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他科/多職種インタビュー企画 福井大学医学部附属病院 救急科・総合診療部 林 寛之先生 インタビュー 第7回

他専門科や多職種のバックグラウンドを知ることで、コミュニケーションが取りやすくなったり、どのようなプライマリ・ケア医が求められているのか、研修中どのように学んでいったらよいかをイメージできるようになるため、インタビューを企画しました。

今回は、福井大学医学部附属病院 救急科・総合診療部 林寛之先生にインタビューを行いました。(全体で8回)

第7回は、「救急と総合診療の連携」についてお話しいただきました。(聞き手:鈴木,石田,島田)

noteで読むにはこちらから↓
https://note.com/pc_senkouibukai/n/n79297e322bba

⑦救急と総合診療の連携

石田) 救急と総診が分かれてるところと分かれてないところなど、色々あると思いますが、連携についてはどのように考えていらっしゃいますか?
 得意分野がお互いありますから、お互いをリスペクトし、患者さんが本当に困ってることにベストな選択をするという、そんな形でしょうか。

林先生) 連携というけど、アメリカの救急医と家庭医ってめっちゃ仲悪いって知ってる?驚くぐらい。

鈴木) なんでですか?救急と家庭医。。。

林先生) カナダは、救急室で働く半分が家庭医学会、もう一つが救急学会なのでそれほど仲が悪いわけではないんだけど、アメリカは完全に違う場所じゃん。

 全員とは言わないけど、一部のアメリカの家庭医は、夜悪くなったらすぐ救急行ってねという割には、後でファックス送るだけという感じで、全然アセスメントしないし、「こんな薬出しやがって!」とか救急室のやつがいったり。部署同士が仲良いところは少ない印象ですね。あくまでも印象だけどね。

 福井大学の総合診療部も昔は振り分けしかしてなくて、ほんと何もしてなかったんですよ。何これ?って。治療してないじゃんって。

 10年前僕がきた時、整形外科は外来が火曜と木曜しかやってなかった。他の曜日に患者さんが来た時「やっていると思って、ホームページ見てきたのにー!」と言われて、ほんとすいませんと謝っていた。どうして我々が謝るのかよくわかりませんけど。

で、僕が決めたんですよ。整形もうちで診ようぜ!診ればいいじゃん!て。今はペインもやってるし。そこで診た方が総合診療っぽくていいじゃんと。必要に応じて各専門科にお願いすればいいってね。

 私は診療所経験もあって、Family Physicianなろうと思ったけど夢が途絶えて、救急やってるというとこもあるので、そういうところはまぁ、いっかと思ったんだ。

 最初はこんなの総合診療と言えるかという感じで診療治療スペースもなくてさ。でも段々と、新しい病院をつくって、新しい診療ブースつくって、診断も治療もしてって感じにしていった。新しい分野だから最初からなんでもできるわけではなくて、段階的にできてくるものなんですよ。どの大学でも総合診療部が認知されてまともにやっていこうと思ったら時間かかるものじゃないですかね。

救急と総診は横断的な診療なので、他の大学でも、急性期と慢性期をきちんと両方うまく繋げられる医者を作ろうとするのはいいことだと思う。それを思うと、一緒にカンファするとか、そういうことがあってもいいかなと思う。うちはたまたま部署が一緒なんでよかったですね。

石田)やはり、急性期と慢性期をクリアカットに分ける必要はなくて、急性期も慢性期もお互いがお互いをわかりあうというのがベストだと思います。

林先生)在宅救急というのもできてきたよね。

どうしてもこれからの救急、高齢者ばっかりなので、高齢者医療が増えてきて、誤嚥性肺炎や腎盂腎炎、圧迫骨折が増えてきます。高次病院の専門科はなかなか受け入れてるのが困難なので、入院するのが救急になったり総合診療になったりだと思うけど、みんながそれを当たり前にきちんと診れるようになった方が、患者さんにとっては幸せだと思うんですね。

 ごめん、ちょっと言い忘れたけど、鈴木先生、リハビリってめちゃめちゃ大事だと思う。整形外科疾患の8割はリハビリでよくなるとも思うから。

鈴木)確かに、手術でなく、保存的にという方は結構多いですね。

林先生)ロキソニン1年間飲んでるのって意味ない。ロキソニン3ヶ月以上だすのは無駄だと思ってる。Beers criteriaでもそう書いてあるよね。

もし高齢者にロキソニンを3ヶ月以上出してたら、真面目に診断してないか治療してないかだと思って。ちゃんとリハビリしてればよくなってくる疾患って多いよね。急性期の悪い時だけロキソニンという形にしないと。

