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他科/多職種インタビュー企画 福井大学医学部附属病院 救急科・総合診療部 林 寛之先生 インタビュー 第3回

他専門科や多職種のバックグラウンドを知ることで、コミュニケーションが取りやすくなったり、どのようなプライマリ・ケア医が求められているのか、研修中どのように学んでいったらよいかをイメージできるようになるため、インタビューを企画しました。

今回は、福井大学医学部附属病院 救急科・総合診療部 林寛之先生にインタビューを行いました。(全体で8回)

第3回は日本の救急の始まりについて林先生にお話しいただきました。

(聞き手:鈴木,石田,島田)

https://note.com/pc_senkouibukai/n/n6e6afc3b38f9?magazine_key=mb4e3b75e32b8
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石田)それじゃあ、そろそろ次の質問にいかせてもらおうと思います。


林先生)どんどん脱線するぞ。だから人選ミスだって言ったんだよ(笑)。


石田)なぜ救急科が日本で広まったのか先生にご意見をお伺いしていいですか。


林先生)この話、2時間くらいしていいですか(笑)? 司会の石田先生の顔が引きつってる所がいいですね(笑)。 


石田)大丈夫です!お願いします。



林先生)もともと、世界的にはER型救急っていうのが当たり前です。日本だけですよ、ICU型っていうのは・・・。なんでか分かる?

島田)責任感が強いからですか?

林先生)違うよ(笑)。最初は、「なんか海外で救急っていうのができたらしいぞ」って話が出て、「じゃあうちも作ってみよっか」って始まるわけですよ。

 でも救急の研修をした医師なんて日本に1人もいないので、救急って怪我とかくるんだよなということで外科系の人が教授になるケースが圧倒的に多かったんだ。そうすると、虫垂炎が来たときにしろ、胆石発作にしろ、「俺は切れるのに切らないなんてありえない」ってなるわけですよ。脳外科と整形外科、腹部外科・胸部外科、みんなでチームを組むわけです。そうするとみんなで協力して、お互いの分野の手術ができるようになるでしょ。そうなると、少人数ながら各科の担当医が常にスタンバイし術後管理もして、36時間勤務とか365日休みなしってなってくるわけで、テレビの『救命病棟24時』や『コードブルー』みたいな生活が始まるわけです。あれがICU型の始まりなんです。

 だからオールマイティに手術ができて、重傷患者だけみる。ウォークインは診ないっていうのがICU型の日本の救急だったんですね。マンパワー不足の問題もあって。出自が違うのでER型が流行らないわけですよ。自分たちでオペをしたいし、医者のプライドとして入院させて手術したら入院管理もして退院までさせないと満足できないっていう文化があります。

 ただ、海外の先生に聞いてみたんですよ。「ERだけ診て経過を追えないって、満足度低くないですか、寂しくないですか?」って。そしたら「何を言ってるんだ、俺たちはERのプロでこんなにいろんな患者に対応できて、外来しかやってこなかったんだから、不満に思うことは全くないよ。」って言われました。


 アメリカの救急が、他科からひとつの専門分野として認められるまで40年かかっています。日本のERなんて10~20年くらいしか経ってないでしょ。ICU型救急だってやっと50年です。なので日本でも専門科として救急が認められるまでに40年くらいかかってるんですよ。ということは、プライマリ・ケア連合学会はまだできたばっかりじゃない。「あってよかった」ってなるのは、あと30年くらいかかるんじゃないですか。だから、これから若い世代がいじめられながら、地位を確保するには患者さんの信頼を得ること。それから、一緒に働く人たちから信頼を得る。最後に他の医者から認められるには、論文の数であったり、論文の質であったり。それをしないと他科から専門科として認められないわけですよね。だから医者の世界ってすごく歪ですよね。論文がいっぱいあって、患者さんに嫌われて、パワハラするやつでも偉くなるじゃん・・・しらんけど、わからんけど。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-175-1.png
論文300本ないと教授選に出れないとか、じゃあ人気投票して看護師さんに嫌われてるやつはまず投票から外せよとか、患者さん怒鳴ったらそれでクビにしろよとか。そういう人間性は全く問わないという所が非常に残念ですね。本当に、その人を客観的に評価するのは難しいです。アカデミズムは学術的活動でしかみられない所が残念なんですけれども。

 そうなると、我々がちゃんとやるのにそれくらい時間がかかるよということなんですね。救急も40年の下積みがあってICU型が認められて、ER型はこれで10~15年くらいかかって少しずつ認知されてきて、もっとありがとうって言われるにはもうちょっとかかると思います。病院によっては、ERを立ち上げて潰れているところがたくさんあるんですよ。各科との軋轢に耐えられなかったということですね。10年くらい経つと「いてよかったな」って。急になくなると、1人での当直なんてとてもできないっていう風になって。「あいつらいてくれないと困るわ」っていう感覚ができてくるんだと思いますね。その辺りの、他科からみて「いてよかったわ」という感覚が出てくるのには結構時間がかかるんだと思います。

 先生方が考えると良いことは、頭の硬い年寄りを変えなくてもいいんですよ。これから10年先一緒に働く人たちを育てていく方が絶対に良いので。他の科に行く人を一生懸命教えると、他科の専門科に進んだあとでも呼ばれた時に頑張ってくれたりしますよね。


石田)僕も6年目なんですけど、研修医に教える機会は多くて、総合診療科に回ってきた先生に「また総合診療科をよろしくね」って言ったり、「何かあったら相談するからよろしくね」って言ったりすることの連続です。そういう中で、総合診療科はよかったなと思ってもらえると総合診療界隈もだんだんよくなっていくのかなぁと思ったりします。これからも続けていこうと思います。


林先生)医学教育の『教育』って書いて、“きょういく"って読んじゃダメだよ。あれは“せんのう"って読むんだよ(笑)。 

いい洗脳(教育)をして、うちの科の息のかかった人たちが各科で育って行ってくれるといいんだよね。

 救急科の認知が上がってきたというのは時間をかけたという所もあるし、一生懸命教えてるっていうところもあります。ERで一番大事なのは教育なので。整形外科志望の人に「話が合わない肩痛は絶対送ってくれ、心筋梗塞かもしれないから」って言って。こういうことに気をつけるんだよって言って教えました。

 家庭医って心理社会的アプローチを掘り下げた独特の宗教じみた文化があるじゃない。科学を中心にやっている他科から見ると、あいつら医者じゃなくてもできるような胡散臭いことばっかりやってるわ、みたいな。でも綺麗な科学的アセスメントが書いてあったり、各専門科でも使えるような他科が苦手な多職種連携などのフォーマットを提示したりすると、「あいつら役に立つよな」ってなってくると思います。
第3回はここまで。救急科の始まりとあわせて、はじまったばかりの総合診療・プライマリ・ケアが今後どうなっていくのか、若手へのメッセージもいただきました。
第4回は「Subspecialityについて」です。次回もお楽しみに。

最終更新:2022年08月22日 10時56分

専攻医部会

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