしばしからは、故郷・秋田の医療を自らの手で守り抜こうとする強固な意志と、患者さんへの温かな眼差しが伝わってきました。 総合診療と生活支援を掛け合わせ、日本一の超高齢社会を「絶望」ではなく「希望」に変えようとする髙橋先生の挑戦。その情熱が、秋田の未来を明るく照らし始めていることを確信した取材でした。今後の髙橋先生のご活躍におおいに期待したいところです。

最終更新:2026年05月14日 14時51分

「プライマリ・ケア公式WEB」 

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