ホームニュースプライマリ・ケア Field LIVE!Vol.64/ 「目指しているのは『共に紡ぐ笑顔の輪』です」 【薬剤師】増田恵亮先生
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Vol.64/ 「目指しているのは『共に紡ぐ笑顔の輪』です」 【薬剤師】増田恵亮先生
今回お話をうかがった増田先生のキャリアは、工学部志望からの転換という意外なスタートで始まりました。愛知での修行時代に磨いた専門性と大阪のエリアマネージャー時代に培った経営者視点。そしてコロナ禍という未曾有の逆風の中で踏み切った独立。そんな増田先生の歩みをひもといていきましょう。
「物理よりは化学」から始まった医療への道
― 先生が薬剤師を目指されたきっかけから教えてください。
実は最初から「絶対に薬剤師になりたい!」という強い志があったわけではありません。元々は工学部を目指して受験勉強をしていましたが、工学という分野は物理と切り離せませんよね。でも受験勉強を進めるうちに自分のなかに物理への苦手意識があることに気づき、「この先ずっと物理漬けの毎日を送るのは正直しんどいな」と直感したのが転換点でした。同じ理系でも化学や生物なら興味を持てる。だったら医療系を目指すべきではないか、と考えたんです。ただ、医学部に行くほどの情熱があるかを自問自答した際、そこまでの気力はないことも冷静に分析していました。それなら医療に携わりつつ国家資格という武器を持ち、かつて憧れた研究職への道も開かれている薬学の世界がベストではないかと考えて薬学部に進みました。
― 最初のキャリアとして愛知県の「よねざわ調剤薬局」を選ばれた理由は?
よねざわ調剤薬局には小児科と産婦人科をメインとする店舗があったのですが、その店舗をあえて選んだというかたちです。その理由は、薬剤師の間では産婦人科は一生関わらずに終わる人もいるほど特殊な分野で、小児科も多忙さやデリケートな対応から敬遠される傾向があったからです。これは逆に考えれば「だからこそ薬剤師としての希少なスキルが身につく」ことを意味します。また、よねざわ調剤薬局では他にも皮膚科メインの店舗や内科全般をメインにする店舗も出していて、そちらの店舗に関する内容も勉強ができるという点が魅力でした。
それに加えて、私に独立志向があるということを理解した上で迎えてくれたことも大きかったですね。就職を考える際、私は将来的な独立を視野に入れていたんです。当時のオーナーはその私の思いを受け入れてくれて「自分の店だと思って好きにやっていい」と、医薬品卸との価格交渉から店舗運営、ドクターとの関係構築まで、若手の私に大きな裁量を与えてくれました。そういうこともあり、愛知時代は経営者としての骨格を作る貴重な修行になりましたね。
それに加えて、私に独立志向があるということを理解した上で迎えてくれたことも大きかったですね。就職を考える際、私は将来的な独立を視野に入れていたんです。当時のオーナーはその私の思いを受け入れてくれて「自分の店だと思って好きにやっていい」と、医薬品卸との価格交渉から店舗運営、ドクターとの関係構築まで、若手の私に大きな裁量を与えてくれました。そういうこともあり、愛知時代は経営者としての骨格を作る貴重な修行になりましたね。
― その愛知時代には大切な出会いもあったそうですね。
薬剤師仲間の活動を通じて出会った「兄貴分」とも言える先輩の存在が非常に大きかったです。その方は仕事も遊びも全力で、多角的に資格を取得されている非常に尊敬できる人物でした。彼に憧れ、共に学ぶ中で「日本プライマリ・ケア連合学会」の存在を知り、老年薬学や栄養サポート(NST)といった専門性の重要性を叩き込まれました。この時期に「老年薬学認定薬剤師」の1期生として資格を取得したのですが、当時の学びが現在の報酬改定における加算要件とリンクしたときは、先見の明があったと言いますか、流行に乗れたなと感じました(笑)。この時期に培った「学び続ける姿勢」と「横の繋がり」が、現在の私の活動の原点となっています。
