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他科多職種インタビュー企画

他科/多職種インタビュー企画 福井大学医学部附属病院 救急科・総合診療部 林 寛之先生 インタビュー 第5回

他専門科や多職種のバックグラウンドを知ることで、コミュニケーションが取りやすくなったり、どのようなプライマリ・ケア医が求められているのか、研修中どのように学んでいったらよいかをイメージできるようになるため、インタビューを企画しました。

今回は、福井大学医学部附属病院 救急科・総合診療部 林寛之先生にインタビューを行いました。(全体で8回)

第5回は都市と地方の救急の違いについて林先生にお話しいただきました。

(聞き手:鈴木,石田,島田)

noteで読むにはこちらから↓
https://note.com/pc_senkouibukai/n/n08d0de1c2a74

石田)

 次の質問ですけれども、都市部と地方で救急のあり方って変わるのかなと思っていて。たとえば地方では病院を受診するまでに時間がかかるから病院前救急の必要性が高まっているとか、都市部では病院が多く役割が細分化されているのかなというイメージがあるのですが、先生はどのようにお考えですか?

 

林先生)

 都市部の方が救急を受診しにくいでしょ。救急って重症しか取らなかったり、救急車で来ないと診なかったりと問題が多いです。東京ER構想で救急車はちゃんと受けましょうって言い方かっこいいけど、後期研修医が中心になって回していると少し悲しいですね。大都会のたらい回し問題は多因子で根が深いですからね。

 

 ある都会での話、患者さんが病院行きたいって救急車呼ぶけど、ある病院の手前で降ろされるの。

「ここから歩いて受付しなさい、直接歩いていけば診てくれるから」って救急隊に言われて。

そして診てもらった時に救急担当医が

「ところでなんで事前に連絡しないできたの?」

「いやいやそこまで救急車で来たんですけど、救急隊にそこから歩いて受診すれば診てくれるからって言われて、歩いてきました」

そこで医師がブチギレて、「どこの救急隊だ!そんなこと言ったのは!」って犯人探しが始まったっていうお話(笑)。

 

 そういう意味では、僕はかなり都会の救急は病んでいるかなと思ってます。行き先がないもん。細分化しているからっていうけど、「いやー、今日めちゃ体だるくて吐き気強いけど、こんなことなったことないし。食後や空腹時も症状はでたことないし。そういえばコレステロール高かったけ。肩の放散痛もあってこれって心筋梗塞からくる心不全症状かな」って言う患者さんはいないんだよ(笑)。「私、五十肩かなあ、80歳だけど。若造りしててよかったわ。肩上がるけど、痛くてたまらんわ」って。これで整形外科行くんだからね。重症かどうかなんて素人にすぐ判断できるものじゃないんだよ。

 それを考えるとER型救急っていう全てを受け入れるところが必要だと思うけど、人口が多い東京も大阪も結構苦労してると思いますよ。総務省が、救急隊員が搬送先を決定するのに4件以上打診をした場合の統計をとっているんですよ。そうすると最も救急車の行き先に困っているのは東京。細分化されているから受診しやすい、じゃないんですよ。細分化されているから「他の病院もいっぱいあるだろ」と、断りやすい環境になってしまっている。それでいて、ジェネラリストが少ないことの弊害が出ているので。今の質問を非常に稀有に感じたのは、ジェネラリストが少ない東京でこそ患者さんは被害を被っていると思います。

 

 例えば、歯が折れたり、顔面骨骨折の人は気道の問題がなければ、救急的には全然慌てないよね。頬骨が折れてる人を診察して折れてますねって言って、痛み止め処方して、冷やして帰宅。患者さんは「え?折れてるのに帰るんですか?」っていうけども、「いいよ帰って。痛み止め出しとくから。」と伝えます。たとえ緊急性は無くても、診察もしないで門前払いはかわいそうですよ。

 

 救急車応需不可(4件以上断られる)例は東京で約4000件ですかね。2番目が埼玉。埼玉は人口比の医者がもっとも少ない。埼玉に住んでいる人は日中は東京に行くけど、埼玉で働いている先生は夜になると青山や六本木などトレンドな素敵な東京のどこかに帰るわけでしょ?だから夜間の人口対医者の比率がもっとも悪いのが埼玉。3番目に断っているのが大阪。ICU型救急を進めているところは残念ながらERが発達していなくて、断っているっていう事実なんですよね。じゃあ都会がダメかっていうとそんなことなくて。福岡とか愛知はいいんですよ。結構受け入れ状況がいいの。なんでだと思う?

・・・名古屋大学の伝統風習ですよ。名古屋大学って昔から卒業してすぐ大学に入局せず、市中病院で2年経験積んでから入局になるんですよ。初期臨床研修制度を昔からやっていたのが愛知県なんですよ。各専門科になってもとりあえず一回は診察するかって文化が根付いている。福岡は徳洲会等がすごい頑張っています。文字通り命削って頑張ってますよね。それだけ頑張っているところがあると都会でもうまくいっている。都会だからどうこうではないです。医師としての育ち方の問題です。だから救急は一括りではなくER型かICU型で全然違う。日本は一般的な救急の裾野の広げ方は失敗したと思っています。

 そういう意味ではERは初期研修医を教えるという意味ではすごい絶好のところです。家庭医もそうだけど自分の患者さんが悪くなった時にここまでは自分で診れるようにしようぜっていう、主治医力というか守備範囲を広げておかないとね。

 

救急の選別の話もさっき出たけど、医者の勘ってどれくらい当たると思う?

