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特別編 学会委員会に聞いてみました! vol.02/『スポーツ・運動医学委員会』

「スポーツの現場においても総合診療医・家庭医は強く求められている」【スポーツ・運動医学委員会】

日本プライマリ・ケア連合学会にある委員会の活動を広くお伝えする特別企画「学会委員会に聞いてみました!」。
第2弾となるこの回でご登場いただくのは「スポーツ・運動医学委員会」の先生方です。委員長を務める小林知貴先生のほか、今回は4名のメンバーのみなさんから委員会の具体的な取り組みや今後の展開についてお話をうかがいました。
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スポーツ・運動医学への関心を持つ総合診療医・家庭医は多い

― まずはスポーツ・運動医学委員会の概要から教えていただけますか?

小林:もともとは当委員会の副委員長を務める岡田唯男先生(亀田ファミリークリニック館山院長)たちが取り組んできた活動を委員会というかたちで引き継いだ経緯があります。岡田先生は「プライマリ・ケアの分野においてスポーツ・運動医学領域の充実が必要」と主張されており、今日参加されている濱井先生たちと講演会やワークショップを企画・運営されていたんです。その活動を日本プライマリ・ケア連合学会の正式な委員会として取り組んでいくべきとの声が上がり、2020年に小嶋一先生を委員長として発足しました。
濱井:日本の総合診療医・家庭医が手がけるべき分野であるにもかかわらず、まだ充分に取り組みができていない分野があって、例えばウィメンズヘルスがそうでした。かつては産婦人科医がメインに取り扱っていましたが、いまでは総合診療医・家庭医もその領域をカバーするようになっています。学会の中で「次に取り組むべき分野はスポーツ・運動医学ではないか」ということになり、賛同する仲間が集まってできたのがこのスポーツ・運動医学委員会といくことになるかと思います。

― 具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?

小林:まず3ヶ月に一度、委員会としてメンバーが集まって話し合いをします。そのほか毎年の学術大会でシンポジウムを開催、ほかに夏期・秋期・冬期にそれぞれセミナーやワークショップを開催します。委員会としては学会員のみなさんが地域住民の方々に対し、スポーツ・運動医学の領域において貢献できるよう支援したいとのビジョンがあります。健康増進や予防に役立てるようになってほしいということですね。
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    3カ月1回のオンライン会議
濱井:学会員を対象とするアンケート調査を行ったことがあります。その結果では「スポーツ・運動医学に興味がある」「スポーツ・運動医学は必要である」「スポーツ・運動医学に取り組んでみたい」という声が大半でした。 特に若い医師のみなさんにそういう傾向が見られました。
しかし興味があって勉強をしようと思っても、どこから手をつけていいかわからないとの声も少なくなく、それに応えて学びの機会を提供していこうというのが当委員会の活動の中心となっています。シンポジウムやセミナー、ワークショップなどを学習コンテンツの充実を図るために行っています。

総合診療医・家庭医とスポーツ医学の親和性は高い

― これまでどのようなシンポジウムを行ったのですか?

