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日本屈指の専攻医数を誇る「藤田総診」に学ぶ、総合診療のリクルート戦略

2015年に産声を上げた藤田医科大学総合診療プログラム、通称「藤田総診」。立ち上げから10年目となる現在(2025年2月)全国から71名の専攻医が集まる日本屈指の総合診療医局として知られています。多くの専攻医を惹きつけるリクルート戦略の秘策はどこにあるのでしょうか。藤田総診を立ち上げたプログラム責任者の大杉泰弘先生、リクルート活動を牽引する岩田仁志先生と中込雅人先生、現役専攻医として広報支援に関わる磯部輝紀先生にお話しを伺いました。
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総合診療の魅力を知らない潜在的ニーズを掘り起こす

― はじめに、「藤田総診」の理念をお聞かせいただけますか?

大杉:藤田総診の理念は「教育の力で医師を育て、地域そして世界を変革する」です。その背景には、「総合診療を日本中に根付かせインフラにする」という想いがあります。藤田総診のプログラムを受けていただくことはもちろんですが、そうなる手前の総合診療科や総合診療の魅力を多くの若手医師に知ってもらうことが重要だと考えています。そんな想いもあって、我々が全国のロールモデルとなれるよう総合診療プログラムを立ち上げた経緯があります。

― リクルート戦略を重視するようになった理由は?

大杉:総合診療のキャリアパスを描くことができる質の高い総合診療プログラムを用意すれば、自ずと総合診療医が増えると思いがちですが、それだけでは不十分だと気づきました。総合診療を必要とする場所へ適切に育てた若手医師を届けるための母集団形成には、総合診療をまだ認知していない潜在的なニーズを掘り起こすリクルーティングを戦略的に行うことが重要です。質の高い総合診療プログラムを作ったうえで良い教育をすることとは別軸で、リクルート戦略も重視し総合診療を知ってもらい、興味を持ってもらうプロセスにも力を注ぐ意思決定をしたわけです。

― 具体的な戦略ポイントを教えてください。

岩田:総合診療医を目指している若手医師はもちろんのこと、総合診療的なニーズを潜在的に持っている若手医師にもリーチしていくことが戦略の要となります。まず、前提として総合診療医を目指す若手医師は全国に20%程度存在すると言われているのに、実際には総合診療専門研修に進む医師は2〜3%程度にとどまっている現実があります。その減損がどこで起きているのかという疑問がずっとありました。実際に大学の外へ出てリクルート活動をしていると、「総合診療と内科で迷っている」「総合診療医になりたいと周囲に言いづらい」という若手医師が想像以上に多いことがわかりました。そういう人たちに対して、本来どんな医師になりたいのか、迷いポイントが何なのかを掘り下げ、働き方や将来のキャリアパスを一緒に考え、総合診療医としての未来がイメージできるマインドへ導いていくわけです。
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    いまや代名詞ともなった藤田総診イエローのインタビューボードが医局の中で存在感を際立たせている

― 実際に総合診療と別の科で迷う人の割合は?

岩田:藤田総診では、ここ数年平均10〜20名弱の新規専攻医の方に来ていただけている状況ですが、そもそも総合診療・家庭医療を学びたいという明確な志を持っている人は1〜2割程度です。残りの8割以上が、別の科や別の専攻医研修プログラムと迷っていた人になります。

中込:総合診療科は2018年に誕生した新しい専門領域なので、学生の周囲にロールモデルとなる総合診療医が少ないことが理由の一つだと考えられます。だからこそ、総合診療医を目指す潜在的ニーズを持つ医学生や若手医師たちと接触し、総合診療の魅力ややりがい、働き方やキャリアパスについて明確にイメージしてもらえるようリクルート活動を行って母数を拡げる必要性があります。

専攻医自らがリクルート戦略の最前線で躍動

― 潜在層にリーチするために取り組まれている具体的なコンテンツは?

磯部:1つはSNSを活用した広報活動です。僕は泌尿器科から総合診療に可能性を感じて藤田総診へ来た経緯がありますが、同期を見渡してみると総合診療に対する認知や期待感は人それぞれ。「藤田総診の雰囲気が好き」「学びたいことが学べそうだ」といった、多様なモチベーションの人が集まっています。そうなると、リクルートのターゲットとなる若手医師も様ざまなモチベーションを持っているはずで、その動機にリーチできる広報活動の重要性を感じました。そこで、等身大である専攻医目線の情報発信をすれば、「総合診療の魅力に気づけていない、あまり認知してもらえていない」層にリーチしやすいのではないかと考えました。現在、同期の専攻医1年生を巻き込みながら、動画配信を中心にInstagramとFacebookでの情報発信に取り組んでいます。Instagramは2024年の11月頃まではフォロワー数300名程度でしたが、2025年3月現在900名超のフォロワー、Facebookは2,500名を突破しました。

― ほかに、力を入れているリクルーティング活動はありますか?

