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花粉症増加の背景

【JPCA2025のプラネタリーヘルスブースで掲示していた資料を記事にしました】

2025年6月の学術大会では「プラネタリーヘルス展示ブース」を設置していました。そこでは、様々な領域・職域を切り口にプラネタリーヘルスを学べるコンテンツを掲示していました。
学術大会のブースで掲示したコンテンツを、改めて記事としてお送りします。2025年10月から月に1つずつ、計10回程度連載していきますのでよろしくお願いいたします。
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花粉症増加の背景

最近、「花粉症の症状が重くなった」「花粉症がもう始まった」「薬が効きにくくなった」と訴える患者さんが増えていないでしょうか 。
花粉症を始めとしたアレルギー反応は、地球環境の変化とも深く結びついています 。

今回のコラムでは「花粉症増加の背景」にある6つのポイントについて 、根拠とした文献をもとに解説します。

気候変動が花粉を「強靱化」させる

地球温暖化や温室効果ガスの増加は、単に気温を上げるだけでなく、植物の生態そのものを変化させ、その結果花粉による症状の長期化や増悪を招いています 。

01. 温暖化による成長の促進と花粉量の増加

地球規模での気温上昇は、樹木の成長を加速させています 。
北半球の17地点を調査した 2019年の研究では、過去数十年間で約71%の地点で年間の総花粉量が増加していることが示されました。
特に冬から春にかけての最高気温の上昇が、植物をより活発にし、一本の木が作る雄花の数を増やしています 1)。
結果として、私たちが吸い込む花粉の総量が底上げされているのです。

02. 暖冬・春の早期到来による飛散時期の長期化

「春が来るのが早くなった」という実感は、データにも現れています 。
2021年の研究によれば、北米では花粉シーズンが1990年当時と比較して平均で約20日も早く始まるようになりました2)。
暖冬や春の早期到来により 、患者さんがアレルゲンにさらされる期間そのものが延びており、これが症状の長期化に直結しています 。

03. CO2増加による光合成促進と花粉量の増加

大気中の二酸化炭素は植物の光合成に必須ですが、実験では、CO2濃度が産業革命前(280ppm)から現在、そして未来(600ppm以上)へと上昇するにつれ、ブタクサの花粉量は最大320%まで増加することが示されています3) 。
また、イネ科の植物でも同様に、CO2濃度上昇によって花粉量だけでなくアレルゲンの濃度が上昇することが示されています4)。
CO2の増加は、温暖化という「熱」の影響とは別に、植物により多くの花粉を作らせる直接的な原因となっているのです 。

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    気候変動による影響

都市部を襲う「トリプルパンチ」

さらに都市部では、特有の環境要因が重なることで、より深刻な状況が生み出されています。

01. アスファルトによる花粉の停滞や再飛散

土の地面と異なり、都市を覆うアスファルトは花粉を吸収・固定しません 。地面に落ちた花粉は、風や車の走行によって何度も舞い上がります(再飛散)
王氏らによる2014年の研究では、道路端での再飛散に加え、タイヤに踏まれて粉砕された花粉が微小粒子となり、下気道まで侵入して強いアレルギー反応を引き起こす危険性も指摘されています5)。

02. ヒートアイランド現象による気温上昇

都市部はビルや舗装路の蓄熱により、周囲よりも気温が高くなる「ヒートアイランド現象」が起こります 。
ヒートアイランド現象による温暖化は、都市部での開花をさらに早めると同時に花粉濃度や飛散の性質に影響し、結果としてアレルギーリスクを高めます6)。

03. 大気汚染物質による相互作用

大気汚染は都市部における花粉症の増悪因子となります。
自動車の排気ガスに含まれるディーゼル排気微粒子(DE)などの大気汚染物質は、花粉と結びつくことで免疫反応を異常に強める「アジュバント効果」を持っています 。
環境省の報告においても花粉単体より排気微粒子と一緒に吸い込むことで、濃度依存性にくしゃみや鼻水の症状が有意に悪化することが確認されています7) 。
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    さらに都市では

まとめ:私たちの健康と地球の健康

花粉症の増加や重症化は、単なる季節の悩みではなく、気候変動という地球の「健康状態」が私たちの体に現れたサインです 。プラネタリーヘルスの視点を持つことは、患者さんにより深い理解に基づいた指導を行うための大切な鍵となります。

例えば、

・従来の治療期間で症状緩和は十分でしょうか

・治療期間は、花粉飛散状況に合わせて前倒しや延長の必要はないでしょうか

・生活のなかでの花粉症対策も取り組めているでしょうか(マスクや衣類、空気清浄機など)

・症状が改善しない時、花粉量だけでなく大気汚染など環境要因も考慮しているでしょうか

・気候変動についても情報提供や相談を追加してはどうでしょうか


これから訪れる花粉症シーズン、花粉症診療をぜひアップデートしてみましょう。



      (担当:太田知明 山梨勤労者医療協会 武川診療所 )

参考文献

1)Ziska, L. H., et al.  Temperature-related changes in airborne allergenic pollen abundance and seasonality across the northern hemisphere: a retrospective data analysis.   Lancet Planet Health. 2019 Mar;3(3):e124-e131.

2)Anderegg, W. R. L., et al.  Anthropogenic climate change is worsening North American pollen seasons.  PNAS (Proceedings of the National Academy of Sciences)February 8, 2021 118 (7) e2013284118

3)Ziska, L. H. and Caulfield, F. A.  Rising CO2 and pollen production of common ragweed (Ambrosia artemisiifolia L.), a known allergy-inducing species: implications for public health. Functional Plant Biology October 200027(10):893-898

4)Albertine, J. M., et al.  Projected Carbon Dioxide to Increase Grass Pollen and Allergen Exposure Despite Higher Ozone Levels.  PLOS One November 20149(11):e111712

5)王晴躍 スギ花粉症:スギ花粉の主なアレルゲン(Cry j 1とCry j 2)と都市部空中の挙動. 呼吸臨床 2017年第1巻1号(10月号)

6)Ying Hui, et al.  Urban Green Spaces Under Climate Warming: Controlling the Spread of Allergenic Pollution Through Residential Area Spatial Layout Optimization.   Sustainability 2025, 17(7), 3235

7)小林隆弘、青柳 元、飯嶋麻里子 ディーゼル排気曝露がスギ花粉症様病態におよぼす影響. 環境省 平成15年度大気汚染と花粉症の相互作用に関する調査研究

最終更新:2026年02月11日 09時17分

プラネタリーヘルス委員会

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