濱井:新型コロナウイルスの影響もあり、学術大会でシンポジウムを開催できたのは2020年度からでした。この時は日本スポーツ医学財団および日本臨床スポーツ医学会の理事長をしておられる松本秀男先生から「スポーツ医学ってなんだろう?」というテーマで講演をしていただき、当委員会の活動紹介や先ほどのアンケート調査の結果などを報告しました。
2023年度は「スポーツ現場の医療と総合診療・プライマリ・ケアへの期待」というタイトルでシンポジウムを実施しました。日本臨床スポーツ医学会副理事長(現理事長)であり日本陸上競技連盟の医事委員長である山澤文裕先生から「スポーツ医学へのいざない」という題でお話をしていただきました。山澤先生は東京マラソンの救護体制構築にもご尽力されています。
マラソン大会は全国で開催されていて、必ず救護体制が取られます。先のアンケート結果でもマラソン大会の救護に関わっているという学会員が多かったので、多くのヒントが得られると考えて山澤先生にお願いした企画です。この時は久保先生にもご自身の経験をお話ししていただきました。
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    マラソンの大会救護
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    別府大分毎日マラソン
久保:そうですね。私は普段は総合診療医として外来・入院の患者さんを診ていますが、一方でスポーツ選手たちとの関わりも少なくありません。例えば、これはシンポジウムでも話したことですが、別府大分毎日マラソン大会は毎年事務局の立ち上げ時から関わっていて運営メンバーの一人になっています。そこで救護活動を行うわけですが、総合診療医としてはさまざまな領域・分野の人たちと連携を図るマネジメントは日常的なことなので、その経験は役に立っていますね。救護体制のスムーズな運営につながっていると思っています。この他にもバレーボールのVリーグのチームや地元のラグビー強豪校との関わりも持っています。
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    ラグビーワールドカップ2019

― いまのようなお話をうかがっていると、プライマリ・ケアとスポーツの現場は親和性が高いように思えてきます

小林:その通りですね。スポーツの現場というと、どうしても外傷や筋骨格系など整形外科的なことがメインだと思われがちなんですが、現実にはそれだけではありません。内科的疾患やメンタルヘルス、月経の問題など多様な診療の幅が求められる場面はたくさんあって、総合診療医・家庭医として果たせる役割は決して小さくないと思います。そのあたりのことは、実際にスポーツの現場でお仕事をされることの多い伊東先生から話していただきましょうか。
伊東:はい。私が関わっているスポーツの現場としては大きくふたつあります。ひとつは男子バスケットボール豊田合成スコーピオンズのチームドクターです。こちらでは選手やコーチたちに対して栄養やけがに関する知識、水分補給のタイミング、またストレッチメニューの作成などさまざまな面でアドバイスをしています。選手たちのコンディションや健康を支える役割ですね。
もうひとつは小中高生の運動系の部活に関するもの。実は小中高生のクラブ活動の現場は専門家の目から見るとヒヤリとするシーンが少なくないんです。顧問の先生方の中には手探り状態で指導をしている方も多く、けっこう悩みも抱えていらっしゃいます。 そうした先生方から相談を受けてアドバイスをするといったこともしています。
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    チームドクターである伊東先生
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    中学生の少年野球保護者、指導者を対象にケガについての講演
私はイギリスでスポーツ医学を学んだのですが、そこでは整形外科的なことよりも、むしろリハビリや予防を中心に学びました。先ほど小林先生のお話にもありましたが、スポーツの現場は整形外科だけではカバーしきれません。私は整形外科医とはまた違うアプローチでスポーツの現場を支えていきたいと思っています。
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久保:確かにそのようなアプローチは大切ですね。私のいる大分はラグビーの合宿も盛んに行われるところなんですが、その合宿中に選手が体調を崩した時、どこに連絡をすればいいかがわからないという声をよく聞きます。例えば発熱や腹痛といったケースです。
そういう時は総合診療医がいったん窓口となって対応すれば治療もスムーズになるかなと思います。総合診療医・家庭医が対応できるならそれでいいですし、専門医にバトンタッチした方がいいとなれば、それも可能ですから。また、処方する薬に関してもドーピングの対象になるかならないかも把握しているので選手にとっては安心でしょうね。

選手たちがずっとスポーツを続けていくためにも

― 今後の取り組みとしては、どのようなことをされていくお考えですか?

