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vol.41 /「プライマリ・ケアの視点で地域と接して感じたセルフケアの重要性」【看護師・保健師】居安綾子さん

今回インタビューしたのは、病棟看護師からキャリアをスタートし、行政保健師、診療所看護師、小学校養護助教諭など、活躍フィールドを自ら拡げながら柔軟にキャリアを積み重ねてきた居安綾子さん。現在は、こども園の保健師として子どもの健康を見守り、セルフケア教育にも力を注いでいます。看護師や保健師など、異なる視点から患者や地域を見つめてきたからこそ感じたプライマリ・ケアに通じるそれぞれの役割などについて、お話しを聞かせていただきました。
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病棟看護師として感じた疑問「治療することだけが本当に患者さんのためなのだろうか」

― 居安さんは、どんなきっかけで看護師を目指そうと?

実は、看護師になりたいと強く思っていたわけではないんです。どちらかと言えば文系タイプで、高校の授業で生物に興味を持つようになり、体の中でいったい何が起きているのかな?なぜこういう症状が出るのかな?と考えるのが好きになりました。理系は苦手だけど生物学はやりたい!と考えて行き着いたのが、実家から通いやすい地元の看護大学。ナイチンゲールやナースキャップへの憧れではなく、生物への興味から看護の道へ進みました。
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― 看護師としてのキャリアについて、お聞かせください

看護大学を卒業後、瀬戸物で有名な愛知県・瀬戸市にある公立病院に就職し、呼吸器内科と婦人科がある、がん病棟に配属されました。瀬戸市は焼き物の町で陶器の粉塵などの影響で肺の疾患を持っている人が多く、そういう地域性から呼吸器内科の治療に力を入れている病院でした。病棟にドクター数が多く、しかも精鋭揃いで治療第一というスタンスが色濃かったですね。

― がん患者さんとのお付き合いが長くなると、辛い場面も増えますね

検診で引っ掛かり精密検査を受けに来られた患者さんが、がんの確定診断を受け、辛い治療や抗がん剤治療を乗り越えたのも束の間、半年スパンで再発と退院を繰り返すことも珍しくありませんでした。2回、3回と再発を繰り返すうち抗がん剤が効きづらくなり、患者さんの体力も落ち、やがてターミナル期(終末期)、そしてお看取りへ。がん患者さんの最初から最期まで看る現場でした。

今も忘れられないのが、60代の男性患者さん。奥さまやご家族の前では弱い一面を見せない方なのですが、弱々しい声で私に問いかけるんです「俺は死ぬんかなぁ…」って。来る日も来る日も「今、頑張っているじゃないですか」と励ますのが精一杯。最期が近づいても人工呼吸器をつけながら抗がん治療を受け、身体中ルートだらけで医療者が5〜6人囲んでいて、ご家族が患者さんに近寄ることもできない。結局、ご家族と過ごす時間をちゃんと持てないまま、旅立たれました。

― 終末期の患者さんにとって、本当に必要なのは治療とは限らない?

そう感じました。看護師は患者さんご自身の生きようとする力が弱まっていて、数日内に命が尽きてしまうことを感じ取れることがあります。そういう状態の患者さんを前に今後の治療スケジュールや抗がん剤の説明をするなど、辛い治療を続けなければならないことに、やり切れなさを感じました。患者さんに今、本当に必要なのは治療ではなく、穏やかにご家族と過ごす最期の時間ではないの?と。そんな出来事が重なり、看護師の仕事から距離を置こうと考えるようになりました。

「保健師」として地域と住民に深く潜り込んでいく楽しさを知った

― それで、看護師から保健師に転身を?

保健師の資格は大学の教育課程を経て国家試験を受け、取得していました。看護師を辞め、仕事探しの情報収集をしていたら、たまたま岡山県津山市の保健師の公募が目に止まりました。公務員の年齢制限もギリギリ間に合うタイミングで、保健師が何人か配属されている市町村で3年間の任期付きだけど実務未経験でも飛び込みやすい。津山市とは縁もゆかりもありませんでしたが、チャレンジしてみよう!と。

― 保健師として着任し、具体的にどのようなお仕事を?