岩田:オンライン説明会を年10回程度開催し、SNSやLINEの公式アカウントで勢力的に告知をしています。この説明会で、様ざまな専攻医に月替わりで演者をしてもらっています。2024年度までは専攻医1年生が中心となり、「藤田総診で半年間研修をしたリアルな体験談」というテーマで実施してきました。2025年度からは専攻医2年生に演者をしてもらい、藤田総診のプログラムについて、より踏み込んだ魅力を伝えてもらえるようパワーアップ予定です。他には、「藤田総診プライマリケアスキルズ(PCS)」と題した勉強会イベントを毎月オンライン開催しています。また、JPCA(日本プライマリ・ケア連合学会)をはじめとする学会でのプログラム紹介、医学生や研修医を対象とした研修情報サービス(レジナビ)で対面式の説明会や相談会にも参加しています。

ターゲットを徹底分析し、一緒にキャリアパスを描く

― リクルーティングで大切にされていることは何ですか?

岩田:総合診療医である私たち自身が、総合診療にやりがいを感じていることを伝えられるように強く意識しています。また、現在プログラムを受けている専攻医たちが主体となったリクルート活動を強化したいという思いがあり、2023年度頃からどんどん仕事を振るようにしてきました。ありがたいことに協力してくれる専攻医が多く、様ざまなモチベーションを持った若手医師にリーチができるようになってきたと感じています。
大杉:我々が実践している戦略には「藤田総診を知ってもらう」、「藤田総診に興味・関心を持ってもらう」、「藤田総診に見学に来てもらう」という3段階のフェーズがあり、それぞれの打ち手が異なります。藤田総診を知らない人は藤田総診に興味・関心を持たないですし、藤田総診に興味・関心がない人は見学に来てくれません。この最初の「認知してもらう」ための重要な打ち手がSNS発信やレジナビなどでの対面式の説明会や相談会になるわけですが、そこから「興味・関心を持ってもらう」ためのオンライン勉強会等に繋げ、リクルーターのフォローアップ等を通じて「見学に来てもらう」最終フェーズにつなげています。
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    豊田地域医療センター内の総合診療科医局
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    創造的な発想がここで育まれている

― フォローアップは3段階のどのフェーズで強化を?

大杉:総合診療に少しでも興味のある人に対して藤田総診の存在を知ってもらうことから始め、その中で興味・関心を持ってくれた人に対して個別フォローアップを強化します。そして、実際に見学に来てくれた医学生や若手医師に対しては、本人の志向やイメージする医師像、働き方やキャリアなど個別のニーズに沿って一緒に考え伴走し、総合診療への理解や藤田総診への興味をより深めてもらいます。
岩田:見学に来られた方へのフォローアップで重視しているのは、ニーズアセスメントの徹底です。見学の申し込み時にはGoogleフォームを使って、見学希望者のニーズをアンケート方式で聴取し、そのニーズを理解したうえで見学当日にアテンドしています。
中込:そうしたリクルート戦略の核となるフォローアップを、教育推進室と連携しながら総合診療医自らが実践している点も強みだと思います。見学に来てくれた若手医師に寄り添い、総合診療医としてのリアルな体験を踏また上で、その人に適したキャリアパスを一緒に考えながら探っていく姿勢を大切にしています。最終的にどのような道に進むのか、その答えは本人の中にしかありません。しかし、医師としてどういう未来を描きたいのか、その未来を叶えるために藤田総診の何が役立つのか、そして、藤田総診で得たスキルや知識を活かしてどういう医師になれるのかを、情報提供しながら伴走します。その結果、人によっては総合診療とは異なる領域へ進むことが良い場合もあったりしますが、それはその時点での正しいひとつの答えとして捉えています。

中込:私は見学者に来てくれた若手医師とは1時間近く話すことが多いのですが、周囲に「手に職つけてからにしたほうがいいのでは?」「総合診療では食べていけないと言われた」など、ネガティブなワードが出た際は、そのようなアドバイスがあった理由を考えながら、現職の総合診療医として実態と将来性を交えながら説明をします。でも最終的に大切なのは、本人が納得のいく答えに辿り着けるかどうかです。その結果、総合診療に可能性を見出してもらえたときは本当に嬉しいですね。
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    在宅医療支援センター

最終目標は「総合診療科のマーケットメイク」

― リクルートチーム内での情報共有はどうのように?

岩田:リクルーティングの進捗確認のミーティングを月に4回行っています。ここでの工夫点としては、藤田総診に興味を持つ・見学に来る若手医師のターゲットを明確化するためのペルソナ設定を独自に構築していることです。勉強会や説明会に参加してくれた対象者が、どういうパーソナリティー属性や特性を持った人なのかを徹底的に分析した上で、先ほどの3段階のフェーズごとに行動や感情の動きを想定し、効果的なアプローチ方法を掘り下げて決めています。

― 研修プログラムを終えた専攻医の出口戦略は、どうしていますか?

