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専門性の高い病院『外来』から在宅医療へのケア移行:ベストプラクティスインタビュー ~訪問看護師編

専門性の高い病院外来から在宅医療へのスムーズなケア移行は、今後の地域包括ケアにおいて鍵となります。しかし、実際には患者への選択肢の提示や、紹介のタイミング、紹介のされ方、そもそも受け皿があるのか、病院の医師が在宅医療を知っているかなど、様々な課題があります。また、この時期のケア移行には課題が多いものの、地域ごとの背景が違い、簡単に解決策を提示するのは難しいです。そこで、高齢者医療・在宅医療委員会二人主治医制チームでは、アンケート調査を行い、より良いケア移行のための活動集の作成などをしてきました。今回は、訪問看護師にインタビューを行いました。

インタビューをさせて頂いたのは大分県にあるアルメイダ訪問看護ステーションの阿部美樹(あべ みき)様です。
 


「外来から在宅へ移行することは、言葉で言うほど簡単ではありません」

そう語るのは、アルメイダ訪問看護ステーション管理者の阿部美樹氏だ。病院外来に通院している患者を、適切なタイミングで在宅医療・訪問看護につなぐ。その重要性は誰もが理解している一方、実際の現場では多くの壁が立ちはだかる。
 

キーは「病院連携室」と外来での直接対話

阿部氏がまず強調するのは、病院連携室との関係づくりだ。
アルメイダ病院では、外来連携を担当する専任者を1名配置している。「正直、1人では全然足りませんが、助かっている」。
また、患者さんと外来に同行し、医師と直接顔を合わせることを大切にしている。

「連携室のソーシャルワーカーさんたちも、医師と話す時間を取るのが本当に難しい。だからこそ、外来という“医師に会える場所"に入っていく必要があります」

在宅医療に関心のある医師もいれば、そうでない医師もいる。関心の薄い医師には待つのではなく、「こちらから入っていく」。その姿勢がなければ、移行は進まないと語る。
 

管理者だからこそ担える“間に立つ役割”

アルメイダ訪問看護ステーションの患者のうち、アルメイダ病院の患者さんは2割程度。その中で阿部氏自身が、積極的に在宅移行の調整役を担ってきた。

「病院の先生方は本当に忙しい。連絡がつくのは夜7時、ということも珍しくありません。忙しいと、どうしても対応が厳しくなることもあります」

その“間"に立ち、関係をつなぐ役割は、「一看護師では難しい」と阿部氏は率直に語る。管理者であり、連携室にも出入りしている立場だからこそ、病院側と対等に話ができる。単に「伝えました」で終わらせず、実際に医師と話し、意図をすり合わせることができる存在が必要なのだ。医師も連携室も移行のタイミングや仕方がわからないケースがあり、それを補助する人がいないと移行できない。
 

「生活が見えない」ままでは、移行はうまくいかない

阿部氏が現場で強く感じている課題の一つが、「生活の視点の欠如」だ。
入退院を繰り返す患者、頻回受診をする患者、薬がうまく飲めていない患者――。こうしたケースは、訪問看護が入ることで入院回数が減ることが少なくない。

「薬の飲み方一つとっても、生活の中を見ないとわからない。1日3回が無理なら、1回にまとめる。そうするだけで、驚くほど安定することがあります」

しかし、薬の話題を出すと「煙たがられる」医師もいる。そのため阿部氏は、正面から指摘するのではなく、「その先生の糸口」を探しながら話を進めるという。
 

ターミナル期こそ、同時並行の視点を

ターミナル期の患者では、外来医師が「抗がん剤をもう少し頑張らせたい」と考える場面も多い。阿部氏は、治療を否定するのではなく、「同時に訪問診療や訪問看護を入れる」という選択肢を提案する。
 

システム化の難しさと、現場での“無駄足”

「本当はシステムで回せるといい。でも、現実のケア移行はなかなかそうならない」

外来連携の担当者は圧倒的に不足しており、多職種が連携室に関わる体制も十分とは言えない。病棟業務が優先され、外来連携まで手が回らないことも多い。

しかし、これでは外来の人に助けが必要なときにこぼれおちてしまう。そうならないように、連携室の相談にも乗り、何度も足を運ぶ。緩和ケアチームや連携室のカンファレンスにも積極的に参加し、発言はしても「決して責めない」。「いつでも相談して」と電話番号を渡し続けた結果、相談の電話は確実に増えた。「無駄足をいっぱい踏むことが大事」だと語る。

その積み重ねにより、アルメイダ病院からの紹介は「年1件程度」から、「紹介全体の約40%」にまで増えたという。
 

在宅医との連携――「生活が見えているか」

連携する在宅医を選ぶ際、阿部氏が最も重視するのは「生活が見えているかどうか」だ。

診察に来ず、「採血だけ行って」と指示する医師や、家庭の介護力を評価せず医療面だけで判断する医師とは、うまくいかない。一方、ヘルパーや家族、訪問看護の声に耳を傾け、背景を汲み取ろうとする医師とは、自然と信頼関係が築かれる。

「その先生は、生活が見えているんだと思う」
 

フィードバックが、次の連携を生む

阿部氏が「一番大事」と語るのが、病院へのフィードバックだ。退院後の経過を必ず連携室や病棟看護師に伝える。「在宅の様子が病院の人に見えるようにしたい」という思いからだ。

緩和ケア病棟に戻るケースもあれば、最期まで自宅で過ごすケースもある。カンファレンスには自宅での写真を持参することもある。病棟看護師は「最後の様子」を知りたがっていて、知って安堵する場面も少なくない。
 

時間内で行う“本気の勉強会”

夜間の勉強会は、意識の高い人しか集まらない。だからこそ、阿部氏は「時間内」にこだわる。
金曜朝9~10時に必ず勉強会を実施している。年間約600万円分の売上に相当する時間をあえて確保している。

「それでも、必ずやる。それが、現場を変える力になるから」
 

おわりに

外来から在宅へ――。
その移行を支えるのは、制度でも理想論でもなく、「人が人に会いに行く」地道な積み重ねだと、阿部氏の言葉は教えてくれる。

病院との連携を無駄足をいっぱい踏みながら強固にしていく。その先に、患者の生活が守られる在宅医療の未来がある。

最終更新:2025年12月28日 23時01分

高齢者医療・在宅医療委員会

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高齢者医療・在宅医療委員会

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