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【薬剤師の新しい視点】「地球にやさしい医療」を実現する 4 つのアクションプラン

【JPCA2025のプラネタリーヘルスブースで掲示していた資料を記事にしました】

2025年6月の学術大会では「プラネタリーヘルス展示ブース」を設置していました。そこでは、様々な領域・職域を切り口にプラネタリーヘルスを学べるコンテンツを掲示していました。
学術大会のブースで掲示したコンテンツを、改めて記事としてお送りします。2025年10月から月に1つずつ、計10回程度連載していきますのでよろしくお願いいたします。
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【薬剤師の新しい視点】「地球にやさしい医療」を実現する 4 つのアクションプラン

なぜ今、「プラネタリーヘルス」なのか?


「プラネタリーヘルス」とは、人類の文明の繁栄と、それを可能にする地球システムの健全性の両立を目指す考え方です 。
薬剤師や薬局業務と聞くと、直接的に地球規模の環境問題と結びつきにくいかもしれません。しかし、日々の業務の中には、すでに環境と健康のつながりを示すサインが隠れています 。
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薬剤師や薬局業務と聞くと、直接的に地球規模の環境問題と結びつきにくいかもしれません。しかし、日々の業務の中には、すでに環境と健康のつながりを示すサインが隠れています 。

例えば、患者さんからの以下の問いかけは、残薬の発生や薬剤の適切な処理という、地球の健康に直結する問題を含んでいます。

・「薬が残っているけどまた出てますか?」
・「飲みきれなかった薬、どう捨てたら?」

この二つ(患者の健康と地球の健康)をつなぐ視点こそが「プラネタリーヘルス」です 。
そして、この視点を持つことは、結果的に「地球にやさしい薬剤師は、患者にもやさしい」という新しい価値を創造します 。

薬剤師に求められる「地球にやさしい」4 つのアクションプラン

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日常の薬局業務の中で、今日からできる「小さな一歩」となる具体的な行動を 4 つ紹介します 。

1. お薬手帳で残薬チェックを徹底する(資源の無駄遣いを防ぐ)
残薬の削減は、医療費の適正化だけでなく、不要な薬剤の製造・廃棄を防ぐ点で地球への貢献につながります 。
・徹底した在庫確認:お薬手帳を活用し、患者さんの残薬量を正確に確認することで、過剰な調剤を防ぎます 。
・服薬指導の強化:残薬が生じている理由(飲み忘れ、副作用、自己判断による中断など)を特定し、医師に処方内容の見直しを提案することで、患者さんの QOL 向上と資源の無駄を同時に防ぎます。

2. 「どう捨てる?」で薬剤の正しい処理を正確に指導する(環境中への排出防止)
不適切な方法で廃棄された薬剤は、環境水系に流出し、環境汚染や耐性菌のリスクを高める可能性があります 。薬剤師の正確な指導が重要です。
・廃棄方法の明確化:飲みきれなかった薬の正しい捨て方について、家庭ごみとしての分別方法や、薬局・医療機関で回収が必要な特殊な薬剤(注射針など)の処理方法を具体的に指導します 。
・環境への意識付け:「なぜそのまま流してはいけないのか」を、環境中への薬剤排出がもたらす影響と関連付けて説明し、患者さんの環境意識を高めます。

3. 薬局で使う紙や資源を見直す(薬局内の環境負荷削減)
薬局内のペーパーレス化や資源の再利用は、コスト削減と環境負荷低減を両立します 。
・ペーパーレス化の推進:電子お薬手帳の利用を推奨したり、薬歴や帳票の電子化を進めることで、紙資源の使用量を削減します 。
・消耗品の選定:薬局内で使用するコピー用紙や消耗品に再生紙などの環境配慮型製品を選び、節電や節水を徹底します。

4. エコバッグ・マイ薬袋の導入を考える(患者を巻き込む取り組み)
患者さん自身を資源削減の取り組みに巻き込むことも重要です 。
・マイ薬袋の推奨:繰り返し使える「マイ薬袋」を導入し、患者さんに持参を呼びかけます 。
・インセンティブの検討:マイ薬袋の持参に対してエコポイントの付与など、患者さんが積極的に参加できるインセンティブを検討します。これにより、プラスチックや紙製の薬袋の消費を減らします。

薬剤師としての新しい価値創造

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これらはすべて、薬剤師が「いつもの薬局業務」の延長線上で、今日からできる「小さな一歩」です 。
残薬チェックの徹底は服薬指導の質の向上につながり、廃棄指導は公衆衛生への貢献につながります。

「プラネタリーヘルス」という新しい視点を採用することで、薬剤師は患者さんの健康だけでなく、地球の健康にも貢献する専門家として、その価値をさらに高めることができるでしょう 。

(有限会社丸山薬局 大石和美)

参考文献

1. プラネタリーヘルス
・Whitmee S, Haines A, Beyrer C, et al. Safeguarding human health in the Anthropocene epoch: report of The Rockefeller Foundation-Lancet Commission on planetary health. Lancet. 2015;386(10007):1973-2028.

2. 残薬・廃棄と環境負荷に関する研究/報告書
・大阪府立公衆衛生研究所. 大阪府内の 7 市の薬局における残薬に関するアンケート調査. 大阪府立公衆衛生研究所 研究報告. 2013.
・HATCH (持続可能な未来に向けた環境情報メディア). 医薬品による環境汚染のリスクと各国の対策. 2020.
・日本病院薬剤師会. Hazardous Drugs(HD)の曝露対策に係る院内取り扱い指針. (最新版を参照).
・科学研究費助成事業 研究課題. 薬局・医療機関における作業環境の医薬品汚染と医療関係者への健康影響調査. 2011-2013 年度 最終報告書.

3. 薬局業務の効率化と資源削減に関する公的資料・事例
・厚生労働省 医療情報化支援基金. 電子処方箋の内容をタブレット端末と連携することにより、完全ペーパーレス化・業務効率化 . 公的資料(時期不明).
・聖マリアンナ医科大学 SDGs 推進室. 本学における SDGs 取り組み事例のご紹介(ペーパーレス). 2025.
・第一三共株式会社. 水資源利用・資源循環. サステナビリティデータブック.2024.

4. プラネタリーヘルス・医療の持続可能性に関する概念
・Mortimer F. The sustainable physician. Clin Med (Lond). 2010 Apr;10(2): 110–111.

最終更新:2025年12月29日 12時20分

プラネタリーヘルス委員会

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