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vol.56/ 「みんなで家庭医になろう、と支え合える仲間の存在が今につながっている!」【医師】吉羽史織先生

今回ご登場いただく吉羽史織先生は医師を志した当時から「家庭医」を目標にしていたとのことです。家庭医を目指して医学を学ぶ中で、思いをともにする仲間たちの存在が大きかったという吉羽先生に、研修時代のことや同じ家庭医であるご主人のこと、また今後取り組んでいきたいことなどを様々にお話していただきました。
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人に寄り添える仕事として選んだ医師

— 先生が医師を志されたのは、いつ頃のことですか。

高校2年の夏です。大きな出来事があったわけではありませんが「人の役に立つ仕事をしたい」という思いがずっとありました。当時は文系科目が好きで、弁護士を目指していたんです。ところが夏に大手弁護士事務所を見学した際、主な仕事が企業法務で、もっぱら会社間の利権やお金の問題を扱うということを知りました。私が想像していたのは刑事裁判や離婚調停で弱者を支える姿だったので「これは自分の望む仕事とは方向性が違う」と感じました。
そこで改めて考え直し、思い浮かんだのが医師という道です。人に寄り添える仕事として最もやりがいを実感できるのではないかと思い、高校2年から医学部受験を意識して勉強を始めました。

— 医学部に入学された時点で、すでに目指す医師像は見えていたのでしょうか。

はい。高校3年の冬に、北海道で活動されていた家庭医・中川貴史先生のドキュメンタリーをNHKで見たことが大きなきっかけでした。その姿がまさに私が思い描いていた「患者さんに最も近い存在として支える医師」だったんです。そのため大学入学当初から家庭医を志す気持ちは固まっていました。
途中で産婦人科や小児科に惹かれることもあったりしましたが、最終的に「自分のやりたいことはすべて家庭医として実現できる」と確信しました。迷うことなく家庭医への道を選びました。

— 初期研修を亀田総合病院で行われた理由を教えていただけますか。

亀田総合病院のことを知ったきっかけは学生時代から参加していた「家庭医療学夏期セミナー」です。学生や研修医向けのセミナーで、亀田の先生方が毎年セッションやプログラム紹介をされていました。徐々に先生方と顔見知りになり、雰囲気の良さに強く惹かれました。
研修先を探す段階を迎えたとき、実家が関東にあるので「関東で研修したい」と考えました。そこで亀田が関東にあることを思い出し、見学に行って決めたというのが経緯です。その後は後期研修でもお世話になりました。
この家庭医療学夏期セミナーはJPCAのセミナーで、私は1年生の頃から参加していました。全国で活躍する先生方の話を直接聞けたり、さまざまな取り組みを知ることができたりと学生にとっては貴重な情報収集の場でした。さらに、先輩方と知り合うきっかけにもなります。私自身も夏期セミナーで仲良くなった人たちに再会するために学会に足を運ぶようになった面もあります。
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    亀田総合病院初期研修修了

患者さんとの「意味のある雑談」

— 研修を通じて印象に残っている出来事や学びはどのようなものですか。

特定の一つというより、学生時代に夏期セミナーのワークショップなどで漠然と学んでいたことが、専攻医として家庭医療を実践する中で「こういう意味があったのか」と腑に落ちていく感覚がありました。知識として点在していたものが実体験を通して線で結びつき、理論として理解できるようになる過程がとても面白かったですね。
また、自分の患者さんを持ち、学んだ方法を実際に試してみると教科書通りにはいかない発見がありました。亀田では初期研修から外来を担当し、最初は1時間かけて1人の患者さんをじっくり診る機会が与えられます。その時間の中で「何を話せばいいのだろう」と最初は戸惑いました。先輩方に相談すると「雑談にも意味がある」と教えていただき、どうすれば意味のある雑談ができるかを意識するようになりました。最初は深く理解せずに雑談をしていたのですが、経験を重ねるうちに外来の時間が限られていてもしっかりお話ができるようになっていったと思います。
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    夏期セミナーの仲間たちと専攻医になってから冬セミで集合
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    学生時代に夏期セミナーで知り合った仲間と2024年の夏期セミナーで初日企画を開催
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    初期研修の地域ジェネラリストプログラムの同期と

—「意味のある雑談」 のコツはありますか。

相手の価値観や健康観、その人がこれまでどんなことを大切にしてきて、これからの人生で何を大切にしたいか……そうした部分に触れられるような質問を意識しています。
もちろん初対面では深く踏み込むのは難しいですが、亀田では初期研修から外来を担当できるため1年目から診ている患者さんもいます。長い方だと7年くらいのお付き合いになり、身内のご不幸やお子さんの独立といった人生の節目を一緒に経験してきました。その中で自然に関係が深まり、信頼関係も強くなっていったと言えます。
「意味のある雑談」は一度の診療で完結するものではありません。何度も顔を合わせ、時間を共有し、悩みや喜びを分かち合う中で患者さんの気持ちの変化を汲み取れるようになっていくものだと感じています。