診療所でもロキソニンをダラダラ出してるのって時々あるじゃん。絶対効いてないから、やめとけば良いのにと思う。

鈴木)入院してリハビリして、お薬を減らしている方、結構多いです。

林先生)リハビリしてればほんと無駄な薬が減る。鈴木先生、今リハビリ学べるのすっごくいいと思う。めちゃめちゃラッキーだと思う。

鈴木)そう思って研修しています。

林先生)プライマリ・ケア連合学会とか、専門医機構の必修要件の中に、整形内科が入ってない。入れてもいいと思うけどなぁ。

 うちでは整形内科は必須なんですよ。整形内科のトレーニングは大学病院だとできないので、開業医さんで教えてもらっています。毎日外来やって、毎日注射して、ブロックして、関節注射して、整形エコー学んで、週に1回1年間専攻医にはずっと勉強しに行ってもらっています。

そうすると自信持って整形内科も診断・治療できるようになるので。総合診療医は整形外科の手術しないんだから、きちんと診断とそこそこの外来治療ができるようになるのが大事だと思う。

実際やってますか?岡大で、救急と総診の仲良し(合同)カンファ。

石田) 仲良しカンファとかないです。

林先生)うちはコロナ前は、整形と精神と小児科と仲良しカンファをしてました。

 内科とも救急から入った症例で、後医は名医で、こんなのおったぞってカンファを月1回やってる。そうやって見つけてくれてありがたいなとか、後方の医者でも「これはわからんかったわ。」とか、「同じ症例見ても自信ないわ。」とか、後方の医者も涙流しながら診断しましたとかね。そうすると各科も一生懸命やってるなと見えていいです。話をすると結構各専門科の先生って優秀でいい人が多いですよ。

年1回でもいいんだよ!年1回だけは会話して、いつもにぎにぎしく思ってたさ、とか毒を吐くのも大事ですよ(笑)。

そういう時はお互いの本音が聞けて、こういうふうに紹介されると困るとか、こういうふうに断られると困ったんですよ、とか。それはいかんねーとか。

お互いに事情があるのに見えてないからね。

鈴木) ちなみに、福井大学で、院内ではなく地域の診療所とコミュニケーションをとる機会はありますか?

林先生) 残念ながら全然ないですね。うち、大学から車で3分のところに大学附属の診療所作ったんですよ。そこの診療所で在宅訪問診療をやっているんです。オープンしたのがコロナが始まった年で、どうしたら良いだろうと思って経営を軌道に乗せるのに必死で。在宅診療所にうちから人回したり、そっちとのカンファで手を取られてたりして、一般の開業医さんとは本当はカンファランスして情報交換した方がいいんだけど、できてないですね。

鈴木先生に改めてリマインドさせてもらいました。いい課題です。やらないかんなー。
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家庭医や総合診療医に一番言いたいのは、マインドセットはすごく大事だと思うんですが、他の科に浸透しやすいような、わかりやすい言葉に変えて伝えられたら良いのにと思うんです。それができないから、他の科の先生が受け入れられないのだと思う。相手が受け入れやすい形で、家庭医や総合診療の真髄を出していかないといけないですね。

講演と一緒。相手が聞きたい話でなくて、自分が言いたい、正面の主張ばかりで、相手が受け取れないのでは聞いてくれませんよ。医学生にアポトーシスの話を延々90分するのと一緒(笑)。

石田) それはみんな寝ますね(笑)。

林先生) 一般の方に、どうしてVFが起こるのかと心電図の基礎から話したら困るでしょ。「おっちゃんが目の前で倒れたわー!父ちゃんが倒れたわー!」という形でACLSとかBLSを話した方が役に立つ。相手が受け取れる形で出してないなと感じてすごく残念に思うことがあります。

 あと、良いことやってるけど、社会心理的問題ばかり傾倒してて、診断学がおろそかになってることが多くて、なんでもメンタルヘルスや社会構造のせいにして、ちゃんと治せる原因あったというのが結構あって・・・。不確実を寛容する、というより臨床力を上げようよって思いますね。

 話をうんうんと聞いているだけでなくて、こちらから攻めて病歴をとっていって、診断つけるというのがすごく大事。そこがうまくやれてないと他科からは認められないでしょうね。

 腹痛で、そんなに強い症状でもないし、検査でも所見なしだと、診断つけずに帰すなんてあり得ない話。腹痛で診断つかないのは、10%あります。その場合はどういうパターンにするのか。きちんと診断しなくてはと思う。話を聞くんですよ。「検査大丈夫で、お腹柔らかくてと。」でも本人は痛がってて・・・。きちんと鑑別を上げるべきでしょう。ただ時間をかけて話を聴けば満足度が上がるなんて幻想ですよ。鑑別をあげて病歴を具体的に探るのが大事であって、画像診断に傾倒しすぎても、いい診断・治療・満足度向上はないですよ。

