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プライマリ・ケア Field LIVE!

vol.02/ 「臨床・研究・教育の3方向からのアプローチで総合診療の進化を加速」【医師】小林大輝先生

2022年1月より総合診療科を大幅に刷新した東京医科大学茨城医療センター。近隣地域や社会のニーズに対応すべく、地域医療の活性化を図るとともに、医学教育にも力を注ぎ卒後臨床研修を精力的に行える環境が整えられたという。今回、聖路加国際国際病院・聖カタリナ病院で総合診療医として活躍された小林大輝先生も着任され、臨床・研究・教育からアプローチする総合診療についてお話を伺いました。
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アメリカでの留学経験からプライマリ・ケア研究者としてのスキルを習得

- 小林先生が総合診療医を目指されたきっかけは?

研修医のときに、福岡の麻生飯塚病院で経験を積むことができたのですが、一番はじめに回った科が総合診療科で、そのままこの道を志していくことになりました。理由としては研修医だったこともあると思うのですが、総合診療科の先生方が何でも知っていて、何でもできて、その事が自分にとって非常に感動した印象だったことがひとつ。

あとは、総合診療科の指導医の先生方が教育的側面をすごく意識していらっしゃっていて、カンファレンスや指導的な回診など、研修医をどうやって育てようかと考えるスタンスに、自分も将来同じような医師でありたいと思い、迷うことなく総合診療の道に進むことに決めました。

- 総合診療医といっても患者さんとの関わり方は様ざまですよね?

日本でいう総合診療というものは、いわゆる大きな中核的な病院で色々な内科疾患を診る、入院患者さんを診るといった「病院総合医」と、地域の病院やクリニックで患者さんを全体的に診る「家庭医」の大きく2つに分かれています。私が最初に選択していたのは病院総合医のチームです。麻生飯塚病院での2年間の研修を終えた後は、東京にある聖路加国際病院に身を置くことになるのですが、聖路加国際病院は内科の中でも病棟医制という変わった制度をとっていて、通常は患者さんが入院したら病状に応じた科に入院して、その科の先生が診察をしますが、聖路加国際病院の場合はまずは病棟に配置されます。その後、今で言う専攻医が各病棟に配属されて、病棟に入ってくる患者さんを全体的に診るという制度です。ですので、様ざまな科の患者さんが入ってきて、患者さんを全体的に診る、いわゆる病院総合医的なシステムが独自であるような病院でしたので、色いろと学べることも多くありました。

- 聖路加国際病院で経験を積まれた後、アメリカに留学されたそうですね。

1年目はボストンにあるベス・イスラエル・ディーコネス・メディカルセンターにフェローとして留学しました。ここはアメリカで初めて総合診療やプライマリ・ケアの科が作られた病院で、アメリカ式の家庭医制度や医学教育的なことを学び実践することができました。アメリカと日本との大きな違いのひとつに、ボストン市内にあるクリニックの先生たちには、『Quality Indicator(QI)』という、患者さんに対してどのくらい診療の質が達成されているのかをはかる評価指標があります。結果は公表されていて、患者さんたちはQIを見て、「このお医者さんはちゃんとした医療を施しているな」と判断できるというシステムです。それが非常にアメリカならではという感じもしますし、患者さんにとっても非常にいいことだと感じました。
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    ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカルセンターにて
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    Harvard T.H. Chan School of Public Health

- その後、ハーバードにも籍を置かれていたそうですね。

同じボストン市内にあるハーバードの大学院に行きまして、公衆衛生学修士を取得しました。もともと留学前から臨床研究や論文を書くことに興味があり、医者として目の前の患者さんと対峙するという視点だけではなく、保健・医療・ケアといった幅広い領域で、 地域から地球規模など人の集団としての勉強や論文の書き方を学んできました。

- 臨床と研究の両面からアプローチする最大のメリットは何でしょうか?