緻密な戦略で挑んだ独立開業
― その後、大阪の「株式会社あけぼの関西」に入社されます。
実家が大阪で一人息子ということもあり、30歳を目処に戻ることは以前から決めていました。転職先としてあけぼの関西を選んだのは、独立支援制度があったことと、トップダウン体質ではないこれから作り上げていく組織体系だったからです。ここではエリアマネージャーとして、新規出店や人材採用、スタッフのマネジメントに奔走しました。現場で患者さんと接するのとは全く違った「組織を動かす日々」でしたが、人のマネジメントの難しさと教育の大切さを学べたことは今の薬局経営に役立っています。当時の社長から「独立して社長になれば、縦の関係が横の『社長仲間』に変わる。役職が上がるほど孤独は深まるが、横の繋がりがあれば安心感に変わる」と言われたことがありますが、その言葉は今でも私の経営哲学の根底に流れています。
― 2020年に「春日野薬局福島店」をM&Aで事業継承されました。
独立にあたっては経営的な視点から3つの明確な条件を設定していました。1つ目は「処方箋集中率の低さ」です。特定の病院に依存せず、多様な医療機関の処方を受けることは地域に根差した薬局の証であり、経営の強靭性に繋がります。また、これは「地域支援体制加算」を取得する上での強力な武器にもなります。2つ目は「地縁」です。母方の実家が近く、すぐそばに先祖代々のお墓があるこのエリアで、腰を据えて地域貢献したいという思いがありました。そして3つ目は「コスト戦略」です。春日野薬局福島店は場所が電車の高架下という特殊な物件。なので、都市部の好立地にありながら固定費(家賃)を大幅に抑制できるんですね。その点に魅力を感じました。これらの条件が揃ったとき、「ここだ!」と直感して本格的に動き始めました。
― 独立が決まってからの動きは早かったそうですね。
まわりからは「本当に独立するんですか?」と言われるほど長く準備をしていましたが(笑)、いざ春日野薬局福島店の案件が出てからは迅速でした。4月末に話をいただいてから、8月1日にオープン。約4ヶ月で進めていきました。その間はもちろんあけぼの関西で業務は続けています。私が特にこだわったのは、引き継ぎ期間です。私が担当していたドクターや後任の社員たちへの引き継ぎを疎かにして辞めるわけにはいかないと考え、そこにはめいっぱい時間をかけました。とてもお世話になった会社なので、自分なりに誠実な終わり方をしたかったんです。
「地域のハブ」としての存在感を
― 独立早々、コロナ禍という未曾有の事態に直面されました。
最大の壁は医薬品卸各社との契約でした。コロナ禍で債権管理が極端に厳格化されて「個人での新規開業とは取引できない」という会社が増えました。取引ができたとしても極めて厳しい支払い条件を提示される状況だったんです。薬が入らなければ薬局は立ち行きません。正直、際どい状況だったと言えます。
この窮地を救ってくれたのは、それまでのキャリアで積み上げてきた「信頼の貯金」でした。あけぼの関西時代の私の仕事ぶりや売上貢献を知る卸の支店長クラスの方々が「増田なら間違いない」と特例で契約を承認してくださったんです。誠実に取り組んできた過去の自分が、未来の自分を助けてくれた瞬間であり、経営における「信頼」の重みを痛感しました。
この窮地を救ってくれたのは、それまでのキャリアで積み上げてきた「信頼の貯金」でした。あけぼの関西時代の私の仕事ぶりや売上貢献を知る卸の支店長クラスの方々が「増田なら間違いない」と特例で契約を承認してくださったんです。誠実に取り組んできた過去の自分が、未来の自分を助けてくれた瞬間であり、経営における「信頼」の重みを痛感しました。
― 店舗ではお米の販売などユニークな取り組みをされています。