石田)やっぱりBPSってよくいうじゃないですか。でも、Biologyが未解決でも、PsychoとSocialである程度丸め込めちゃうところが、若い人たちは間違っちゃいけないなと思っています。Psychoだと思っていたら、実は髄膜炎でしたとか、ホルモン異常でしたとか、薬でしたとか。それはちょっとカッコ悪いなと。

林先生)そういうのが本当に多い感じがします。後医は名医だからそういうふうに思うのもあるけど。フロントラインでわからないことは確かにあるけど、一定期間症状が持続した場合は、一回視点を変えてみるのが必要だと思う。

例えば、左下腹部痛が主訴の68歳の女性がいて、その人が言うには、車でバックをして高齢の母親を轢いてしまって、お母さん死んじゃったんですよ。

その後しばらくして、お腹痛くなって、大腸カメラ・胃カメラ、CT撮って、採血しても異常がないとなって、psycho、socialの方が原因となっているんだと説明を受けていました。普段は生活できているけど、時々痛くて激痛で動けないことがある。

ある日、たまたま主治医がいなくて僕が診たんですよ。

僕はね、『いつも』とか『ずっと』とか患者さんが言ったら絶対信じないようにしています。とにかく、『痛み』についてしつこく聞くんです。

「寝てても痛い」と言うけど、「痛くて目が覚めるのはそれはたまたま寝返りうったんじゃないか」「ぐっすり眠れることがあるならそれはずっとではないだろう」とかね。

その人の朝から晩までの生活を聞くと、野菜作りの名人で畑でたくさん作っているの。草むしりの時期になると、悪くなるということでした。しゃがむことで大腿神経が圧迫されてるだけで、大腿神経絞扼障害でした。エコー下で神経ブロックしたら、「あ、痛み取れた」となるから、「あなたのお母さんがあなたに病気になってほしいとは思うはずがない。あなたは野菜名人で、こういう作業を頑張ってる時になるだけ。でもあなたには罪悪感がぬぐえなかったから、この痛みは必要だったんじゃないですか?」と話したところ、患者さんはさめざめと泣かれました。この疾患って死なないけどやっぱり痛いのとってやれよと思わない?そこまで話してないんだわ。何がBPSやねん、て思ってしまいます。

患者さんが話しているそのままの話を聞いて満足しているのは医者だけ。こちらから鑑別あげて、患者さんから情報引っ張りだすのが病歴なのに。

そういった経緯もあって、プライマリ・ケア連合学会から診断学を重視する病院総合診療学会が独立しちゃったんでしょ。最初は全部一緒だったのにね。プライマリ・ケア連合学会、家庭医療学会、病院総合診療学会。宗教的な話や複雑困難事例とか家庭の事情ばっかり話してて、診断学や論文の話などが出てこない。病院の総合診療はやっぱり内科ベースだし、診断学がベースなので、そんなのしょうがないって独立しちゃったようですね。僕は嫌なことあっても仲間で一緒にやるのが大事だから、非常に残念に思いました。だから、教授ってやつは本当にめんどくさい。みんな仲良くしろよって思いますね。

僕自身が一番思っているのは数のパワー。カナダみたいに数が多ければ団体として力がつくので、絶対に分家したらダメなんですよ。

若先生は少々出来が悪くてもいいの。そんなに厳しくしなくていい。正直、2年間で総合診療専門医を取らせればいい。国の政策として総合診療医を増やしたいなら、総合診療医として働いたらドーンと給料良くしたら良い。そしたらどんどん人が集まってきますよ。専門医としてはむしろLifelong learningの方がやっぱり大事で、10年間で一定のレベルになるように教育していって、専門医の試験は何度も合格するまで受けられるという形にすればいい。落とすのが目的ではなく、知識を得てもらうのが目的なので試験は何回も受けて、10回目で受かってもいいから、継続的に勉強してもらえば良いと思う。

石田)BPSモデルは、僕ももやもやしているところがあって、先生のクリアカットな意見が僕の中にすっと入ってきて、聞けてよかったです。

林先生)BPSは関係性だと思っていて、BもPもSも全部関係性があって、病気があるのだと思う。ただまずはBを治せよって。そこを治さなくて、PとSのことばかり話していていたら、医者じゃなくてもいいじゃないかと言われても当然かなと思いますよ。

石田)その通りですよね。

 第7回はここまで。総合診療科・家庭医と救急の連携のみならず、コミュニケーションについてのお話、これから研鑽を積んでいく若手へのメッセージもいただきました。
第8回、最終回は総合診療医・家庭医の「救急研修について」です。お楽しみに。

最終更新:2022年10月03日 09時39分

専攻医部会

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