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健康と社会を考える/離島医療にみる健康格差とプライマリ・ケア
はじめに
日本プライマリ・ケア連合学会が、2018年6月に、「健康格差に対する見解と行動指針」に関する「三重宣言2018」を発表して1年が経った。健康格差は、ライフコースを通じた社会経済状況による健康影響が蓄積した結果として生じている 。そこで、ライフコースを通じた診療を強みとするプライマリ・ケア従事者は、地域住民の社会経済状況である教育歴・職業・所得などの状況を十分に把握し、健康増進を阻害する因子を改善するように、関係団体・組織に働きかけるべきだろう。
居住地域は健康の社会的決定要因の一つであり、健康格差と関連する。わが国の例をあげれば、平均寿命が最も長い県と、最も短い県とで、その差は1990年の2.5歳から2015年の3.1歳に広がった。へき地に焦点を当てた報告はわが国には存在しないが、広大な国土面積を有するオーストラリアの報告によれば、へき地に居住する国民は全体の約30%にのぼり、都市部の者と比べて、その社会経済的状況は不利な状況にあり、平均寿命も4歳短かった。本稿でとりあげる離島は、へき地のうちでもさらにremoteな居住地域であり、さまざまな医療課題を抱えており、「健康日本21」(第二次)を推進する観点からも注意を払う必要がある。そのような困難な状況において、プライマリ・ケア従事者こそが離島の医療課題に取り組めると筆者らは期待する。本稿では、わが国の離島における健康格差と関連する健康の社会的決定要因について整理したのち、そのうちの一つである医療資源を「量」と「質」の観点から検討し、離島におけるプライマリ・ケア従事者の役割や発展性について、筆者らの実践例を通じて議論を深める。
居住地域は健康の社会的決定要因の一つであり、健康格差と関連する。わが国の例をあげれば、平均寿命が最も長い県と、最も短い県とで、その差は1990年の2.5歳から2015年の3.1歳に広がった。へき地に焦点を当てた報告はわが国には存在しないが、広大な国土面積を有するオーストラリアの報告によれば、へき地に居住する国民は全体の約30%にのぼり、都市部の者と比べて、その社会経済的状況は不利な状況にあり、平均寿命も4歳短かった。本稿でとりあげる離島は、へき地のうちでもさらにremoteな居住地域であり、さまざまな医療課題を抱えており、「健康日本21」(第二次)を推進する観点からも注意を払う必要がある。そのような困難な状況において、プライマリ・ケア従事者こそが離島の医療課題に取り組めると筆者らは期待する。本稿では、わが国の離島における健康格差と関連する健康の社会的決定要因について整理したのち、そのうちの一つである医療資源を「量」と「質」の観点から検討し、離島におけるプライマリ・ケア従事者の役割や発展性について、筆者らの実践例を通じて議論を深める。
離島における健康格差や健康の社会的決定要因
先のオーストラリア報告では、地域の人口と都市部からの距離を基にしたRural,Remote and Metropolitan Areas(RRMA)classification(最新分類ではThe Australian Statistical Geography Standard (ASGS)Remoteness Area)に従って都市部とへき地を分類し、その地域間でのさまざまな健康指標(平均寿命・各疾病罹患率・出生率など)の差異を示している。この結果を基に、国や州は公的医療機関を適正に配置することで医療サービスへのアクセス性を確保し、健康格差の縮小を図っている。一方、わが国において、へき地・離島における健康格差の現状を明らかにした報告は、筆者の知る限り存在しない。わが国にはRRMAのような分類のための指標はなく、各都道府県がへき地医療計画の下にへき地支援診療所・病院を設置しているにとどまり、どの程度の医療資源が供給され、どの程度の医療ニーズが存在し、健康アウトカムはどうであったかという検討は十分にされていない。したがって、各都道府県でこれらの統計を明らかにし、現状の医療計画を見直すことを期待する。
「量」でみる離島の医療資源
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最終更新:2023年06月09日 00時00分