津山市が平成の大合併をした直後で最初は住人が5000人規模の加茂地域に配属され、先輩のベテラン保健師さんと一緒に母子の保健指導や家庭訪問、健康診断など、あらゆる業務を学びました。小さな地域だったので何でもやる便利屋さんみたいな感じでしたね。「隣の家の新聞が何日分もたまっとんじゃけど、見てきてや〜」と電話がかかってきたり、毎日のように飛び回っていました。

― 想像していた保健師のイメージとのギャップはありましたか?

大学の保健師実習では訪問の際に、保健所名が書かれた公用車で訪ねない、玄関先で「こんにちは、保健師です」と声を出さないなど、暗黙のルールがありました。都市部では保健師の訪問に対し、住人の方が結核を疑われるなどネガティブなイメージあるみたいで。ところが、津山市では、どこを訪ねても「保健師さ〜ん」と声をかけてもらえるウエルカムな雰囲気。先輩たちが築き上げてきた信頼関係が根付いているから、私のような初対面の保健師でも同じように接してくださる。保健師は地域住民にとって身近な存在なのだと感じました。

プライマリ・ケアとの出会いで看護・保健の視点と可能性が広がった

― その後、再び看護師として現場に出られていますね?

保健師の任期を終え、家庭の事情で1年間ほど関東で働いた後に、地元の愛知に帰ろうか迷ったのですが、再び津山に戻ることにしました。そして、保健師時代の育児相談で評判を聞いていた奈義ファミリークリニックにコンタクトを取ったところ、私に保健師と看護師の両方の実務経験があることに所長の松下明先生が興味を持ってくださり、再就職が決まりました。松下先生曰く、予防的な医療や看護にも力を入れていきたいと思っていたタイミングだったそうです。
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― プライマリ・ケアとの出会いですね。保健師との共通点もありそうですね

看護師と保健師は似て非なる点があり、保健師は公衆衛生よりで広い視点からのケアがメイン、看護師は個人に寄り添ったケアが主になるという違いがあるように感じます。ですが、ファミリークリニックの医療や看護は、その両方が融合された位置付けで、地域全体と人それぞれの両方をケアするような側面があると感じました。例えば、農村地帯の奈義には農作業が原因で膝が悪い人が多く、忙しい田植えの時期が終わって梅雨に入った頃に不調を感じて来院される方が多いなど、地域で暮らす方の生活の時間軸が診療と密接にリンクしています。

― 診療所の看護に役立てたくて、学会にも積極的に参加するように?

松下先生と一緒に日本プライマリ・ケア連合学会に初めて参加し、刺激を受けました。ドクターだけではなく、看護師の参加者がいることに驚き、診療所だからできる看護があるはずだと思っている人が私だけではなく、ここにもいた!と目の前が開けたような感覚でした。やがて、診療所の看護という新ジャンルを確立したいと考える全国の看護師が集まって自主的なグループ「FPNs(Family Practice Nurse)会」が誕生。2019年には日本プライマリ・ケア連合学会 学会認定プライマリ・ケア看護師の資格も1期生として取得し、学会認定プライマリ・ケア看護師のための「認定者の会」の活動にも携わるように。学会認定プライマリ・ケア看護師の制度を提唱されたのが松下先生なので、手を挙げないわけにはいかないです(笑)。
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    「FPNs(Family Practice Nurse)会」

現在は「医療の質・患者安全委員会」にも参加しています。看護師にとって当たり前にやってきたことを、改めて患者協働という視点から洗い出して周知させることで、医療全体の安全性の質を高めるという取り組みです。例えば、診療時のお名前確認は患者さんご自身にフルネームを名乗っていただくなど、患者さんとの会話を通して、採血や投薬のミスを防ぐといったことです。診療所の看護師が今まで当たり前のようにやってきたことを言語化して体系立て、ノウハウを蓄積していくことで、良い意味での効率化や成長のスピードアップにつながればと考えています。
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    JPCA 医療安全委員会

経験値を総動員!セルフケアの重要性を地域に浸透させるべく奮闘中

― 今春から奈義町にある、こども園の保健師に就任されたとのこと。どんな経緯で?