目の前に患者さんがいて診察・治療する場合、例えば心臓が悪い方に対しては、「この薬を使うといいですよ」と薬を処方しますが、臨床研究を通じて幅広い視点を学ぶと、100人の患者さんに処方した場合に結果として何人に効くのかとか、薬を処方した後にどうなっていくのかとといった、大きな母集団を概念として理解することができます。そこで得られた知識は日々の診療に反映することができるので、医師として新たな視点を得られることは大きなメリットだと思います。

博士号を取得し学んだ知識は医療の現場と教育に還元

- 帰国後は、聖路加国際病院に戻られたのですね。

はい、アメリカで学んできたことを他の医師たちや患者さんに還元したいと思い、2014年の夏に戻りました。その年の秋からは東北大学で社会人大学院にも通い、ノロウイルスをテーマに研究を進め博士号を取得しました。その後、2017年に聖路加国際病院で公衆衛生学を日本でも教える公衆衛生大学院を作ったんです。そこで教員としても関わることになり「疫学講座」というものを教えていました。

- 「疫学講座」ではどのようなことを教えられていたのですか?

昔コレラが流行ったときに疫学者の父と言わるジョン・スノウが、地図を見て『コレラが蔓延する理由は患者さんの家の水路の供給源が一緒だ』ということを突き止めたという話は有名ですが、疫学とは病気の原因やどうやって防ぐのかということを考える学問で、そのようなことを教えていました。現代で言うところの、新型コロナウイルス感染症も同じで、例えばマスクとかもそうですね。不織布マスクが感染予防に一番良いと言われていますが、それも実際に不織布マスクを着けていた人とウレタンマスクを着けていた人の数とかを調べて、どれくらいの数の人が感染したのかなどのデータをもとに、政治的にも医学的にも世界に提言していくということが疫学です。

- 臨床と研究をされながら教壇にも立たれてかなりご多忙ですよね。

研究のテーマは、自分の患者さんを臨床していて思い浮かぶことが結構多くて。臨床を通じて当然疑問が出てくるんですね。普通は教科書を見たり、インターネットで調べたりするわけですが、それでもちょっとわからないことがある。そうすると、それを自分の研究テーマとして取り組んで、研究結果が出たらそれを自分の臨床に活かしていくことができるので、どちらも私にとっては欠かすことができないものです。また、2018年に聖路加国際病院が急性期の病院を退院した後に、家の中の階段が上がれないから、上がれるようにリハビリをしてからお家に帰りましょうとか、介護の状況が整っていないので整えてから帰りましょうといった、自宅に帰ることを目標とする地域包括ケア病院として『聖カタリナ病院』を作ったんです。そこからは、家庭医として臨床の場を移し、大学院の教壇に立ちながら訪問診療や在宅といった研究テーマにも取り組むようになりました。

総合診療の観点から複合的に診察できる医師を世に輩出

- その後、現在の東京医科大学茨城医療センターに着任されたわけですね。

もともと聖路加国際病院で院長をされていた福井先生がこちらに移られ、東京医科大学茨城医療センターの総合診療を刷新するということでお声がけいただいたことを機に着任しました。現在、実際にやっている事は、内科系の救急や初診の患者さんを受け入れるといった外来系。もうひとつ入院系でやっていることは、感染症や原因不明の患者さんに対する治療を行っています。東京医科大学茨城医療センターは大学病院ですが、地域に根ざした地域の中核病院としての役割を持っているので、私としてはお越しいただく患者さんを断らないということも大きな目標です。総合診療はみんなそうだと思いますが、来られた患者さんを拒まない家庭医的なスタンスで広く受け入れて、地域の方に還元するというのが大きな役割であると考えています。

- 東京と比べてみて地域性などもありますか?

