ホームニュースプライマリ・ケア Field LIVE!vol.13/「プライマリ・ケア認定看護師として、地域住民と医師を結ぶ架け橋になりたい」【看護師】渡部あずさ さん

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vol.13/「プライマリ・ケア認定看護師として、地域住民と医師を結ぶ架け橋になりたい」【看護師】渡部あずさ さん

看護師の活躍の場や働き方の多様化が進むなか、愛知県→奄美大島→北海道と活躍フィールドを自ら拡げ、現在もキャリアアップを続けているのが今回インタビューさせていただいた渡部あずさ看護師です。2020年、プライマリ・ケア看護師認定制度に合格。現在、学会の看護部・認定委員として認定者支援を行う「認定者の会」の企画運営にも携わっておられます。開拓精神あふれる渡部さんのお話しを通し、プライマリ・ケア看護師の可能性を探ってみたいと思います。
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幼い頃から憧れた看護師の夢を叶え病棟勤務と手術室看護を経験

- 渡部さんが看護師を目指すようになったのはいつ頃ですか?

通っていた保育園で「大きくなったら何になりたいの?」と将来の夢を聞かれたら、「看護師さん」と答えていました。看護師がどんなお仕事なのか、まだ分かっていなかったし、きっかけも、よく覚えていないんです。三姉妹の末っ子だったので、姉たちの真似をして、そう答えていたんだと思います。

-ということは、お姉さまも看護師ですか?

いえ、医療とは関係ない仕事に就いています。看護師になったのは三姉妹の中で私だけです。幼い頃に看護師に憧れた時のまま、何の疑問も迷いもなく、衛生看護科がある高校へ進学して准看護師になり、その後、2年課程の専門学校に通って正看護師の免許を取りました。

- 最初に看護師として就職されたのは?

卒業した専門学校が付属になっていた愛知県の社会保険中京病院に就職しました。腎臓内科と泌尿器科の混合病棟で5年ほど働いて、さらに自ら望んで手術室の勤務を3年間経験しました。

-手術室の看護を希望された理由は?

泌尿器科勤務の時に外科の患者さんも担当していたのですが、手術を受ける患者さんに、手術の詳細を分かりやすく説明してあげられないことにモヤモヤしてしまって。患者さんにとっては一番の心配事であり、不安を感じるのが手術だと思うんですよね。患者さんにちゃんと伝えてあげられる看護師になりたいと思うようになり、手術室の担当を希望しました。

-手術室看護は、それまでの病棟看護とは違いましたか?

全然、違いましたね。手術室で麻酔をした患者さんは、当たり前ですが何も喋ることができません。その状態から、どうやって患者さんの情報を得て命を守ることができるのかが、看護の中心になります。また、手術室の中での医師と看護師の関係性について学べた経験も大きかったですね。一刻一秒を争う状況で、執刀医が手術でベストパフォーマンスを発揮できるよう、安全な環境と精神状態を守ることも看護師の重要な役割なのだと教わりました。

奄美大島で出会った地域医療と訪問看護の世界

-その後、奄美大島へ移住し、地域医療に従事されたそうですね?

たまたま看護師の友人と奄美大島へ旅行し、瀬戸内町(せとうちちょう)という奄美大島の南端の町に泊まったんですが、そこでの風景と居心地の良さに惚れ込んでしまって(笑)。愛知に戻ってからも忘れられなくて、旅行から半年後に勤務していた病院を辞めて、奄美大島へ移住しました。

- 思い切った決断ですね。看護のお仕事はご紹介で?

いえ、自分で探しました。インターネットで病院を探し、履歴書を送ったら採用していただけて。住む家も病院側が用意してくださったんです。私が奄美に行った2005年頃には看護師の派遣が注目され始めていたので、私は派遣ではなかったのですが、病院側の受け入れ態勢が整っていたんですよ。

- 都市部にある病院と奄美大島の離島医療は違いましたか?

いろんな意味で違いましたね。急性期病棟と回復期病棟が約80床ある、奄美大島の中では中規模な病院だったのですが、瀬戸内町の住民と周辺の小さな離島で暮らす島民の暮らしを守る役割が病院にはあって。台風が来ると島民が孤立してしまうので、病院の中に避難施設があり、持病で呼吸器や酸素吸入をしている患者さんに早めに入院してもらってケアをしたり。島民の生活に根差した看護が中心で、患者さんとの距離の近さをすごく感じました。患者さんの親戚が地域にたくさん暮らしていて、一緒に働いている医療スタッフも患者さんと長年の顔見知りみたいな感じで、病院内にいつもフレンドリーな空気が漂っていました。
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- その病院では診療科が分かれていたんですか?

私は急性期病棟の勤務でしたが、外科の手術も、内科の患者さんも総合的に看護していたので、奄美大島での看護経験が総合診療との最初の出会いだったと言えるでしょうね。

急性期病棟で2年働いて、その後は瀬戸内町から船で15分くらいの場所にある加計呂麻島(かけろまじま)にある系列クリニックへ移り、外来と訪問看護、デイケアに1年ほど携わりました。

- さらに地域に入り込んだ看護を経験されたのですね?

