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医療の質と安全/マクロスコープで視る医療の質

10年くらい前は毎年大みそかに世界最強の格闘技を決めるトーナメントが行われていた。
トーナメント前には必ずといってよいほど波乱があり、その一つはルールの設定であった。
パンチと蹴りで競う格闘技である空手、ムエタイ、キックボクシング、散打、テコンドーには微妙な違いがあり、ルールの設定によっては勝者が異なる可能性があり、また頑強な肉体で競う相撲やプロレスリングなどはルールも成り立ちも思想も異なる。
だからルールや価値観が異なる格闘技を比較して何が最強であるかを論じることはできないことは誰の目にも明らかであるけれども、この大前提をお祭り騒ぎがかき消してしまっていたように思える。

医療の質を決めるのは何か

この比較に似ているのが、国際的な医療の質の比較である。
日本人の平均寿命の長さは世界一の医療の質での結果であり、さらには、フリーアクセスと安価な医療費は他国と比べて高い医療の質を表しているといわれている。
実は医療の質は健康の質とイコールではなく、医療そのものが健康に寄与する程度よりも、食文化や遺伝的因子のほうが大きいという話もある。
またDonabedianは、医療の質を医療サービスのstructure、process、outcomeで表しているが、それらを単純に国際比較して一喜一憂するのは、空手とボクシングを比較して議論するのと変わらない。

「日本で行われている医療の質は高い」という仮説のもとで、国民皆保険制度や医療提供体制を発展途上国へ輸出する話があるが、価値観やルールが異なる国では“高い医療の質"を生み出すことができるのだろうか。
ハーバード大学で医療経済学の教鞭をとっておられたWilliam Hsiao教授は、「国民が医療に対して抱くsocial valueを理解しなければ、新しい医療制度を根づかせることはできない」と話している。
“医療の質"は医療制度の産物であり、そして医療制度は国民の価値観(social value)の反映である(図 1)。
 今回は、価値観のベースにある三つの政治哲学を紹介して、それらが医療サービスにどのように関連しているかを考えたい。

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最終更新:2025年08月18日 21時22分

実践誌編集委員会

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