ホームニュース離島・へき地医療の現場vol.3/03「利尻島での離島医療の現場(後編)」(ダイジェスト動画あり)/ 利尻島国保中央病院 浅井悌先生 ~訪問リポート後編~

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離島・へき地医療の現場

vol.3/03「利尻島での離島医療の現場(後編)」(ダイジェスト動画あり)/ 利尻島国保中央病院 浅井悌先生 ~訪問リポート後編~

離島医療・へき地医療と聞くと、
 興味はあるけど身近にない。イメージが湧きにくい。だから、飛び込みづらい…
そういう方多くないですか?

JPCA「島嶼およびへき地医療委員会」では、多くの方が島嶼・へき地にもっと関心をもってもらう為に、日本全国の島嶼やへき地などの医療現場を訪れ、働いている医師を通して離島やへき地で実践されているリアルな医療、そしてそこでの生活を紹介するシリーズをお届けします。中高生や医大生、これからそのような医療に飛び込んでみたいと考えている先生方には、このシリーズでいろいろなロールモデルに出会えると思います。また、地域で生活されている方には、医師がどのような想いでその地で医療を行っているのかを垣間見て頂ければと思います。
今回、北海道北部の離島、利尻島の国保利尻島中央病院を訪問しました。「厳しい環境の中でこそ、リアルな地域医療を実感できるにちがいない」と考え、厳冬の1月末の訪問を決定。総合診療医として離島医療の実践の様子など詳しくお話を伺いました。まずは前編に続き、後編をご覧ください。

利尻富士町への出張診療に同行

二日目夕方から雪が降り始め、みるみるうちに積もり道路は真っ白になっていきます。天気予報では翌日から天候が下り坂になりその影響は2~3日続くとの予報。帰りが不安になってきました。

三日目の最終日朝、ホテルのロビーから見ると外は吹雪です。道路は真っ白ですが、乾燥しているせいかさほど寒さを感じません。平戸市の冬の方が寒いくらいです。雪の中、スーツケースを引きながら除雪車が行き交う雪道を病院まで移動しました。雪とつきあう大変さを感じました。
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    この日も大雪だった最終日の朝
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    スーツケースを引きながら雪道を歩いて病院まで
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    天気の悪い時の午前外来 感慨深い光景です

看護師 飯田科長

前日にお話しを伺った方々は島外出身の方でしたが、お話しを伺った飯田看護科長は生まれも育ちも利尻島で、シーズン中には両親とともに漁に出ることもあるそうです。認定看護管理者の資格も取得されており看護のまとめ役として活躍されているアクティブな方です。
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利尻島の看護の面白さはどんな点ですか?

病棟内だけでなく生活を知ることができ、病気だけでなく患者さんの生活を含めた全てを担当する事ができることが面白いと感じています。具体的には救急から慢性期や緩和医療、病棟から在宅まで幅広く関わることができるし、むしろ関わらなければならないと思っています。そして、医師が少なくすぐに駆けつけられないこともあるので、臨床推論が重要となり的確な行動が求められます。この点を経験できることが特徴だと思っています。

利尻島の医療の将来については?

出産は無理だけど最期まで利尻島で生活できるようにしたいと思っています。そのためには、医療と福祉や介護が一体となった地域包括医療ケアシステムを構築することが大事と思っています。今後は医療施設や介護施設の連携が大切と感じています。ただ、それを達成するためのスキルを持った人材の確保・育成が必要と感じています。

派遣の看護師さんに人気と伺いましたが

何故か西日本、九州からの希望者が多いのが特徴ですね。あるときは関西人ばかりでしたよ。これまで9人が派遣を経て島に定着してくれました。

すごいですね!どんな秘訣があるのですか?

派遣で勤務されている方で島に残ってくれそうな雰囲気のある人には猛烈にアタックします。雰囲気でだいたいわかります。さらに毎月一回病棟でミーティングという名称の懇親会を開催して、親交を深めています。そして、看護部では有給休暇は全て取得します。さらに正規職員であれば長期休暇の取得も可能なので海外旅行もできちゃいます。福利厚生面でのアドバンテージをアピールします。

診療看護師(NP)や特定看護師が活躍できるフィールドと感じますがいかがですか?

