ホームニュースプライマリ・ケア Field LIVE!vol.50/ 「病院と薬局の垣根を超えた薬薬連携で、地域の患者を長く見守る体制づくりを」 【薬剤師】田中康裕先生
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プライマリ・ケア Field LIVE!
vol.50/ 「病院と薬局の垣根を超えた薬薬連携で、地域の患者を長く見守る体制づくりを」 【薬剤師】田中康裕先生
今回ご登場いただくのは、病院薬剤師として活躍する田中康裕先生です。東京都内の病院で20年間勤務され、現在は地元の長野県飯田市にある輝山会記念病院で院内調剤や入院患者の服薬指導など包括的な薬剤管理を担っておられます。薬剤師として感じた都心部と地方の医療の違いや今後の課題感などをプライマリ・ケアの視点からお話しをいただきました。
化学への興味から薬剤師の道へ
― 田中先生が薬剤師を目指した経緯を教えてください。
医療の仕事に興味はあったのですが、最初から薬剤師を目指していたわけではないんです。予備校の講義で化学の面白さに目覚め、「だったら薬学の道へ進んでみたら?」と講師の先生に背中を押される感じで1995年に薬科大学へ進学しました。実際に大学に入ってみると、家業の薬局を継ぐためなど、薬剤師になることを目指して薬学部へ入ったという同級生が多く、私はそうではなかったのでアウェー感が強かったことを覚えています。
― 薬剤師の仕事に本格的な興味を持ったのは?
入学して直ぐにに受けた「薬学入門」という講義がきっかけです。薬学部が4年制から6年制に延長される議論が始まったタイミングで、それまで薬局での調剤業務のイメージが強かった薬剤師の活躍フィールドが、病棟業務や医療薬学など拡がりつつあることを学びました。薬局で調剤する以外に「病院の薬剤師」という進路の選択肢があることを初めて知り、面白そうだ!と思いました。
― それで、病院の薬剤師としてキャリアをスタートされたのですね。
大学院で生化学の基礎研究を深く学び続けるか、臨床の現場へ進むか迷ったのですが、ご縁があって前職の等潤病院へ就職しました。東京の足立区にある164床(当時)の中小規模のケアミックス型の病院でしたが、薬剤管理指導の届出を都内の病院の中でもいち早く行い、私が働き始めた2003年には院外処方も既に行っていました。薬剤師が医師へ処方内容のフィードバックをしたり、病棟を巡回して入院患者さんの服薬確認や指導を行うなど、今思うと先駆的なことを早くから実践していました。
― どういった患者さんが多かったのでしょう?
大きく分けて、内科、外科、整形外科の入院患者さんが多かったですね。20年勤務したのですが、徐々に高齢者の患者さんが増えて、薬剤コントロールの必要性が高くなりました。例えば急性期の外科に入院した場合に、高齢患者さんは痛み止めの薬と抗生剤に加えて、高血圧や糖尿病などの持病も考慮した薬剤管理が重要になります。入院時の既往歴のヒアリングはもちろんのこと、病院薬剤師として退院後のことも考えた薬物療法の設計を医師に提案することもありました。
薬剤師の視点を広げるため複数の資格取得をし学会にも参加
― 資格をたくさんお持ちですが、患者さんと向き合うために取得を?
そうですね。がんの症例や緩和ケアの症例など、様ざまな入院患者さんの薬物管理に役立てたいとの思いもあり、外来がん治療専門薬剤師(BPACC)や緩和薬物療法認定薬剤師(BCPPP)、認定がん医療ネットワークナビゲーターなど、取れる資格があれば貪欲にチャレンジしました。職場の環境も資格取得や学会への参加を後押ししてくれる雰囲気があり、学会参加費の補助があるなど恵まれていたと思います。
― 日本プライマリ・ケア連合学会との出会いは?
3つの学会が合併した2010年に東京国際フォーラムで開催された第1回の学術大会に参加したのが最初の出会いで、確かその日に入会した気がします(笑)。プライマリ・ケア認定薬剤師の資格に興味があり、勤務先の病院からも近かったので話しを聞きに行ってみよう!という軽い気持ちでしたが、見事に心をつかまれました。当時、他の学会にも参加していたのですが、JPCAは全く違う雰囲気で新鮮に感じました。
― 具体的に、どういった点が?
衝撃を受けたのが、薬剤師だけではなく、医師や看護師、療法士、医療ソーシャルワーカーなど多職種の方が垣根を超えて同じテーブルに座り、活発な意見交換を行っていることでした。本来こうあるべきだという多職種連携の有り様を目の当たりにした気がしました。しかも、皆さんがフランクで明るく、前向きで積極的で学ぶことが多い。参加するたびに元気になれる学会だと感じています。
― 現在、学会でどのような活動を?
