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【学術大会 学生セッション受賞大学インタビュー】/島根大学医学部 地域医療支援学講座 佐野千晶先生

大学ネットワーク委員会では、日本プライマリ・ケア連合学会学術大会で学生セッションを企画していて、毎年数多くの大学からエントリーをして頂いています。そこで、多くの優秀演題を発表されている大学の指導者に、発案から発表に至るまでどのような指導をされているか、また優秀演題へと発展させる秘訣についてお話しを伺いました。

「モチベーションを生む機会づくりを通して、毎年学術大会に学生を送り込む」

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地域医療へのモチベーションをふくらませる機会づくり

— 先生のいらっしゃる地域医療支援学講座とはどのようなことが学べる講座なのでしょうか?

この講座はそもそも地域の医師確保や救急医療の確保、地域医療の課題等を解決するために、島根県の寄付講座として島根大学医学部に設けられたものです。背景には全国的に医師不足が顕著であったことがあげられます。この医師をはじめとする医療人不足は将来的に医療崩壊にもつながりかねません。
そうした事態への危機感から学生が地域医療に興味を持ち、地域医療へのモチベーションをふくらませるような機会づくり、また医師としてのキャリアアップと県内で安心して働ける環境づくりにつながる活動をさまざまに行っていこうというのが講座の主旨です。そのために地域医療教育学講座や総合医育成センター、総合医療学講座、卒後臨床研修センター、各診療科等の学内組織、さらには島根県や市町村、しまね地域医療支援センター、地域医療機関など学外の関係機関との連携も図っています。

具体的なプログラムですが、必修科目として「地域医療学」や「臨床実習(総合診療・地域医療実習)」などがあり、その他に自由科目としては「夏季・春季の地域医療実習」「フレキシブル実習」といったものがあります。また、県内外の先生にお話をしていただく「地域医療セミナー」、医師のキャリアの多様性を知ってもらう「キャリアセミナー」なども行っています。
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    講座スタフ
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    キャリアセミナー
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    総合診療の集い

— とても熱心に取り組まれているんですね

当大学のスクールミッションの1つとして「地域医療の貢献」を掲げていることも大きいですね。島根は超高齢化先進県なので、どうしても地域医療のことは考えていかざるを得ません。総合診療医を目指す学生たちを増やしていかなければなりませんし、そのためには教育にも力を入れていく必要もある。そういう事情が根底にあるわけですね。そうなると自然にプログラムも充実してくることになります。

学生たちを大学病院の「外」つまりは地域(の施設となる実習先)へ出すための学習環境整備をしていくのも、私たちの仕事のひとつだと考えています。大学で学べることと地域で学べることはそれぞれに違うので、学生にはいろんなことを肌で感じ取ってほしいと思っています。

例えばですが、学生にとっては在宅医療ひとつとってもけっこう大きな経験なんです。他人の家に入るのも初めてですし、その暮らしぶりを見て相当なインパクトを受けるようです。時として人生の転機になる場合もあるほどです。だからそうした機会づくりは大切だと思っています。
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    診察の実習
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    病棟実習
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    農作業体験

県全体で医学生たちを力強くサポート

— 実習先を選ぶにあたってポイントとしていることはありますか?

やはり熱心に教育するスタッフがいること、学生を温かく迎えてくれるといったところがポイントにはなりますね。幸いなことに島根には「みんなで協力して育てていこう」という思いが育まれているので、その意味では助かっています。また、私たちの先代や先々代がコツコツと実習先を開拓していってくれたことも大きいと思います。石垣の石をひとつずつ積み上げていくような感じでいまがあるといえますね。
実習先にしても世代交代があると、これまでのようにいかないことも出てきたりするので、そういう面で私たちが調整をしていくことはあります。学生さんが実習先で学びを深められる環境にあるかどうかを定期的にみていく必要はあり、講座スタッフは医学教育理論を学んでいます。

— 実習先と学生さんをうまくつなげていく役割も果たしているんですね

そういうことになりますね。学生は「こんなことを学びたい・体験したい」というふうにざっくりとした感じで言ってくることが多いんですが、それに対して、ある程度の方向性を明確にしつつ「ここに行ってみたら面白いよ」「こういうプログラムがあるよ」と伝えることが少なくありません。
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    学生さんと面談
全国的に珍しいかもしれませんが、島根は実習に関して県から補助金が出るんですね。旅費や滞在費に関してサポートをしてもらえるんです。また、何かあったときのために学生保険をつけることもできます。

