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医療の質と安全/医療の質とは何か?-Part 2-

医療安全・質改善はシステムの最善化

医療安全と質改善は、きわめて属人的な人間活動である。科学的にも論理的にも正しいことが、なぜか現場では行われていない。誰もが間違えるはずもないことが、なぜか実際に起こってしまう。どこかの国のように間違えたら銃殺されるくらいの緊張感があれば、現場でのケアレスミスはなくなり安全な医療ができるのか?ガイドラインに反することをしたら即刻チクられて、強制収容所に入れられるようなシステムがあれば、質の高い医療につながるのか?確かに安全と質を究極的に追求すれば、こうした取り組みは正解かもしれない。でもこんなやり方は特殊な環境のみでしか通用しない。財閥の長、上場企業社長、政府高官や要人などのVIP専用で、カネやヒトに糸目をつけない病院なら可能かもしれない。でも東京にあるといわれるそういった病院でも、日々、医療安全や質改善の問題が発生しているらしい。

全国民が均一な医療を受ける機会が等しく提供されている我が国において、医療が社会システムの一部である以上は、上記のような方法を取ることはむずかしい。医療安全・質改善は、現場の医療サービスの最善化だけではなく、システム全体の最善化をさす。だから前回、ナイチンゲール:Public Health、コドマン:Healthcare Provider、冲中:Individual Clinical Medicineという枠組みで象徴的な事例を紹介した。冲中重雄先生Individualとはいっても、冲中内科という小さな集団となり、そして弟子たちが全国で診療していくことで、その教えと実践は全国へ、未来へとつながっていく。最近では、全国に広がる「感染症診療の原則」は、まだ沖縄が占領下の時代に米国に渡った喜舎場朝和先生からはじまり、そして青木眞・遠藤和郎先生ら弟子たちを育て、マニュアルや講習会を通じて方法論や実践方法が広まり、現在のように血培2セットや抗菌薬の適正使用が推奨される世の中になった。
家庭医のコンセプトを取り入れたのは誰か知らないけれども、巡りめぐって日本プライマリ・ケア連合学会として家庭医療専門医なる専門医資格となり、全国津々浦々の研修施設で若い医師が巣立っていく。そして、病院や医療機関などのHealthcare Providerや、医療経済や政策などPublic Healthの枠組みを通して行う改善活動は、さらにボリューム感も大きいため、社会全体への影響力は小さくない。

スコープを変えて向き合う

医療安全と質改善に向き合うためには、きちんと“個人と組織の関係性"、“部分最適と全体最適"を捉えなければならない。個人の努力や活動だけで、真の質改善につながることはない。たとえ小さな臨床現場であったとしても、複数の人々が介在する組織として認識して、その組織を改善するためには、構成するメンバーの相互作用、気持ちやモチベーション、ルールや規範、そして個人の能力や行動、努力を望ましい方向に変化させるように意識しなくてはならない。そして変化させるためには、予算、人事、機器、情報などを組織にとって望ましい方向に誘導させることが必要である。そして誘導するためには、医療機関の財務状況、機能、人的資源を考慮して、全体最適につながるように各組織へ分配しなければならない。
近年、医療安全の領域でも、1/10000の確率で発生する悪い事象よりも、9999/10000の確率で発生する正しい事象を考える視点が提唱されている。これまで医療安全対策は、単一の有害事象の分析から、背後にある因果関係を暴き、改善を図る一点集中型アプローチであった。しかし実際には、臨床現場はヒト・モノ・情報が入り乱れる、いわゆる複雑系システムであり、単純な工場ラインに適用される品質管理モデルと同じように考えるべきではないという批判もある。
実は正しい事象の多くはマニュアルどおりに行われた結果というよりは、システムのなかで調整されて悪い方向へ流れるのを避けられた結果としても考えられる。そうした考えからレジリエンス・エンジニアリングというシステム全体を最適化する手法が研究されている。
このように真の医療安全・質改善をめざすには、自分のスコープを拡大/縮小させて視界を変化させること、システム全体で考える俯瞰力、そして現場にフォーカスして改善を図る現場力の両方をもつ必要がある。

変幻自在なスコープ視点で事象を考える際には、米国医学研究所(IOM、現HMD)が提唱する六つの目標(Six Aims)、すなわち「安全性」、「有効性」、「患者中心志向」、「適時性」、「効率性」、「公正性」を軸にするとよい。このIOMレポートでの目標達成のアプローチには、臨床現場での診療内容から医療機関における組織的取り組み、医療システムへの政策的介入まで含まれている。皆さんの現場で発生する問題点をこれらの六つの目標を通じて考えてみるとよい。

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最終更新:2024年07月17日 00時00分

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