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2023年度政策研究大学院大学・自治大学校連携「医療政策短期特別研修」を受講して

7月27日(木)から8月10日(木)まで、「2023年度政策研究大学院大学・自治大学校連携「医療政策短期特別研修」を受講いたしました。
本学会にて新設いたしました医療政策委員会の事務を担当するにあたり、議論の内容をより正確に把握するため、理事長より機会をいただき表記研修会に参加してまいりました。

- 「医療政策短期特別研修」とは

この研修は、政策研究大学院大学にて、2012年から毎年夏に実施されているもので、医療政策の総合的な企画立案を担う自治体職員、またはシンクタンクや医療関係団体等の職員が対象となっており、年齢や役職を問わず、また医療職に限らず受講できるものです。
定員は30名ですが、今年は私を含めて33名が受講しました。所属先の内訳は行政関係が19名、他団体等が11名、シンクタンク等が3名でした。

研修は、大学教授や省庁課長/課長補佐級の担当者、各種関係団体役員の方等、のべ33名の講師による講義や、グループ討議等の演習により構成され、午前9時から夕方まで行われました。在宅勤務に慣れた身にとっては、六本木のキャンパスまで毎日、片道1時間半かけて通学するのも数年ぶりでしたので、疲れましたが新鮮でした。
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受講が決定してから研修当日までに事前課題として、テキストとなる「日本の医療−制度と改革(改訂増補版)」(島崎謙治著)を読んでくること、在宅医療・介護のある事例について、課題の指摘と研修中に実施されるグループ討議の準備、将来人口動向別の地域包括ケアシステムを構築する上での課題、解決方法、阻害因子を考えて提出すること、が指示されました。

私自身、こういった大学院での学習は初めてでしたので、かなり不安になり、必死に取り組みました。特に500ページにわたるテキストを読む、ということについては、事前に指示された読み方のアドバイスどおりに忠実に、通勤時の車内はもちろんのこと、偶然見つけた他社での同テキストの読書会にも参加し、理解できたかどうかは別として、とにかく読んで当日に臨みました。事前に読んでいた受講生はかなり少なかったことがわかり、安堵しましたが・・・。

- 12日間(3週)にわたる研修の概要

研修は12日間、3週に渡って開催され、おおよそ以下のような構成になっていました。

第1週 7月27日〜29日(対面でもオンラインでも参加可)
テキストを中心に医療政策概論について学び、人口推計の手法や、現在の高齢者の特性について学びます。

第2週 7月31日〜8月4日(対面でもオンラインでも参加可)
省庁課長/課長補佐級からの各種制度についての説明、看護や介護の現状と課題、地域での好事例紹介、在宅医療や疾病予防といった各論について学びます。

第3週 8月7日〜8月10日(対面のみ)
データによる地域把握、DX、診療報酬、プライマリ・ケア、介護保険、などを学び、受講者がそれぞれ最終発表を行います。


1週目で一気に医療政策の概要について学び、2週目で各論に入っていきますが、週の半ばでだんだんとしんどくなってきます。ところが週の後半になると、これまで学んできたことが徐々につながり、「あ、最初の方にでてきたアレはこういうことだったのか」と整理されてきます。3週目では、1週目、2週目で気になっていたことを深掘りするようなテーマが並べられており、体系的に学ぶことができる仕組みになっていました。
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毎日午前と午後にグループごとに振り返りセッションが設けられ、毎日最後に各グループでの振り返りについてまとめを発表するようになっていました。
「振り返りセッション」という名前は、職務の上で聞いたことはありましたが、自分が実際に参加するのは始めてで、どういうものなのかよくわかっていませんでした。それぞれの講義で印象に残ったことや疑問点を各自で出し合うということでしたが、様々なバックグラウンドをもつ受講生の視点を共有することができ、さらに学びが深まることを実感できました。1日の振り返りの内容をグループ内で発表者を決めて交代で1分間で発表するのですが、もともと目立ちたがり屋なので、研修中何度も発表をいたしました。発表のために色々な意見を1分間で話せるように整理してまとめるという作業も、私自身にとっては非常に有益な学びとなりました。

- 「医療政策」をあらゆる側面から学ぶ

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    (図1)最終発表で私が用いたものですが、テーマ/キーワードごとに本研修で学んだ内容を示したものです。
現在の状況に対して「このままだったらどうなってしまうのか」という将来推計があります。そこには、人口や医療費、医師数や病床数といった医療資源の推移、疾病構造の変化等があげられます。決して将来の状態を当てるものではなく、「今の私達がそれを見て行動するための資料」として将来を予測していきます。

