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プライマリ・ケア Field LIVE!

vol.10/「 “診療所薬剤師”として外来から訪問まで携わり、より患者さんに近い距離で地域医療を支える!」【薬剤師】八田重雄先生

子供からお年寄りまで家族全員が安心して受診できる診療所「多摩ファミリークリニック」。その副院長を務めながら診療所薬剤師として診療のサポートをしているのが八田重雄先生です。地域医療との関わりのなかで薬剤師に求められる役割や、その育成のために必要なこと、さらに八田先生ご自身の日々の活動などについてお話をうかがいました。
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「家庭医・総合診療医には魅力的な人が多かったんです(笑)」

— 先生がプライマリ・ケア連合学会の会員になったきっかけは?

学会に入ったのは2010年だったと思いますが、その前から学会主催の研修会やワークショップには参加させていただいていました。当時は薬剤師が参加することはあまりなく、医師がほとんど。必然的に一緒に研修を受ける方たちは医師ということになりました。それで、その人たちが非常に魅力的なんですね(笑)。勉強熱心だし、いろんなことを知っている。お話をするだけでも刺激的で楽しかったんです。「こんな先生たちがたくさんいる学会なんだから入っておいたほうがいいな」と思ったのがきっかけですね。

— 仕事を通じて総合診療を手がける医師との関わりは?

それ以前からありましたね。私は臨床薬剤師として内科病棟で働いていたのですが、それぞれの医師は専門領域をもちながら内科全般を診る病棟だったんです。いわゆる総合診療内科のようでした。だから学会に入る前から総合診療を手がける医師には親しみを感じていました。そういうこともあって学会の研修会でみなさんと交流をしていたときも違和感なく溶け込めたと言えるでしょうね。

— 学会に入った当時は川崎市立多摩病院にお勤めでしたね

そうですね。ちょうど同病院が地域医療支援病院として承認を受けるタイミングだったはずです。地域医療支援病院は患者さんにとって身近な地域で医療の提供を受けられるようにとの目的で、かかりつけ医を支援する病院のことですね。川崎市立多摩病院に勤務する以前には聖マリアンナ医科大学病院で働いていましたが、ちょうど総合診療内科ができる過程を見ていたので、プライマリ・ケアに対する関心はもともと高かったんです。
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    多摩病院勤務時代の腎臓高血圧内科の回診風景

— 先生が学会に入った当時、薬剤師の会員数は少なかったのでは?

いまは770名以上になっているようですが、当時はもっと少なかったですね。先ほども申し上げたように、一緒に研修を受けるのはほとんどが医師の先生方でしたから。もっとも私は関東以外のエリアで研修を受けるようにしていたので、知り合いの薬剤師に会う機会がそもそも少なかったと言えますが(笑)。

— なぜ関東以外のエリアで研修を?

なるべく知らない人たちと交流を持ちたかったんです。そのことで新たな刺激をいただけますし、自分にはない視点からものを見ることができるようにもなりますから。また、いろんな地域の情報を知ることができれば、それを自分の地域の医療に活かせる可能性も出てきますよね。研修で行ったエリアとしては関西や中国、九州地方です。そのなかで北海道の薬剤師の方とご縁ができて、いまでもおつきあいが続いています。いろいろと教えていただいたり、相談にのってもらったりととても素晴らしい出会いができたと思っています。

患者さんの良き相談相手になることが薬剤師の役割

— プライマリ・ケア認定薬剤師も増えています。

プライマリ・ケアの医師の存在は知られるようになってきましたが、薬剤師に関してはまだまだ認知度が低いというのが現状ではないでしょうか。ただ、薬剤師の役割が変わりつつあるのは確かなことですね。以前から「かかりつけ薬剤師」という言葉はありましたが、さらに深く患者さんと関わっていくことが求められていると思っています。病気のみにフォーカスするのではなく、患者さんを一人の人(ひと)として見るようにしています。性格やライフスタイル、物事への考え方、地域性、家族構成など総合的な面から向き合うことが大切だと思っているんです。