背景、年齢性別、主訴、バイタルサインをみて、sickかsickじゃないかって。

              

石田)

 7-8割くらいですか?

 

林先生)

 感度が66%、特異度が88.4%(Am J Emerg Med. 31: 1448-1452, 2013)。いろんなStudyがあって、感度が78%って書いてあるものもある。ぱっと見で悪くないよねって思ったけど、今の情報だけでICUに入るかどうかの感度は33%。つまり、ぱっと見ていいだろうって思ったけど、本当にICUに入る重症な患者さんは1/3しかわからない(West J Emerg Med. 16: 653-657, 2015)。ということは救急隊が搬送する時はもっと短い情報しかないので、この人が本当に重症かどうかなんてほとんどわかるわけないです。これを素人(患者自身)や救急隊にやらせて、搬送の理由がどうのこうのって・・・ありえない。科学的にありえない。その辺りは広く受け入れるシステムが必要だなって思うんで、ERはもっと人手が増えないといけない。

 日本の救急医って5000人くらいしかいないでしょ。アメリカはもっと3万人くらいですよ。日本の人口がアメリカの半分だとしても日本に15000人は必要なんで、5000人では支えられなくて初期研修医が下支えをしてくれているんだなって思いますね。ていうことはFamily Medicineだったり、そういう人が救急に強くなっておかないといけない。慢性経過で診た人が重症化したとか、またちょっと急性疾患になったとかで、救急医にポンと投げるのはダメです。俺が診るぞって気持ちにならないとダメです。

 

うちの部署が2つやっているってのは、2つ意味があるんですよ。

・将来総合診療を専門にする人たちは自分の診ている患者が悪くなった時はポンと救急に投げるなよ。ちゃんと診断して、本当に高次医療機関にいかないといけないのかがどうかわからないとダメ

 

・将来救急医になる人は慢性疾患の人が悪くなって救急に飛び込んでくる(acute on chronic)のは当たり前だっていう肌感覚を持っておかないといけない。慢性疾患を嫌っていると誤診につながる。

 

救急と総合診療の両方の側面を大事にしないといけないんですよね。なんかいいこと言いましたね(笑)。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-181-1.jpeg
石田)

 本当に大事な視点だと思います。家庭医や総合診療って慢性期ベースになっちゃって・・・急性期に苦手意識がある人が少なからずいるような気がします。

 

林先生)

 めっちゃ多いよ(笑)。

 

石田)

 でも救急は慢性期の川の上流のことなんか知らないよって、下流の現場のことで精一杯だよって。そこが、うまく連携できればいいのになって、ずっと思っていました。

 

林先生)

 この前、岡田先生が学生に講演してくれて、川の話が出たんですよ。

スペシャリストが川下で重症者が多くててんやわんやでわちゃわちゃやるんじゃなくて、川の上流で溺れる人を出さない(疾患を作らない)予防をキチンとやった方がいいって話をしていて。だから俺たちすげーんだって。サッカーで言ったらシュートを打っているのは実は俺たちだって言ってて。

その後で異議あり、って僕言ったんです。やっぱりシュート打ってるのは専門医で脳外の方がかっこいいって(笑)。どうみても総合診療はデフェンスで守っているようにしか見えないけれど、でも守るのもめちゃくちゃ大事ですよって話をしたんだけど。

 

変な話、どっちが上かって話は、僕は好きではなくて。患者さんのアウトカムがいいってのが一番大事。患者さんは良くさえなればいいので、どっちも(臓器専門医も総合診療医も)必要なんですよね。疾患頻度に合わせてそれを診れる医者の比率が分配されれば、つまり守備範囲の広い総合診療医が多い方が世の中うまくいくんじゃないかなって思ってます。

 

石田)

 他科を貶(おとし)めることは言ってはダメですよね。

先生は脳外がかっこいいって言いましたけど、僕は循環器内科がかっこいいなって思っています。その人たちはその人たちでできることがあって、私たちは私たちでできることがあって。お互いのリスペクトというか、そういう関係性が大事だなって思いました。

 

林先生)

 僕、許されるなら今から心カテできるようになりたい。放射線科でTAEまでできるようになりたい。だって面白そうじゃないっすか(笑)。

 

石田)

 かっこいいですよね。

 

林先生)

 ちょっと診療所でやらせてって(笑)。いや診療所じゃなくていいんだけど。でも、できたらかっこいいですよね。かっこいいかどうかで言うと、タバコの禁煙外来やってるよりもかっこいいと思っちゃいます。

 どちらにせよ、患者さんに対する態度やコミュニケーション能力ってのは僕は家庭医や総合診療医だけじゃなくて、全ての科が必要なのに、それが下手なのはそれを教える人がうまくできていないっていうのが問題なのかなって思いますけどね。

患者さんと大爆笑してることってあまりないでしょう。大学病院の外来で。

結構笑ってますよ、ウチは。大爆笑ですよ。

 

「いやー、先生本当に面白いね。いい先生に会えたわ。」

「あとは腕だけですよ!あっはっは。」

「あかんやん」

「だから誤診しても許してね(笑)。大学の教授ってどこでも研究は強いけど、臨床はそんなに強くないこと多いって・・・知らんけど、わからんけど(笑)」

第5回はここまで。総合診療に必要な急性期の視点と救急医に必要な慢性期の視点。非常にわかりやすく教えていただきました。 第6回は「林先生の考える総合診療」です。次回もお楽しみに。

最終更新:2022年09月14日 22時27分

専攻医部会

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