— 周産期メンタルヘルス学会にも入っていらっしゃいます。

周産期メンタルヘルス学会に入会したのは小児虐待に関心を持ったことがきっかけでした。虐待について学ぶ中で、急性期の対応も重要ですが、それ以上に予防の取り組みが必要だと感じたためです。妊娠中や出産後のお母さんたちが追い込まれず、安心して子育てできる環境を整えることに貢献したいと思うようになり、自然と母親のメンタルヘルスに関心を持つようになりました。その背景としては亀田の家庭医プログラム自体が「ウィメンズヘルスにも力を入れる」と掲げていることがあげられます。
こうした分野は家庭医の領域とも非常に親和性が高いと考えています。精神科の先生方と話していると、彼らの主な対象は「病院に来るほどしんどい人」であり、予防や「受診するほどではないけれど、つらさを抱えている人」には十分に手が届きにくいのが現状です。その部分は家庭医が力を発揮できるところだと思いますし、精神科と家庭医がうまく役割を分担し、協働していける形を作っていければと考えています。
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    行政の勉強会でメンタルヘルス分野の講演もされています

夫婦で一つのキャリアを築いている感覚

— 先生はご主人も家庭医で(*)、ご夫婦揃って同じ領域で活躍されています。

*斉藤聡大先生(https://www.primarycare-japan.com/news-detail.php?nid=1346

夫婦ともに家庭医であるメリットは多いですね。例えば少しずつ興味のある分野が違うので、夫との会話を通じて自分一人では触れられなかった分野に自然と関心を持つことができますし、夫が努力している姿を見ると自分も頑張ろうと思える。そうした良い影響を受けています。
また、私たちは互いに「相手を軸に考える」というスタンスを大切にしています。診療でも「人を変えるのは難しい」と患者さんにお話しすることがありますが、夫婦の間でも同じように「どうすれば相手を傷つけずに自分の気持ちを伝えられるか」を自然に考える習慣があると思います。
デメリットを挙げるとすれば「家庭医同士だから」というより「医療職同士だから」こそ、どうしても二人の世界が医療に偏りがちになる点でしょうか。友人も医療関係者が多く、まったく異なる分野の人と関わる機会は少なくなるかもしれません。ただ、そのことを不便に感じたことは今のところありません。
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    学会発表も積極的にされています
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    今年のJPCAにご主人の斉藤聡大先生と一緒に参加

— 3年後、5年後の目標はありますか。

基本的には診療所を拠点に活動していきたいと思っています。在宅医療も訪問診療も外来も好きですし、子どもや女性を幅広く診られる環境で働き続けたいという思いは変わりません。現在は月に2回ほど婦人科で勤務しており、妊婦健診や婦人科診療のスキルをさらに高めたいと考えています。また、院内では子どもの虐待に関するプロジェクトを立ち上げており、その活動を継続していけたらと思っています。
夫とはキャリアに対する考え方がよく似ていて、お互いに「これしかない」と強く決めつけることはせず、柔軟に考えています。個々のキャリアというより二人で一つのキャリアを築いているような感覚です。そのため今のところ大きな揺らぎはありません。

— 最後に、これから家庭医を目指す方々へのメッセージをお願いします。

亀田の研修プログラムは本当におすすめですが、実際にはどこで研修しても良いと思います。大学病院で「家庭医になりたい」と口にすると「やめておいたほうがいい」とネガティブな言葉をかけられることもあります。私自身は学生時代に参加していた夏期セミナーのおかげで心が折れずに進むことができました。
亀田でも同じように「みんなで家庭医になろう」と支え合える同期の存在があったからこそ気持ちを保ちながらやってこられたのだと思います。今は家庭医として楽しく、充実した日々を送れています。家庭医に興味のある方は、ぜひ周りに仲間を見つけ、その気持ちを大切にしながら進んでほしいと思います。

プロフィール

亀田ファミリークリニック館山
吉羽史織


(資格・認定)
 総合診療専門医

(所属学会)
 日本プライマリ・ケア連合学会
    周産期メンタルヘルス学会

(経歴)
 2019年 秋田大学医学部医学科卒業
 2021年 亀田総合病院地域ジェネラリストプログラム修了
 2025年 亀田家庭医総合診療専門医プログラム修了

取材後記

家庭医として活躍されている吉羽先生は、医学部入学前からすでにこの仕事を目指していたとのこと。その根底には「人の役に立ちたい」という一貫した思いがあり、それが行動指針となっています。
人の役に立ちたいという思いは日々の診療でも発揮されています。特に、お子さんを持つ女性のメンタルヘルスに関心を寄せ、周産期メンタルヘルス学会に所属されているのはその表れと言えるでしょう。また、患者さんとの「意味のある雑談」を通して信頼関係を築き上げるというお話は、先生の患者さんに対する真摯な姿勢を物語っていました。
同じく家庭医であるご主人とは互いを高め合い、支え合う理想的な関係を築かれているそうです。インタビューからは仕事もプライベートも充実している様子がひしひしと伝わってきました。吉羽先生には、ぜひこれからも多くの人の役に立つ存在として活躍し続けていただきたいと強く願っています。
ご主人の斉藤聡大先生の時と同じ、素敵なショットを見せて頂けました
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最終更新:2025年10月27日 12時09分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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