同じ奄美大島の中でも小さな集落で、患者さんとの距離が、より近くて濃密になりました。それが不思議と心地いいんですよ。名古屋で看護師をしていたときは、患者さん=病院でしか会えない人たちだと思っていたけれど、自分から少し手を伸ばせば、病院外の様々な場所で会えるし、違う患者さんの一面が見えるようになる。患者さんの生活が自然と見えてきて、看護にも生かせることに気づいたんです。そのことが、とても面白くて、地域のイベントに顔を出してみよう、ラジオ体操に参加してみよう、と自分の行動が、どんどん変わってゆきましたね。
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- 地域医療の醍醐味の一つですよね

特に、加計呂麻島で働いていた時は、一軒家で一人暮らしをしていたんですが、すぐ隣に同じ集落の人が暮らしていて、「あずさちゃん、今日はなんか食べるもあるの?」「これ作ったから食べな」って毎日声をかけて、持ってきてくださるんですよ。食事には、本当に困らなかったです(笑)

北海道に活動拠点を移し、「プライマリ・ケア認定看護師」に合格

- それから地元の愛知に戻られて、さらに北海道へ移住されたとか?

はい、今度は北海道へ移住しました。ちょうど夕張市が破綻し、旧夕張市立総合病院が夕張市立診療所に移行して数年が経った頃でした。病院の再建に尽力されていた村上智彦先生のことをテレビ番組で知って興味を持ち、病院の見学を申し込んだんです。そして、実際に見学させてもらい、地域医療と地域包括ケアを村上先生のもとで学びたいと思い、そのまま就職しました。

- すごい行動力ですね。

よく言われます(笑)。ちょうど夕張市立診療所で訪問看護を立ち上げるタイミングと重なり、奄美大島で学んだ経験が役に立ちました。初めは病棟勤務をしながら訪問看護の立ち上げに関わり、途中から訪問看護の専属になりました。立ち上げ当初は私を含めて看護師は3人ほど。薬剤師さんと一緒に患者さん宅へ行ったり、理学療法士さんと一緒に訪問リハビリに行ったり。多職種連携を学ぶことができて、ハードでしたけれど楽しかったですね。

- それから現在までのことも教えていただけますか?

夕張市立診療所を退職後、北海道家庭医療学センターの看護師として室蘭の本輪西ファミリークリニック、札幌の栄町ファミリークリニックで計5年勤務し、さらに製鉄記念室蘭病院の透析外来クリニックで5年ほど透析看護に携わりました。そして、結婚・出産を経て、現在は再び北海道家庭医療学センターの本輪西ファミリークリニックで外来と訪問診療の看護をしています。約10年ぶりに本輪西ファミリークリニックに再就職したわけですが、患者さんの半数以上が当時から知っている方たちで、外来に通っていた患者さんが訪問診療に移行されていたり、感慨深い思いで看護させていただいています。
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    勤務されている北海道家庭医療学センターの本輪西ファミリークリニック
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- プライマリ・ケア連合学会との出会いは?

北海道家庭医療学センターの理事長である草場鉄周先生をはじめ、医師の多くがプライマリ・ケア連合学会との関わりが深く、学会の存在は以前から知っていました。私自身が学会と直接関わるようになったのは、2011年。東日本大震災が起こった際に学会の東日本大震災支援プロジェクトが立ち上がり、その一員として私も現地の応援看護に関わらせてもらい、学会で実践報告を発表する機会を得ました。そのご縁で私自身も学会員に。また、発表の場で出会った看護師仲間と一緒に学会とは別に自主的な勉強会グループ(FPNs=Family Practice Nurs会)を立ち上げ、12年以上が経った現在も勉強会を継続しています。

- 学会がきっかけで、看護師さん同士の横の繋がりができたのですね

そうなんです。さらに、プライマリ・ケア看護師認定制度を知り、2期生として合格。現在は学会内の看護部で認定委員会にも所属し、認定者の支援を行う「認定者の会」の企画・運営にも携わっています。

プライマリ・ケア認定看護師に合格したけれど、現場でどう実践的に生かせばいいか分からず悩んだり、現場の看護経験をアウトプットする場がなかったり…

そんな認定看護師が集まれるマッチングの場づくりです。気軽に日頃の業務の中で困っていることなどを共有できる雑談会や勉強会の開催を定期的にしています。

- プライマリ・ケアの現場を支える看護師が孤独に陥らないよう、精神面でも重要な役割を担っているんですね。

私自身が看護師を長年続けられているのも、学会を通じて看護師仲間と出会い、お互いの悩みや課題を共有できたことが大きいと思っています。現在、プライマリ・ケアの看護師の認定者は70名以上いるのですが、コロナ禍の影響もあり十分な活動ができておらず、勉強会や雑談会に集まるメンバーは10〜15名程度で、まだまだ足りていません。認定者として自分たちが何をしているのか、もっと情報発信をして広めてゆくことが、認定制度の認知向上にも繋がると考えています。
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    2022年プライマリ・ケア連合学会学術集会の時に会えたプライマリ・ケア看護師の仲間