— 総合的に向き合うことでより良い服薬指導ができると。

そうですね。それに加えて患者さんにとっての「良き相談相手」にもなれると考えています。多くの人にとって薬局は「処方された薬を受け取るところ」との認識があると思います。薬剤師は「調剤をしてくれる専門家」ですね。でも、プライマリ・ケア認定薬剤師がいる薬局は「健康の相談場所」として機能しているところもあります。例えば「調子が悪いことは悪いけど、病院へ行くほどではない。薬を飲んでしばらく様子を見よう」という人はたくさんいます。そうした人たちの話に耳を傾けて「それなら市販薬で大丈夫ですね」とか「いや、病院で診てもらったほうがいいですよ」とかアドバイスをする。そういう良き相談相手です。
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    お薬相談

— そういう薬剤師さんがいると安心ですし、頼りになります。

都市部よりも地方の薬局のほうがそうした役割を果たしているケースは多いのではないでしょうか。というのも、地域によっては調剤薬局が一つしかないといったこともあるわけです。そうなれば必然的に地域の人たちとの関わりも深くなり、薬の相談だけではなく健康面の相談にものることになるはずです。

— となると地域医療連携の拠点にもなりそうですね。

そうなんです。薬剤師にはできることとできないことがありますが、できないことに関しては関係機関につなぐ役割を果たせばいいんですよね。医療や行政、福祉といった各機関と連携を取りながら地域を支えていくということです。

クリニック勤務の薬剤師として外来から診療同行まで

― 先生もクリニックの薬剤師として地域を支えてらっしゃいます。

私の勤務する多摩ファミリークリニックは「お子さんからお年寄りまで家族みんなが安心して受診できるクリニック」として地域の人びとの健康問題に対応しています。院長の大橋博樹は家庭医・総合診療医ですし、地域医療連携にも積極的に取り組んでいます。その姿勢に共鳴して私はクリニック勤務の薬剤師としてスタートしたわけです。

― 具体的にはどのようなお仕事になるのですか?

クリニックでは調剤業務を行うのではなく、薬剤師という立場から診療のサポートを行っています。事前に患者さんとお話したり、カルテを見てポリファーマシーや相互作用などを確認し、医師にコメントするといったことですね。一般的には医師が行っていることですが、薬剤師がサポートをすることで時間が大幅に短縮されて、いわゆる「3分診療」をしなくて済むというメリットがあります。

― 「薬剤師外来」ということですね。

はい。その他にも「診療陪席」「訪問診療同行」を行っています。
診療陪席は医師の診療に立ち会い、必要に応じて処方変更・検査提案を行うというものです。もちろん薬に関する患者さんの相談にもその場で応じます。医師との協働によって外来診療の質を上げることが目的ですね。
訪問診療同行は医師とともに患者さんのご自宅に訪問し、薬の効果・副作用や薬の使用状態の確認、処方・検査提案などを行います。薬はちゃんと飲んでいるか、飲んでいないとすればどうすれば飲めるようになるかといったアドバイスも行います。
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    在宅ミーティング
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    訪問診療に同行
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    薬の効果・副作用や薬の使用状態の確認をします

― 薬を飲んでいないケースは、ポリファーマシー(多剤併用)とも関係がありますか?

ありますね。あまりに薬が多くて飲めないというケース。ただ、ポリファーマシーといっても患者さん本人が薬を飲むことで安心しているといった面もあり、一概にそれが悪いといえない現実があります。例えば、ある患者さんは2種類の胃薬を服用していて「1つにしても大丈夫ですよ」と言っても「いや、どっちも飲みたい」と。明らかに弊害のある場合はハッキリと言いますが、そうでもない場合は患者さんの判断に任せるしかありません。一方、薬を減らせることを知らない患者さんが多いのも確かです。「え、減らしてもいいのですか? お医者さんが出した薬だから全部飲まなきゃと思っていました」という言葉はよく聞きます。そもそもお薬手帳を薬局ごとに使い分けている方もいますから(お薬手帳は1冊に集約しないと本来の役割が果たせない)、そのあたりの啓蒙活動は、私たち薬剤師がしていかなければならないことでしょうね。

「訪問薬剤師」として活躍する人が増えてきている

— 地域の薬剤師さんたちとの連携も行っているのですよね?