入会後にプライマリ・ケア認定薬剤師の資格を3期生として取得し、現在は薬剤師認定制度の委員会で協力委員として認定資格の更新申請に必要なポートフォリオの査読などのお手伝いをしています。また、関東甲信越ブロックの代議員として運営の議決にも携わらせてもらっています。
地元の病院でプライマリ・ケア視点の薬物療法に従事
― 現在の勤務先は、長野県の総合病院とのこと。なぜ、東京から長野へ?
輝山会記念病院がある長野県飯田市は、私の地元なんです。約8割が森林で病院の東側に天竜川が流れ、その奥に南アルプスが広がっている自然豊かな田舎です。陸の孤島のような側面があり、大学病院などの高次医療機関が100キロ以上離れているなど医療格差を感じこともありますが、院内処方で医師の診療から調剤まで一元化されているため、逆にプライマリ・ケアに近い医療が提供できる良い側面も感じています。
― 例えば、どういった面で感じますか?
東京の病院にいたころは、薬剤管理に必要な既往歴や生活の困り事などをヒアリングする際に、プライベートな領域に立ち入られることを好まれない患者さんも珍しくありませんでしたし、私自身も少し躊躇がありました。ですが、こちらは田舎で人口も少なく狭い地域であるためか、何人か辿れば共通の知り合いに辿り着くということも多いためか、もう少し気さくに話ができる雰囲気があり、。、ある意味コミュニケーションの密度が濃くなった気がします。患者さんの生活背景や、何を大事にしていて、今どういうことを気にかけているのか、今後どんな人生を歩みたいのか、そういった話しを東京にいた時よりも近しい感じで重ねていけるような気がするので、より包括的な視点から調剤や服薬指導などを考えられるようになりました。
― 薬剤師として大切にされていることは?
特に最近、強く意識しているのは「薬がない前提で患者さんとコミュニケーションが取れる薬剤師でありたい」ということですね。例えば、患者さんに「薬を飲みたくない」と言われたときに、何とかして飲んでもらおうと考えるのではなく、なぜ「飲みたくない」のかその理由を伺ったうえで、できるだけ飲まなくてもいい方法を考えるようにする。処方された薬の説明が重要なのではなく、向き合っている患者さんの話しを聞いて、生活に寄り添った服薬タイミングや飲み忘れの防ぎ方などを一緒に考えて、患者さんと一緒に歩んでいくことが大切なのだと実感しています。
病院と薬局の 「薬薬連携」 の強化を目指して
― 田中先生が最近、感じている課題感はありますか?
マイナ保険証の資格情報をオンンライン確認できるようになり、従来は病院薬剤師から薬局へ提供していた患者さんの薬剤情報などの医療データの共有が比較的容易になりました。患者さんご本人の同意があれば、健診で受けた血液検査の結果や医療機関での処方内容などの情報共有が可能です。だからこそ、病院薬剤師も薬局薬剤師も、もう一歩先のことを考えた連携を実践していくべきフェーズに移ってきたと受け止めています。
― よりプライマリ・ケアの視点が大切になる?
がん治療が進化して予後が伸びる方が多くなる今後は、薬剤師としてプライマリ・ケアの視点が求められると感じています。例えば、免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれる副作用は、下痢や咳など風邪の時みられる症状から皮膚障害、内分泌障害、神経障害、心筋障害など多岐に渡ります。重篤化を避けるには早期の対応が大変重要ですが、ある程度の発現時期は分かってきたものの正確な発現時期の予測は困難です。これらのirAEは治療が終わった数か月後、あるいは数年後に出現する可能性があります。風邪だと思った症状が実はirAEだった、ということが起こり得る訳です。だからこそ今まで以上に、長い目で患者さんと向き合ってフォローする必要性があります。また、マイナ保険証になる以前にがん治療を終えた患者さんが免疫チェックポイント阻害薬の投与を受けていたとしても、その情報はマイナ保険証からは得られませんから、様ざまな不調を訴えた際に免疫関連有害事象(irAE)を疑うことができるかといった課題もあります。
― 病院と薬局の薬剤師の連携が、ますます重要に?
