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vol.58/ 「経験や学びを繋げながら、自分にしかできないことを!」【専攻医】土田紗愛先生

今回取材にご協力いただいた土田紗愛先生は、現在、総合診療・家庭医療の専攻医として現場の最前線に立っていらっしゃいます。日本プライマリ・ケア連合学会では2025年春から専攻医部会の代表も務められている土田先生に医師を目指した理由や総合診療への思いについてなど様々にうかがいました。
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人の繋がりや社会、心理への興味が出発点

― 先生が医師になろうと考え出したのはいつ頃ですか?

何か決定的に大きなきっかけがあったわけではないのですが、確か高校2年生から3年生になる頃だと思います。実は私は理系よりも文系科目のほうが好きで、人の繋がりや社会、心理といった分野に強い興味がありました。そういった人間的な側面に魅力を感じていたので、当初は文系の道の方が選択肢が多くて良いのかなと思っていました。
でも、漠然と何らかの形で社会に貢献できる仕事をしたいと考えたときに、「自分自身にしかできない何かを成し遂げた」という明確な感覚が欲しいと思ったんです。医師であれば、少なくとも医師免許を持っている人のみが行える方法で、その方に良い影響を与えられたという手ごたえを得られます。自分自身にはできないこととは程遠くても、始めの一歩としてこの「具体的な自信」が欲しくて、医師の道を考えるようになりました。今思えば、自分に自信が欲しかったのかもしれません。

― 何科の医師になりたいという目標は、当時からありましたか?

医師になるのなら、おそらく総合診療科だろうと考えていました。病気そのものを診ることはもちろん大事ですが、それだけでなく、その方の生活環境や社会的な繋がりに強い興味があったからです。もともと持っていた関心からすれば、総合診療はまさに自分がやりたかったことだと、今ここにきて強く感じています。
ただ、私が学生だった当時は、今ほど総合診療がメジャーな科ではありませんでした。具体的にどこへ行けば学べるのか、医局はどの程度存在するのかといった情報が非常に乏しかったように思います。そのため総合診療的なアプローチを「普通の内科医」として実践していくのかな、というイメージを持っていました。
私が進学したのは新潟大学ですが、入学当時は総合診療科がなく地域医療講座はありましたが、メインは地域枠の学生教育が中心。卒業後に総合診療科ができたという経緯があります。ですから総合診療的なことに興味を持つ上級医の先生は他にもたくさんいらっしゃいましたが、学生が「総合診療志望です」と公言する勇気はなかなか持てませんでしたね。ポリクリ(臨床実習)で科を回る際、指導医の先生の中には「いいじゃないか」と応援してくれる方もいれば、「やはり専門分野を身につけてこそだ」とおっしゃる先生もいたのを覚えています。
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    学生 USA研修
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    学生 ロシア研修

― 初期研修は石巻赤十字病院に行かれたとのことですが。

これはレジナビ(研修病院合同説明会)での出会いがきっかけでした。私は大阪出身で、そのためレジナビの大阪会場に行ったんです。そこで石巻赤十字病院(宮城県)の先生に声をかけていただきました。
その説明を聞いて「この病院はすごくいいな」と思ったんです。私の中で「行きたい病院」の条件として、学閥があまりなく全国から多様な研修医が集まっていて救急やジェネラルな疾患を幅広く診られる体制が整っていることがありました。忙しくてもいいからしっかり学べる環境を求めていたんです。
私のイメージですが、都市部の病院よりも地方にポツンと建っている病院のほうが「ここしかない」と、あらゆる患者さんが集まってくるので幅広い疾患を診られるのではないかと考えていたんです。それで石巻赤十字病院の先生の説明を聞いて「すごくいい」と感じました。

― 実際に行かれてみて、いかがでしたか?

初期研修はよく「武者修行」のようなイメージで、いろんな経験をして足腰を鍛えるという表現が使われますよね。実際に行ってみての感想は、その通りだったというのが正直なところです。私の大学5年と6年の間に新型コロナウイルス感染症が発生した影響で、研修期間中は気軽に実家に帰れるような状況ではなく、少し閉塞感を感じた時期もありましたが、総じて充実していました。同期は全国から集まってきた14人で、非常にユニークかつ面白いメンバーばかりでした。
当直が多く、忙しい病院ではありましたが、その分、休みはしっかりと確保されていて「ホワイトな病院」という側面もありました。そのおかげで楽しく学ばせてもらえたと思います。疾患がどれくらい来るかという点についても、あらゆる疾患を偏りなく診ることができる予想は当たっていました。
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    全国から集まった初期研修時代を共に過ごした仲間

充実した教育システムのもとで

― 後期研修で飯塚・頴田総合診療プログラムを選んだきっかけは何だったのでしょう?

