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プライマリ・ケア医のための更年期障害診療/②検査・BPSアプローチでのアセスメント」/vol.1 No.2

はじめに

前回は診断編①として日本における更年期症状のバラエティと鑑別診断について扱った。
今回は診断編②として検査ならびに生物学的・心理学的・社会学的(BPS)アプローチを用いたアセスメントについて述べる。

症例

45 歳女性
主訴:倦怠感、ほてり、発汗、イライラ
既往歴:なし 内服:なし 家族歴:父に高血圧、母に認知症 
喫煙:10 本を 20 年間 飲酒:なし 職業:パート

現病歴:半年前よりなんとなく疲れやすいことを自覚していた。2 ヵ月前よりほてりが出現し汗をかくようになり、最近になり頻度が増加してきた。
1 ヵ月前の健康診断ではコレステロール値の軽度の異常のみであったが、これらの症状が更年期障害かどうか、更年期障害としては早いのではないかと心配して来院した。

このような患者が外来を受診した場合、どのようなアプローチを行い更年期障害かどうか診断していくのがよいのだろうか?

診断について

 更年期障害は「更年期(閉経前後 5 年間の計 10 年間)に現れる多種多様な症状のうち、器質的変化に起因しない症状を更年期症状とよび、これらの中で日常生活に支障をきたす病態」と定義される 1)。
なお、閉経は 12 ヵ月以上の無月経を確認することで判定できる(図 1)2)。
『JAMA』のレビューでは、更年期障害の診断において陽性尤度比(LR+)が高かったのはのぼせ・ほてり(hot flush)(LR+ 2.2 〜 4.1)、寝汗(LR+ 1.9)、腟乾燥感(LR+ 1.5 〜 3.8)であり、陰性尤度比(LR−)が低かったものは自己評価(LR − 0.18 〜 0.36)であった 3)。

これは hot flush や寝汗、腟乾燥感があれば更年期障害の可能性が高くなり、自分は更年期障害ではないと評価する場合には更年期障害の可能性が低いことを示している。ただし、このレビューの元文献は欧米のものが主であり、日本と欧米とでは更年期症状に違いがあることに注意が必要である。
また、同様の症状をきたす可能性がある基質的疾患を見落とさないことも重要である。更年期ではとくに甲状腺疾患、うつ、悪性腫瘍、薬剤性(カルシウム受容体拮抗薬、GnRH アゴニストなど)である 1、4)。

以上より、更年期障害は、一定のクライテリアを満たすものではなく、あくまで症状や身体所見から更年期障害「らしさ」を考え、総合的に診断していくものである。そして、同時に器質的な疾患が潜んでいないかどうかの幅広い診断力が必要と考える。
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検査

◎更年期症状の問診票

 歴史的にはKupperman 更年期指数5)が知られるが、点数化などにいくつか問題があり、現在欧米では使用されていない。日本では、更年期症状をスコア化した簡易更年期指数(simplified menopausal index:SMI)6)が考案されたが、スコア自体の理解に混乱が生じること7)や心理的評価が不十分8)などの指摘がある。
 そのため、上記を補い日本人女性の更年期にみられる症状をカバーした「日本人女性の更年期症状評価表」(表1)9)が日本産科婦人科学会より発表されている。
この評価表は自己記入式で簡便であることから外来の待ち時間などを利用してみてもよいだろう。しかし、これは症状の種類や程度を把握するためのものであり、これだけで診断するものではない。また、日本人には少ないとされる腟症状に関しては含まれておらず、前回に述べたように日本人においても潜在的な悩みはあると考えられるため、腟乾燥感や性交痛などの腟症状に関しても確認する。
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◎卵胞刺激ホルモン(FSH)とエストラジオール(E2)検査

 更年期障害の診断には原則的には不要である。確かにFSH の上昇は閉経の前兆となる10)とされているが、FSH の上昇よりも月経周期の変化のほうが閉経を予測するよい指標であると報告される11)。また、アメリカ生殖医学会(ASRM)のChoosing Wisely Ⓡには「40 歳代の更年期の診断にFSH は計測しないこと」と明記されている12)。
 例外として次の患者にはFSH とE2 の測定を考慮する。