クリニックの外来で子どもや若いお母さん、お父さんと接するうち、予防やホームケアの視点から子育て世代の力になりたいと考えるようになりました。例えば、軽症の鼻水でクリニックに来院すると逆に感染リスクが高くなりますし、「ネットで調べたんですが重い疾患では?」と必要以上に不安を感じているお母さんも少なくありません。ホームケアや予防の大切さを多くの人に周知してもらう必要性を強く感じるようになったんです。

そんな矢先、町立奈義小学校で産休代替の期限付き養護助教諭の空きがあることを知り、思い切って転職。子どもたちが入れ替わり保健室に訪ねてきて、私が会話と触れ合いを通してケアをするのですが、日常のちょっとした体の変化と接して不安を解消していく感覚が、まさにプライマリ・ケアそのもの。今まで積み重ねてきたキャリアが全てつながったように感じました。そして、養護助教諭の任期が満了する頃に、奈義町に幼稚園と保育園が統合した新しいスタイルの『なぎっ子こども園』が誕生すること、保健師の募集があること知りました。これはもう運命です(笑)。

― 半年が経ってみてどうですか?

こども園の保健師自体が、初めての試みなので、まだまだ手探り状態。保育士さんが子どもの体調の変化に気づいたら保健室に連れて来てくれ、私は「この程度であれば問題ないですよ」「こういう症状が出たら病院へ連れて行った方がいいですね」といったトリアージ的なアドバイスをします。お母さんよりも早く子どもの変化を感じ取る保育士さんも多く、よく気づいてくれたな〜と感心することも。気軽に不安を解消できる場として、いい意味で便利に使ってもらっています。
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    現在勤務されている「なぎっ子こども園」
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― 近い将来の目標があれば、お聞かせください

ちょっとした痛みや不調、不安を大人に伝えられる子どもを育てたいですね。子どもの頃から自分の体と付き合い、アレルギーなどの持病や体調の変化に気づければ、どうカバーしながら生きていくか考えられる大人になります。患者自身が当事者意識を持つこと(患者協働)に通じるのですが、医療費が増大していくなか、何もかも病院任せという考え方は、この先、時代にそぐわなくなっていくと感じています。もちろん手に負えないことは病院で診てもらうべきですが、大人になってからの自分の健康を保つための知識を身につけ、セルフケアできる力を、子どもの頃から育めるようにしたいと考えています。

プロフィール

奈義町立なぎっ子こども園
 保健師 居安綾子(いやすあやこ)

【経歴】
愛知県立看護大学(現愛知県立大学看護学科)卒
2001年 公立陶生病院 病棟看護師(呼吸器内科 婦人科)
2005年 津山市役所 健康増進課 保健師(母子担当 健診担当)
2008年 朝霞市宮戸保育園 看護師
2009年 奈義ファミリークリニック 外来看護師
2022年 奈義町立奈義小学校 養護助教諭
2024年 現職

【資格】
学会認定プライマリ・ケア看護師(2019年取得 1期生)
保健師、保育士、養護教諭2種

【所属学会】
日本プライマリ・ケア連合学会
(同)医療の質・患者安全委員会
(同)プライマリ・ケア看護師認定委員会

取材後記

好奇心と使命感を発揮できる場を求め、つねに道を耕しながら進んできた居安さん。子どもたちが大人になってから当事者意識を持ってセルフケアできるようになるために今どうすればいいか、根底にあるのが目先のケアではなく、常に10年先、20年先の未来を見据えた行動やチョイス。あらゆる場面でプライマリ・ケア精神を貫き、実践されてきたのだと感じました。こども園の保健師という新たなフィールドで居安さんの今後のご活躍が楽しみです!

最終更新:2024年10月30日 15時38分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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