小林:学会員のみなさんへの啓蒙が大切ですから、引き続きシンポジウムやセミナーなどを実施して教育コンテンツの充実につなげていきたいですね。それに関連してスポーツ・運動医学を体系的に学べるコースを作成し、研修プログラムとして提供できるようになればとも考えています。他の学会との合同シンポジウムももちろん視野に入れていますし、最終的には地域住民の方々の健康増進に貢献する医師を育てていくということになってきますね。
濱井:スポーツ・運動医学に関心を持つ医師は多いわけですから「いかに育てるか」は重要な課題だと言えます。その方向性としてはふたつあると私は考えています。ひとつは久保先生や伊東先生のようにトップアスリートへの対応も含めて、幅広い対応ができるオールラウンドなスポーツフィジシャン(スポーツ医)を育てること。もうひとつは、総合診療医・家庭医全体の底上げですね。総合診療の研修で運動器診療やスポーツ医学に触れる機会は少ないという現状があり、教育コンテンツの充実がそこに関わってくるといえます。委員会として各種セミナーでのワークショップ等を実施していますが、2022年からは、そこに若手の協力員を募り一緒に企画を行うようにしています。スポーツ医学に興味がある若手が企画運営に関わりながら学ぶことができる、そんなコミュニティを作ることで、この分野を拡げていく足掛かりになればと考えています。
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    JPCA2022
伊東:そうした底上げがあり、その中からオールラウンダーが出てくるような道筋をつけると日本のスポーツ界全体のボトムアップにつながっていくと思います。実際イギリスではロンドンオリンピックをきっかけにスポーツへの関心が高まり、そのような体制が整っていきました。日本もこれからそうした機運が高まっていけばいいと思いますね。
久保:医療従事者としては、やはり選手たちがずっとスポーツを続けられるように手を差しのべたいという思いがあります。無理をした結果故障してしまい、そこで選手生命が終わりを迎えるというのはやはり悲しい。怪我をしない方法やコンディションの保ち方、水分補給や栄養摂取、休養の取り方などいろんな面から支えていけるのがスポーツ・運動医学を学んだ医師です。選手たちはやがてスポーツの指導者となって、次の世代の選手を育んでいきます。そうした循環がうまく機能すれば、結果的に地域のスポーツが活気づくといったことも充分考えられますね。
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    運動選手へドーピング講習会
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    警察学校での熱中症対策講習会
小林:その意味ではスポーツ・運動医学の果たす役割は大きなものだと思います。委員会としてはいろいろとやりたいことはあり、メンバーのみなさんが忙しかったり、時間的な制約もあったりするのですが、着実に前に進んで行ければと思っています。

取材後記

「練習のし過ぎで筋肉を痛めて試合に出られなくなった……」という話は多かれ少なかれ誰もが聞いたことがあるはずだ。なかには自らの体験として苦笑いをする人もいるかも知れない。 選手たちがオーバートレーニングに陥らないようにするには指導者の行き届いた管理が求められるが、現実にはなかなか難しいようだ。
スポーツの現場にスポーツ・運動医学の専門的な知識を持つ医師がいれば、きっと心強いに違いない——今回、スポーツ・運動医学委員会の先生方のお話をうかがっていて、そんなことを考えさせられた。故障や怪我をしてから対応するのではなく(もちろんそれも大切なことなのだが)、そういう事態を防ぐことに医療従事者が注力すれば、現役選手としてスポーツを長く楽しめる人はいま以上に増えるはずだ。これは健康づくりのために体を動かしている人たちも対象となるものだろう。
スポーツ・運動医学の知識を身に付けた総合診療医・家庭医が増えれば地域の健康づくりにより一層深く関わっていけるようになるのは言うまでもない。その意味では、教育コンテンツの充実に取り組む同委員会の活動には大きな期待が寄せられていると言っても決して過言ではないはずだ。

取材協力

日本プライマリ・ケア連合学会
スポーツ・運動医学委員会

小林知貴先生 委員長
久保徳彦先生
濱井彩乃先生
伊東知子先生

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うじな家庭医療クリニック 院長
医師 小林知貴

1999年 岐阜薬科大学 薬学部厚生薬学科卒業
2011年 広島大学 医学部医学科卒業
2016年 家庭医療専門医取得
2016年 広島大学病院 総合内科・総合診療科
2023年 JCHO九州病院 緩和ケア科 
2023年 シムラ病院 整形外科 
2024年 医療法人瀬尾医院 うじな家庭医療クリニック