そう思います。様ざまな認定資格を持つ薬剤師が複数在籍している都市部の比較的大きな薬局であれば、一般的な疾患から緩和ケアが必要ながん患者さんまで幅広くサポートできますが、地方の小さな薬局では対応が追いついていないという格差が生まれかねません。さらに、何年後に起こるか分からないirAEを拾い上げるためにも、専門医療機関連携薬局や地域連携薬局を中心に、病院と薬局、薬局と薬局の連携を広げ、それぞれの機能や役割に応じて地域全体でフォローしあえる体制の強化が今後ますます重要になるでしょうね。
― 今後の目標をお聞かせください。
地域の拠点病院が音頭を取って、薬薬連携を働きかけていくのが理想的です。そのための声を上げることが病院薬剤師としての役目なのかなと感じています。また、病院の関連施設として3つの診療所、老健、特養があり、全ての調剤に携わっているので、将来的に薬剤師として在宅医療にも積極的に関わりたいという思いもあります。病気は患者さんの一部分に過ぎません。入院中から退院後の生活まで包括的にケアできる薬剤師でありたいですね。
プロフィール
医療法人 輝山会 輝山会記念病院 薬剤部
薬剤師 田中康裕(たなか・やすひろ)
【経歴】
1999年3月 東京薬科大学薬学部卒業
2001年3月 東京薬科大学大学院薬学研究科薬学専攻前期博士課程修了 修士(薬学)
2003年2月 東京薬科大学大学院薬学研究科薬学専攻後期博士課程 退学
2003年2月 社会医療法人社団 慈生会 等潤病院 入職
2022年3月 社会医療法人社団 慈生会 等潤病院 退職 (退職時職位 薬剤科長)
2022年4月 医療法人 輝山会 輝山会記念病院 入職 現在に至る
【認定・資格】
外来がん治療専門薬剤師(BPACC):日本臨床腫瘍薬学会
緩和医療暫定指導薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師(BCPPP)、麻薬教育認定薬剤師:日本緩和医療薬学会
プライマリ・ケア認定薬剤師:日本プライマリ・ケア連合学会
研修認定薬剤師:日本薬剤師研修センター
認定がん医療ネットワークナビゲーター:日本癌治療学会
公認スポーツファーマシスト:日本アンチ・ドーピング機構など
【所属学会】
日本臨床腫瘍薬学会(渉外委員会 日本サイコオンコロジー学会合同事業小委員会委員長)
日本癌治療学会(認定がん医療ネットワークナビゲーター薬剤師WG専門委員)
日本緩和医療薬学会
日本プライマリ・ケア連合学会(代議員、薬剤師認定制度委員会協力委員)
日本在宅薬学会(評議員、研修委員会委員)
日本サイコオンコロジー学会
薬剤師 田中康裕(たなか・やすひろ)
【経歴】
1999年3月 東京薬科大学薬学部卒業
2001年3月 東京薬科大学大学院薬学研究科薬学専攻前期博士課程修了 修士(薬学)
2003年2月 東京薬科大学大学院薬学研究科薬学専攻後期博士課程 退学
2003年2月 社会医療法人社団 慈生会 等潤病院 入職
2022年3月 社会医療法人社団 慈生会 等潤病院 退職 (退職時職位 薬剤科長)
2022年4月 医療法人 輝山会 輝山会記念病院 入職 現在に至る
【認定・資格】
外来がん治療専門薬剤師(BPACC):日本臨床腫瘍薬学会
緩和医療暫定指導薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師(BCPPP)、麻薬教育認定薬剤師:日本緩和医療薬学会
プライマリ・ケア認定薬剤師:日本プライマリ・ケア連合学会
研修認定薬剤師:日本薬剤師研修センター
認定がん医療ネットワークナビゲーター:日本癌治療学会
公認スポーツファーマシスト:日本アンチ・ドーピング機構など
【所属学会】
日本臨床腫瘍薬学会(渉外委員会 日本サイコオンコロジー学会合同事業小委員会委員長)
日本癌治療学会(認定がん医療ネットワークナビゲーター薬剤師WG専門委員)
日本緩和医療薬学会
日本プライマリ・ケア連合学会(代議員、薬剤師認定制度委員会協力委員)
日本在宅薬学会(評議員、研修委員会委員)
日本サイコオンコロジー学会
取材後記
「地元ではまだまだ新参者の薬剤師です」と謙遜しながら、都心部と地方で異なる医療の利点と課題や薬薬連携の必要性を語ってくださった田中先生。病院薬剤師としての豊富な経験値、多岐に及ぶ所属学会での活動や認定資格を活かし、地域の薬薬連携のために何ができるか模索されている真摯な姿勢が印象的でした。今後、地域の病院と薬局を結ぶ中心的な役割を担っていかれることでしょう。さらなるご活躍を期待しています。
最終更新:2025年05月01日 10時55分
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