プライマリ・ケア認定看護師として看護師同士を結び、地域と医師の架け橋に

- 渡部さんご自身が今後チャレンジしたいことを教えてください

今までの看護経験を点と点で繋ぎ、線を描いてゆくような活動がしたいです。例えば、透析看護の経験から、透析患者さんが重症化しないようにする予防支援。クリニックの外来で初期の段階から、腎臓疾患にならないよう生活習慣の相談や指導をして予防できたら理想的ですよね。

- 家庭医療の看護師として、できることがたくさんありそうですね

そうですね。クリニックの外来の現状は、医師の診察を受けるのがメインになっているので、疾病予防の段階からクリニックの看護師が患者さんと積極的に関わってゆくことが、健康に対するリテラシー向上につながり、地域の人々の健康を守ることに繋がってゆくのではないかと思っています。

今できることとして、クリニックの待合室の掲示板に、認知症予防の脳トレ問題や血圧測定に関する啓蒙ポスターを作って掲示しています。それだけでも、診察室ではなかなか話さない患者さんとの対話が増えるきっかけになります。奄美で体験したような地域の人たちとの距離の近い看護が、プライマリ・ケアのクリニックなら、どの地域でも可能だと確信しています。

- 今後、看護師を取り巻く世界はどう変化すると思いますか?

看護師が活躍できるフィールドは今後ますます広がり、フリーランスの看護師も増えるのではないでしょうか。医療の枠を破り、医療職や介護職以外の他職種との関わりを持つことが、とても重要だと考えています。実は私、看護師をしながら北海道大学高等教育推進機構の「科学技術コミュニケーター」養成プログラムに1年間通ったことがあるんですよ。

専門家と地域住民のコーディネーターみたいな役割で、イベント企画や対話力を磨く、実践的なカリキュラムが特徴です。私は看護に生かしたくて受講しました。患者さんと医師の架け橋役というか、治療方針など先生から説明したことを、かみ砕いて患者さんに伝えてあげることが医療の中でのコミュニケータの役割になるのかなと思っています。

- 全く違う業界や職種の人との対話は、大きな刺激にもなりますね

私自身も変われた気がするし、様々な他職種の人たちと出会い、関わることができて、考え方やアイデアのヒントをたくさん得られました。

今、「認定者の会」で勉強会を企画して実践することにも、学びの経験が生きていると思います。
今年(2023年)の学術大会では「認定者の会」から複数のセッションを行う予定にしています。

看護師のみなさん、ぜひ覗きに来てください!

プロフィール

北海道家庭医療学センター 本輪西ファミリークリニック
看護師 渡部あずさ(わたなべ・あずさ)

~プロフィール~
1997年 社会保険中京看護専門学校卒業
1997年4月~2005年3月 社会保険中京病院 (泌尿器科、腎臓内科、手術室)
2005年4月~2008年3月 奄美大島で離島医療(病棟、外来、訪問看護、デイケア)に従事
2008年4月~2010年3月 北海道に移住。夕張市立診療所にて病棟、訪問看護に従事
2010年4月~2015年12月 北海道家庭医療学センター(本輪西ファミリークリニック、栄町ファミリークリニック)外来、訪問看護、訪問診療
2016年7月~2021年8月 製鉄記念室蘭病院 サテライトクリニック知利別(外来維持透析)
2021年9月〜北海道家庭医療学センター本輪西ファミリークリニック(外来、訪問診療)
2012年 介護支援専門員取得
2015年 北海道大学高等教育推進機構CoSTEP本科(対話の場)修了
2017年 FRPピラティスインストラクター取得
2019年 糖尿病療養指導士資格取得
2021年 プライマリ・ケア連合学会認定プライマリ・ケア看護師取得(2期生)

渡部さんが勤務する北海道家庭医療学センター
https://www.hcfm.jp 

渡部さんが仲間と創設した看護師の勉強会グループ
「FPNs(Family Practice Nurse)会」公式Facebook」
https://www.facebook.com/groups/378106038886339/ 

取材後記 ~あらゆる経験が強みになるプライマリ・ケアの看護師~

日本を南へ北へと奔走し、看護師として実践的なキャリアを積み上げてきた渡部さん。ご本人曰く「心の赴くまま動いているだけ」と振り返りますが、これまでの経験と学びすべてが今に繋がる糧となっていることが、インタビューを通じて伝わってきました。渡部さんをはじめとするプライマリ・ケア認定看護師が中核となり、今後さらにプライマリ・ケア連合学会での看護師支援プロジェクトは発展することでしょう。期待しています!

最終更新:2023年04月02日 16時12分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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