本当にたまたまなんです。初期研修の2年目が始まる頃には、3年目以降の進路を決めなければならないという焦りが学年全体に広がり始めました。どうやって情報を集めたらいいのか、本当にわからなかったんです。そこでネット検索をしていたら、日本プライマリ・ケア連合学会総会のページにたどり着きました。会場は横浜でしたが、私の当直表を見ると現地参加は難しく、ウェブでの参加権を申請しました。しかし前日の当直で帰宅後、気づいたら午後になって飛び起きたんです。「せっかく申請したのに、この数時間を見逃したらもうチャンスがない」と思い、急いでパソコンを開きました。
そこで、「今ここで賑わっています」というアイコンがついているページをなんとなくクリックしてみたら、すでに会が途中だったため、いきなりブレイクアウトルーム(オンライン会議の参加者が少人数のグループでセッションができるように設定されたスペース)に飛ばされたんです。たどり着いたのは偶然にも「キャリアを話し合おう」というテーマの会でした。知らない先生ばかりの集まりに迷い込み、「実は初期研修医で総合診療に興味があるけれど、仕組みすらよくわからない」と正直に話しました。
するとそのグループにいた6〜7人の先生方、初期研修医から教授クラスの先生まで、全員が飯塚病院での勤務経験があるという奇跡的な状況だったんです(笑)。先生方から「総合診療には診療所系もあれば、病院勤務、研究者など様々な働き方がある。君は本当に何も知らなさそうだから、一度すべての選択肢が取れる場所に見学に行ったらいい」と勧められ、皆さんが飯塚病院を推薦してくださったんです。
私は行動力だけはあったので、そのルームが閉じた瞬間に見学を申し込み、6月頃に病院見学に参加させていただきました。その時にお世話になった採用に関わる先生から「今年は人気すぎて枠があと1つしかないんだ」と言われて、飯塚病院にお世話になることになりました。
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― 実際に行かれてみての感想は?

教育システムが本当に素晴らしいと感じています。初期研修の時は自分に能力も余裕もなく、患者さんの来る量も多かったので、とにかく「早く動かなきゃ」という環境でした。しかし飯塚病院は、腰を据えてじっくり教えてくれる先生が多いんです。例えば外来で発熱の患者さんが来たら、鑑別の目処をどのようにつけるか、といった系統だった教育をしてくれます。カンファレンスの数も非常に多いですし、教育病院として有名だったのは学生の頃から知っていましたが、本当に教育の機会に溢れています。また、初期研修医の人たちを見ていると、系統立てられたレクチャーがしっかりしていて、ボトムアップが図れる仕組みになっている。もっとできる人はどんどん先に進めるようなシステムがあると感じますね。
現在、一番興味を持っているキャリアの方向性については、今も迷っている最中です。明確に決めているわけではないのですが、今のところは中小病院ぐらいの規模が、総合診療科としての色々な経験を活かせて良いのではないかという気になっています。ただ、この病院の良いところは、専攻医の要望を最大限に聞いてくれるところなんです。「こんなことを学びたい」「あんな場所に行って研修してみたい」と、私もかなり好き勝手言っているのですが、可能な限り調整してくださって本当にありがたいです。例えば、長崎県の五島列島のような離島での研修も受けさせてもらいましたし、最近は婦人科系に興味があると言ったら、その学習の機会を与えてくださったりと様々なことをさせていただいています。私は4年プログラムなので、まだあと1年ちょっとあります。もっと学びを深めながら最終的な方向性を考えていきたいと思っています。
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    五島列島で研修 上級医に筋膜リリース
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    奄美大島での研修の一コマ

― 様々な経験を重ねる中で心がけていることはありますか?

まず、患者さんを否定しないことと、そして「何を言われても私はあなたの元から逃げません」という意思表示をすることが大事だと思っています。これははっきり言う場合もあれば、態度で示す場合もあります。
患者さんの中には世の中的に負の印象を持たれがちな、例えば自殺未遂の経験や家族関係での複雑な事件など、あまり周りに言えないことを抱えている方がたくさんいらっしゃいます。そういったことを話すと引かれてしまうのではないかという不安が先行してしまうと患者さんは心を閉ざしてしまい、何も聞けなくなってしまいます。
だからこそ私は「あなたを信じています。支えます」という姿勢を伝えることを大切にしています。医学的に介入ができるかどうかに関わらず「こちらも覚悟を持つので、あなたももしよろしければ覚悟を持って、今うまくいっていない原因を知るために、昔のことから話してくれませんか?」というように、医師側も心を開く覚悟を持つことで患者さんの抱える深い部分に触れさせてもらえるのではないかと思うからです。
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    飯塚病院 緩和ケア研修

専攻医の抱える課題にもアプローチ

― 日本プライマリ・ケア連合学会にはいつ入られたのですか?

