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産業保健チームのロゴマーク

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こんにちは、JPCA 予防医療・健康増進・産業保健委員会 産業保健チームです。
当チームは「プライマリ・ケア医による産業保健活動および、働く世代の健康保持増進」に関心の深い学会員によって構成されています。プライマリ・ケア医が、より積極的に産業保健活動に参加できるように「家庭医の視座を持つ産業医活動」および「日常診療に産業医マインドを取り入れること」等について各種普及啓発活動しています。

1.はじめに
産業医は、企業が法令に基づく安全衛生管理を適切に行えるよう助言し企業における従業員の健康管理を担っています。主な役割は職場巡視による職場環境のチェックや過重労働による健康リスクの評価と労働災害の予防、健康診断の実施と結果に基づく指導、メンタルヘルスケアや休復職支援などです。一般に労働者が抱える問題は生物学的要因以外に心理的・社会的要因とも密接に関係しており総合診療医・家庭医が持つ包括的な健康管理スキルやチーム力は産業医の職務遂行においても有益です。

【日常診療に産業医マインドを取り入れること】とは
・プライマリ・ケア医が「働く世代のかかりつけ医」としての役割を果たす上で大切な産業保健に関する知識や意識を高めること(日常診療に産業医マインドを取り入れること)
・現行の産業保健で取り残されている「自営業や産業医選任義務のない小規模事業所等で働く人」に対し、プライマリ・ケア医が健康診断等を通じて、疾病予防や産業保健の一部を提供していくこと
 
2.産業保健チームの活動指針および活動目標
①【家庭医の視座を持つ産業医活動】の普及啓発および教育
②【日常診療に産業医マインドを取り入れること】をプライマリ・ケア医に普及啓発および教育
③これらの活動を通じて【産業保健分野における課題】解決に寄与する
④世界的な課題でもある「化学物質による健康障害」への知識や意識を高めることで国民の健康を守ることへ寄与する
⑤医療従事者の職場環境調整支援を含む【医療従事者のウェルビーイング】実現支援

3. 【産業保健分野における課題】とは 
Ⅰ.すべての企業が産業医サービスにアクセスできている訳ではない!
 日本の全事業所における中小企業数は2016年時点で99.7%(2019年版中小企業白書より)。従業者数10人未満の事業所が事業所全体の約8割(2006年総務省調べ)。現行の法律で産業医の選定が義務付けられているのは、従業員50人以上の事業所で、それよりも小規模事業所では産業保健へのアクセスが困難。

Ⅱ.最も支援を必要とする労働者に産業医サービスが届いていない!
 近年、メンタルヘルス支援は充実してきているが、治療と就労の両立を目指す支援や介護と就労の両立支援等、他の支援策は、一部の大企業を除いて不十分。中小規模事業所では、従業員一人当たりに対する期待値は大きく、プレゼンティーイズムによる労働損失は大きい。労働者にとっても、介護離職や私病の治療による離職が経済面での困窮を招く要因の一つとなる。最も支援を必要する人たちが産業保健へのアクセスが困難。

Ⅲ.小規模事業所にアクセスできる産業医数が大幅に不足している!
 実動産業医数は現在約6万人ほど(2020年)で、その多くは労働者数50人以上の企業で活動している。日本全体で約325万社ある小規模企業にアクセスできる産業医の数が圧倒的に不足している。

 4.【課題解決】に向けて
総合診療医・家庭医(プライマリ・ケア医)は、日常診療において小規模企業事業所の労働者や自営業者に接する機会があり、健康診断等を通じて産業保健の一部を提供することが可能です。これらの活動は、現行の産業医制度で取り残された人たちへのヘルスリテラシー向上支援にもつながると考えます。

 私たち、「産業保健チーム」は、こうした産業保健の課題に本学会会員が産業医として取り組む際の支援を行います。だだし、この活動はこれまでの産業医制度を否定するものではなく、これまでの産業医制度を更に進化させていこうという取り組みです。私たちは、このような活動を産業保健分野の専門家と協働で行い、社会貢献に努めます。

【チームメンバー】
安藤明美、石田智治、石原稜己、岡本雄太郎、阪本宗大、田中千恵美、富田さつき、福田幸寛、山本真輝(五十音順)

【主な活動内容】
◎産業保健に関する事例検討会(主としてウェビナー形式) 
対象:日本プライマリ・ケア連合学会会員(医師、薬剤師、看護職ほか)
家庭医の視点を持つ産業医活動に興味のある非学会員

過去のテーマ:これまで「産業保健に関する事例検討会」で取り扱ってきたテーマは、困難事例への対応、健康診断事後措置、職場巡視、メンタルヘルス、私病の治療と仕事の両立支援、中小企業における産業保健体制づくり、病院産業保健(医療従事者のウェルビーイング等)、化学物質管理の基本等、皆さまのご要望も取り入れております。

方法:事例検討会では、産業保健活動の経験が無い参加者や経験年数5年未満の比較的経験年数の浅い参加者も多くご参加いただいております。このため、最初に各テーマの基本的な概念を解説した上で、双方向性の事例検討を行い、最後に産業保健の専門医・プライマリケアの専門医・産業保健師のそれぞれの立場からの事例解説を行う構成となっております。
 
◎日本プライマリ・ケア連合学会ホームページへのメンバーによる産業保健に関する寄稿
・「プライマリ・ケア医による産業保健活動」、「日常診療に産業医マインドを取り入れること」等に役立つ内容、各メンバーの活動等を紹介しています。

◎そのほか:専門医研修支援への協力、各種セミナー、ワークショップなど。

【参考文献】
◎週刊日本医事新報<全6回連載> 【家庭医の視点を持つ産業医】
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=21312&fbclid=IwAR2qBPPoDlAzAGUH4A4ZhMv09ekAB4jrVSbH2c-fABJI2pWL4Kqj2_HvqZ8
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【週刊日本医事新報】に2023年2月4日(No.5154)から3月11日(No.5159)まで6回にわたり【家庭医の視点を持つ産業医】について連載しています。
・家庭医の視点を持つ産業医について知りたい方はぜひご参照ください。
・日本の産業医制度の歴史や現代の産業保健の現場で必要とされていることへの理解と家庭医としてのかかわり方、その他「家庭医・総合診療医が産業医活動を行う意義」についての解説もあります。

【参考図書】プライマリ・ケア医が日常診療でどのように産業保健に関わっていくかについては、日本プライマリ・ケア連合学会が編集した書籍「プライマリ・ケア医のための働く世代のみかた(南山堂)」を参考になさってください。

(更新日:2024年9月24日)