同感です。医師が少ないので、独自で判断するケースが多く診療看護師(NP)や特定看護師が活躍できる場所であると感じています。それに近いようなスキルを備えている看護師もいると思います。離島でこそ必要だと思っています。ただ、取得するために長期間にわたり島を出る必要があるために、取得にはハードルが高いです。ここのような必要な場で学ぶ事ができればいいと思っています。必要な場所で必要な技術を学ぶことって大事じゃないですか。離島看護師、離島限定のスキル認定があるとみんなのモチベーションがさらに上がるのでは・・と思います。


島出身で、利尻島が大好きだとおっしゃる看護科長さんでした。その話しぶりや話題は人を引きつける魅力にあふれており、素敵な方で彼女に惹かれてやってくる方も多いのでしょう。

訪問診療に同行させていただきました

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昼食は地元のラー油タンメンを堪能したのち、訪問診療に同行しました。
前日からの雪で路面は真っ白の中、車で移動します。訪問した何処のお宅も屋内は暖かく、浅井先生も半袖のスクラブのままでした。ある演歌歌手が大好きな脳梗塞後の患者さんは、毎日DVDを見ながら歌っていると話すと、「うんうん。よく歌ってくださいね。飲み込みのリハビリになりますからね!」と答えながら、聴診器を当てているお姿は、救急医ではなく総合診療医そのものでした。
今回の訪問では二日間を通して皆さん楽しそうにいきいきと仕事をされている姿が印象的でした。多くの島外出身者が個人的なつながりではなく、求人票を見て赴任されていました。その思いは様々で、ともすれば暗くなるような、ネガティブなイメージがありますが「北の離島」には人をひきつける何か魅力を備えているのでしょう。

飛行機でコストは掛かりますが、札幌市から50分で移動可能なことは、道内の陸続きのへき地よりも赴任のハードルを下げているように感じました。移動手段としては丘珠空港が札幌市内に近いこともあるでしょう。約1時間の移動で、札幌すすきの、ですからね。日常の生活面においても、コンビニエンスストアやドラッグストアもあるので不便を感じないと話されていたのはやはり印象的でした。
インタビューしたほとんどの方が利尻の前に離島やへき地の経験があったことも興味深かったです。皆さんの意見は、他職種との連携やエキストラのスキルなどアドバンスの段階が必要であり、ある程度の経験がいるということでした。その他には、新卒者の勤務先として利尻は難しいという意見もありました。それはスタッフも少なく教育体制を整備することが難しいからだと。看護部では新卒者は残念ながら採用を見合わせたこともあるそうです。反面、ある程度経験を積んだ方がスキルを伸ばす、発展させるには最適な環境であるとも話されていました。そういった方々を対象にした教育体制・育成体制を整備することで、利尻での勤務がキャリアの向上につながるかもしれないとも話されていました。医師の視点ではこれまであまり気にしていませんでしたが、技師部門の人たちも地域医療を経験するチャンスが少ないということに気づきました。今回お話しいただいた他職種の方々も離島やへき地の経験を経てから赴任されており、短期間でも離島やへき地の見学や経験があれば、より多くの方々に離島やへき地で医療に従事することをアピールできるのではないかとご意見もいただきました。また、島で長年勤務されている看護科長からは、トップ(浅井院長)が長期間この島にいてくれることの安心感もあるのだということもおっしゃっておられました。

まとめ

こうして三日間の利尻島訪問が終了しましたが、空は雲で覆われており雪も時々強くなり、帰りの飛行機が心配になってきました。

出発時間が近づいてきてそわそわしておりましたが、「空港到着は30分前で十分です」と、高速バスに乗車するのと同様の感覚です。しかしながら、Flight Raderでは搭乗予定の飛行機はとなりの礼文島上空で旋回しており、到着が心配されました。着陸しないと帰りのフライトはありません。明日から3日間は荒天で交通機関が欠航する予測なので、3日間の足止めを覚悟し始めたころ、雲間を縫って機体が現れてきました。その後は、少し遅れはしたものの帰路につくことができました。
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機内から札幌市の夜景を見ながら、確かに1時間ほどで札幌市内に到着できるのは、道内の陸続きのへき地よりも恵まれていると感じました。三日間訪問を通じて交通機関の重要性や、どんな場所においてもプライマリ・ケアの必要性を感じました。さらに、自由な移動が制限されている場合にはよりマイナーエマージェンシー領域、外科、整形外科のスキルの比重が増加すると感じました。なによりもスタッフ皆さんの熱意を感じることができました。
最後にサラリーの面でも、3年間正規職員として勤務すると100万円のボーナス(税込み)が支給されるのでお待ちしていますと、事務長からのメッセージでした。

三日間、浅井院長を始め国保利尻島中央病院の皆さん大変お世話になりました。

訪問者

訪問者:JPCA島嶼およびへき地医療委員会 中桶了太 青木信也

ダイジェスト版動画

最終更新:2025年03月31日 00時00分

島嶼およびへき地医療委員会

記事の投稿者

島嶼およびへき地医療委員会

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