岩田:我々としては、「あなたが本当にやりたいことを一緒に探しましょう」という入口戦略からスタートしていますので、進路を決める出口戦略も「一緒に見つけていこう」というスタンスです。もちろん、指導医として医局に残って欲しい気持ちはありますが、組織の都合で専攻医の進路を縛ることはしたくありません。

大杉:当組織や提携病院で様ざまなプロジェクトが動き、新しい病院も増えているので、そこに総合診療をインストールすべくプログラムを終えた専攻医にアサインすることはあります。専攻医それぞれの特性を把握し、当該病院やプロジェクトのリーダーとの相性も考えながら、「こういうプロジェクトがあるけれど、どう?」というお話しはしますが強制はしません。
岩田:専攻医の多くはその後の進路に、診療所の開業や出身地域にある急性期病院や中核病院への就職を選択しています。当組織のプログラムや医局から離れたOBも、診療の現場や症例で困ったことがあれば、LINEなどのコミュニティで繋がっていて気軽に相談できる体制になっています。
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    藤田総診では、いつでも、どこでも 会話が生まれる環境づくりをされているようです

― リクルーティングの秘訣を教えて頂けますか

磯部:専攻医の一人として僕が藤田総診の何に一番惹かれたのかというと、理念です。リクルーティングを組織化して、戦略を立てることは確かに重要ですが、もっと根底に、しっかりとした理念があること、チーム全員で共有し共通言語で語ることができるのはとても大切だと感じています。

中込:自らの熱狂と理解が不可欠だと感じています。自分たちの組織にまず自分たちが熱狂し、熱く語ることができれば、その熱狂が人を熱狂させると思っています。そして、組織の強みを分析・理解し、競合優位性を言語化し、リクルート対象者にいかにフィットするか伝えることが大切だと思います。

岩田:専攻医の研修プログラムの満足度を意識し、一人一人の夢にしっかり向き合うことが大切だと考えています。その結果として、私自身もそうですが専攻医の中からリクルートチームに加わりたいと自発的に手を挙げる人が出てきて、次の世代のリクルーティングに関わるという循環が生まれるのだと思います。

大杉:我々が実践しているリクルート戦略は「自分たちの良いところ探しゲーム」みたいな感じなんですよね。自分自身や組織の良い点を探し、褒めあって、この良さを他の人にどう伝えようかと考えることが藤田総診のリクルート戦略の本質。他のプログラム関係者から「忙しい中、リクルート活動をするのは大変。」という言葉を聞きますが、リクルート活動は本当はすごく楽しいはずなんですよ。リーダーになる人は、そのことを頭に置いてリクルート活動を展開していくと、うまく循環していくと思います。

― 藤田総診の戦略をベンチマークする競合プログラムも多そうです

大杉:その点については、最初にお伝えした通り「総合診療をインフラにする」ことが最終目標なので、是非広がっていったら良いなと思っております。手厚くリクルーティングする総合診療プログラムが増えれば、総合診療のマーケットメイクに繋がりますし、大きく拡がった母集団の中から、藤田総診に興味・関心を持ち、見学に来てもらえるように戦略を立てれば良いだけのこと。総合診療科に進みたいという選択が日本で当たり前になることが重要だと考えています。
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    笑顔で取材に応じていただいた、藤田総診のプログラム責任者 大杉泰弘先生

藤田医科大学総合診療プログラム

藤田総診 ホームページ
https://fujita-soushin.jp/

取材協力者プロフィール

大杉泰弘(おおすぎ・やすひろ)
藤田医科大学 総合診療プログラム責任者
藤田医科大学総合診療科准教授
【略歴】
初期研修後2006年より飯塚病院総合診療科で後期研修
2008年より飯塚・頴田家庭医療プログラムの第1期生として後期研修
2011年より頴田病院家庭医療センター長に就任
2015年藤田保健衛生大学 総合診療・家庭医療プログラム
(現藤田医科大学 総合診療プログラム)を設立

岩田仁志(いわた・ひとし)
藤田医科大学 総合診療プログラム リクルート戦略リーダー
医師12年目:リクルート戦略のリーダーであり、中心人物

中込雅人(なかごみ・まさと)
藤田医科大学 総合診療プログラム アントルプレナーシップ育成プロジェクトリーダー
聖路加国際病院にて初期研修
2020年より藤田医科大学総合診療プログラムにて後期研修
MBAの学びを活かしリクルート戦略の参謀を務める

磯部輝紀(いそべ・てるき)
藤田医科大学 総合診療プログラム 専攻医
医師7年目:泌尿器科専攻医から藤田総診の総合診療専攻医へ転身、SNSを活用した情報発信を企画・実行中
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最終更新:2025年03月18日 12時28分

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