学会には、後期研修が始まった2023年に入会しました。現在は、学会内の専攻医部会で代表を務めさせていただいています。専攻医部会は今年(2025年)で第10期になりますが、時代によって総合診療を志す若手医師の抱える悩みや課題は少しずつ変化しています。私も昨年度から本格的に部会の中核に関わるようになりましたが、課題は多岐にわたります。
まず根本には、総合診療の認知度が低いという問題があります。また、専攻医になってもストレートで専門医の資格を取得できる人の割合が低いことも課題です。「総合診療は自分には合わなかった」と感じる人もいれば、専門医資格取得に必要な書類集めが大変で断念してしまう人もいるなど、ドロップアウトの理由は様々です。
私たちはそうしたドロップアウトの理由を分析し、できるだけ脱落する仲間を減らすための施策を行っています。目標は一緒に総合診療を盛り上げてくれる仲間を増やすことです。その一環として若手医師が情報にアクセスしやすいように、昨年度から公式LINEを立ち上げました。ホームページを見るのは大変な世代なので、LINEでサクッと情報が見られたらいいな、と。
また、今年度は都市部の専攻医と地方の専攻医で抱える課題が違うことに着目し、地域ごとのニーズに合わせた取り組みも展開していこうと考えています。ただ、これらの課題解析や具体的なアプローチは、なかなか難しいと感じています。
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    今年度から、JPCA専攻医部会の代表も務めていらっしゃいます
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― 専攻医の課題に関して、最近特に変わってきたと感じるものはありますか。

初期の頃は総合診療の専門医がまだ少ない状態でのスタートだったので、先輩たちも手探りで専門医を取得していました。そのため書類の集め方や試験対策といった実務的な情報が不足していることが一番の課題だったと思います。私たちくらいの世代になってくると先輩たちが専門医になり始めているので、比較的大きなプログラムであれば書類集めや試験対策の情報は回るようになってきました。
一方で、現在増えている課題はキャリアやネットワークの面でつまずいてしまうケースです。「この専門医資格を取ることに、そこまでの労力をかける価値があるのか?」と感じてしまったり、所属する場所で専攻医がたった一人しかいない地域も多いため孤立してしまい、結果的にドロップアウトしてしまうケースが多々あるようです。つまり、キャリア形成の過程での悩みやそれを相談できる場所がないという、より心理的・構造的な課題にシフトしてきていると感じています。

総合診療は、他の専門科のように「この手術ができます」とか「この疾患に強いです」と端的に語れるものではないので、どういう仕事をしているのか学生や初期研修医に理解してもらいにくいという側面が残ります。この活動内容をどのように言語化し、発信していくかが大事だと考えています。ただ、専攻医部会に参加してくれているのは自ら手を挙げられる意欲的な人たちなので、本当にアプローチすべき、悩みを抱えている人たちとはニーズの場所が少しずれているのも事実で、そこは今後の大きな課題だと感じています。
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    WONCA へも積極的に参加されています
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    WONCA ポスター発表

― 3〜5年後の近い将来で、特に取り組まれたい目標はありますか?

まず医師として最低限の知識や技術をしっかりと身につけることが前提ですが、その上で総合診療医として心理社会的な面も含めてアプローチしていきたいと考えています。今特に気になっているのは、思春期のお子さんたちです。この年代は学校や家庭、友人関係などで様々なつまずきを経験すると思いますが、そこに総合診療医としてどのように関わっていくか、また、どのようなコミュニティやサポートがあればいいのかといったことに強い関心を持っています。
総合診療医はウィメンズヘルスや思春期外来など、本当に学ばなければならないことが多岐にわたります。その中で患者さんや指導医の先生、多くの人との出会いを通じ「課題感」を見つけていき、それを一つずつ解決していくスタイルが自分には合っているのだろうと思っています。スティーブ・ジョブズの「コネクティング・ドッツ(点と点をつなぐ)」*ではないですが、いつかこれまでの経験や学びが繋がっていって、自分にしかできないことができれば、それが一番いいなというのが近い将来の目標です。

*アップルの創業者スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学のスピーチで語った言葉。「人生の点(経験)は、あとになってから線としてつながる」という考え方のこと

プロフィール

飯塚/頴田病院
総合診療プログラム専攻医 土田紗愛
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<経歴>
2021年 新潟大学医学部医学科 卒業
2023年 宮城県石巻赤十字病院 初期研修 終了
2023年 飯塚・頴田総合診療プログラム

<所属学会>
日本プライマリ・ケア連合学会
2025年より 専攻医部会 代表

取材後記

土田先生への取材を通じて、先生の「総合診療」への強い情熱と次世代を導くリーダーシップを強く感じました。医師を志した動機が「人を救ったという具体的な手ごたえ」と「人の生活や社会的な背景への興味」にあったことから、先生が総合診療への道を進んだのはごく自然なことだと受け止められました。石巻赤十字病院での初期研修や飯塚病院での学びを経て、その軸は確固たるものとなったようです。
特に印象的だったのは、日本プライマリ・ケア連合学会の専攻医部会で代表を務め「総合診療の仲間を増やしたい」と積極的に活動されている点です。若手医師のキャリア支援や構造的な課題に挑む姿は臨床医の枠を超えた次世代のリーダーとしての強い覚悟を感じさせます。
「思春期のお子さん」へのアプローチや心理社会的な面も含めた診療に力を入れていきたいという今後の展望は、先生の多岐にわたる経験が「点と点」として繋がり、今後さらに複合的な医療の形を生み出すことを示唆しています。土田先生のさらなるご活躍を心より願っています。

最終更新:2025年12月24日 21時08分

「プライマリ・ケア公式WEB」 

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