勝手なイメージかもしれませんが、病気をため込んでくるという方が多いように感じます。他の原因で来院されて色いろと検査をしてみたら、血圧が高くて糖尿が見つかって、コレステロールも高くて…。複合的に治療しなければならないことが見つかる方がたくさんいらっしゃいます。変な言い方ですが家庭医的な考えだと、そこは非常に嬉しいことで、患者さんが病院にちょこちょこお越しになるので、体や生活を全体的に向上するチャンスが我々に与えられたとも言えます。そこで、いかにその患者さんと一緒にうまく人生やっていくのか、その方の健康的な人生をいかにサポートしていくかというのは腕の見せ所かなとは思います。

- 教育的な側面ではどのようなことに携わってらっしゃるのですか?

東京医科大学には、研修医の卒後臨床センターという病院があるのですが、今回そこにも所属することになりましたので研修医指導がひとつ。あとは大学病院なので研修医や医学生もいます。今はコロナで回ってきていないですが、今後は医学生の指導も担っていく予定です。特に研修医の先生の中には、この科に進みたいと決まっている方も全員総合診療科に回ってくるわけですが、もちろん私と同じ分野で同じように働いてくれたら嬉しいですが、別の専門科に行く場合でも総合診療的な診療は医師として求められることだと考えています。例えば整形外科であっても、骨だけ折れて入院するという患者さんは珍しくて、特に高齢者が骨折して入院した場合には、糖尿病を患っていたり、血圧が高かったり、心臓に問題がある方もいらっしゃるかもしれないですね。そこで、研修医の先生が専門科に進んで医学的な問題にあたっても、他の先生にお願いすることなく自分である程度自信をもって診れる、そのような医者としての土台を作りのサポートするのが、教育としての総合診療の有用な点ではないかと思います。

- 新たな「プライマリ・ケア」フィールドで取り組みたいことや目標は?

総合診療科としては外来と入院と教育ですかね。すごく欲張りなんですけど、これは全部やりたいんです(笑)。あとは臨床業務と同じだけ、教育にも時間を割いて重きを置くべきだと考えていますので、そこに賛同してくれる人と働きたいですね。どんなに忙しくても研修医や医学生を放っておかない、ちゃんと一緒に悩めるようなそんな指導医でありたいので。一方で患者さんは断らない精神で、精力的にバリバリ働くという方も集めていきたいと思っています。

プロフィール

東京医科大学茨城医療センター
総合診療科
准教授 小林大輝

ホームページ
https://ksm.tokyo-med.ac.jp/shinryou/shinryou/sougou.html

~プロフィール~
2006年 株式会社麻生飯塚病院 初期研修医
2008年 財団法人聖路加国際病院 後期研修医
2011年 財団法人聖路加国際病院 チーフレジデント
 財団法人聖路加国際病院 一般内科
2012年 米国Beth Israel Deaconess Medical Center フェロー
2013年 ハーバード公衆衛生大学院 公衆衛生学修士
2014年 学校法人聖路加国際病院 一般内科
2017年 学校法人聖路加国際大学大学院 公衆衛生学研究科 疫学講座 兼務
2018年 医療法人聖カタリナ病院 院長補佐 兼務
2022年 東京医科大学茨城医療センター 総合診療科
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取材後記~総合診療が進化する土台作りとアップデート~

臨床と研究と教育。小林先生のお話をきくにつれ、これをすべてどうやってこなされているのか疑問が湧くほど、精力的に活動されている。総合診療の分野は歴史がまだ浅いこともあり、基礎研究も少なく特に高齢者に焦点をあてた予防医療や在宅医療といったテーマは、今後さらに研究が進んでいくという。それらの研究テーマは臨床という現場から生まれ、一緒に臨床・研究を進めていくためには協働できる総合診療医を育てる教育も必要となる。「全部やりたい」「全部必要」そう語る小林先生の取り組みは、現場で活躍する医師たちのアップデートと、総合診療のグローアップを確実に進めるものである。

最終更新:2022年03月02日 13時31分

「もっとプライマリ・ケア」 編集担当

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「もっとプライマリ・ケア」 編集担当

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