その将来に対して、医療政策を講じていくわけですが、医療政策は「医療提供制度(delivery)」と「医療財政制度(finance)」に大別されます。

医療提供制度には、医療を受ける側への働きかけと医療を供給する側への働きかけ、があると思います。
医療を受ける側への働きかけとしては、高齢化が進んでいる中でできるだけ発症を遅らせる=健康寿命の伸ばす、ということでの「疾病予防」や、現在の高齢者の実態等について学びました。実際に「こうやって人は倒れていくのです」と、ある人物の年齢ごとの健康診断のデータを見ながらの学習は衝撃的であり、その日はさすがに晩酌は辞めました。
医療を供給する側への働きかけとしては、おなじみのキーワードが並んでいるかと思いますが、「医療介護総合確保指針」に基づいて、地域共生社会の実現のためのさまざまな政策をテーマごとに学びました。

もう一方の医療財政制度については、国民健康保険、被用者保険、後期高齢者制度で構成される医療保険制度、そして介護保険制度について、それぞれ成り立ちと仕組み、国際比較、および現状と課題について学び、重要な政策ツールである、診療報酬・介護報酬についても詳細に学びました。

これらのそれぞれの政策は、「医療の質」、「アクセス」、「コスト」の3つの観点からバランスよく選択されていかなければなりませんが、3つとも、というのはなかなか難しいということも学びました。質が高く、誰でもすぐ受ける事のできる医療に、コストがかからないわけがないので、この3つのうち2つを優先して選択せざるをえないということを繰り返しながら今日があるわけです。

これらのすべてに「歴史」があり「地域ごと」の特性があり、そして「データ」がある、ということです。

- 研修を通して感じた3つのキーワード

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    図2
この研修を通して、3つのことが大きく印象に残りました。(図2)

1つ目は、自分のこととして考える、ということです。恥ずかしながらこういった機会を得るまで、「社会保険って単に給料から天引きされるもの」程度の認識しかありませんでした。社会保障は国から与えられるものとばかり思っていたので、社会人として恥ずかしい思いをしました。一つのキーワードとして「地域の特性を活かした」(地域ごと)という言葉が何回も出てきましたが、要するに自分たちのこととして考える、ということなのだと思います。保険って、自分たちでお金を出し合ってリスクに備えるものなわけですから、そもそも自分たちで現状を認識して、将来について考えないといけないですよね。

2つ目は、データの重要性です。とにかく「今何がおこっているのか」「このままだと将来どうなるのか」を数字から捕まえる、ということです。見せ方によって異なるということもありますが、データを見て分析する力はものすごく大切であることを学びました。同時にそれはものごとを「細かくして」見ていく、考えていくことでもあるのかと思いました。人口規模の小さな市町村だからうまくいった、ということではなく、大都市であっても行政区画や医療圏の区分があるにせよ、まずは手の届く範囲から共働し、うまくいったかたまり同士がまた繋がって大きな動きにしていく、という視点は大切なのではないかと思いました。
これはタスクシフトについても同じことが言えるのではないかと思います。私達事務職の仕事においてもそうですが、業務を因数分解して細かくして、シェアしていけば、属人化は防げますし、関係者みんなが歯車の一つとして全体を、やりがいを持って動かしていけるのではないかと思います。

最後の3つ目ですが、各地の好事例や制度変遷の歴史を学ぶ中で、キーとなる方が必ずいたということです。リーダーシップの重要性ということなのかと思いますが、単に力があったということではなくて、関係者全員が納得する落とし所を見つけるまで、何度も何度も説明、対話を重ねられたのだろうなと思いました。リーダーというよりはむしろコーディネーターとしての要素の方が強いのかもしれません。

前述した指定のテキストの最後の方に書かれていた一文ですが、
「国民が医療の問題に主体的に関わり自律的な意思決定をおこなうことができるよう、医療制度のガバナンス構造を分権的な構造に改める」
という内容について、この研修を通して少しでも自分の理解が近づけたのではないかと思っています。

- さいごに

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学会の事務職員としてできることは限られていますが、こういった医療政策の概要については、医療従事者であってもなくても大切なことだと思いますので、研修いただいた先生を招聘し、学術大会や各種セミナーのどこかでセッションを設けることを提案できればと思っています。
また、どうしても会員の皆様向け、医療従事者向けになり、それ自体は悪いことではないのですが、学会として一般の市民向けの広報についても、研修で学んだ内容を活かし、発信につなげていければと考えています。

研修受講の期間中、ご迷惑をおかけいたしましたが、ご関係の皆様に深く感謝申し上げます。
ありがとうございました。
日本プライマリ・ケア連合学会 事務局長
井垣 敦
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最終更新:2023年08月28日 21時58分

日本プライマリ・ケア連合学会 事務局

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