 40 歳未満で更年期症状や閉経を疑う場合にはFSH を測定し、FSH が40mIU/mL 以上である場合には早発卵巣不全を疑い13)、産婦人科へ紹介する。
自然発症の40 歳未満の早発卵巣不全の頻度は約1%と報告され14)、各種疾患の罹患率(心血管系疾患、骨粗鬆症性骨折、認知機能低下、性機能障害)および死亡率の上昇と関連する13)。
 また、子宮摘出後や子宮内膜焼灼後の場合、月経が指標とならないため、FSHおよびE2 を測定し、FSH が40mIU/mL 以上かつE2 が20pg/mL 以下であれば閉経と判定してもよい15)。
しかし、更年期障害はあくまで臨床診断であるため、年齢や症状などから疑われれば更年期障害として対応していくことになる。
なお、子宮摘出を受けた女性はたとえ卵巣を温存されていたとしても、子宮摘出を受けていない女性よりも血管運動症状、腟乾燥症状が強い傾向にある16)。

◎甲状腺機能

 Basedow 病は20 〜40 歳代に好発し、男女比は1:4 であり女性に多い。
また、橋本病は20 〜60 歳代に好発し、同じく1:12 と女性に多い17)。
よって、更年期は甲状腺疾患発症の好発年齢である。
さらに、閉経後女性の2.4%が臨床的に問題となる甲状腺機能異常を有し、23.2%が潜在性甲状腺機能異常を有することを考慮し18)、甲状腺疾患が疑われる場合または治療が奏効しない場合などに必要に応じてTSH を測定する。

BPS アプローチについて

 BPS モデル(Bio-Psycho-Social model) は1977 年にEngel により提唱されたモデルであり、疾患は単一の病因によるものではなく、生物学的・心理学的・社会学的要因からなるシステムとして捉えようとするモデルである19)。
このモデルを適応することにより、更年期障害は内分泌学的変化という生物学的要因のみならず、心理学的・社会学的要因が複雑に関与することで成り立つ疾患ということが理解できる。
そして、患者の抱える問題を医学的な疾患「disease」の観点のみならず、病い「illness」として捉えることで、全人的に理解することができるようになる(表2、図2)。
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 心理学的要因につけ加えるなら、更年期には女性にとってセクシャリティが大きく変動しやすいとされる。
配偶者との性交頻度は加齢とともに減少していくことが知られるが、更年期以降はとくに性交頻度が減少する傾向にあり、その原因としては女性の性欲低下や性交痛があげられている20)。
性について語ることに恥じらいをもつという日本の社会文化的背景があるため、多くの女性が悩んでいるにもかかわらず、相談できる場が少なく、適切な対処が行われていない現状がある2)。
セクシャリティに関連した問題についても確認できるような関係性づくりが望ましい。

症例続き

問診と所見をBPS アプローチでまとめると下記のようであった。
 
B:ほてりは3 分程度で汗とその後の寒気を伴っており、1 日に3 〜10 回。
診察上は血圧や脈拍は正常範囲内であり、振戦、甲状腺腫や浮腫はなし。
健診結果はコレステロール値の異常のみだが持参はしていない。
 
P:抑うつや興味の減退はないが、元々の趣味の絵画教室には忙しくていけない。
睡眠障害はないが、認知症の母からの電話で起こされることがある。専門学校にいった長男の将来に不安を感じている。1 年前からコンビニエンスストアのパートをしており、最近は同僚が退職したため仕事量が増えている。接客中のほてりと多量の汗が恥ずかしい。
 
S:長男が3 ヵ月前から一人暮らしをはじめた。車で30 分のところに両親が住んでいるが、母の認知症が進行してやや不安定になり頻回の電話対応、通いや泊まり込みの介護が必要となっている。
 以上のように症状や身体所見からは更年期障害に伴うhot flush として矛盾はないが、心理社会的背景が更年期障害への増悪に関与していることが考えられた。二質問法は陰性であり、うつ病の可能性は低いと考えられた21)。

 本人には更年期障害の可能性が強いことと、更年期障害に関する一般的な症状や経過を伝え、心理社会的背景が症状に関与することを説明した。また、健診の結果を持参していただき、次回の診察時に確認し、治療に関して相談を進めていく方針とした。

まとめ

 更年期症状は多岐にわたり、問診や身体所見から更年期障害「らしさ」を考え、そして、同時に器質的な疾患が潜んでいないかどうかを考慮し、総合的に診断していくことが重要である。
また、その背景に心理社会的因子がかかわってくることが多く、BPS アプローチが有用である。
患者の抱える問題を医学的な疾患「disease」の観点のみならず、病い「illness」として捉え、全人的に理解することがマネジメントにも重要になる。

