ホームニュース離島・へき地医療の現場vol.3/02「利尻島での離島医療の現場(前編)」/利尻島国保中央病院 浅井悌先生 ~訪問リポート~

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離島・へき地医療の現場

vol.3/02「利尻島での離島医療の現場(前編)」/利尻島国保中央病院 浅井悌先生 ~訪問リポート~

離島医療・へき地医療と聞くと、
 興味はあるけど身近にない。イメージが湧きにくい。だから、飛び込みづらい…
そういう方多くないですか?

JPCA「島嶼およびへき地医療委員会」では、多くの方が島嶼・へき地にもっと関心をもってもらう為に、日本全国の島嶼やへき地などの医療現場を訪れ、働いている医師を通して離島やへき地で実践されているリアルな医療、そしてそこでの生活を紹介するシリーズをお届けします。中高生や医大生、これからそのような医療に飛び込んでみたいと考えている先生方には、このシリーズでいろいろなロールモデルに出会えると思います。また、地域で生活されている方には、医師がどのような想いでその地で医療を行っているのかを垣間見て頂ければと思います。

北端の離島で総合医 浅井悌先生にお会いしてきました!

飛行機に揺られて、いざ、利尻島へ!

2025年1月、札幌市の丘珠空港から利尻島へは50分のフライトで、機体が陸地を離れ海上に出ると、雲の上を飛行していきます。真っ白な雲海の中にぽつんと見えた黒い影、次第に大きく近づいていきます。それは利尻富士の山頂で、時計回りに旋回しながら利尻空港に到着しました。空港では浅井院長ご夫妻がお出迎えくださりました。挨拶もそこそこに「今日しか比較的天気は良くないので周っちゃいましょう」とご夫妻の案内で時計回りに利尻島を一周いたしました。
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    浅井院長ご夫妻にお出迎えいただきました

自然と美味しいものがいっぱいの利尻島

利尻島は利尻町と利尻富士町の二つの自治体で構成されており、それぞれ人口は約1,800人と約2,100人で島全体の人口は約4,000人で高齢化率は40%ほどです。島の中央には標高1,721mの美しい利尻富士がそびえ、その麓にちいさな集落が点在しています。主な産業は漁業と観光業です。漁業はウニ、鮭、ホッケ漁や昆布の養殖などが盛んです。豊かな自然を求めて年間約20万人の観光客が訪れます(北海道地方環境事務所調べ)。島内の観光名所を巡ったところシーズンオフのため我々以外には観光客は居ないようでしたが、シーズンとなると島外から多くの方で賑わうようでした。今回訪問した令和6年~7年のシーズンは例年よりも積雪が少ないようですが、道路はしっかりと凍っておりスノーブーツを持たない九州人の私は何度も足を滑らせていました。冬の雪国でウオーキングシューズは危険であることが身にしみました。
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    利尻富士
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    利尻から眺める礼文島

島ならではの「断れない医療」を実践

島を一周する車の中で、利尻島は医療機関や介護施設が分散していることや、スタッフ不足による稼働率低下もあり、集約化がなかなか進まないことなどお話をお聞きし、これからの医療介護の継続に対してこの島でも他の島しょやへき地などと同様の問題を抱えていることを知りました。また、患者の紹介先はフェリーで2時間の稚内市もしくはフライトで50分の札幌市になるので、ある程度の完結性がこの島の医療には求められています。そのため、マイナーエマージェンシー、外傷や軽症の整形疾患の治療が必要となり、そのような時には救急の経験が大いに役立つそうです。島は医療機関が少ないので「断れない医療」であり、都市部で「断らない救急」を実践されてきた浅井先生にとってはこの地域の医療に入るハードルは低かったようで、むしろ「断わる必要がない」ことが気楽であるとのお話しはとても印象的でした。
また石の上にも三年の心持ちで赴任したら気づけば七年経過していたことや、海外難民キャンプの時に悔しい思いとともに学んだ「できること」を「できる範囲」で実践するということがここで役立っているということもお聞きしました。
プライベートについては、山岳ガイドとして活躍されており山登りの友人は出向かなくても登山のために訪れてくれること、利尻のサーフィンのシーズンは年間30日だけなので、シーズンになると診察しながらも天気が気になることなど、浅井先生の手料理を肴に話題は尽きず初日の夜は更けていきました。
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    島を案内いただきながら、島の医療についても教えていただきました

2日目も大雪の中、病院へ メディカルスタッフの皆さんにお話を伺いました

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    外来での研修医教育

事務長 高溝さん

利尻島国保中央病院はメディカルスタッフが定着する医療機関として注目されています。どんなスタッフが活躍しているのか、病院の中を案内してもらいながら、いろいろな職種の方にお話しをうかがってみました。高溝事務長さんは元電子カルテシステムエンジニアで、人と人との対面での仕事がお好きだそうです。2021年にCOVID-19で在宅勤務が増えたため転職先を探していたところ、システム納入で縁があった利尻島国保中央病院の求人をみて赴任されたそうです。
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事務長として心がけていることはありますか?

病院の運営指数の改善を目指しています。3年で少しずつですが改善

スタッフの定着率が高いことですね。そして愉快な仲間が多いのですよ。運動施設も多数あり、夏季は過ごしやすい環境でスポーツを楽しむことができます。島はヒトを引きつける魅力があると感じています。有給休暇は基本的に全部取ってもらっています。その後も院内のあちこちでスタッフとお話しされている姿を拝見しフットワークの軽さを感じました。

薬剤師 小西さん

薬局では島内でただ一人の病院薬剤師の小西さんにお話しを伺いましたが、利尻の前には絶海の孤島小笠原での勤務も経験されていると伺い驚きました。
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利尻島に赴任したきっかけは?