積極的に取り組んでいます。多摩ファミリークリニックで働き始めた時に真っ先に取り組んだのが、地域薬局や訪問看護ステーションへの挨拶まわりでした。特に薬局に関しては訪問指導をお願いできるところを探すことが主な目的でしたね。クリニックとの連携を確立することで、患者さんにより質の高い在宅医療を提供できるようになるとの考えがありましたから。地域の薬剤師会にも所属しており、地域の在宅医療への訪問薬剤師の関わりについて相談したり、夜間休日診療所の当番を行ったりしています。最近では在宅医療に関わる薬局は増えてきましたし「訪問薬剤師」として活躍する人たちも多くなってきたと実感しています。

— 「訪問薬剤師」というのは新しい言葉ですね。

普及していってほしい言葉でもありますね(笑)。在宅医療に関わる薬剤師が増えていることは大変うれしいことなのですが、それに加えて診療所に勤務する薬剤師も増えていってほしいなと私自身は思っています。これは、多摩ファミリークリニックと連携している薬局の方々から言われることなのですが、医療機関とのやりとりの窓口が薬剤師なので要点が伝わりやすくて、より専門的な話もしやすくなるとのことです。これは今後の在宅医療を考えていく上で大切なポイントになると思いますね。
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    訪問診療へ
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    外来→訪問→外来と、家族を診る
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    医師と共に家族を継続的に診ていきます

— これから八田先生のような人材がもっと増えれば良いということになりますね。

うちの院長もそれは言っていますね。診療所薬剤師が育ち、互いに連携していくことで地域力は上がっていきますし、引いては薬局薬剤師のスキル向上にも結びついていくということですよね。診療所の医師にとっても3分診療の問題解決に問題解消につながりますしね。患者さん・薬剤師・医師、いずれにもメリットがあるといえます。そのためには診療所で研修ができるような仕組みづくりを進めていくことも必要でしょうね。
私自身は多摩病院勤務時代に、名郷直樹院長・福士元春副院長(当時)の武蔵国分寺公園クリニックでの研修をさせてもらいました。これが実は飛び込みだったのですよね(笑)。名郷・福士両先生には快く引き受けていただいて、あのときの経験がいまの自分につながっていると思っています。
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    武蔵国分寺公園クリニック研修期間中のクリニック内の院内掲示
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    プライマリ・ケア連合学会学術集会で研修内容を学会報告
研修中に医師から「薬剤師が近くにいてくれるとすぐに相談ができて助かる」と言われたことがとても印象に残っています。そうした医師側のニーズもあり、一方で診療所薬剤師に関心を持っている人たちも少なくないと思います。その意味では診療所薬剤師の育成も学会として取り組んでいくべきことなのでしょうね。

プロフィール

多摩ファミリークリニック 副院長
薬剤師 八田重雄

~プロフィール~
東京薬科大学大学院薬学研究科医療薬学専攻修士課程卒業
聖マリアンナ医科大学病院
川崎市立多摩病院
武蔵国分寺公園クリニック(外来診療・訪問診療を研修)
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院を経て
2015年より多摩ファミリークリニックに着任。

日本プライマリ・ケア連合学会認定薬剤師

多摩ファミリークリニック
https://www.tamafc.jp/

取材後記

八田先生のお話を伺うなかで強く感じたのは、訪問薬剤師や診療所薬剤師が果たす役割の大きさと寄せられる期待の高さだった。薬剤師といえば、多くの人々にとってはまだまだ「調剤をしてくれる専門家」というイメージが大きいはず。だが、時代の最先端で活躍する薬剤師の方々はそこにとどまらず、患者さんとより深い関わりを持とうと獅子奮迅しているのだ。訪問薬剤師・診療薬剤師は全体の数から見ればまだまだ多くはないが、その仕事から得られる喜びや充実感に関心を示す薬剤師の方たちも少なくないようだ。今後さらに八田先生のような薬剤師が増えていくであろうことを考えると、地域医療に大いなる希望が持てそうだ。

最終更新:2023年03月13日 15時48分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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