参考文献

1)日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会.産婦人科ガイドライン−婦人科外来編2014.日本産科
婦人科学会,2014.
2)日本女性医学会.女性医学ガイドブック:更年期医療編,2014 年度版.金原出版,2014.
3)Bastian LA,Smith CM,Nanda K.Is this woman perimenopausal?.2003.JAMA;289(7):895-902.
4)高松潔.更年期症状・更年期障害の病態と診断.基礎からわかる女性内分泌,百枝幹雄編,診断と治療社,2016,p206-209.
5)Kupperman HS,Wetchler BB.Contemporary therapy of the menopausal syndrome.J
Am Med Assoc.1959;171:103-113.
6)小山嵩夫,麻生武志.更年期婦人における漢方療法 簡略化した更年期指数による評価.産婦人科漢方研究のあゆみ.1992;9:30-34.
7)高松潔,五來逸雄.更年期不定愁訴のみかた.日産婦誌.2004;56(9):651-659.
8)幕内安弥子,森村美奈.更年期,閉経期:更年期障害の診断・治療と不正出血.月刊地域医学.2015;29(1):31-35.
9)日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会.日本人女性の更年期症状評価表 日産婦誌.2001;53(5):883-888.
10)Harlow SD,Gass M,Hall JE,et al.Executive summary of the stages of reproductiveaging workshop +10:addressing the unfinished agenda of staging reproductive
aging.J Clin Endocrinol Metab.2012;97(4):1159-1168.
11)Randolph JF Jr,Crawford S,Dennerstein L,et al.The value of follicle-stimulatinghormone concentration and clinical findings as markers of the late menopausal transition.J Clin Endocrinol Metab.2006;91(8):3034-3040.
12)American Society for Reproductive Medicine.Ten things physicians and patientsshould question.Choosing Wisely:an initiative of the ABIM Foundation.
  http://www.choosingwisely.org/societies/american-society-for-reproductive-medicine/(2016 年9 月17 日アクセス)
13)Baber RJ,Panay N,Fenton A,et al.2016 IMS Recommendations on women’smidlife health and menopause hormone therapy.Climacteric.2016;19(2):109-150.
14)Coulam CB,Adamson SC,Annegers JF.Incidence of premature ovarian failure .Obstet Gynecol.1986;67(4):604-606.
15)Speroff L,Fritz MA.Clinical gynecologic endocrinology and Infertility,7th edition. Lippincot Williams & Wilkins,2005,p621-688.
16)Oldenhave A,Jaszmann LJ,Everaerd WT,et al.Hysterectomized women with ovarian conservation report more severe climacteric complaints than do normal climacteric women of similar age.Am J Obstet Gynecol.1993;168(3):765-771.
17)野口義彦.甲状腺疾患の頻度と発見のきっかけ.甲状腺疾患診療マニュアル,田上哲也,他編,診断と治療社,2009,p17-19,
18)Schindler AE.Thyroid function and postmenopause.Gynecol Endocrinol.2003 ;17(1):79-85.
19)Engel GL.The need for a new medical model: a challenge for biomedicine.Science.1977;196(4286):129-136.
20)日本性科学会セクシュアリティ研究会.カラダと気持ち:ミドル・シニア版40 〜70 代セクシュアリティ1000 人調査.三五館,2002.
21)Arroll B,Khin N,Kerse N.Screening for depression in primary care with two verbally asked questions: cross sectional study.BMJ.2003;327(7424):1144-1146.

キーメッセージ

〇更年期障害「らしさ」を診断していくことが大切
 
〇日本人の更年期障害の特徴を意識して評価する
 
〇BPS アプローチが更年期障害の診断では有用

プロフィール

城向 賢
浜松医科大学産婦人科家庭医療学講座
菊川市立総合病院産婦人科
菊川市家庭医療センター
 
略歴
2007 年浜松医科大学卒業。2007 年よりJA 長野厚生連佐久総合病院で初期・後期研修を行い、総合診療ならびに地域医療を学び、家庭医療専門医を取得する。
2013 年より静岡家庭医養成プログラムクリニカルフェローとして「子宮の中から天国まで」携わる家庭医療を学ぶ上で、女性医学の重要性と必要性を知る。
2014 年より女性医学をsubspecialty として選択し、家庭医療に携わりながら産婦人科専攻医として藤枝市立総合病院産婦人科で学ぶ。
2016 年より現職。
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井上 真智子
ハーバード大学医学部
Beth Israel Deaconess MedicalCenter
Division of General Medicineand Primary Care Research(日野原フェロー)
静岡家庭医養成プログラム指導医
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最終更新:2022年05月09日 11時38分

実践誌編集委員会

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