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健康と社会を考える/社会的処方ってなに?ライマリ・ケア医はやるべき?Part.2

前号のおさらい

前号では、健康の社会的決定要因social determinants of health(SDH)の一つとして社会的な孤立に注目した。社会的な孤立など患者の社会的な課題への対応方法の一つとして、医療機関や地域の機関が住民につながりや患者の生活を支援するための社会資源を処方する「社会的処方」* を紹介した。

本号では国内の事例をさらに紹介し、日本で実践する社会的処方のイメージをつかんでみたい。また、プライマリ・ケア従事者間で「明日からできる社会的処方」について議論した結果や感想を併せて報告する。
*本論文では英国のsocial prescription を直訳し、「社会的処方」と表現した。

事例①:地域ささえあいセンター(東京都大田区)

筆者らが見聞した取り組みのなかで、日本の文脈に即した社会的処方と思われる事例を紹介する。東京都大田区の社会医療法人仁医会牧田総合病院が、受託している地域包括支援センターを核に地域とのパートナーシップを構築し、社会的な課題をもつ人を発見・対応する仕組みをつくりあげた事例である。

同法人の地域ささえあいセンターの澤登久雄センター長は、地域共生社会の実現に向けた医療や介護、福祉専門職の課題として地域の「見守りのネットワーク」の構築をあげている。社会的に孤立していて、医療介護福祉へのアクセスが乏しい人に専門職が直接アウトリーチするのはむずかしい。そのため、そのような人々を地域の住民がさりげなく見守り、必要なときに専門職へ対応を求められるよう住民や地域のさまざまな組織が連携を強め、「気づきのネットワーク」を構築するのである。支援を必要とする人に対して、民生委員や自治会などの組織や、地域住民が日常生活のなかで見守るだけでなく、住民全体が利用するような郵便配達などの訪問事業者や、小売店などの販売事業者、金融機関や公共機関などが、日常業務のついでにさりげなく見守り、気づいたときに地域包括支援センターへと相談・通報しやすい仕組みをつくっている。

また専門職側も支援を必要とする人への対応のために「対応のネットワーク」を形成している。地域包括支援センターが相談を受けた事例を解決するために、医療機関・薬局・社会福祉協議会・居宅介護事業所などの医療介護福祉の専門職だけでなく、警察や消防等の公的機関とも連携している。それを行政が関係機関に協力を依頼したり、金銭的にバックアップすることで、システムとして個別の支援が必要な人に対応している。もちろん、医療機関で発見された社会的課題も地域包括支援センターを通じて対応できる。たとえば、商店街の空き店舗を拠点として協賛企業やボランティアが開催する講座、寂れた公園を再生させる活動など、地域の専門職や企業が知恵・金・人・汗を出し合い創る多彩なレクリエーションや社会参加の場へつなぐことで、地域包括支援センターが前号で紹介した“link worker"としての機能を果たしている。

このように「気づきのネットワーク」と「対応のネットワーク」を充実させ、地域包括支援センターがつなぎ役を担うことで、地域の「見守りのネットワーク」を構築し、社会的な課題をもつ人々を包摂している(図1)。
  • https://www.primarycare-japan.com/pics/news/news-357-1.jpg

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最終更新:2023年07月10日 00時00分

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