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冷えのミカタ① -「冷え」に注目する-

はじめに

現代医学では、いわゆる「冷え症」を体質と捉えて病気として扱うことはない。一方、漢方治療では「冷え」を重視して積極的に治療する。冷えの漢方治療を行うと、冷えだけでなく、さまざまな症状や病態が改善することをよく経験する。本連載で漢方の冷えの「診方」を学び、冷えに悩む患者さんの「味方」になってほしい。第1回目は、「冷えの見つけ方とその鑑別」について解説する。

冷え症とは

いわゆる「冷え症」は医学的診断名ではない。しかし、日本人女性のおよそ2人に1人が冷えの自覚があり、加齢に伴いその割合は増加する。また、冷え症は不眠、全身倦怠感、肩こり、腹痛、便秘などの症状を伴いやすく、冷えはさまざまな心身の不調と関連しているといわれる。「冷え症」の定義は厳密に確立されていないが、寺澤は、「通常の人が苦痛を感じない程度の温度にもかかわらず腰背部、手足末梢、両下肢、半身、あるいは全身的に異常な寒冷感を自覚し、この異常を一般的には年余にわたって持ち続ける病態をいい、多くの場合、この異常に関する病識を有する」と定義している。また「冷え」に関する41論文の概念分析を行った報告による、「中枢温と末梢温の温度較差がみられ、暖かい環境下でも末梢体温の回復が遅い病態であり、多くの場合、冷えの自覚を有している状態」とする定義がある。冷えの本態は単純なものでなく、組織血流量の低下、循環動態の悪化、末梢組織温度の低下、浮腫などが混合した病態で、体内外の環境因子の変化や精神的・身体的ストレスにより増悪すると考えられている。冷え症と関連する内的因子として、自律神経の失調(副交感神経活動の低下、交感神経活動の緊張)、四肢末梢の皮膚血流量の低下、痩せ型などがあり、さらに環境因子として外気温の低下、ストレス、運動不足、甘いもの、冷たいものなどの体を冷やす陰性食品の摂取などがあげられる。
それでは、漢方では「冷え」をどのように考えるか?漢方医学的病態は大きく「陽証(ようしょう)」と「陰証(いんしょう)」の二つに分けられる。陰証は生体の反応力が低下した状態で、新陳代謝や温熱産生が低下して、冷え症になりがちである。陰証≒冷えが主体の病態と考えてよい。冷えがあるかどうかを判断することが漢方治療を行ううえでのはじめの一歩であり、冷えがあれば、温める治療を優先しなければならない。甲状腺機能低下症は陰証をイメージしやすい現代医学的な病態である。甲状腺機能低下症で出現する寒さに弱い、疲れやすいなどの症状は陰証の特徴と一致する。臨床診断学で有名なローレンス・ティアニー先生の「女性患者が電話をかけてきて、ゆっくり、かすれた声でいつも寒いのですが、と話したら、甲状腺機能低下症と電話ごしに診断できる」というクリニカル・パールがある。さらに筆者が着目したいのは、続けて「しかし、甲状腺機能低下症のない多くの高齢患者が同じ症状を訴えることがある」と述べていることである。ティアニー先生も、甲状腺機能は正常でも高齢者では冷えの訴えが多くなることに気づいていると考えられ、たいへん興味深い。

漢方医学における冷え

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最終更新:2024年01月14日 21時18分

実践誌編集委員会

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