所属学会・資格等
医学博士
日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医・指導医
日本専門医機構 総合診療専門医・指導医
日本内科学会 総合内科専門医
日本消化器病学会 消化器病専門医

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別府医療センター 総合診療科 医長
医師 久保徳彦(くぼ のりひこ)

1974年1月 福岡県福岡市生まれ
大学入学まで福岡市で育つ
1999年      香川大学 医学部 医学科 卒業
1999年      九州大学病院 総合診療科 研修医
2000年  原土井病院 内科 研修医
2001年  九州大学大学院 感染制御医学 入学
2005年  同上 修了(博士号取得)
2005年  九州大学病院 総合診療科 医員
2006年  九州大学病院 総合診療科 助教
2007年  カナダ ウエスタン・オンタリオ大学附属病院 助教
2009年  国立病院機構 別府医療センター 総合診療科 科長
2014年  大分大学医学部 臨床准教授(併任)
2014年  米国 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)附属病院
2015年  国立病院機構 別府医療センター 総合診療科 医長
2019年  大分大学医学部 臨床教授(併任)
現在に至る

所属学会等
日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医
日本内科学会 認定医・指導医
日本病院総合診療医学会 認定医・指導医
日本エイズ学会 認定医
日本感染症学会
日本化学療法学会

米国総合診療学会
医学博士 (九州大学)
日本スポーツ協会 公認スポーツドクター
大分県スポーツ協会 医科学委員
大分県スポーツドクター協議会 役員
国民体育大会大分県代表チーム チームドクター
バレーボールVリーグ男子 大分三好ヴァイセアドラー チームドクター

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安房地域医療センター
総合診療科
医師 濱井彩乃(はまい あやの)

2006年3月 京都大学医学部医学科卒業
2006年4月 総合病院国保旭中央病院にて初期研修、内科研修
2010年4月 館山ファミリークリニック 家庭医診療科にて後期研修、フェロー、スタッフとして勤務 
2015年7月 森の里病院 内科出向
2016年4月 安房地域医療センター 総合診療科勤務 現 部長代理 卒後教育委員会委員長 
亀田家庭医総合診療プログラム 副ディレクター
国際武道大学 非常勤講師
全日本剣道連盟 アンチ・ドーピング委員会委員
日本臨床スポーツ医学会 倫理・COI・将来構想委員会委員

認定資格
日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医/指導医
日本内科学会 総合内科専門医/内科指導医
日本スポーツ協会公認スポーツドクター
日本パラスポーツ協会 パラスポーツ医
日本在宅医療連合学会 在宅専門医/指導医
日本病院総合診療医学会 認定医/特任指導医
日本専門医機構 総合診療専門医

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Sports and Exercise Medicine Japan創設責任者
豊田合成スコーピオンズ チームドクター
浜松医科大学地域家庭医療学講座 特任研究員
医師 伊東知子

2008年北海道大学卒業
2010-2012年 名古屋エキサイカイ整形外科、救急科勤務
2015年 静岡家庭医養成プログラム、滋賀家庭医療センターでの研修を経て家庭医療専門医取得
後期研修期間中に、University of Michigan, Western Michigan UniversityでPrimary care sports medicineのelective研修
2020年英国University College Londonの修士課程MSc Sports Medicine, Exercise and
Health修了

「運動の楽しさを知って多くの人に健康になってもらいたい」
日本でも世界水準のスポーツエクササイズ医学を実践したいと日々奮闘中です。

個人website: https://doctor-t.site
note: https://note.com/sports_doctor_t

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最終更新:2024年03月04日 11時49分

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

記事の投稿者

「プライマリ・ケア公式WEB」 編集担当

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