実家が兼業農家であることを活かした取り組みです。薬局はどうしても「処方箋がないと行けない場所」と思われがちですが、その心理的ハードルを下げたかったんです。お米を買いに来るというきっかけがあれば、そこから「最近、お食事はしっかり摂れていますか?」といった会話が自然に生まれます。一人暮らしの高齢者の方がお米を何キロ食べるかを知ることで、その方の生活背景や栄養状態を把握できます。たとえ薬がなくても、地域の方がふらっと顔を出してくれる「地域のハブ」でありたいと考えているんです。現在は畑で採れた野菜の提供など、形を変えて交流を続けています。
― 最後に、今後の展望についてお聞かせください。
弊社の理念は「共に紡ぐ笑顔の輪」です。ここで最も重要視しているのは、実は「スタッフの満足度」です。スタッフが仕事の面白さや環境に満足していなければ、患者さんに質の高いサービスを提供できるはずがありません。スタッフの笑顔が患者さんの笑顔を生み、その相乗効果で地域全体に笑顔の輪が広がっていく。それが私の理想です。
また、私は「プライマリ・ケア」「栄養」「高齢者医療」を経営の3本柱に据えています。今後は、事務スタッフとして雇用している管理栄養士の専門性を活かし、近隣ドクターへの「栄養指導業務委託」事業を拡大させたいと考えています。適切な栄養介入によって数値が改善すれば、結果として「薬を減らす」という提案が可能になります。薬剤師が自ら処方箋を減らすアプローチは一見利益に反するように見えますが、患者さんのQOLを最優先することが、最終的には「困ったときに真っ先に思い浮かぶ薬局」としての信頼に繋がると信じています。
また、私は「プライマリ・ケア」「栄養」「高齢者医療」を経営の3本柱に据えています。今後は、事務スタッフとして雇用している管理栄養士の専門性を活かし、近隣ドクターへの「栄養指導業務委託」事業を拡大させたいと考えています。適切な栄養介入によって数値が改善すれば、結果として「薬を減らす」という提案が可能になります。薬剤師が自ら処方箋を減らすアプローチは一見利益に反するように見えますが、患者さんのQOLを最優先することが、最終的には「困ったときに真っ先に思い浮かぶ薬局」としての信頼に繋がると信じています。
プロフィール
春日野薬局福島店
管理薬剤師 増田恵亮
<資格・認定>
・プライマリ・ケア認定薬剤師
・老年薬学認定薬剤師
・研修センター研修認定薬剤師
・公認スポーツファーマシスト
・認定がん医療ネットワークナビゲーター
<所属団体>
・日本プライマリ・ケア連合学会
・日本老年薬学会
・日本栄養治療学会
・日本医療薬学会
・全国薬剤師・在宅療養支援連絡会
<経歴>
第一薬科大学卒業
よねざわ調剤薬局高洲店
株式会社あけぼの関西 京都エリア配属後、京阪エリアマネージャー
春日野薬局福島店をM&Aにて事業継承
管理薬剤師 増田恵亮
<資格・認定>
・プライマリ・ケア認定薬剤師
・老年薬学認定薬剤師
・研修センター研修認定薬剤師
・公認スポーツファーマシスト
・認定がん医療ネットワークナビゲーター
<所属団体>
・日本プライマリ・ケア連合学会
・日本老年薬学会
・日本栄養治療学会
・日本医療薬学会
・全国薬剤師・在宅療養支援連絡会
<経歴>
第一薬科大学卒業
よねざわ調剤薬局高洲店
株式会社あけぼの関西 京都エリア配属後、京阪エリアマネージャー
春日野薬局福島店をM&Aにて事業継承
取材後記
今回の取材を通じて最も印象的だったのは、増田先生の「極めて冷静な戦略眼」と「真摯なまでの誠実さ」が同居している点です。独立にあたって「処方箋集中率」や「固定費の抑制」といった経営指標をシビアに分析する一方で、開業時の窮地を救ったのが過去の仕事で積み上げてきた「信頼という名の貯金」だったというエピソードは、医療の本質が結局は「人と人との繋がり」にあることを強く再確認させてくれました。また「栄養指導によって薬を減らす」という、薬局の利益とは相反するように見える挑戦を未来への投資として笑顔で語る姿も印象的でした。スタッフの満足度を最優先に掲げる増田先生が経営する春日野薬局は、これからも単にお薬を渡す場所を超えた「心の拠り所」として、確かな笑顔の輪を広げていくに違いありません。
最終更新:2026年06月09日 18時39分














