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患者力を引き出す総合診療医のあり方 ―がんを持つ人に寄り添う治療的自己とPEPの実践―

がん診療における総合診療医の役割 ― 人生に伴走する医療

私は、総合診療医としてがんを持つ人に関わる中で、「治療をどう行うか」だけでなく、「その人がどのように生きようとしているのか」に向き合うことの重要性を強く感じてきました。診療科や医療機関、治療フェーズを越えて患者と関わる総合診療医は、がんという病を通して揺れ動く患者の人生そのものに伴走する役割を担っています。

Patient Empowerment Program(PEP)と患者力の捉え方

私はこれまで、患者力(Patient Empowerment)を軸としたPatient Empowerment Program(PEP)の活動に携わり、医療者が患者の声をいかに引き出し、対話を支えるかについて教育・実践を行ってきました。患者力とは、患者が自らの状況を理解し、価値観や希望を言葉にし、医療者と対話しながら意思決定に参加できる力のことです。しかしこれは、患者に努力や能力を求める概念ではありません。むしろ、医療者の関わり方によって初めて引き出される力であると考えています。

がん患者の語りを支える対話の姿勢

がんを持つ人(Person with Cancer, PwC)は、不安や恐れ、迷いを抱えながら診療の場に立っています。その中で、十分に整理された言葉を最初から語れる人は多くありません。総合診療医に求められるのは、説明や説得を行う立場ではなく、患者の語りに耳を傾け、沈黙を待ち、未分化な思いを共に言語化していく姿勢です。そのような関係性があってこそ、患者は「話してもよい」と感じ、自らの価値観を表現できるようになります。

治療的自己という専門職の基盤

このとき重要となるのが、医療者自身の治療的自己です。治療的自己とは、知識や技術以前に、医療者がどのような姿勢で患者の前に立つかという自己のあり方を指します。自らの価値観や感情、限界を自覚しつつ、患者をコントロールしようとせず、専門家としての責任と一人の人間としての誠実さを両立させる姿勢です。治療的自己が整っている医療者は、患者の感情に過度に巻き込まれることなく、同時に距離を置きすぎることもなく、安定した関係性を築くことができます。

患者力と治療的自己が支える人生に寄り添う医療

PEPの活動を通じて私が実感しているのは、患者力を育むことは、医療の質を高めるだけでなく、医療者自身を支える営みでもあるということです。総合診療医が治療的自己を涵養し、患者力を引き出す関係性を築くこと。それこそが、がんを持つ人(PwC)の人生に寄り添う医療の基盤であると考えています。

奈良県総合医療センター 総合診療科
総合南東北病院 総合内科
東京総合診療推進プロジェクトアドバイザー 兼 外部講師
東 光久

引用文献・サイト
Patient Empowerment Program: https://www.pep-med.org/

最終更新:2026年02月11日 13時59分

がん診療に関するプライマリ・ケアWG

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