小笠原で勤務するなど離島の仕事があっていると感じています。直前の職場が都市の病院で、離島の医療機関の求人を探していたら、利尻の求人を見つけて赴任しました。

離島の薬剤師の醍醐味は?

人数が少ないので、それぞれの患者さんの状態を気に掛けることができます。疾患にかかわらず幅広く関わることができることや医師との距離感が近く、相談しやすいことで、より良い医療を提供出来ると感じています。

離島ならではの難しさはありますか?

麻薬や抗癌剤などは処方の機会が少ない薬剤の在庫管理は苦心します。冬期は荒天のため最長1週間、島が孤立することがあるので気に掛けています。前職の薬剤師が応援してくれるので、休日は島外に出てリフレッシュも可能です。一人なので院内での服薬指導などができないことがあります。島内には3ヵ所の調剤薬局がありますので、在宅などでは情報交換など連携を取っています。

放射線技師 石垣さん

続いては子供さんと一緒に利尻島に赴任されている診療放射線技師の石垣さんにお話を伺いました。休日は子供さんと一緒にサッカーを楽しむスポーツマンです。
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利尻島に赴任したきっかけは?

北海道で勤務を考えていて、利尻の求人を見て応募しました。技師になり4~5年目で勤務した地域医療がとても面白く、自分に合っていたことも動機になります。

利尻島でのお仕事はいかがですか?

幅広い領域で自分の技術を活かせる、様々な領域にチャレンジできるので離島が合っていると感じています。また、医師との距離が近く相談しやすいのも利点と感じます。また、職住が近く子育てには最適な環境だと思います。ただし高校受験など進学のタイミングは島勤務のターニングポイントになるかもしれませんね。

渡り廊下から窓の外をみると白い雪が積もっています。九州在住の私にとっては経験したことのない積雪ですが、今年は少なくて過ごしやすいとの言葉に、北国の人間の強さを感じます。

臨床工学士さん

離島といえば長崎県、鹿児島県、そして沖縄県です。沖縄県から赴任された臨床工学士の方にお話しを伺いました。

利尻島に赴任したきっかけは?

沖縄と異なる環境で勤務してみたいと考えていたところ、利尻の求人を見て赴任しました。赴任するまで訪れたことはなく「あえて」利尻島ではなく「たまたま」利尻島です。出身が沖縄本以外の島なので離島の医療はイメージを持っていました。

利尻島の仕事はいかがですか?

幅広い役割を任せてもらえるのは離島ならではです。医師との情報交換や、患者さんそれぞれの個性に合わせて調整ができます。

人生で初めてストーブに火をつけて、夏にエアコンなしで過ごせることに驚き、冬期は雪かきが運動不足解消になっていますとお話しされていたのが印象的でした。

医師5年目の森本先生

続いて、自治医科大学卒業生、義務年限内で1年間勤務されている医師5年目の森本先生。将来は代謝内分泌内科を目指しているそうです。離島の医療についてお話しいただきました。
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利尻島での勤務で学べたことはありますか?

道内のあちこちで勤務しましたが、マイナーエマージェンシーや外傷の対応は利尻に来て初めて経験しました。救急に強い浅井先生がいるから経験できたと感じています。まだまだ一人で対応するのには経験が足りないと感じています。

専門医を目指す立場から離島で専門領域を活かすためにはどうしたらよいですか?

人口が少ないと専門領域の症例数が少なくなるので専門医として赴任するのは難しそうです。オンラインで検査値を参考にしながら、D(doctor) to P(patient)や D to P with D には興味があります。このような体制であれば自分の専門領域をより活かす事ができると思います。

先生によると、利尻の病院食は今まで赴任してきた医療機関なかで一番美味しいそうです。

理学療法士 桃澤さん


札幌市出身の桃澤理学療法士さんは、外来の患者さんの合間をぬって応じてくれました。
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利尻島に勤務するきっかけは?

赴任前には3~4カ所で勤務して基本的な技術は身につけたので、次の段階に発展できるのは離島と考えていました。そんなときに利尻の求人が出ていると、先輩からの紹介されたことがきっかけでした。

利尻島の勤務はいかがですか?

医師や介護支援専門員と情報共有ができるので患者さんの人生や生活が見えやすくなった。患者さんごとに問題を解決していく感覚です。

利尻島へは札幌市から1時間で移動可能で、札幌から小樽まで車で1時間と比較すると距離感は感じないそうで、島内にはコンビニやドラッグストアもあり、店内に入ってしまえば利尻島も札幌市内も変わらないとおっしゃるのが印象的でした。

2日目の午後からは、鴛泊診療所(おしどまり)の出張診療へ同行させていただきました

訪問日の翌日午後からは、車で30分ほど離れた利尻富士町へ出張診療で、雪深い季節の移動には四輪駆動のSUVは必須だと感じました。鴛泊診療所は映画「北のカナリアたち」のロケ地で、出演者のサインが飾られていました。昭和40年代に建てられた建物には、病室や手術室や分娩室が残っておりました。現在は情報の伝達やドクターヘリなどで救急搬送体制が整備されてきていますが、50年前は外科医が地域で奮闘されていたことがうかがわれました。
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    鴛泊診療所(おしどまりしんりょうじょ)
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    映画「北のカナリアたち」
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先生たちに懇親会を開いていただきました

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    先生方からお聞きする離島医療のお話も貴重でした

訪問者

訪問者:JPCA島嶼およびへき地医療委員会 中桶了太 青木信也

最終更新:2025年03月29日 15時14分

島嶼およびへき地医療委員会

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