そういうことがあると実習先も安心して学生たちを受け入れられますし、学生にとっても学びのフィールドが広がることになりますね。県内にそうした実習先は30施設以上あります。
また補助金を受けた学生は実習後に必ず報告会に出て、自分が何を学んだのかをプレゼンすることになっています。最初は「うまく発表できる自信がありません」と尻込みしていた学生たちも、いざ発表の段になると予定時間をオーバーしてまで話し続けるケースがほとんど。やはりそれだけたくさんの刺激を受けたということなんですよね。

学術大会での発表は学生にとっても貴重な体験に

— 学内では日本プライマリ・ケア連合学会の学術大会で発表しようという風潮が強いのでしょうか?

そうですね。学術大会で発表したいからと私たちの講座に声をかけてくれる学生は少なくありません。こちらから働きかけるよりも「学会発表というものを経験したい」というパターンですね。先ほど申し上げた報告会のプレゼンも影響しているのかもしれません。ですから発表内容に関して私たちのほうから細かな指導をすることはありません。

例えば2023年の日本プライマリ・ケア連合学会学術大会での学生セッションでは「医学生が主体的・継続的に学ぶ地域医療実習への参加体験」という研究テーマで提出しましたが、このテーマも学生たちが自主的に決めたものです。この場合、地域のお祭りに学生たちがブースを出すかたちで参加したのですが、その際の住民の方々とのやりとりもマネジメントスキルを高める意味においてプラスとなり発表につながったと考えています。私たち教員は、学生の手に負えない状況になってきたら間に入るといったスタンスですね。
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    発表テーマの取り組みとして地域のお祭りで健康ブース

— 学術大会学生セッションの発表内容に関しては基本的にノータッチなんでしょうか?

意図がきちんと伝わっているか、発表のてにおはや作法について細かな修正はしますが、内容を整えるのは発表者本人のモチベーションに依るところがほとんどです。学術大会で発表をしたい学生は熱心ですから、指導介入に関してはまったく負担を感じないようで、むしろそれが少ないと「ちゃんと読んでくれてるんですか」と言われるほど。私たちが逆にお尻を叩かれている感じです(笑)。

日本プライマリ・ケア連合学会学術大会の学生セッションで、2018年度から3年連続で研究発表をした学生(当時。現在は専攻医)がいるのですが、彼は非常に熱心に取り組んでくれて「最優秀賞を取るまで毎年参加します」と言っていました。その言葉通り、実際に2018、2019年度は優秀賞、そして3年目の2020年度には最優秀賞を実現しましたからね。そういうモチベーションの高い学生が多いんです。

リサーチクエスチョンを言語化・分析して発信する。その一歩として学術大会で何かを発表するというのは、学生にとっても貴重な経験になると思うんですよ。自分の感じたことや学んだことを大勢の人の前で発表して反応をいただく。それをきっかけにいろんな人とのつながりができていく。それは今後の彼らにとっても大きなプラスになると信じています。そうした彼らの歩みを、水先案内人のように導いていくのが私たちの役割なんでしょうね。
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    2018-2020年まで3年連続で受賞した島田さん
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    2021年に受賞した西川さん
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    2021年に受賞した白鳥さん

プロフィール

1994年 島根医科大学卒業
耳鼻咽喉科、微生物研究 感染制御などを経て
2016年より島根大学医学部地域医療支援学講座准教授
2019年より教授 現在に至る。

耳鼻咽喉科専門医
インフェクションコントロールドクター
2024年春より日本医学教育学会認定医学教育専門家
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取材後記

2018年度から2022年度にかけての5年間、日本プライマリ・ケア連合学会の学術大会において島根大学は活動紹介のポスター部門や研究部門において最優秀発表賞と優秀発表賞にそれぞれ3度輝いている。この結果は「入賞常連校」と言っていいほどの存在感を示している。
「その秘訣はどこに?」ということから指導に当たっている佐野先生にお話をうかったのだが、インタビューにもあったように、まずはモチベーションにつなげるための機会づくり。そして特に細かい指導はせず、学生さんたちの自主性に重きを置いていることがわかった。また、意欲の高い学生のみなさんの熱意を受け止め「発表」の場にふさわしい表現方法へとブラッシュアップしていくこともポイントとなるようだ。それに関しても「手取り足取り」ではなく、やはり学生さんたちの自ら取り組む姿勢を重んじ、かつ信じている。その信頼こそがもっとも大切な点なのだと印象に残るインタビューとなった。

最終更新:2024年03月21日 01時06分

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